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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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21.慕う者、慕われる者


「まあ、こんなもんかなー?」


 近場にあった石を集めて作った即席のかまどを眺め、私は満足した。

 うん、それっぽくできたと思うんだ。


「なんていうか、姉さん時々フツーっすよね」

「時々ってなによ?」

「いやぁ、俺を圧倒するぐらい強いのになんか、時々フツーなんすよ」

「ふむ……」


 まあ、悪い気はしないかな。

 ステータスとかぶっ飛んでる分そのへんで釣り合いが取れてるんだろう、きっと。

 中身ただの現代人だしな。


「焚き木はこちらでいいですか?」

「あ、うん。わざわざありがとう、たすかるよー」

「い、いえ……でも、その……食料とか、残ってないんですが」

「それはあるから大丈夫よー」


 日が暮れる前に作ったかまどと集めた焚き木、そしてインベントリ内の食料があれば今夜一晩過ごすぐらいはわけ無いだろう。

 寝床はないけど。


 明日になれば永祈を乗せてみんなで街へ飛んでしまえばいい。

 できれば永祈とかクロウとかエリアルとか見せたくはなかったんだけども、状況がそれを許さない以上仕方ないよね。

 見殺しにするのは寝覚めが悪いし。

 というわけで──。


「クロウ! エリアル!」

『およびですかお嬢様!』

『仰せのままに!』


 後で驚かれても困るしならしにとおもって二人を呼び出したのだが、その瞬間空気がざわついた。

 しん、と静まり返ったあと、ざわざわと声が広がるさまは、間違いなくろくでもないことの合図だ。

 これは説明役の村長がくるな?


「お嬢さん……リーシア殿といったか、そちらの方は……?」

「えーっと……こっちがフェンリル狼のクロウ、こっちはグリフォンのエリアル……」

「なんと……獣神を従えて……貴方様は一体何者です……?」


 獣神?

 なんじゃそら?

 いや、でもこの状況はまずいな……すごくまずい気がする……。

 全員こっち見てなんか凄い表情で……あ、おいこらベイレス、ドン引きしてんじゃないわよ。


(あなた達獣神って言われてるわよ?)

『そういう伝承のある地域もあるということかと……お嬢様はご存知ないのですか?』

(ないなぁ……あ、いや……まてよ?)


 確か「もふもふ! 獣っ子わーるど!」のオンゲにそんな設定あった気がするな。

 あのゲームはちょっと手を付けただけでそれほどやりこんでたわけでもないし、そもそも生活系のまったりした感じだったからそういう設定部分ほとんど記憶にないが……。

 ……やらかしたか、いや……今夜やらかすか明日の朝やらかすかの違いだけだな、これは。


『仕方ありません、お嬢様』

『開き直りましょう』


 クロウもエリアルもそんなこと言いながら楽しそうにしてるんじゃないわよ。

 ああ、もう……こうなったら!


「私が何者か……ね?」


 じっと、力強く、そらさないように意識して村長を見据える。

 真顔で、真剣に、まっすぐ見つめるのだ。

 恥ずかしがって目をそらしたりしないのがコツである。

 するとどうなるか。


 はっ、と気づいた表情になる村長。

 少しだけ何かをいいたげにしたあと目を伏せそして──。


「申し訳ありませぬ、今の問いは忘れてくだされ。わしらはたまたま、通りがかりの冒険者に助けられた、それでよろしいのですな」


 よし、都合よく意味ありげに解釈してくれた!

