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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
52/88

11.捕食者の領域


 結局あのあと、グレッグは私達のことを手のひらを返すように歓迎し、鉱山内への通行を許可した。

 そうして翌日の朝になって、私たちは鉱山前にやってきたわけである。

 鉱山の奥はしんと静まり返っていて、何の音も聞こえては来ない。


 鉱山内の地図はもらってあるため未踏破ダンジョンへ踏み込むというわけではないが、私にとってはこの世界で初めてのダンジョンアタックなわけで、少し感慨深いものがある。

 そう、冒険者ならダンジョンに挑んでなんぼだろう。

 わくわくするなぁ。

 人工物だけど。


「真っ暗だね!」

「当たり前でしょう」


 鉱山に潜るときは大体が紫極石(しきょくせき)を用いたランプが使われるらしい。

 火を用いると原因不明の爆発事故が起きることがあったり、息苦しくなるからだそうだ。

 まあ、粉塵爆発と酸素不足だなと頭のなかで変換しておき、ギルドから貸し出されたランプに魔力を注いで起動してやる。

 薄ぼんやりとした青白いあたたかみのない光は、どことなく白色蛍光灯を思い出させた。


「リーシア、一応言っておくけれど、鉱山内で火は使っちゃだめよ」

「うん、承知してるわ」


 ランプを掲げ鉱山内に踏み込む、ぼんやりとした冷たい明かりは意外と鉱山内をよく照らし出してくれた。

 一応"探知"の術式も起動しておこうと進む道すがら術を起動する。

 地下でどれだけの精度があるのかわからないがものは試し、と思ったのだが、術式は妙な反応を捉えた。


「アラクネ、後ろから誰か来てる」

「……なんですって?」


 控えめの声はあまり反響しなかったことと、まだかなり距離があることから気づかれては居ないと思うが、そっと坑道の影を進むように移動する。

 反応は三つ、おそらく人間と思われるが……。


「心当たりは無いわよねぇ……どうする?」

「そうね……そっち、そこの影に隠れてやり過ごしてみましょう」


 アラクネが指差したところには崩れたと思われる岩が転がっており、隠れるには手頃な様子だ。

 岩陰に身を潜めてランプを消すと、あたりは完全な闇に包まれる……つまり……。


「ねえアラクネ、なんにも見えないんだけど」

「そりゃあね。その三人が明かりを使うならよく見えるでしょう。探知の刻印魔術を応用してもいいけどね」


 そういって手の中に小さな刻印を作り出した後、アラクネの目が薄い金色の光を帯びた。

 私もそれに習って真似てみると、暗かった視界が明るい青色に染まる、暗視スコープで見ているような感じだろうか。


 探知の刻印はこんな応用もできるのかと関心しつつ、岩陰から様子を伺っていると程なくして謎の三人組が通りすがる。


「ったくよー、あのオヤジしつこかったよなー。いいから通せっつうの、ばかじゃねーの」

「あの二人のクソアマだけ通して俺ら通さねーとかマジねーわ」


 なんだろう、面倒な予感がする。

 隣を見れば普段ぺたりと垂れている耳をピンと伸ばして音を探っていたアラクネが、まるで聞きたくないために耳をふさぐかのようにぺったりと耳を寝かせなおしていた。

 こうしていると耳が無いように見えるぐらいに……。


「いいじゃねーか。俺らが先に蹴散らして、あいつらを詐欺師とか適当に陥れていいように使ってやろうぜ」

「ぎゃはははは、さんせーい!」


 うわぁ、ド低脳だ。

 ていうか、あんなのでよく今まで生き残れてたなぁ、それとも生き残れちゃったから悪化しちゃった感じなのかなぁ?


 流石にこのまま行かせてむざむざ死なせるのはかわいそうかと思ったけど、聞こえてくる罵詈雑言が耳に入る度にどんどんその気が失せる。

 途中からもうピー音が入るようなそれはもう聞くに堪えない物になってきて、それと同時にアラクネの尻尾が徐々に膨らんでいく。

 いや、連中の性欲の矛先が私からアラクネの方になってるせいなんだろうけど……あの、アラクネさん、殺気を抑えてくださいバレますっていうか怖いです。


 結局連中はアラクネが漏らす殺気にすら気がつかないで通り過ぎていった。

 本当に、なんであれで今まで生き残れたんだろう。


「あれ……ロジックロックのギルド出たところで絡んできた連中だね」

「そのようね」

「……どうする?」

「見捨てましょう」


 おお、目が据わっていらっしゃる。


「あんな連中あれ以上生かしておいても余計な迷惑を撒き散らすだけよ。それに……聞いた限りじゃグレッグさんにも手を出してるわよ、あいつら」

「ああ、そういえばそれっぽいこと言ってたね」


 鉱夫のまとめ役に手を出したとか──いや、人に手を出した時点でアレだが──どう考えても処罰ものだと思うんだけど、ギルドも今までどうしてあいつら放置してたんだろうなぁ。




 最下層に行くに従って崩落がひどくなり、地図に書いてあった道が埋もれているところが出てきて進むペースは次第に遅くなっていった。

 その間、私達があの三人組を追い越すことはなかった。

 にわかには信じがたいのだが、そこそこ能力はある、ということなのだろうか……?


