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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
63/88

20.パーネルセ平原

 草原をひたすらに先行するベイレスに並走すること数時間。

 思いの外距離がある。まあ、それだけこの草原は広いんだけどね。


「姐さん、正直もう驚かないんですが。……よくついてこれますね? これでもかなり本気で走ってるんすけど」

「姐さんてなによ。いや、場所がわからないから先導任せてるだけなんだけどね」

「……俺、姐さんに殺意がなかったことをマギカ様に感謝したい気分っす」


 そいつはややっこしいな、まあ気が向いたら今度伝えておいてあげようか。

 マギカもナンノコッチャって感じだろうけど。

 ていうかお前キャラ変わってない?

 そんなに衝撃的だったかね、まぁ都合がいいから別にいいけど。


 しかし……結構なペースで走っているけれどこの分だとまだしばらく掛かりそうだ、日も傾いてきているし少し急ぎたいところだ。


「ベイレス、もう少し早く走れる?」

「無理っす」

「仕方ないわねぇ……すっ転ぶんじゃないわよ? "能力値増強式フィジカル・エンチャントメント"-アジリティ」

「へっ? わっ、うっ、わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!?」


 突然敏捷のステータスを引き上げられて急加速したベイレスを追うように、私も加速する。

 最も、引き上げた彼の敏捷値はまだまだ私より下なので、私は特に何をするでもなく並走しただけなんだけどね。




 草原を通り過ぎて森沿いに走ること二日ほど、獣人だけあってベイレスの体力はなかなかだったが、流石に無茶な速度で走り続けたことと、距離が近くなってきたこともあって今は森を少し入った所を徒歩で進んでいた。


 そろそろ村の活動圏内らしく、ちらほらと採集の痕跡などを見つけることができた。

 注目すべきはあちこちの樹木に設置された謎の器具だろうか。

 樹木の外周をぐるりと走るようにつけられた傷跡、幾つかの傷跡はやがて合流し、その下のところで打ち付けられた楔によって木桶へと伝えられている。

 木桶は縄がつけられており、水汲みに使うようなそれ……中に溜まっている樹液と思わしき液体は比較的粘度が薄い感じだ。


「それは俺らが使ってる水を確保する手段っす。この草原、水はけが良くて水たまりとかあんまりできない上に、水脈が深いのか井戸を掘ってもなかなか水が出ないんすよ」

「……へぇ」


 なのにこの植物は育つのか……?

 ちと、気になります……さぁ、私にすべてをさらけ出しなさい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

名称:スーリュエ

種別:樹木


パーネルセ平原北部に森を形成する樹木。

深く根を張る性質があり、その根は百メテルにも及び深い水脈を探し当てる。

若木は空気中の水分を体表のひげ根から吸収して育つ。

やがて成長した樹は地下深くから吸い上げた水を葉の裏から蒸散させる。

成長した木が若木を育てるような関係を築くことで生存している。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「スーリュエ……」

「知ってたんすか?」

「ううん、名前だけ」


 と言うか今知りました。


「そいつらの表面を軽く削ってやると、水が染み出してくるんです。なのでそれを布で濾して飲用水なんかにしてるんすよ。大事な木っす」

「ふぅん……」


 そんな工夫、誰が最初に思いついたんだろうか。

 人は本当にどこでも生きていくんだねえ。


「きのみも割ると中に果汁がたっぷりで美味しいんスけどね……姉さん、そろそろです」


 離しながらも足を進めていたベイレスが木陰に隠れながら様子をうかがいつつ前に進む。

 一応斥候としての技能を修めているのか、気配や匂いを探りながら慎重に動く。

 私も一応探知の刻印魔術で頭のなかに地図を作って確認しているが、位置が理解ることと隠れられることは別の技能のためおとなしくベイレスのあとに付いておく。


 剣は何時でも抜けるように意識だけはしておこう。


「姉さん、前に一人います。確認を」

「うん……」


 そっと木陰から顔を出し様子をうかがう。

 私の視界が捉えたのは真っ黒な鎧を着て斧を乱雑に振り上げながら周囲の木を切りつけ続ける異様な姿だった。

 いっそ笑い声でも上げててくれたほうがまだマシかもしれん、無言で木を切り倒し続けるって木こりかな?

