ドラゴン、ウンディーネと出会う
「そういえば、ウンディーネ様ってどんな妖精なんだ?」
森の中を歩きながら、ふと気になったので妖精にウンディーネについて聞いてみた。
「ウンディーネ様?それはもう素晴らしい方よ!あたしたち妖精にとっても優しいのよ!」
うおっ、ウンディーネの話になったとたんにさっきの五割増しぐらい元気になったな。心なしか、顔もキラキラと輝いているようにも見える。これだけで妖精がウンディーネのことをどれだけ慕っているかがわかる。
「それに優しいだけじゃないのよ!とっても綺麗で美しくて、それに魔法だってすごいんだから!」
とうとう魔法まででてきたか。どんな魔法を使うのかすごい気になるところだな。
「じゃあお前はどんな魔法が使えるんだ?」
ウンディーネが使えるんだ。妖精のこいつが使えないとは思えない。
「あたし?あたしは飛んだり、道に迷わせたりする魔法しか使えないわ」
なんだそれ。空を飛べるとかすごい羨ましい。空が飛べていれば、この身体でも食い物探しに困らなかったのに・・・
「でも、道に迷わせるってのはなんだ?」
「言葉通りよ。ねらった相手の周りを魔法でつくった霧で覆うの。霧には相手の方向感覚を惑わせる効果もあるから、こういう入り組んだ森の中だったら効果が高いのよ」
なるほど。使いようによってはすごい便利そうだな・・・ん?
「なぁ、その魔法って魔物にも効くのか?」
「えぇ。効きにくいやつもたまにいるけど、この森の魔物ならちゃんと効くわ」
「へぇー、それってさっきのグレイウルフにも?」
「たぶん効くわよ」
「・・・それその魔法をあいつに使っていれば簡単に逃げられたんじゃないか・・・?」
「・・・・・・・・・・」
「おまえさぁ・・・」
こいつ、使える魔法を持っているのにこいつ自体が残念過ぎて使いこなせてないな。木の実を取りに行ったときもその魔法をちゃんと使えていれば、グレイウルフに見つかることもなかったんじゃないか?
「はぁ・・・まぁそんなこと言ってももう今更だけどな」
「うぅ・・・」
妖精のやつ、すっごい泣きそうな顔してる。・・・すこし言い過ぎたか。
「そういえば、ウンディーネ様の泉にはまだ着かないのか?」
体感的にかれこれ30分以上歩き続けているが、いっこうに泉に着く気配がない。気まずさを紛らわす目的も兼ねて、妖精に聞いてみた。
「たぶんもうすぐ着くはずよ・・・」
ウンディーネの話をしていたときとはうってかわって、妖精はいかにも気落ちした暗い声で返してきた。さっきの事かなり引きずってるな、これ。
「・・・いや、すまん。さっきはすこし言い過ぎた・・・」
「いいのよ・・・あたしが悪かったんだから・・・」
俺がさっきのことを謝ると、妖精の声もすこし明るくなったように感じた。そんなことを話していると、開けた場所が見えてきた。
「着いたわ。ここがウンディーネ様のいる泉よ」
「・・・おぉ、すごいな」
俺の口からは自然と声が漏れた。泉が俺の予想以上に大きかったこともあるが、何より泉の水がとても透き通っていて、太陽の光が泉の水と反射して自然と目を奪われるような、神秘的な光景を作り出していたからだ。こんな光景は前世ではとてもじゃないが見れないだろう。転生して初めてよかったと思えた。
「ウンディーネ様ーー!!どこですかーーー!!」
俺が泉に目を奪われている間に、妖精がウンディーネに呼び掛けていた。俺も辺りを見渡してみるが、俺たち以外に誰かいるようには見えない。
「なぁ、本当にこの泉にいるのか?」
泉の近くにウンディーネの姿が見えないので妖精に聞いてみると
「うーん、これはたぶん寝てるのね」
と返された。
「寝てる?」
「ウンディーネ様は普段は水の中にいるから、呼び掛けても出てこないなら、寝てることが多いの」
それでいいのか、ウンディーネ。
「それじゃあどうするんだ?水の中にでも入って起こしに行くのか?」
「やめたほうがいいわよ。ウンディーネ様は泉を汚す者は絶対許さないから」
・・・まぁウンディーネって綺麗な水を好みそうなイメージが強いから、それはまだ理解出来るが・・・
「具体的には?」
「前に泉で手を洗おうとした人間がいたのよ。だけど本気の魔法で吹き飛ばしたわね」
「その話聞くと、お前から聞いた優しいウンディーネ様の姿が全く想像できないんだが」
手を洗おうとしただけで襲われるとか、気が短いなんてものじゃない。
「そいつ、狩りの途中だったみたいでね、手に血がべっとりついてたの」
それは・・・しょうがない・・・のか?
