15.魔剣シャドウブリンガー
その知らせは、ある日唐突にやってきた。
『リーシア、リーシア聞こえる?』
不意に耳元で聴こえた声、それが通信用にもらっていた共鳴結晶からの声だと気づいて慌ててマナを注ぎ込み活性化させる。
「おー? その声はアラクネじゃない、久しぶり。元気にしてた?」
『まあ、そうね……ゴルディオスにやたら雑用を頼まれて周辺の魔物狩りの毎日だけど、元気といえば元気よ』
なんか大変そうだなぁ。
あ、でもそれってゼフィアのやってることとあんまり変わらないか?
「武器はもう直ったの?」
『どうにかね。多少強化もしてもらったわ』
マジでか。
あれ結構強かったと思うんだけど、更に強化されてるとか怖いな。
「直ったようなら良かったわ。それで、今日はどんな要件? たまの雑談っていうのならもちろん歓迎だけれども」
『お仕事絡みよ。ちょっとスプリングファーミアでの交渉が難航してるみたいでね』
「私に交渉技能とか求められても困るんだけど?」
『カルバリウスに比べれば誰だってマシよ』
……えぇー。
ていうかそんな人を交渉に行かせたのがそもそもの間違いなんじゃ?
思わず沈黙してしまったのだが、それもアラクネは察した様子だった。
『言いたいことはわかるわよ。なんでそんな人を出したのかって言いたいんでしょう? 他に人員が居なかったの』
なんともこぢんまりとした組織だねぇ……。
別にいいんだけどね、私の目的は情報収集だし。
『そんなわけだから、スプリングファーミアでカルバリウスと合流してちょうだい。魔人族……は、見たことないわよね?』
「まじんぞく?」
『人族のなかから、強いマナを浴びたときに生まれてくるとされる独特の風貌をした種族よ。カルバリウスは身長二メテルほど、浅黒い肌に鋭い目つきの男性よ。見ればわかると思うわ』
「あー……それは確かに目立ちそうだね」
『他の特徴としては、身の丈ほどの大剣を背負ってるわ』
そりゃ確かに見ただけでわかるね。
大剣かぁ……ちょっと憧れるなぁ。
……大剣か。
「おーけいおーけい、急ぐ必要はある?」
『そこまで急かすことではないけど、あんまり悠長にされても困るかしらね。普通に陸路で向かってもらうぐらいに考えてもらえればいいわ』
「ん、わかった。それじゃあ準備したら向かうよ。一息ついたらまたそっちに顔を出すわ、ゴルディオスに土産話もできたしね」
『ええ、よろしくお願いするわ。何かあったら連絡してちょうだい、それじゃ』
共鳴結晶から音が聞こえなくなったのを確認してマナの供給を終了する。
遠距離で通信できるのは便利だけど、思いの外マナを消費した感覚があった。
「これは術士でないと長時間の通信は結構な負担になるね……携帯電話ってすごかったんだなぁ」
『姉様出かけるの?』
作ってやった編み籠の寝床からでてきた御鏡がぴょんと近場のテーブルの上に飛び上がって、連れてけ連れてけとばかりにアピールしてくる。
たまに散歩やちょっと出歩くだけのときに置いていくと拗ねるようになったため、今ではすっかりペットのような感じだ。
契約獣としてのプライドみたいなのは無いんだろうか、別にいいけど。
「そうなるね。今度の目的地はスプリングファーミアって所……」
あれ、この世界にどんな風に取り込まれてるんだろうなぁ……。
元は戦闘要素がほとんどおまけの、ほのぼの交流農業生産型ゲームの街の名前だったとおもうけど。
『またみんなで冒険できるわね!』
楽しそうなようでなによりだ。
まあ、そんなに外に出てられるかどうかって言うとわからないけどねぇ……。
そういう旅をするのも、悪くはないか、今は無理だとしても、ちょっと考えておこう。
契約獣であるクロウ・エリアル・永祈を回収し、旅支度を整えて私は家を後にした。
次に帰ってこれるのはどれ位先だろうね……。
またノフィカに定期的に手入れをしてもらえるように頼んでおかないと。
