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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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25.おじいちゃんが聞かせてくれた昔の話



「さて、まずは自己紹介としておこうか。わしはスプリングファーミアの街長をしておる、ベケットという。お前さん達は何者かの?」


 席についてお茶を待つ間、ベケットさんはそう切り出してきた。

 本当ならカルバリウスが主導して話を進めるべきなんだろうけど、彼の有様じゃあまともに話が進みそうにないから私が矢面に立つことにした。

 けどそれよりも前に、ベイレスたちのことを済ませたほうがいいだろう、心象的にも。


「あ、俺たちは」

「お前さんたちのことは把握しとる。開拓村から戻ってきた連中から、報告は受けておるからな。確かベイレスとラヴァータ、それにポエットというのだったか」

「そうです、姉さんには色々と助けられまして。村の長と女たちが助かったのは姉さんが居たからです」

「ふむ……話を聞く限り、たしかに手練なのであろうな。些か破廉恥だが」


 そう言って私の方を見る街長なんだけども……そうなんだよね。

 キャラクターセレクトをするタイミングを失した所為もあって、未だに流浪の民(ジプシー)の公式衣装、正確には踊り子なんだけど、ビキニみたいな姿なんだよねぇ。

 外套だけはかけて多少取り繕ってあるけども。


「それで、改めて聞こう。お前さん達は何者かの? ついでに連日訪ねてきてはオロオロしとったそっちの大男の目的もだ。悪意があるとは思わんが、そのなりで連日訪問されてはこちらも不自由するのでな」

