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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
56/88

幕間.男子三日会わざれば


「準備はいいかー?」


 そう言って木剣を二刀に構えるゼフィアを前に、私も左右それぞれに長さの違う木剣を構えた。

 左手は逆手に長剣を、右手は普通に短剣を。


「……相変わらず変な構えだよなぁ」

「ほっときなさい」

「ならいいけどよ。ほら、行くぜ!」


 そう言って踏み込んだゼフィアは以前よりも遥かに早い速度で互いの距離を埋めてきた。

 その一瞬だけで相当の鍛錬を自信に課してきたというのが見て取れる。

 なんとか受け止めたとおもったらゼフィアは驚くほどあっさりと距離をおいた、おかげで力を入れて受け止めた私がバランスを崩すほどに──!


 次の瞬間眼前に迫ってきた剣先を体を撚ることで紙一重でかわす。

 はらりと前髪が数本散った。

 いやいやいやいや、いくら木剣でも突きはまずいだろう!?

 ていうか髪が散るほどってどんな鋭さ!?


 崩れたバランスを無理やり是正しようと重心を変える、そこを狙いすましてゼフィアの剣が追撃してきた。

 まずい、これは普通にやったんじゃ捌ききれない。

 咄嗟にゼフィアの片方の剣を"剣戟反射(リペリング)"で弾き飛ばし、もう片方の剣を短剣で受け流しながらほぼ密着状態になるように踏み込む。

 ゼフィアの剣は長剣のため、そこまで接敵されると逆に攻撃できないというわけだ。

 まあ、石突で殴るとか、蹴るだとか方法は色々あるんだけども……。


「んなっ!?」


 剣を振れなくなってゼフィアが咄嗟に距離を取ろうとしたところで私も離れることで互いの距離を引き離す。

 なんとか、仕切り直しに持ち込むことができた。

 それにしても、動きが見違えるぐらい良くなったなぁ、男子三日会わざれば刮目して見よって言うけど、まさしくだね。


「ちょっと、驚いたわ」

「畳み込めると思ったんだけどなぁ……」

「あの時即座に体術に持ち込んでればもっと追い込まれてたでしょうね」

「それじゃ剣の稽古にならねぇだろ」

「まあ、それ言われると……私の1ペケかな」


 あくまで剣の稽古なんだから、最初に追い込まれた時点でほんとうは負けなんだよね。


「ま、ここは一つ譲ってくれや。ほら、次行くぜ!」

「はいはい、今度はあんまり情けない所見せないようにしないとね?」


 開いた距離から再び一気に間合いを詰めてくるゼフィアの二刀、その片方を長剣で受けてそのまま間合いを至近まで詰める。

 それだけで次ぐゼフィアのもう一刀を防ぐと同時に短剣を切り払う。

 双剣はその特性上、左右から振り下ろすなど一部の動きで両腕が干渉する事がある。

 その為それぞれが間断なく攻め続けてくるか、ほぼ同じ軌道で剣戟を重くするかという形になることが多い。

 今のゼフィアの剣もまさにそれで、速さを重視た連撃型。

 であれば防ぎ方も見えてくる。

 互いに二刀流であれば、剣戟の重さはほぼ五分と見ていい──男女の差はもちろんあるが、私の場合ステータスの関係で案外私のほうが有利かもしれない。

 そうなると今度は速さと間合いの奪い合いになる。

 私が至近距離を取るか、ゼフィアが取られないように近距離で捉えるか。


 結果として、互いの戦闘適正距離を取り合う速攻戦になるわけだ。


 しかしそうなると私の特殊な二刀のほうが有利に運ぶ。

 両手が長剣のゼフィアの射程は近距離、大して私は右手は短剣のため至近距離に適性がある。

 受けに回る場合相手の剣がこちらまで来るわけだから短剣でも受けることは可能だ、無論高い精度が要求されはするのだが、そこは私のステータスが補ってくれる。

 結果としてしばらくの切り結びのあと、辛くも二本めは私が奪う事となった。


「くっそ、相変わらずでたらめな剣速だな。それに短剣だと切り返しがはええ……」

「変な構えと言った報いよ、思い知ったか」

「いやいや、普通は左右逆だろ……受け手が短剣だろ」


 まあ、マインゴーシュとか受け用の短剣使うならそうなんだろうけどね。

 私は利き腕に短剣を持つのが好きなのだ。


「まあ、そういうことなら今度は左右変えてみましょうか?」


 左手に短剣を逆手に、右手に長剣を順手に構え三度対峙する。

 左右の重さに少々の違和感を感じつつ、次はせっかくだからと私が先に動くことにした。

 重心を落とし一歩踏み込む、それだけで彼我の距離を零にして、体を一周くるりと回して全身のバネを使った横一閃を見舞う。

 無論ゼフィアもそれを見越して二刀でしっかりと受け止めるため威力は殺された。

 速度が相殺されているためか、先程よりゼフィアは受けやすいようなのだが、片手で受けきることはできていない。


 時折片手同士の打ち合いになると、どうしても私の方に軍配が上がるようで本格的に鍔迫り合いに持ち込むようなことは無かった。

 一方的に攻めの一手になって、完璧に左の短剣が空いてしまっている。

 やがてゼフィアの二刀のうち片方が弾かれることで勝負は決することとなった。


 荒くなった呼吸を整えながら弾かれた木剣を拾いに行く彼を見つつ、私は"利き腕に長剣持ったほうがやっぱ強いか"と、当たり前のようなことを考えていた。



「それじゃ、次は実戦形式でスキル有り魔術あり体術ありで」

「はいはい、これがラストだからねー」


 そう言って元の構えに戻し距離を取る。

 私は体術系にスキルがないためはっきり言って不利なのだが、それを含めても興味がある。

