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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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24.不吉で禍々しいもの

 街壁の上から戦場を見下ろしつつ様子を見ていたのだが、カルバリウスやベイレスたちが参加しても劣勢を覆せるほどではない様子だ。

 大体は倒しても蘇ってくるその性質が原因だろう、一体倒すのにかかる労力が普通の敵とは異なるのだから。


「有効な武器はメイスとかの打撃系武器……魔術だったら、どんなのが有効かしらね……」


 極小の竜巻を発生させてひき肉にするとか、そういうのがいいだろうか。

 核っていうのがどんな感じで壊せるか、だよね。

 観察している限りではカルバリウスの倒した相手は明らかに再生率が悪い、流石に倒し方を熟知しているってことかな。

 ベイレスもラヴァータもわかってきたみたいだねぇ。


「こりゃ私が手を出す必要はないかな?」


 それだとありがたいんだけどな。

 カルバリウスがやってるような破壊系の攻撃を再現できるのは"舞姫"リーシアのほうだろうし……それすらも確定じゃないしなぁ。

 そんなことを思っていたら、更に追加が来た。

 しかもカルバリウスとベイレス達が居ない側に。


「やっぱそういうわけにもいかないか。ポエット、あんたはここにいなさい」


 メニューを開きキャラクターを"スノウ・フロステシア"から"リーシア・アーティエ"へと変更する。

 突然目の前で服装が変わった私に驚くポエットの声を尻目に、私は街壁から身を躍らせた。


 ふぅーむ、やっぱり体を動かすことにかけてはこっちのほうが一枚上手な感じがあるな。

 走りながら体の感覚を確かめつつ、腰にとめてある鞭を引き抜く。

 軽く暴れるとしようか。


 不死奇兵はなんというか、動き事態も本当にゾンビみたいで薄ら気持ち悪いというか、本当に人形のような感じがある。

 装備は皮鎧のような簡素なもので、破壊するには十分な余裕があるだろう。

 並の装備であればさしたる障害にはなるまい。

 

 距離を一気に詰め全身のバネを連動させて鞭を一線する。

 鋭い風切り音と共に、不死奇兵の首が飛んだ。


 ……いっけね、武器変え忘れてた。

 これブレードウィップじゃん。

 慌てて身を翻して距離を取り、インベントリから別の装備を取り出す。

 先端に(おもり)の付けられた重量のある鞭を改めて翻す。


 "戦意高揚(ハイボルテージ)"の自己バフで攻撃力と敏捷性を底上げする。

 さぁ、らしく踊ろうではないかね。


 ひゅんと錘が空気を裂いて不死奇兵を打つ。

 腕を、足を、頭を、打たれる度にその周辺が肉片となって飛び散った。

 血が吹き出すようなことはない。

 どうやら人の形に成形してあるだけで、人とは全く異なる作りであるようだ。

 肉をコネで作った人形が動いているような、そんな感じだろうか。


「まぁ、いいか……遠慮せずに散らせるってのはいいことよ」 


 前に立つ端から鞭で丁寧に粉砕していく。

 強度もそれほどではないようだが、いかんせん手数を割かれるのが面倒だ。

 これは数で押されると厄介だな……。

 おっと。


 ちらしたはずの背後から、再生した不死奇兵が数体襲い掛かってくる寸前だったのをかろうじてかわし距離を取る。

 結構丹念に散らしたはずなのに再生してくるとはしぶといね。


 刻印魔術が扱えればいいんだが――そう言えば試したことはないな?