「それじゃあどうするんだ?」
不用心に泉に入って襲われるのはごめんだ。
「ちょっと待ってて。あたしが泉に入ってウンディーネ様を起こしてくるから」
「え?入っても大丈夫なのか?」
「あんたが入るとウンディーネ様は怒るでしょうけど、あたしなら大丈夫よ。・・・たぶん」
確かに妖精は飛んでいるから、体が汚れているとは考えにくいが、本当に大丈夫なのか?そんなことを考えているうちに、妖精が泉に入ったようだ。俺は泉に入れないので、大人しく待つことにしよう。
そうして大体30分ほど経ったころ、泉から妖精が出てきた。出てきたはいいが、妖精以外に泉から出てくる様子がない。
「どうした?呼びに行ったんじゃないのか?」
ひょっとして泉にいなかったのだろうか。そうだとしたら戻ってくるのを待たなければならない。しかし、俺の空腹はもはや限界一歩手前、正直言って、もし万が一また森に探しに行く、なんてことになれば俺は恐らく数歩歩いただけでぶっ倒れる自信がある。
「いや、いたはいたんだけど・・・」
俺の問いに妖精はどうにも煮え切らない態度で返してきた。
「いたのか?だったらなんでウンディーネは出てこないんだ?」
「・・・」
「まさか・・・本当に寝てる、のか?」
俺がウンディーネの出てこない理由を聞くと、妖精はゆっくりとうなづいた。
「寝ているんだったら起こせばいいんじゃないか?なんでウンディーネを起こさないんだ?」
「えーと・・・ウンディーネ様、普通に起こそうとしても起きないの。だから普段起こすときは保管してある火薬を爆発させて起こすの」
起こす方法がとても尊敬している相手にやるような方法じゃない。こいつ、本当に尊敬しているのか?俺が妖精が言ったウンディーネの起こし方に言葉を失っていると、妖精が困り顔で続けて言った。
「でもどうしようかしら・・・火薬はこの間起こすのに使った分で最後だし・・・火薬を作ろうにも、材料はウンディーネ様が管理しているし、そもそも火薬はウンディーネ様しか作り方を知らないのよ」
「・・・聞いておきたいんだが、仮にウンディーネが起きるのを待つとすると、どれくらいの時間がかかるんだ?」
このままウンディーネが起きない可能性を考えて、起きるまで待つ場合どれだけ待てばいいのか、妖精に聞くと
「ウンディーネ様が起きるのを待つのはやめておいた方がいいわよ。ずっと前に眠ったときに起こし忘れたときなんて、一日中眠ってたのよ」
「い、一日中・・・!?」
妖精からの答えはとんでもないものだった。冗談じゃない。一日中寝ていただって!?普段の俺だったら一日ぐらい待つなんて簡単だろう。しかし、今の俺は空腹が限界に近い。今でもかなりきついのに、明日まで待たないといけないなんて、絶対に耐えられない。どうしたものかと悩んでいると
「火薬を爆発させたときと同じかそれ以上の音が出せたらいいんだけど・・あたしじゃそんな大きな音なんて出せないし・・・」
その時の俺はあまりの空腹に、正常な思考ができていなかったのだろう。妖精の言ったことに対して、俺は『だったら起きるぐらいの大声を出せばいいじゃないか』と考えていたのだから。火薬の爆発に匹敵するほどの声なんて、普通に考えてまず出せるはずがないのだ。
極度の空腹もあったのだろうが、それだけではなくウンディーネに対するいらだちもあったのだと思う。
なぜなら・・・
『ウンディーネぇぇぇぇぇぇぇぇ!!いつまで眠りこけてるつもりだぁぁぁぁぁぁぁ!!早く起きろやぁぁぁぁぁぁ!!』
妖精が起こそうとしても起きず、ましてや客を待たせてるのだ。こっちは森の中を散々歩き回って、やっと着いたと思ったら本人は暢気に眠りこけているのだ。すこしは怒ってもいいと思う。
しかしそんな怒りも、叫んだ瞬間に消え、すぐに驚きに変わった。
なぜなら俺の出した声が予想以上に大きかったことに加え、俺を中心に衝撃波のようなものが出たのだ。
・・・いやなんで!?たしかに俺が出した声は今までの中で一番大きかったと思う物だった。(そもそもそこまでの声を出すようなことが全くと言っていいほどなかったが)それでも大声を出したぐらいで衝撃波が出るなんて生まれて初めてだ。それ以前に衝撃波自体見るのも初めてなのだ。驚かないはずがない。しかし叫んだだけで衝撃波が出るのは予想外だった。これもドラゴンになった影響なのだろうか?そこまで考えてふと気づいた。
