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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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23.名を、カルバリウス


 身支度も整えてさっぱりしたところでギルドへと足を運んでみた。

 冒険者受付は三階らしいのだが、上に上がるほどに人が居なくなるのはなんというか……。

 本当に、敬遠されているんだねぇ。


 三階まで上り扉を開けると、なんとも言えぬ静かで寂れた空間が出迎えてくれた。

 これはもしかすると冒険者ギルドがあること自体が奇跡と言えるかもしれない。


「なんだ、めずらしいな。この支部に用でもあるのかい?」

「人を探しているんだけど……」


 暇そうな受付はそのまま視線を巡らせる、それにつられてぐるりと見回してみるけれど、支部 には私たちと受付しかいない。


「他を当たった方がいいんじゃないのか?」

「んっと、身の丈ニメテルぐらいで」

「おう」

「魔人族で」

「ほう」

「大剣を背負ってるらしいんだけど」

「ああ、見たな。一月ほど前にここに来て何か食い扶持になりそうな仕事はないかって言ってきた」

「で?」

「無いって言った」

「で?」

「それだけだ」


 こいつやる気もねぇな?


「この街には専門の自警団もあるし、基本的に荒事には手を出さない人柄だからな。冒険者ギルドへの依頼なんて探しものがいいところさ。それも眉唾のな」


 そう言いながら受付のおっさんは欠伸を噛み殺しつつ掲示板を指差す。

 見てみれば確かに貼られている依頼は探しものばかり、しかもすっかりと紙も黄ばんでしまっているぐらいだ。

 その中の一つは金色蚕というものもあるのだが……これたしか、あのオンゲの開拓最終段階のレアアイテムじゃね?

 一応覚えておいて損は無いかなぁ……。


「興味があるなら引っぺがして持ってってもいいぞ」

「いい加減ね、そんなんじゃますます人が来なくなるわよ」

「いいじゃねぇか平和で」


 また盛大にあくびをかますやる気のない受付に帰ろうかと思った時、ドアが開いて大男が入――倒れ込んできた。


「なんだなんだ、行き倒れかぁ? わざわざこんな所来て行き倒れんなよ」

「お前のそのやる気の無さはほんとなんな――ん?」


 黒髪に悪魔のような角、身の丈ほどの大剣、大男……もしかしてこいつ。


「おーい、貴方の名前はなんてーのー?」

「は……」

「は?」

「はら、へった……」


 ダメだコイツ、完璧な行き倒れだ。




 とりあえず椅子まで運んで持っていたサーギーを持たせてやったら鬼のような勢いで食べ始めたので観察しつつ軽く引いている。

 あ、つっかえたか?


「そんな勢い良くがっつかなくてもいいでしょう、ほら」


 そう言って水を差出してやるとそれもこぼす勢いで煽り始める始末である。

 本当にこれが、アラクネとかゴルディオスとかえーっと……誰だっけ、ユーミルだ。

 あの人達と同じミスティルテインのお仲間なのか?