 内心でぐっと拳を握りつつ、そのままの表情で肯定する。

 これにて一件落着である。


『お嬢様、何をなされたので?』

(意味ありげな視線を送っただけよ)


 やたら強い、少なくとも自分たちでは手に負えなかった相手を一蹴するような凄い力の持ち主が、獣神さまとやらを従えてやってきて気安く助けてくれるのに、大事なところでは真顔で視線を向けたまま何も言わないのである。

 自分たちにとって救いのような現状でそうなれば、好意的に勝手に察するしか無い。

 状況さえ間違わなければ都合よく誤解してもらえるというわけだ。


 こういう所、なんか慣れた感じがあるなぁ……。


 その夜は私がどこからともなく取り出した食材の数々でちょっとした賑やかな宴をし、クロウとエリアルに見張りを任せてゆっくりと休息を取ったのだった。




 ……なんだろうね、この光景は。

 永祈の背にしがみついた村娘の大半が、尻尾逆立てて膨らませてるんだが。


「おおお、まさか空を……生きているうちにこのような経験ができるとはおもいませなんだ」


 あんたもか。


 しかしわかった、空を飛ぶって言う経験はこの世界では、少なくとも西側では貴重なのね。

 それであの子達も怯えて尻尾膨らませてるわけだ。

 ……まあ、私もなんだかんだ慣れたけどもしもむき身のままに放り出されたらと思うとこわいしな。


 ゆったりとした空の旅は終わり、眼下に隊商が見えてくる。

 スプリングファーミアまではもう半日と言ったところだろうか、このまま降りるように永祈に合図を上げる。

 答えるように声を上げた永祈、隊商が動きを止めるのが見えた。


 出迎えたグズヴェルの顔が若干引きつっている。


「や、お待たせしました。生き残りは無事に回収してきたわ、やっぱりアイゼルネだった」

「そ……そうですか。逃げてきた……んですか?」

「んにゃ、目につく範囲では殲滅した。英断だったわよ、判断が遅かったらそこの子たちは手遅れだったかもしれないしね」


 ポイント稼いだわね、ってわらってやったらやたら恐縮したように笑うんだけども、なんだ?


「姉さんに怯えてるんすよ……」

「え?」


 ぼそりとベイレスが耳元で呟いた。

 その場ではそれだけで、私はそのままヘリエル達のいる後方馬車へと連れて行かれた。

 そして囲まれている現状である。


「リーシア、お前はもう少し自分の状況を理解したほうがいいぞ」

「いやぁ、隠したいんだけどねぇ」


 状況がそれを許してくれないって辛いな?


 すでに懐かしさを感じる隊商の一番後ろの席。

 そこに集められての話合いである。


「意外と察しが悪い奴だな、グズヴェルはリーシアを重要な人間だと決定づけたんだ」

「まあ、それはわかるけど」

「いや、わかってないだろう」


 首を傾げる私に、アインツが話を続ける。


「いいか、ヘリエルはそこのベイレスにこてんぱんにやられただろう」

「アインツそれ蒸し返すなよ!?」

「そんな状況にあって、グズヴェルは怯えて縮こまっていた、それを容易くお前は制圧してみせたんだ」

「まぁ、そうなるか」


 レベルがダブルスコアぐらい違うから私からすりゃあ余裕なんだけどね。

 能力バフもあるからその気に慣れば戦闘能力は十倍は差をつけられるんじゃないだろうか。


「ベイレスでも相当強かったのに、それが助けを呼びに行かなければならないような敵の集団を、お前は一人で倒してきたわけだろう? それも、そんな平然とした様子で」

「いや、倒敗兵事態はそんなに強いわけじゃないわよ。ベイレスだって足止めするぐらいは十分にこなしてくれたし、倒し方にコツが──」

「そうじゃない」


 言いかけた言葉を止められてまたも首を傾げる事になった。


「ようはグズヴェルは、お前をそれぐらい強い、重要な存在だと認識したということだ。氷樹を生み出した賢者で、アイゼルネに明確に対抗できる、ウィルヘルムにおいて重要人物、それこそ国とつながっていてもおかしくないと認識したんだよ。敵に回すような事できるわけがない」