 あんな不気味な木こりもいないか。


「ベイレス、そこに居なさい。一閃してくるわ」

「は、はいっ!」


 木陰から体を晒すと黒鎧も私に気がついたのか向きをぐるりと変える。

 以前にも気がついていた、こいつらは目的を見つけるとそれ以外の行動がほぼすべて一旦止まる。

 まるで新たな命令を待っているかのような……。

 ゆらりと動き出し、見た目にも結構な重さであろう斧をゆらりと持ち上げ──ることを許さずシャドウブリンガーを一閃する。

 やたら硬い鎧も、この剣であればわざわざ刃を通す必要もない。

 刃を相手の鎧の中だけで実体化してやればいいだけのことだ。


 糸が切れたようにドサリと倒れた倒敗兵を見て、ふと気がついた。

 すでに倒し終えた、いうなれば制圧済みの対象であるこいつを見てやれば、何かしら情報が得られるのではないか?

 そう思って剣を構えたままに万物の根源(ルータスノーツ)を行使してやると、突如視界にノイズが走った。

 どうにも情報ウィンドウを形成しようとしている部分に不具合が起きたのか、視界を十時に工作するように走るノイズはやがてなんとかいつものウィンドウを形成するが、そこにまともな表記は存在しなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 なんじゃいこりゃぁ……。