 と思ったけども、見方次第じゃみんなちょっと残念な所あるし、あんまり変わらんかもしれんな、うん。


 結局その男が包み紙まで食べようとした所を殴って止めさせてなんとか話に入る。


「で、あんたの名前はなんて言うのよ?」

「俺は……カルバリウス」

「そう、私はリーシア、リーシア・ルナスティア。もちろん知っているわよね?」


 私がそう聞くと、カルバリウスは少しだけ視線を合わせた後、小さく頷いた。

 だけだった。

 なんだ……なんだっけこの反応、すっごく心当たりがあるんだけど。


「よ、よろしく……たのむ」


 なんでそんなうつむき気味なんだよ、私の目を見ろおい。

 目を隠すぐらい長い前髪をひょいとあげてやると、ころりと後ろにひっくり返った。


「や、やめてくれ……人の顔をみるのは、こわい」


 ……馬鹿でかい図体に他人を容易に威圧できる外見、装備で……。


「気弱かっ!?」


 思わず叫んでしまった。




「姉さん……これが探し人っすか?」

「そうらしいわねぇ……」


 とりあえずまともに食事に行こうということで連れてきたものの、さっきからおどおどビクビクと私の後ろをついてきているわけで……。


「姉さん、周りがめっちゃビビってます、ついでに後ろのもビビってます」

「そうねぇ……」

「姉さーん、あの大剣とか装備とか興味あるんですけど見せてもらえないもんでしょうか?」


 ポエットの言葉に後ろに振り返り、いやそれだけでビビんな。


「どうなのよ?」

「こ……」

「こ?」

「こわい」

「だそうよ」


 なんだかやり取りをしているだけで疲れてくる……。

 さっさと状況を変えねばならん。


 ベイレスがオススメのお店を見つけ出しそこに入るまでの間、町の人からやたら視線を向けられる時間が続くのだった。


 個室の席なんて用意してくれるところもないだろうから、適当に店の奥側の席をとってもらいカルバリウスを奥に押し込んで席に着く。

 なんにせよ、ちゃんとしたご飯を食べよう。


「ところでカルバリウス、あんたお金はあるの?」

「……」


 なぜ視線を逸らすのか。

 いや、わかるよ。

 ギルドに仕事を探しに来て、それが一月前。

 仕事はなかった、お金が底をつきたのか……。


「建て替えてあげるから好きなもん頼みなさい」

「姉さん俺らは……」

「わかったわかった、みんなまとめて面倒見てやるわよ!」


 なんなんだ……これ……。

 

「それでカルバリウス、何がどうしてどうなったのかとか諸々話しなさい」

「……あ、ああ」


 たどたどしく口を開く様子を見て、私はようやくそれに思い至った。

 これ、いわゆるコミュ障の一種だ。


「こちらに来たのは……二月ほど前だ。フローズヴィトニルに使う帆布が必要、ということで……買い付けに、きたのだが……」

「交渉がうまく行かなかった?」

「金が、なかった」


 バカか。

 バカだな?

 間違いなくバカだろうこの組織。

 いや、現地でなんとかしろってことなんだろうけどさ、鉱石のときもそうだったし!

 でも間違いなくバカだよ、計画性ってものが完全に欠落してるよ!


「で、金を作ろうとギルドに?」

「……うむ」

「ばっかじゃねぇの?」


 ベイレスたちも異物を見るような目で見てるじゃないか。


「で? 今後の展望とかは?」

「……なにも、ない」

「……金策のアテは?」

「……ない」


 人選ミスにも程があるだろう!

 いや、だから私がこっちの応援によこされたんだろうけど。

 これがアラクネの元保護者とか冗談よしてくれ、いやこんなだからアラクネがまともになったのかもしれない、自分がしっかりしないとやっていけないだろうこんな奴!


 運ばれてきた料理を黙々と食べ始めたカルバリウスを前に、私は食事に逃げることにした。


 食事も落ち着き話を更に聞いてみた所、カルバリウスではそもそもまともな交渉事にならなかったらしい事が確認できた。

 見た目で相手が怖がり、かと言って自分から話をすすめることもできなかったカルバリウスは、この街の長の家を毎日定期的に訪問しては怖がらせるというとんでもないルーチンワークをしていたらしい。

 いや、なんか……かわいそうになってきた。


「それじゃあ今後どうするかしらねぇ」

「俺は……いい案が、うかばない。だから……任せて、いいか」

「あーもう、しょうがないなぁ。じゃあ私が前に立つから交渉言ってみようか、私はミスティルテインの財政状況とかよくわからないから、わからないところは都度聞くわよ、いい?」