「・・・あれ?妖精がいなくなってる・・・」
ひょっとして俺が出した衝撃波に吹き飛ばされたのか?妖精は浮いてたし、俺の近くにいたから吹き飛ばされていてもおかしくない。探しに行こうとした直後、妖精が戻ってきて俺に怒りをぶつけてきた。
「いきなりあんな大声出さないでよ!!びっくりするじゃない!!ていうか声大きすぎよ!!あたしあんたの声のせいで吹き飛ばされたんだけど!!」
「うん・・・ごめん・・・」
こればっかりは反論の余地がない。いきなり叫んだと思ったら衝撃波で吹き飛ばされたのだ。これは怒られても何も文句は言えない。俺が妖精の説教を大人しく聞いていると、幾分か気が済んだのか、さっきの声について聞いてきた。
「あんな声出せるなら最初から言ってくれればいいのに、なんで黙ってたのよ」
「自分でもあんな声が出るとは思わなかったからな」
「ふーん」
俺の返答にそれ以上聞くことがなくなったのか、妖精はつまらなそうに返してきた。そこで今度は俺が妖精に聞いてみた。
「それよりウンディーネ、これで起きてくるか?」
「絶対起きるわよ。だってあんたの出した声、普段使っている火薬の爆発より大きかったもの」
まじか。火薬の爆発より大きな声出てたのか。それなら大丈夫だと思いたいのだが・・・
「い、今のはいったい何ですか!?」
そんなことを考えていたら聞きなれない声が聞こえてきた。泉の中から聞こえてきたから、もしかしたらウンディーネが起きたのかもしれない。
「なあ、今の声ってウンディーネか?」
「ええ、今の声はウンディーネ様よ。ちゃんと起こせたみたいね」
妖精にさっきの声について聞くと、やはりウンディーネの声で間違いないらしい。
「さ、さっきの声はあなたですか・・・え?」
泉の方へ視線を向けると、ウンディーネの姿が見えた。
確かに見えたが・・・ウンディーネが俺の姿を見て驚いているように、俺もウンディーネの姿を見て驚きで
一瞬思考が止まった。
妖精の話からどんな姿なんだろうかと思っていたし、正直に言えば食べ物うんぬんを除いても、俺もウンディーネに会うのを楽しみに思っていた。
しかし、実際に会ってみてそれは粉みじんに吹き飛んでしまった。
なぜならウンディーネが小学生ぐらいにしか見えないちびっこだったのだから。
「な、ななな・・・なんでドラゴンがいるんですかーーーーーー!?」
ウンディーネの叫びで俺の意識も現実に引き戻された。どうやらショックのあまり意識がどこかに吹っ飛んでいたようだ。
いや、だって妖精があれほど熱弁していたウンディーネがこんなロリッ娘なんて誰が予想できただろうか。
可愛いとか愛らしいなどといった感想が相応しい容姿ではあるが、俺にはそのような趣味はないのだ。
「ウ、ウンディーネ様?いきなり大声を出してどうしたんですか?」
いきなり大声をあげたので、それに驚いた妖精がウンディーネを心配して声をかける。
「ル、ルル!?あなた、なんでドラゴンと一緒にいるのですか!?」
ルル?誰だそいつ。
「え?あーー・・・それは・・・」
あ、ルルって妖精の名前か。そういえば、今の今まで妖精の名前を聞いていなかったな。まあ聞かなかったのは興味がなかったからだけど。
しかしウンディーネが俺を見てあそこまで驚くのは予想外だった。
それにあの驚き方は不意を突かれて驚いたようには見えなかった。
まるでここに俺がいることがあり得ない。そんな驚き方だ。
なぜウンディーネがあそこまで驚くのかは後で聞くことにして・・・
妖精・・・いや、ルルって呼んだ方がいいのか?・・・まぁ呼び方で悩むのも後にしよう。
ともかく説明が終わったようで二人が俺のほうに近づいてきた。
「こ、このたびはルルがご迷惑をおかけしたようで・・・申し訳ありませんでした」
「あー・・・そんな硬くならなくてもいいですよ。たいしたことはしてないですし」
「それでも、あなたがあの子を助けてくれたのは事実です。何かお礼をしたいのですが・・・」
「・・・じゃあ、ひとついいですか?」
「は、はい!私にできることなら、なんでもいってください!」
ウンディーネがそういった瞬間、俺の腹の虫が盛大に音を鳴らした。
「・・・なにか、食べ物をください」
沈黙が、とても痛かった。