 戦闘中に気をそらすのは自殺行為な気もするが試しにステータスを開いてみる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

名前:リーシア・アーティエ

職業:流浪の民(ジプシー)

称号:舞姫(まいひめ)

年齢:27

性別:女性

キャラクターレベル:112

クラスレベル:87


固有スキル

統一言語(オムニスルーン)

魔力持続回復(マナリジェネレート)

老化無効(ロストエンド)

魔術適正(マジックシンク)

魔法適正(マナシンク)

鞭術適正(ウィップシンク)

万物の叡智(ルータスノーツ)

幻惑の舞姫(ファンタズマゴリア)

刻印開放(リミテッド・ルーン)

神性:マギカ

神性:エウリュアレ


アクティブスキル


刻印

刻印開放(リミテッド・ルーン)】により全使用制限が解除されています。


ステータス

ヒットポイント:17650/17650

マナ収束力:7600

体内マナ:17200/17200

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ところどころ変わってるみたいだけど、ほとんど大差ない。

 ということは……。


 刻印魔術を意識してやれば、いつもと変わりなく……いや、若干収束に意識を割かれる感じがあるが操ることができた。

 なるほど、もともとリーシア・アーティエ(・・・・・・・・・・)には魔法のスキルは無いけれど、この世界の魔術は使えるということか。

 あるいは、もっと別の……。

 いや、今試す必要は無いか。


 とりあえず一体ずつ仕上げていくとしましょうか。


 鞭に刻印魔術で風をまとわせる。

 振るえるミキサーと化したそれで削り取っていくこと数十分、ようやくすべての不死奇兵を倒し終えて終戦となった。


 いや、継戦能力の高い連中だったね……。




 カルバリウスも戻ってきたようで……。


「……」


 なんか言えよう。


「リーシア……か?」

「ああ、ちょっと色々違ってるかもしれないけどそうよー、リーシアお姉さんよー」


 印象はそう違わないと思うんだけどね、私の趣味のキャラメイクが元になってるし。


「……痴女か?」

「ぶつぞ?」


 私だってこの格好はあんまりしたくないんだよ、流浪の民(ジプシー)用の装備って露出多いのばっかりだから……あれ?


「あー……今度試してみよう」

「何の話だ?」

「いや、こっちの話よ。怪我は大丈夫?」

「この程度なら、どうという……ことはない」


 ふむ、となると問題なのはあっちの自警団のほうかね。

 何人かはこっちに気づいて少し遠巻きにだけど視線を送ってきている。

 カルバリウスも気づいてるようだけど……おい、お前私の後ろに隠れるな。

 身長二メテル超えが私みたいな小柄な……いや、普通ぐらいかな、な女の後ろに隠れられるわけがないだろう。

 てめぇのサイズ考慮にいれろー?


 そんなことを思っていたら一人、隊長格っぽいのがこっちに、ちょっと警戒しつつ近づいてくる。

 敵意は無いということを証明するべく鞭を腰に戻して両手で手を振ってやると、警戒していたような空気がふっと溶けてなくなった。


「先程は助太刀どうもありがとう、でよいのかな?」

「まぁそんな感じかな。私はリーシア、こっちはカルバリウスよ」

「そうか。我々の街の問題だというのに済まなかった、そしてありがとう。私はグラヴィスという、この街の自警団に所属する警邏三隊の隊長を努めている」

「どおりで一人だけ突出してたわけだ」


 今この状態でもほとんど怪我がないあたり、実力を証明しているよね。

 部下と思われる人達は結構ぼろぼろなんだけど……。

 ていうかベイレスとラヴァータもへたってんじゃない、まったく無茶するんだから……。


「そう言えば、あそこの狼と兎の二人も見ない顔だが君たちの仲間かい?」

「あー、うん……まぁ、そう……かな。ベイレスとラヴァータね」

「そうか、重ね重ね礼を言わせてもらうよ。君たちの協力がなかったら、最悪死人が出ていたかもしれないからね。とりあえず我々は自警団の宿舎まで戻るが、お礼もしたいし良ければ一緒にきてもらえないか?」

「構わないわよ、カルバリウスもいいわよね?」

「……ああ」

「ははは、彼には嫌われてしまったかな?」

「単なるコミュ障だからほっといていいわよ」


 軽く笑いながら話すこの獣人は、多分熊なんだろうね。


 だいぶ消耗しているみんなが肩を貸したりしながら戻ろうとするところで、そう言えばと思いだしたものがあったのでスキルを使おうとして、ふと足を止めた。

 使おうとしていたスキル、癒やしの女神(ヒール・ソング)であるが、これってどういうふうに再現されるんだろう……。

 歌、踊り、鞭のスキルが中心となっている流浪の民(ジプシー)である。

 まさか本当に歌う踊る?