「……俺も、よくわからんが」


 アラクネ、なぜこいつを一人でよりによってこっちに送りつけた。

 痛み始めた胃を押さえつつ、私たちはまたも移動を開始したのである。



 道中、剣をしまって代わりに本を出す。

 これもまぁ、武器ではあるのだが見た目だけ見ればただの豪華な本である。

 服装も途中で切り替えてローブ風のものにした。


「なぜ、着替える?」

「ここの連中は荒事が嫌いなんでしょう? なら、爪は隠しておかなくちゃ。相手によって装備を変えるのは戦術の基本よ」

「ふむ……よく、わからん。あるものでしか……戦えないと思う、が」


 現実はたしかにそうかもしれない。

 そういうことがデキるのは私みたいに装備品やアイテムを大量に持ち運べる人間ぐらいだろう、ゲーム的であるといえる。


「大剣で懐に入られたらどうするの?」

「……なぐり、たおす」

「あんた気弱な割に豪快ね。まぁそういうことよ、武器は複数持って補い合うのが理想だわ」


 髪もちゃんと梳かして、髪飾りもあしらってみよう。

 うむ、元の素材がいいだけあってなかなかなお嬢様っぷりじゃないか。


「姉さんがなんか可愛らしく……」

「おらめっちゃ好みだ」

「こらポエット、だらしない感じになってるよ」


 ……なんか恥ずかしくなりました。


「それじゃ、いってみようか……役割はわかってるわね?」

「姉さんの護衛っす」

「こらベイレス、姉さんじゃなくてお嬢だろ」

「あ、そうだ。お嬢の護衛っす」

「おら専属の技師」

「……側仕えの、執事」


 カルバリウスが執事は無理があるかなー……と思うけど、まぁ、そんな感じでいってみよう。

 そう思った矢先、一人の獣人が飛び込むように長の家へと突っ込んでいった。

 扉を蹴破る勢いで、だ。


「姉さん、何かあったみたいです……」

「何か聞こえたの?」

「自警団が何かと戦闘してるみたいです」


 よく聞こえるなぁラヴァータ、さすがウサギってことかね。


「ふむ……気になるなぁ、ラヴァータ他に何かわかる?」

「……状況は自警団優勢、と言うよりかなり一方的なようですけど……なんか変な音が、戦闘が終わる様子がないです」

「倒せてる感じ?」

「倒しては、いるみたいですけど……」

「見に行ってみるしか無いか」


 にわかに騒がしくなる長の家をあとにして、ラヴァータの先導のもと町外れへと駆ける。

 以外なことに、カルバリウスは遅れもせずについてきた。


 現場について遭遇した光景はひどく気味の悪い、ビデオテープの巻き戻し再生のような光景だった。

 自警団の獣人が倒す端から蘇る(・・)ゾンビのような土気色をした生物。

 人の形をしているが、人ではないだろう。

 ほぼ一撃で倒されて崩れる、その度に逆再生のように元通りになり動き出すそのさまは、目の前で戦っている自警団員にとっては一種の悪夢かもしれない。

 真っ当な戦力がないだけマシか、にしても――


「なんじゃい、ありゃぁ……」


 頭を潰されても、胴をぶった切られても、どこを潰されても再生しているようにみえる。

 数は……百はないな。

 再生しないものも居るから倒すのに何かしら条件がいるのか……。


不死奇兵(ふしきへい)か……」

「ふしき……なに?」

「アイゼルネの死なない尖兵だ。体の中に核があり、破壊するまで再生を繰り返す」

「へぇ、そりゃ……って、カルバリウス?」


 背負った大剣の柄を握ったカルバリウスは、まるで人が変わったかのような雰囲気をまとって外壁の上から飛び立った。

 そのまま戦闘に加わるつもりなのだろう。


「ありゃ、ハンドル握ると性格変わるタイプだね……」

「姉さん、俺らも行っていいっすか?」


 ソワソワしているベイレスとラヴァータに好きにするように伝えると、これまたカルバリウスと同じように飛び出していった。

 残ったのは私とポエットだけである。


「さて、どうしたものかね……」

「姉さんは行かないんですか?」

「私の得物は基本的に剣だからなぁ……体内にある核の破壊とかって、苦手なのよ」


 とおもったのだが、カルバリウスも大剣だし条件あんま変わらない気がするな。

 気になって遠目に彼の戦い方を観察してみる。


 大剣の腹で思い切り不死奇兵を殴り飛ばしていた。

 私の知ってる大剣の使い方と違う。

カルバリウスのキャラ付けは当初は違ったんです。

どうしてこうなった……。

勢いって、こわいね☆

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