 見ていて頭痛がするのでスキルは解除した。

 文字化けするって言うことは……やっぱ、そういうことなのか。


「あ、姉さん……大丈夫っすか?」

「ん? ああ、平気平気。ちょっと考え事してただけよ」

「そ、そっすか。ならいいんすけど……それ、死んでるんすか?」

「……たぶんね」


 大体胸の上あたりを横薙ぎに一閃したから、まともな生物であれば死んでいるだろう。

 鎧の隙間から黒い液体が溢れ出しているのも、おそらくその証拠だと思う。

 時間があるならば鎧を脱がせて中身を確認してみたい所だが、そんなことをしている時間はないかな……。


「間違いなくアイゼルネね……」


 時間経過的に見て、村はもう壊滅してるだろうな、でなければこいつがこんなところで変な動きしてたのも理由がないし……。


「とりあえず村の方へ案内して頂戴。……見たくないものを見ることになるかもしれないけれど」

「覚悟の上っす……こっちっすよ!」




 結論から言えば、村は完全に焼け落ちて廃墟となっていた。

 丁寧に切り崩し焼き払ってあるその有様は、解体業者じみた丁寧さと言ってもいいだろう。

 相変わらず気味が悪いな、ただ焼き払うだけならそこまで丁寧にする必要もないだろうに……。


「気配は無いわね」


 まぁ、気配なんてわからなくて脳内の探知地図だよりなんですけどね。

 ただ、一つのまとまった反応があるのが気になるところだ。

 そして何よりも──死体がない。


 奴らが死体まで丁寧に焼き払うとかだとしても、灰になるまで燃やしたようなあともなければ、焼け焦げた人体らしきものも存在しない。

 逃げおおせているというのなら救いがあるのだが。


「おおぉーーーーーーい! ガレウスー! レイシャー! トルチェー! 誰か居ないっすかぁあああああああああ!」


 森のなかにこだまするベイレスの声は虚しく響き私、そして返事は返ってこなかった。

 いや、別の返事が帰ってきた、というべきか。


 森の奥からふらりと現れた影は、それぞれに得物を構えてゆらゆらとおぼつかない足取りでこちらへとやってくる。

 斧、槍、剣、大剣など、得物は様々だが間違いないのはその殺意。

 まだここに生者が居るぞと気づいてやってくる、ゾンビさながらだ。


「まあ、そうなるわよね」

「あ、あわわわわ……す、すまないっす姉さん!」

「気持ちはわかるから謝らなくていいわよ。同じ立場なら私だって同じことをしたでしょうから、数が多いから少し任せるわよ」

「え、でも姉さん……俺、手も足もでなかったっすよ? 正確には、倒せなかったっす」

「倒すのは私がやるわ、私の手が開くまでの間相手しててくれればいい。できる?」

「……了解っす、姉さんの背中は俺が護るっすよ!」


 ベイレス……すっかり従順なわんこになってしまって……。いや、まぁいいんだけどさ。

 軽く互いの距離を開けて一刀で切り伏せていくわけだけども、その間にちらりと横目に伺うと、遅れを取るようなことはなかった。

 ただ、その防御力を貫けないためゾンビアタックされてる感じだね。

 やっぱりこの世界においては規格外の防御力ってことか……。


 その防御を容赦なく無視しながらの攻撃を繰り返して、すべてを処分するまでに数分。

 いや、だいぶ楽になったね。


「大丈夫?」


 荒くなった呼吸を必死に整えるベイレスに声をかけるけど返事がない。

 うん、しばらく休憩してもらおうか。

 七~八体の倒敗兵相手に乱取りを数分間続けるのはなかなかにしんどかっただろう。

 それよりも……。


「そこのあなた達、居るのはわかってるわ。もう危険はないから出てらっしゃいな」


 がさっ、っと木々の揺れる音がして、おどおどと出てきた人影。

 それが元この村の住民であることは想像に難くない。

 何人かは私の方に警戒心を向けて、何人かはベイレスに心配そうに駆け寄ってきた。


 シャドウブリンガーを修めてとりあえず村の代表と思わしき老獣人に少し近づくのだけども……うん。

 ゲームで獣人の加齢設定されてるものが殆ど無い理由がよく分かる、これはなんていうか……すごく、うん。

 言葉にするのは伏せておこう。


 忘れたい。


「見たところ、スプリングファーミアの者ではありませんな? 冒険者ギルドのお方か?」

「まぁ、そんなところね」


 複雑な経緯は省きますが。

 自分たちのためとは言え野盗同然の真似をした、なんて知りたくないだろうし。


「恩に着ます。我らではあの者共には対抗できませなんだ……」

「まあ、それはいいんだけど……村の人達はこれで全員なの?」

「いえ、まだ戻ってないものがおります……おそらく、もう生きてはおりますまい……」


 往復でおよそ七日、それだけの時間行方不明では確かに生存は難しいだろう。


「……流石に私が探すのは無理があるか」

「この森は広いですからな、村のものでもあまり奥には踏み込みませぬ。外部の者が入るのは危険がすぎるでしょう」

「そう……じゃあ、私ができるのはこれぐらいかしらね」

 

 とりあえずアイゼルネかどうか確認することはできたわけだし、私の目的は達したわけだが、さてどうしたものかな。

 この人達ここに放っていくのもなんか、後味が悪いんだけども。


「それで村長、今後はどうするっすか?」


 ようやく人心地ついたらしいベイレスが声を上げる。

 よし、ナイスだ。


「どうする手段もあるまいよ……住処も食料も、村の若者も失った。もはや村は立ち行くまい、かと言ってスプリングファーミアまでゆく手立ても」

「スプリングファーミアまで行くっていうのなら、一緒に行きましょっか」

「……は?」

「いやいや、後味悪い結果にならなさそうで良かったわ」


 ぱんぱん、と手を叩いて話を無理やりまとめようとするのだけど、流石に年の功というか、長老はそう単純ではなかった。


「お待ちくだされ。食料も水も満足にありませぬ。そして何よりこの人数に、わしのような鳥寄りを含め村娘の足では、移動にどれだけ時間がかかることか……」

「そうね、一応確認しとこうか」


 ひふみよいむなや……十四人か。

 うん、何ら問題ない。


「この人数なら問題ないわ、スプリングファーミアまで、みんなまとめてひとっ飛びよ」

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