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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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17.理由もない思い込み


「ヘリエル、右前方五百メテルぐらいに二十数匹の狼の集団」

「笛吹いて!」


 言われて渡されていた笛を思い切り吹くと、その音に合わせて隊商がぴたりととまった。

 よく訓練されているものだなぁとおもいつつ、幌の上から飛び降りる。

 真っ先に駆け寄ってきたのはまあ案の定グズヴェルだった、周りは武器を構えて周囲を警戒している。

 にしても、図体横に大きい割にフットワーク軽いなぁ。


「お前たち、なぜ隊を止めた! 何があった!」

「狼の群れが見えた、ちと数が多いから一度対処したほうがいい」

「狼か……奴らは厄介だからな、仕方ない。速やかに処理しろ」


 不服そうだったけれど、そのまま進んで問題になった場合と即座に天秤にかけたのだろう。

 そのへんは優秀な商人なんだろうけどなぁ……。


「かしこまりました。みんないくぞ、リーシア案内を頼む」

「ん、りょうかい」


 隊商をそのまま遺していくのがちょっと気になったけれど、素人の判断なんかは棚に上げることにしてヘリエルの指示に従う。

 先頭は一番目の良いライラさん、その後ろに付く感じで方向を指示する。

 彼我の距離が五十メテルほどになったところでお互いに気がついたのか互いに足を止める事となった。


「これ以上近づいたら動くわね……さて、どうするリーダー?」

「どうするかな……全部は狩る前に逃げるだろうし、追い払えるならそのほうが楽だが……」


 私の魔術を使えば全部薙ぎ払うぐらいはできるだろうけども、まぁそんな判断は普通下さないよね。


「ライラの弓とリーシアの魔術で何体か落とせないか? それで撤退するようならよし、襲い掛かってくるようなら迎撃する」

「この距離なら私は一~二匹はいけそうかな、リーシアはどう?」

「私は……そうねぇ」


 ここで問題です。

 平均的な魔術師はここでどれ位撃ち落とせるのでしょうか?


 そういう知識無いからわかんないぞ……どうしよう、なんて答えよう。

 弓と同じじゃおかしいか? 四~五匹っていっとくか?


「どうした?」

「何固まってるの?」

「さ……」

「さ?」


 いや、うん、+1匹なら許容範囲だろう、きっと。


「さんひきぐらいかな~」


 若干棒読みで答えた言葉に、三人の表情が驚きに染まった。


「そんなに!? たすかるわー、最初の牽制って大事だもんね」

「一気にそれだけ落とせるとなると、追い払える可能性が高いな。アインツ、壁役頼むぜ」

「心得た。しかし面白いものが見れそうだ」


 よかった……抑えて伝えて。

 その気になったら一瞬で殲滅できるとおもうよ、なんて言ったらどんなことになったかわかりゃしない。


 ライラが弓に矢を番え、私が剣を抜き切っ先を狼の一団へと向ける。

 アインツが盾を構えて私とライラの側に陣取り、ヘリエルがライラの側で剣を構える。

 合図は私に任された。

 わかりやすいように、詠唱を足してみるか……。


満るは氷(みつるはこおり)、咲き誇るは氷華(ひょうか)、走らせるは風の道行き、今この掌の上にて、冷たき華を解き放て……フリージングスピア!」


 あえて、"氷結槍(アイシクルスピア)"とは名前を変えておきました。


 すっと周囲の気温が下がり、三つの一メテルほどの氷の槍が生まれる。

 "水""加熱""反転""追跡"の四つの刻印をまぜてあるのだが、刻印術士でない三人はそれが混ぜてあるとは思っていないようだった。

 草原をフリージングスピアが走るのと、ライラが弓を放つのはほぼ同時だった。


 速さもほぼ変わらず、"追跡"の刻印の影響もあってすべてが命中し狼の命を貫いた

 隣のライラからは同時に三本の矢が疾走っていた。

 弓に一度に番えた三本の矢を同時に放ち、そのうちの二本を命中させている。

 しかも一体は頭部を射抜いているのだから恐るべき弓の腕前というべきだろう。


 さて、これでまとめて五匹の狼が倒れたわけだが……逃げてくれるという都合のいいことはなく、即座に散開し四方から距離を詰めてくる。

 姿勢を低くしているのは本能だろうか、生い茂った草もあって狙いがつけづらく、これは乱戦になりそうだ。

 普段なら気にせず切り込むんだけども、今はパーティで戦っている、迂闊に動いて陣形を崩すと事故があるというのは聞いているのでとりあえず指示があるまでは迎撃、あとはやりすぎないように程々に……。


 そう思ったのだが、包囲してぐるっと廻るように一定の距離を取ったまま仕掛けてくる気配がない。

 タイミングを図っているのか?