 それは、ちょっと恥ずかしいんだが……。


 そうだ、スキルに対して万物の叡智(ルータスノーツ)をしてやればいいんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

癒やしの女神(ヒール・ソング)

歌声の届く範囲全体に持続回復をかける。

有効なのは中立と友好的な対象であり、敵対者に対しては効果が無い。

治癒力・範囲はスキルレベル依存。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 歌わなきゃ……ダメっすか……。

 うた……うた、歌唱適正(ソングシンク)をくれえええええええええええええええええ。


 試すけどさ、試せるうちがチャンスなんだから……。


「どうしたんだい、リーシア? 顔が赤いけど」

「……これから先のことは、聞かなかったことにしなさい。いいわね?」

「ふむ、内容によるが……」

「悪いことはしないわよ」


 鞭もナイフも腰にしまい、呼吸を整えていち、にぃ、さん。

 スキルに合わせてレッツ歌唱。


「・。、♪ ・@♪ ~。=_¥♪」


 私は見た、その場に居た全員の獣人が耳を伏せた瞬間を、ついでにカルバリウスが耳を塞いだのも。

 そのまま少し歌唱してみるが、どうやらみな立ち上がれる程度には回復したようだ。

 耳をふさいだままぶんぶんと首を横に振ってくるグラヴィスの意図を汲んで、歌うのをやめてやるとそれは解決を見た。


「……声は綺麗なのにひどい音程だな」

「うん、ごめん」


 音痴までは転生しても治りませんよねぇそりゃあああああああああ!

 うぅ、死にたい。


「ああ、でも……スキル、なんだよな? ほら、みんな元気になったし……ありがとう?」

「どういたしまして……」


 そのフォローも心に来るぜ。

 効果があるのはわかったけど二度とやらんぞ……。

 やるにしてもダンスだけだ、絶対だ。


 歌だけではまだ回復しきってない人に肩を貸しつつ宿舎までを同行する。

 街の人達の反応は心配そうではあるのだが、どことなく距離が遠い。

 この人達が体を張らなきゃ街の仲間で攻め込まれてたかもしれないのにねぇ。


 そんなこんなで宿舎についてみたら思わぬ人が待っていた。


「おお、無事……と言うには些か支障があるかもしれんが、皆もどってきたようじゃな……」


 その声に含まれているのは安堵の響きで、どうやらこの老獣人は感性が近いようだ。


「街長、どうしたのです」

「襲撃があったと聞いてな、話を聞くのであれば報告を待つよりも来たほうが早かろう? こうして待っておったというわけじゃよ」

「それでしたら、撃滅は完了しております。こちらの方々に手を貸していただくことになりましたが」

「ほう?」


 おいこら、私の後ろに隠れるなカルバリウス。


「む? なんじゃ、見覚えのある姿じゃのう」

「……ご無沙汰、しています」

「あほいえ、昨日も来とったじゃろうが」


 コントかな?

 ともかくこの人が街長かー、ということはカルバリウスが交渉に行ってたってことだね。

 一応仕事はしようとしてたんだな。


「そっちの嬢ちゃんは新顔じゃな、見慣れぬ獣人もおるようじゃが……ふむ。ちと長い話になりそうじゃな……グラヴィス、報告を済ませてもらえるかの。お主らの話は家で聞こう、茶もなしではしんどそうじゃ」


 こうしてグラヴィスが報告をしている間にベイレスとラヴァータの手当をし、また移動という運びになった。

 なんとも慌ただしい一日は、まだ続く。

活動報告はたまに更新しております。

大体今週は更新ないですとか、プロットすすまねー、とかただの近況報告ですが。


ちなみに来週、再来週の更新はちょっと危ういかもしれません。

お仕事の関係で締め切りが重なるのでどうしてもそちら優先になってしまいます。

お仕事の進捗次第で更新、となるかとおもいます……一応頑張りますが……

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