ノフィカを探して、ついでにグランさんに会う用事もあったため村に寄ったのだが、ゼフィアが大工の真似事をしていた。
いや、私が家作るときにも手伝ってもらったからおかしなことじゃないんだけども……似合わんな。
手を振ってやるとこちらに気づいたのか屋根の上からひょいと飛び降りてくる、やっぱ身軽だねぇこの子は。
「リーシアじゃねぇか、どうした?」
「またしばらく出かける事になったから、ノフィカに言っておこうと思って探してるのよ。あとグランさんが武器持ってきてるならちょっと見せてもらいたいなと思ったんだけど……」
「グランさんなら裏手で石を切り出してるよ。ノフィカはこの時間だとユナさんの所だろ」
「そっか、ありがとう」
「次はどれぐらいで帰ってくるんだ?」
「ちょーっとわからないかな。向こうの状況がわかってないし、問題解決できるアテがあるわけでもないしね」
「まあ、お前なら大丈夫だと思うけど、ちゃんと帰ってこいよ?」
「もちろん、私の夢はこの村で静かに余生を過ごすことだからねぇ」
そんなことを話しつつ、作業に戻るゼフィアを見送って家の裏手へ行くと、そこでグランさんが石に釘を打ち込んで石材を切り出している最中だった。
そうだよねぇ、そういう割り方になるよねぇ……動画とかで見たことはあるけど生で見るのは初めてだな。
作業中だからとりあえず今やっているのが終わるまでは声をかけないでおくか。
そう思って見ていたのだが、作業は非常に地味である。
石に要所から順にノミとハンマーで穿つように跡をつけ、それでラインを引いていく。
その後場所を変えながら少しづつ叩いて、また叩く場所を換えてと繰り返すのである。
数分の間石を穿つ硬い音が響き続け、そしてグランさんが変わらぬ動作で石を叩いた瞬間、切り出されていた石が半分にぱかりと割れた。
「おー、綺麗に割れた」
「なんだ、リーシアの嬢ちゃんか。……気をつかせてちまったみてぇだな」
「いやいや、面白いものを見れたわ」
「面白い……ねえ。んで、なんか用か?」
「グランさん武器とか持ってきてるかなって思って。ほら、私の剣折れちゃったからさ」
私の言葉に渋い顔を見せるグランさん、これはあかんかったかもしれんね。
考えてみればグランさんは鍛冶屋なわけで、私は自分の大事な武器をマヌケな使い方して折っちゃった張本人なわけだ。
お前に武器なんぞやれるか、ぐらい言われてもおかしくない気がする。
「折れない剣をくれてやる、と言いたい所だが……難しいだろうなぁ」
まあ、この世界の製法の剣じゃ……折れそうだよねぇ、私の無知もあいまって……。
「幾つか持ってきてるからとりあえず見てみるか? 残りは店においてきてるから、必要ならウィルヘルムの店の方に行ってもらうしかねえが」
どっこいせ、と立ち上がったグランさんに釣れられてまだ建設途中の店の中へと入る。
そこには箱に納められた武具が幾つも積み上げられていた。
「ま、適当に見繕ってみろ。悪いもんはねぇはずだ」
促されるままに箱を開いて中を見せてもらうが、やはり反りのない西洋風の剣が多いな。
私がもともと使っていたスペル・キャストと同じルーツのグラディウス、取り扱うにはおそらく一番手に馴染むのだろうが、少し別のものを握ってみたい気もする。
次に開けた眺めの箱に入っていたのはごくごく一般的におもえるバスタードソードだった。
片手・両手のどちらでも扱えるため面白そうではある。
軽く持ってみた感じ特に重くもないので扱うのに苦労はしそうにない、片手でも十分扱えそうだ。
ふと思いついて箱をざっと見渡してみるが、一番大きな箱はバスタードソードの入っていたものだった。
「グランさん、大剣とかってないの?」
「大剣だぁ? あー……たしかにお前さんなら扱えるのかもしれんが、この村で大剣使う奴はいねえから店に置いてきたな」
「ふむ、残念……」
扱えるか扱えないかはともかくとして、一度持ってみたいよね、大剣って。
まあ無いものをとやかく言ってもしかたがないし、何かしら良さげなものでもないだろうか。