「まばらに襲い掛かってきてくれるのが一番楽なんだが……アインツ、ライラを頼む。ライラは可能なら弓で援護を。リーシア、打って出るぞ、いけるか?」

「余裕」

「頼もしいぜ」

「ライラはヘリエルの援護をしてあげて」


 どちらかがライラからの援護がなくなるが、ヘリエルはそれでも大丈夫と踏んだのだろう。

 だがまぁ、私はいらないからそう告げておいた。

 ライラが私の方かまけてる間にヘリエルが大怪我とか、寝覚め悪いしね。


 小声でタイミングを合わせて、互いに逆方向に飛び出す。

 返す刀で一閃、飛びかかってくる二体の狼のうち一体を逆袈裟に切り捨ててもう一体を体をひねることで躱す。

 地をはうように迫る一匹を無詠唱の風の刃で吹き飛ばし包囲の反対側に飛び出す。

 私の方を危険と見たのか、囲むように迫ってくる狼は五体ほど、半分以上がヘリエルの方に向かってしまったようだ。


 飛びかかってくる狼をひょいとかわし、足で転ばす。

 悲鳴を上げて転がる狼を見送りつつ、次に襲い掛かってきた狼を、刀身幻影化したシャドウブリンガーで断ってやる。

 無論、切れるわけもないのだが脳が混乱したのか狼が地面に落ちてのたうち回った。


(大丈夫かねぇ……)

『狼ごときに遅れを取るようには見えませんでしたし、大丈夫でしょう』

(だといい……んだけどね)

『ところでお嬢様……何をお遊びになられているのです?』

(いや、なに。ちょいとこの剣の能力がどこまで自由になるのか確認しておきたくてね)


 実際に使ってみなければわからないのだが、どの程度まで自在に斬って斬らないでをコントロールできるのか、確信を持っておきたかった。

 少々残酷ではあるけれど、このオオカミたちには実験台になってもらおうと、そんなことを考えていたのだ。


 実験の結果は程なくして出た。

 全身に無数の傷跡を残して霧散していく狼──野生動物ではなく魔物化していたらしい──を尻目に、私はヘリエル達のところへと駆け出すのだった。




 ヘリエルたちってもしかして……弱いんじゃないだろうか?

 そう思ってしまうような、オオカミたち相手に対してのひどい劣勢具合だった。

 遅れ、めっちゃっとってるね、クロウが黙っちゃってるよ。


 なんとかしのいでいるのはアインツだけで、ライラは弓で殴ってるし……いや、至近距離ならそのほうがいいのかもしれんけど短剣ぐらい持っとけよ、弓が駄目になるぞ。

 ヘリエルはなんとか立ち回っているものの、傷だらけである。

 ひのふの……残りは八匹ぐらいか、にしてもひどい乱戦っていうか、あんだけ近づいてると武器もまともに振れないんじゃない、って感じ。


 どう手を出したものかと悩んでいたら、唐突にライラの悲鳴があがる。

 今度はなんだとおもったら、狼たちが行動を変えたのか一斉にヘリエルに噛み付いていた。

 ありゃ振りほどけんな。

 深く牙が食い込んでいるのかどんどん血まみれになっていくのだが、しかたない。


 まとめて斬ろう(・・・・・・・)