「でしょうね……とりあえず自己紹介を、私はリーシア・ルナスティア。こっちはカルバリウス。私たちはミスティルテインという組織に属しているわ」

「ほう」


 さてさて、どう話を切り出したものか……交渉術に長けてるわけでもないからストレートに行ったほうがいいかな。


「私達ミスティルテインは、アイゼルネに対抗するために活動を行っているわ」

「ほう……聞いたことはないのぅ」


 時々、ミスティルテインの立ち位置がわからなくなる。

 知名度がないのか、できて間もないのか……秘密結社みたいなもんなのか、でもそれだと今話してる内容もまずいだろうしねぇ。


「本格的に、活動するには……まだ、準備が足りていない」

「あー……えっと、つまるところその準備のために来たわけなのよ。私達がここに来た目的は、飛翔船のための帆布を買い付けるためなの」

「なるほど、商売の話ということか。飛翔船の帆布となるとかなりの量になる、うちに来たのは確かに正解だろう。それで、どれぐらいのものを、幾らで買いたいのかの?」


 ごそごそと袋包から取り出した巻紙を差し出すあたり、そのへんはちゃんとメモというか、依頼表みたいな感じで書いてあるんだと安心した。

 いや、ほんとに。


「ふむ……相当な量だな。これは数年がかりの依頼になるじゃろうが……金はあるのか?」


 そのベケットの言葉に、カルバリウスは口を閉ざす。

 もう、嫌な予感しかしない。

 少しして新しい封書を取り出したカルバリウスがそれを渡すのだが、それを読んだベケットは深く、そして長くため息を吐いた。

 何が書いてあったのか、あんまり見たくないなぁ。


「申し訳ないが、これでは代金としてとても足るものではないの」


 そう言って私に手紙を返してくるあたり、ベケットさんは私がどういう条件を持たされたのかわかっていないと確信したのだろう。

 ……みたくないなぁ。


 まぁ、一応見るけどさ、自分の手札っていうのは知っておかないと話にならないからね。


 そこに書かれていた協力の内容は三つ。

 大きな動きがある場合の事前連絡。

 有事における戦力の派遣。

 敵勢力の情報、対処法共有。

 である。


「お嬢ちゃんはどう思うね」


 実際はもう少し詳しく書かれているのだが、さて……これを私が交渉の手札まで昇華できるかとなると怪しいところだ。

 なにより、有事における戦力の派遣、これの規模が不明瞭すぎる。

 そもそも私自身、ミスティルテインの戦力がどれほどのものか把握していない。

 それに加えてこの街の住人は荒事には基本的につよく、それでいて消極的だ。

 まずこれは手札にするのは無理だろう。


 次に、大きな動きがある場合の事前連絡。

 これはおそらくユーミルの事象推測フォーチュンエフェクトによる情報をもらえるということだろう。

 情報というのは非常に有益であることは間違いない。

 だが、問題が一つある。


 それは、ミスティルテインの情報伝達速度の基準となっているだろう共鳴結晶(クォーツ)の存在だ。

 それがなければ情報伝達速度はおそらく陸路が基本になる。

 遅すぎる。

 おそらくだが、この世界で情報の有意さを把握しているものはまだまだ少ないのではないだろうか。


 3つめ、敵勢力の情報と対処法共有。

 切り口にするとすれば、今回のことでもはっきり証明できたこの部分になるだろうが……さて、どうしたものか……。


「まぁ……足りないでしょうね」

「ふむ、交渉をつっぱねられた割に幾分冷静だの」

「互いの価値観が共有できていなければ、そもそも交渉と言うのは成立しないもの」


 だからこそ、基本共通の通貨であるお金が交渉において最も多様されるのだ。

 ミスティルテインはそう、幾分未来的であるといえる。

 時代の先端を行っているいってもいいだろう、それをうっかり忘れているか、もしくは本当にこれぐらいしか出せるものがないのかもしれない。

 まぁ、こちらの手札が使えない以上これ以上の話はできないだろう。


「一応確認しておきたいんだけれど、アイゼルネはこちらへは来ていないの?」

「たまに報告はあるな。あと、連絡がつかなくなった開拓村もいくつもある……」

「それなのに、対策を講じようとは思わないわけ?」

「情報はたしかにほしい……だが、先程の条件ではこちらも生活が立ち行かぬからな」

「むぅ……」


 そこまでの大口取引ということか……あるいは結構な金額の産業であるということか。


「金色蚕が絶えておらなければ、蓄えを切り崩してでも取引を受けたかもしれんがな……」

「金色蚕?」


 それって確かギルドに張り紙がしてあったやつか。


「非常に上質な絹を産む蚕でな、その絹で織り上げた生地はうっすら金色を帯びる。故に金色蚕と呼ばれ大事に育てられておったんじゃよ。七年前まではな」

「何かあったの?」

「冷害でな、飼育していた金色蚕が死に絶えてしまったんじゃよ。それからは普通の養蚕が主流となった。ウィルヘルム、ロジックロック、シエルズ・アルテとの取引は激減して行き交う馬車も減ったもんじゃ」


 シルクロードみたいなもんか。

 何処の世界もあんまりかわらないんかねぇ、前居た世界とここしかしらんけど。


「まあ、たしかにわしらは種として行き詰まったのかもしれんな。昔は冒険者よろしくあちこちへ出ては様々なものを持ち帰ってきたおかげで栄えておったが、今はこの有様じゃからな」

「ふぅん、この近く有名な冒険場所でもあったの?」

「おお、あったとも。今は誰も近づかんくなったが、この側に"神樹の森"とよばれるところがあった」


 ……やっぱりかぁ。

 こりゃ冒険ミッションかねぇ。

 そう言えばこの世界に来てからダンジョンアタックってのはしたこと無いな。

 うん、楽しみになってきたぞーう。




「あー、肩凝った」


 肩をぐるぐるとまわしてやるとパキパキ音がする、やっぱりああいう会話は好きじゃないね。

 周りがすっかり暗くなっていたことと、街長の家を出たばかりで大したひと目もなかったのをいいことにその場でスノウへとキャラを変更する。

 やっぱりローブだよローブ、かっこいいもん。

 肌の露出とか見るのはいいけどするのは嫌いだしね。


「リーシア、どうする……つもりだ」

「いや、それは私が貴方に聞きたいんだけどね?」


 あの状況で長居をしてもなんにも進展なんてないだろうことは明白だ、だからさっさと話を切り上げて出てきたわけである。

 かと言って交渉を諦めたというわけではない。

 飛翔船、フローズヴィトニルのためにはどうしても帆布は必要だ。

 となると私達がしなければならないのは交渉のための手札の用意である。

 問題はその手札を何処に求めるか、だ。


「まあ、まずは作戦会議ってことでご飯でも食べに行こうかー。宿に案内してくれたまへー」

「うぃっす」


 そんなこんなで宿へ向けて五人でぞろぞろと移動するわけである。


「それで姉さん、神樹の森へはいつ向かうんすか?」

「お? なんで私がそこに行くってわかったの?」

「いやぁ、姉さん目ぇキラッキラさせてましたし」


 そんなにか……。

 うーむ、いや、楽しみにしていたと言えばしていたんだけどもねぇ。


「リーシア、本当に……行くつもり、なのか?」

「あんたもくんのよ?」


 そもそも"ミスティルテイン"の交渉の手札探しなんだから何を言っているのだというところだ。

 私はあくまで協力者であって主体はお前だぞ。


「まあ、数日準備してからってところかなぁ」


 私は特に準備なんて必要ない気がするけど、少なくとも他の四人は色々と必要だろうしねぇ。


「そう言えばポエットはどうするの? ついてくる?」

「ええと、邪魔でないなら……」

「連れてったほうがいいと思います」

「ふむん?」

「神樹の森は昔の冒険者……ようはご先祖様ですね、が作った仕掛けなんかもあるらしいですから、ポエットならそういうのきっとわかります」


 なるほど、そういう仕掛けは私の万物の叡智(ルータスノーツ)じゃ由来が理解るだけだろうし、万が一壊れてたら手も足もでないもんね。

 ちょっと小太りなくっついてくる子かとおもったら、やりおる。


「じゃあ前衛3、後衛2のパーティってかんじかな、楽しみだねー」


 楽しそうに言う私を前にして、何故か四人して軒並み不安そうな顔を見せるのだった。

今回ちょっと字数少ないですが区切りがいいのでここで区切ります。


タイトルは某MMORPGのテーマ曲のオマージュ。

あの曲は大好きで未だに定期的に聞くぐらいなんですよ。

R●とかにも大好きな曲があります。

基本的にオンゲライトユーザーです(決して廃人ではありませんとも、ええ)

今は某14をプレイ中です。

うちの小説のヒロインがアラクネということで色々お察しください。

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