ガサゴソと楽しげに箱を漁る私を見て、グランさんは小さく苦笑している様子だった。
そうしてしばらく箱をあさり、私はその剣に出会ったのである。
箱を触った感触からすでに他のものとは違うと感じていた。
私の様子が変わったことに気づいて、グランさんの苦笑も止まる。
何かに誘われるように、私はその箱を開けた。
無骨で肉厚な刀身、刃はゆるくS字を描くように緩やかにカーブしており、けれど背は垂直。
しいて言うならば横から見た目はひょうたんを縦に割ったような形状をしていた。
用途としてはおそらく鉈のようなものをイメージしてあるのだろうが、刀身は70cmほどと鉈にしては少々長め。
そしてその肉厚な作りから、見た目よりもずしりとした感触を伝えてくる。
刀身がやけに黒いのはそういう金属だからなのか、それとも製法によるものか……光の反射で微かに赤く光るところがなんとも禍々しく、それでいてそそられる。
間違いない……魔剣の類いだ。
「まあ、見初めるだろうとはおもっとったがな……そいつはここ半年の間に新しく打った神打だ」
「なんか少し変わった形をしてるけど」
「その所為で買い手がつかんかったんじゃ。重心も少々変わっとってな、神打としては人気の片手剣よりなんじゃが、使いづらいと言われてのぅ」
不服そうなグランさんだが、私としては売れ残っていてくれてむしろラッキーだった。
こういう類のものは心惹かれる。
一応確認もしておこうか。
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銘:未決定
ベース武器:なし
祝福:なし
攻撃力:150(110)+40
耐久力:4300/4300(2500)
属性:空
固有特性:刀身幻影化
質量増加
永続付与:攻撃時一定確率でHPとマナを吸収(3%)
製作者:グラン・スキット
品質補正
攻撃力:+40
耐久力:+1800
所有者:なし
来歴:
ドワーフの名工であるグラン・スキットの神打。
肉厚でS字を描くような刃に、垂直の背を持つ長剣。
その重さと形状から高い強度と斬撃の強さを持つ反面、重心に癖があり少々扱いづらい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ほう、未命名か。
「うーん、気に入った。グランさん、これいくら?」
「あ? ああ、リーシアの嬢ちゃんなら扱えるか。金貨二十枚ってところだが」
ゲーム時代の通貨に直すと二百Kってところか……魔剣にしては安くね?
問題はこの世界での私の稼ぎだとギリギリってことだけども。
いや、やはり普段使いにほしいな。
「よし、買った!」
「思い切りがいいねぇ。結構ギリギリとみるが、旅費は大丈夫なのかい?」
「どうとでもなるから大丈夫。目的地までの隊商にくっついてってもいいしね」
最悪物々交換も、この世界では十分通用するのだ。
そして交換に出せるものなら山ほどある。
手製の干し肉とか。
「んじゃ、鞘の調整するからこっちこい。それと剣の銘でも考えてやってくれや、まだ無銘でな」
「名前、ねぇ……」
ベルトの位置を調節するグランさんにされるままになり、銘を考えて頭をひねる。
刀身の幻影化とか、質量増加とか、そういったものを含めて考えてみると少しして良い銘が浮かんだ。
「よし、こんなもんだろ」
「おおう? なんかおもったよりも不安定な感じが」
「嬢ちゃんが今まで持ってる剣よりも長いからな、そこは慣れろ。んで、銘は決まったのか?」
「うん。シャドウブリンガー、ってつけようかなと」
「ほう、いいじゃねえか」
私の持つスキル、"虚実反転式"と似た能力から思いついた銘だったりする。
何にせよ新しい剣だ、大事にしよう……。
「ちゃんと帰ってこいよ?」
「それはもちろん」
こうして、お題の金貨──若干銀貨が混ざったが──を渡して新しい魔剣を下げて、私は次の冒険へと出かけたわけである。