 実践に近いというのは私にとって数値ではない経験値の宝庫なのだ。


 今度はそばにいるノフィカも緊張気味である。

 まあ、スキルありということは怪我の危険があるからなのだが……私の場合ゼフィアをうっかり殺してしまわないように加減しないといけないからそこが心配かな。

 私の場合高いHPバリアがあるから多少のことは平気だろうしね、痛いとしても。


「……"剣閃(ソードスラッシュ)"」

「は?」


 驚きつつもその場を避けた私の隣を、風の刃が薙いでいった。


「え?」


 あまりのことに寸断された思考、それはゼフィアが間合いを詰めるに十分なものだった。

 逆袈裟に切り上げられる剣をかろうじて身を反らして、上からの斬り下ろしを短剣で無理やり受け止める。

 このままなし崩しに畳み込まれるのはもう勘弁、そう思ったところでゼフィアは一旦距離を取った。

 そのまま最初のときのように畳み掛けに来るかと思ったので少々意外だったが、それは次のゼフィアの行動で納得に変わる。


 浮かぶゼフィアの"風"の刻印はシンプルに、けれど明確に身体強化の術式を構築していく。

 刻印を読み取る限り、私の"能力値増強式フィジカル・エンチャントメント"、それも敏捷力に補正を加えるタイプだろう。

 完成された刻印魔術が効果を表す、私はそれを見届けて再びかかってくるように促した。


 彼我の距離およそ十メテル。

 その距離を魔術の補正を受けたゼフィアは一息に踏み込んできた。

 並んだ剣が二刀とも右から襲い掛かってくるのを左に飛んで躱し、どう対応するか思案する。

 私も能力値を補強するか、それともゼフィアの魔術を解除するか。


 自信満々に見せてきた魔術を解除するのは流石に心折案件か。

 彼の繰り出す二刀をひたすらに受け流しながら、"能力値増強式フィジカル・エンチャントメント"-ストレングスの詠唱を開始する。

 数秒の詠唱ののち、彼が振り下ろした二刀を受け止めることで連撃を止める事に成功した。


 いや、速さってのはそのまま威力に直結するせいで、片手で受け止めきれるか怪しかったんだよね。

 とは言えこれで手札も出し切っただろうと、そう考えたのが本日一番の油断だった。


三斬華(さざんか)!」


 一瞬で距離を取ったゼフィアが舞うように繰り出した三連撃、それは私を驚愕させるにたるものだった。


 スキルには再使用時間(リキャスト)が存在する。

 それが当たり前の私の認識だった。

 それは剣閃でも変わらない、ずっとそう思っていた。

 剣閃はリキャストが十秒と設定されている、だから連続して放つことなどできないと……。


 だが──。


「リーシアっ!」


 ゼフィアの放った三斬華、三連の剣閃は私から両手の剣を弾き、残る一つを直撃させてみせたのだった。




「リーシア様、大丈夫ですか?」

「平気平気、なんともないから」


 そう言って治癒魔法をつかっていたノフィカの頭を撫でてやる。

 いくら木剣での訓練とは言え寸止めもできないスキル系は流石にダメージが有るため、ノフィカかからすると……いや、ゼフィアであってもひやひやしたらしい。

 まあ、私のHPを削りきって死に至らしめるには、今のゼフィアではまだまだ不足……だと思う。


「三斬華か……いや、大したものだわ」

「いや、あれぐらいお前なら十分受けきれただろ?」

「完全に想定外で一瞬とまどっちゃったからね」

「俺はそんなに舐められてたってことか?」


 不服そうな顔をしてむすっとするゼフィアに、私は笑いながら首を横に振って否定する。

 もちろん、すべてを伝えることはできないが、ゼフィアはそういう意味でないということはわかってくれたようだ。


「ねえゼフィア。さっきの三斬華って、どうやったの?」

「どういう意味だ?」

「いや、私あんなに連続して打てないからさ」

「? あんなの剣をいかに無駄なく早く振るかだろ?」


 その後ゼフィアに理解るように説明し、私に説明し直してもらうまでにそこそこの時間がかかったのだが、そこは割愛しておこう。


 結論から言うと、私の持つ"ゲーム時代のスキル"と、"この世界に則った技術"の違いだと私は解釈した。

 ゲーム時代のスキルは強力な反面、ゲーム的な制約まで取り込んでしまっている、というわけだ。

 これはメリットであると同時に、大きなデメリットでもある。

 特に剣閃のような連発の効くものに関しては"この世界に則った技術"として身につけるほうが圧倒的に強い。

 逆に、"七支八閃(シチシハッセン)"を見せたらゼフィアに意味がわからんと称された。

 これはこの世界に則った技術としては再現不可能な領域ということだろう。


 この辺は今後ちゃんと見極めた上で落とし込んでいかないと、思わぬところで足をすくわれそうだ。


「それにしても、ゼフィアは本当に強くなったねぇ」


 やっぱりノフィカのためなのかな?

 だとしたらとても微笑ましいというか、にやにや案件なんだけども。


「ま、色々と思うところもあったからな。しばらく村にいるならまた手合わせしてくれよ」

「それはこっちからもお願いしたいね」


 そんなことを話していると、ノフィカが不服そうに頬を膨らませていた。

 なんでも、ゼフィアばっかりずるい、だそうで。


 そんな彼女の言葉に、村外れの草原に私とゼフィアの笑い声が響いた。


年内最後の更新となりました。

大晦日です、皆様良いお年を。


7日の更新はおやすみさせてください、色々と片付いてないので。

14日から再会予定です……さて、部屋を片付けますかね……(白目

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