「ライラ、アインツ! 離れなさい!」


 声をかけて二人が動きを止めるのを確認し、一気に距離を詰める。

 ヘリエルは状況はわかっているようだけど私まで気にする余裕は無いみたいだね、必死に振り放そうともがいている。

 そこへシャドウブリンガーの刃が閃いた。


 傍目からみればヘリエルごと叩き切っているように見えるし、事実そうである。


「リーシアやめてえええええええええええ!?」


 はい、絶叫頂きました。

 やめないけどね。


 五度ほど剣を閃かせたあと、血しぶきを上げて狼達が力なく地面に落ちる。

 その中でヘリエルだけが呆然とした表情で立ち尽くしていた。




「心臓に悪すぎだよリーシア……」

「いやぁ、説明してる余裕もなかったし。言ったからって信じてたかっていわれると怪しいでしょう?」

「それは……そうだけど……」


 あのあと三人の怪我を軽く治療して、戦利品を回収して馬車に戻るとグズヴェルはねぎらうこともなくさっさと隊商を進め始めた。

 その為私たちは微妙な空気のままに馬車に戻ったわけである。

 私は幌の上でゴロゴロしている、日当たりが良くて気持ちいいのだ。


「なあリーシア、さっきのは結局なんだったんだ? あの状況だから確信はないけど、俺も一緒に斬られてたように思えるんだが」

「こちらからも間違いなくそう見えたぞ」

「スキルなのか? それともその剣の能力か?」


 ヘリエルはそんな感じであれこれと聞いてくるのだが、なんだろう……さっきから私の中で変な違和感が浮かんできている。

 基本的に冒険者と言うのは持ち前の技術で稼いでいるため、迂闊に手の内を明かすようなことはしない。

 そして人に対しても基本的に踏み込まないことが多い。

 立場が変わればライバルに、そして最悪敵にもなる同士だからである。


 無論、連携を取るために最低限互いの事を把握しておく必要はあるが、先程のことは聞かないでおくべき事柄に分類されるだろう。

 この違和感の正体はなんなのか……少し考えてその可能性に思い至って私は軽いめまいを覚えた。

 いや、可能性としてはありえる……だが、だとしたらちょっと、どうなんだ?


「やっぱ教えてはもらえないのか?」

「いえ……別に構わないけど、その前に一つ、確認し忘れていたことを確認させてほしいのだけど」


 一拍おいて、努めて冷静にそれを聞く。


「あなた達、冒険者のランクはいくつ?」

「ああ、そういえば言ってなかったっけ? 俺とライラが二輪で、アインツが三輪だよ」


 駆け出しかよ……駆け出しかよ!

 てっきり格上で経験豊富なのかとおもったじゃないかあああああああああ!

 でもそうだよね、そんな人ならもっと他に仕事あるもんね!

 まぁいいか、この世界の知識っていみなら間違いなく彼らのほうが上だろうし、いっそ気が楽だ、うん。

 なんかあったときごまかしやすそうだしな。


「で、結局どっちなんだ?」

「剣の能力よ。これ神打だからね」


 というか、なんかヘリエル子供っぽくなってない?


「ええっ!? マジかよ、めっちゃ貴重品じゃん!」


 すげーすげーっ、って騒ぎつつ視線が剣の方に釘付け……子供みたいにはしゃいでますが。

 あ、ライラさん頭抱えてる。


「ヘリエル、少し落ち着け。あと人の切り札をホイホイと聞くのは感心しないぞ」

「あ、そっか……悪い」


 少しバツの悪そうな顔をして謝ってくるヘリエルを別にいいよと返してアインツの話を促す。



 話を聞いてみた所この三人、離れてしまった術士も含めて皆同郷だったらしい。

 もともと冒険者として依頼をこなしていたものの、どうにも芽の出なかったアインツが故郷に戻った所を、ヘリエルたちが捕まえて色々教えてもらっていた、という流れらしい。

 その辺がなんだかちぐはぐな理由だったのかもしれない。

 今はヘリエルがリーダーになるための準備中らしいのだが、アインツはライラも含めて故郷に戻るように説得したいのだとか。


 ヘリエルの変わりようも、素が出ただけらしい。

 グズヴェルも、依頼を受ける冒険者を選ぶほどの余地は無かったということか……。


「そう言えばあの時リーシアの方にも八匹ぐらいは狼が行ってたとおもうんだけど、全部一人であしらったのか? だとしたらものすごく強くないか? もしかして五輪とかそれぐらいの実力者だったり……」

「私は三輪だよ、それもこの前上がったばっかりのね。私は本職は冒険者じゃないの、だから強さとランクは一致してないんだよ」


 ……言ってから気づいたけどこの言い方、私強いよって自慢してるみたいだな。

 うーむ、やってしまったか。


「なんかミステリアスな感じだねー。ヘリエルやっぱ冒険者諦めたら? リーシアみたいなのが三輪じゃ私ら芽がないよ~」

「ええー、俺は田舎暮らしはしたくねえなぁ。やっぱ男なら一旗揚げたいじゃん」

「それに女の私を巻き込まないでよ」

「ライラも素直になったらどうなんだ」

「ど、どういう意味よう」

「どういう意味だよ!」


 最後のアインツの一言に途端騒がしくなり、やれやれと思いながら馬車の外へと目を向ける。

 緩やかに傾き始めた陽が、薄っすらと赤みを帯び始めていた。

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