「あ、あー……」

「まず間違いなくご機嫌取りを始めるだろうな」

「うぇ……」


 面倒になったら逃げよう。

 まあ、今日中にスプリングファーミアに着くだろうし、さっさとおさらばといくか。

 リリカちゃんと、顔も見てない彼女のお母さんが少し気になるけども……どうしようもないしなぁ。


「そう言えば姉さんは、スプリングファーミアには何の用事なんです?」

「私の仲間が交渉に難航してるらしくてね……飛翔船の幌が必要らしいんだけど」

「姉さんみたいなすごい人が小間使いっすか?」

「私としては色々見聞を広められて楽しいけどね。それに、今回みたいなこともあったし」

「確かに、姉さんのお陰で助けられたことは多いっす……あの、姉さん」


 なんとなく言葉切れの悪いベイレスの言葉に、何か言いたいけれどいいづらいことを感じ取って、私はすこ話を聞く側にとどまることにした。

 少しの沈黙と、どこを見たらいいのかわからなさそうにさまよう視線。

 それが意を決したかのように私の瞳をはっきりと捉えた。


「もし、よければ……俺、姉さんについていきたいんす!」

「ちょっとベイレスずるい! 私だって気になってたんだからね!」

「そ、そうっすよ。おらだって姉さんには助けられた恩があるし……」


 三匹揃ってわちゃわちゃ絡まってると毛玉だねぇ。


「ふむ……なら、今ここで改めて私の身分を名乗りましょう」


 魔剣を抜き、膝の上に置く。

 それだけで生まれる空気に周りが静かにそれを聞く体勢を取った。


「我が名はリーシア・ルナスティア。私は神刺す若木(ミスティルテイン)という、アイゼルネに対抗する組織に属しているわ。私の目的と、組織の目的は異なっている、けれど共通の目的ために今は共同歩調を取っている」

「じゃあ、そこに……姉さんの目的のため俺たちを加えてください!」

「……えっ」


 まじでか。


「できる、のかな……」

「無理なら、戻るまでの間のつなぎでもいいように使ってくれりゃいいっす。このままじゃ村にも戻れないし、かと言って俺たちみたいなのは街で落ち着いて生きていくのも難しいっすから」

「街で生きていけないって、どういうこと?」


 何か深刻な事情でもあるのだろうか。


「あー、姉さんはもしかして獣人族の事あんまり知らないっすか?」

「色々知りたくはあるわね」

「うちら獣人種族ってのは、ポエットみたいなタイプが多いんすよ」

「ただ、その分私やベイレスみたいな戦闘が得意なタイプってのは敬遠されるんです。もちろん居場所はあるんですよ、ある程度集落を守れないと生きていけませんから」


 兎の獣人であるラヴァータがそう続ける。

 なんというか、歓迎されるタイプじゃないのか……いや、そうか。

 非合理的とは思うけど、元があのオンラインゲームならそういうふうになっててもおかしくないな。

 あのゲームは基本的に外敵が居ない世界だったし。


「まあ、うちらみたいな荒事が得意なのってのはもともとあんまり生まれないんですけど。そんなもんだから、街なんかではちょっと怯えられるっていうか」

「ちょっと肩身が狭いんだよね」


 集まりが大きな規模になればなるほど、守られているって言う意識は薄くなる。

 その結果、力を持つものは一定の距離を置かれちゃうわけか。

 でもその結果そうした人が外部に集落を作って、結果的に広がっていくと……なるほどね。


「そんなだから、冒険者なんかになる奴も多いっす」

「そっかー……」


 アラクネもそんな感じだったのかなぁ……いや、それだったら自由気ままな冒険者をしてそうだし、ミスティルテインにも所属しなさそうだよなぁ。


「組織に、ってのは私の一存じゃどうにもならないと思うけど、聞いてみようか」

「ありがとうございます! 俺、姉さんのためにがんばるっすよ!」

「私も私も!」

「おいらも!」


 なんか、すっごいなつかれたなぁ……。


 そんな感じでどったんばったんと騒いでいるうちに、隊商はスプリングファーミアの門をくぐったのだった。

次回の更新は一応18日を予定していますが、お仕事の兼ね合いで変更になるようなら活動報告のほうにてご連絡させていただきます。

次回はついに新キャラ登場ですよ!(でもまだ主要キャラ登場しきらないという……)

2章2幕はゆるっと進みます。

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