「呆れたものね、足跡が迷いもせずに一直線に正解のルートを辿ってる……地図を見ているわけでもないでしょうに……単純に勘かなにかで動いてるわよ連中」

「……ああ、そういうタイプかー」


 たまにいるよね、そういう人。

 運のよさだけで乗り切ってるっていうか……でもまぁ、流石に今度ばかりは相手が悪いんじゃないかなぁ?


「このまま追うと嫌なタイミングで鉢合わせになったりしそうだねぇ」

「どうかしらね……」


 最悪のパターンとしては、私達が最下層に降りる前か、下りた直後に崩落してしまう事なのだが……さて、こればっかりは全く読めない。

 私達としては行く以外に選択肢が無いんだけどね。


「ちょいとペースを早めようか」


 ほんとうは倒すべき敵に知られるかもと思って使っていなかったのだが、"土"と"空間"、そして"探知"の刻印を組み合わせた魔術を展開し走らせる。

 微かなマナの波長が私達の体を通り過ぎて程なく、鉱山の見取り図が私の手のひらの上に展開された。

 細かく入り組んだ鉱山内が手に取るようにわかる、ついでに互いの場所も理解るようにしておいたが、どうやら連中はすでに最下層手前の階段まで到達しているようだ。

 感知範囲にはそれ以外の反応がないため、ミスリルクロウラーはまだ範囲外にいるということだろうか。


「在るものを捉えるのではなく……そういう使い方もあるのね」

「ま、洞窟に迷い込んだときなんかには便利だとおもうよ……さ、急ぎましょう」


 迷いの無くなった足で、私とアラクネは速やかに地下へと足を運んだ。

 程なくして到着した最下層はしんと静まっており、冷たい空気と土の匂いだけが漂っている。

 私の作った半透明の立体地図に映る三つの光、そこに覆いかぶさるように一瞬だけ大きな反応が映る。

 次の瞬間にはその小さな反応は消え去って、二つの光だけが残されていた。

 突然動き出した二つの光はまっすぐにこちらへと向かってくる。

 このまま真っ直ぐ進めば残る二つの反応、つまり私達に遭遇するだろう、速さからして走っている……それも、全力で。


「やらかした、かな?」

「まず間違いなくそうでしょうね」


 微かに響いてくる振動、それに合わせるかのように反応のうち一つが止まる、それは程なくして私の地図から消え失せた。

 残る一つが止まること無く動き続け、それに合わせて振動が次第に強くなる。

 ミスリルクロウラーにでも追われているのだろうが、その一番の目的であるクロウラーだけは地図に反応がでなかった。


「探知の広げ方を失敗したかな……土の中にいる奴は見えないみたいね」

「仕方ないでしょう、余計なものまで引っかかりそうだもの。それよりそろそろ……」

「……お、おまえら!」


 鉱山の奥から現れた三バカのリーダー格と思われた男は足を止めた、止めてしまった。


「ばっ……走りなさいっ!」


 地面の砕ける音と舞い上がる土煙、その向こう側に銀色の巨躯が姿を表した。

 足を止めた得物など取るに足らない、喰ってくれという言うようなものである。

 開かれたそれの口に、金属質のぎざぎざの歯が閃く。

 ぞぶりっ、というおよそ普通に生きている限り聞くこともないような、人間が食いちぎられる音が響いた。


 咀嚼される名前も知らぬ男の上半身、それが肉を潰す粘性の音と骨の砕ける硬質な音を同時に響かせる。

 力なく崩れ落ちた下半身、吹き出す朱、噛み千切られた腹部からは内臓がこぼれ落ち、それらすべてが魔術による擬似知覚をもって周囲を見ていた弊害として、一切合切すべてを目にすることとなった。

 胃の腑から思わずこみ上げる酸っぱいものを必死にこらえて、刻印魔術を展開する。

 速やかに無力化する、そのつもりだった。


「リーシアっ!」


 横からアラクネに突き飛ばされて姿勢を崩す、その腕を一条の銀閃が貫いた。

 アラクネに突き飛ばされていなければわたしの胸を安々と貫いていたかもしれない。

 咄嗟にそれを辿り視線を動かす。


 ミスリルクロウラーの頭部から打ち出されたいとはぷつんと切れて、それと同時に力を失ってただの糸のように垂れた……。


 ──まずい!


 咄嗟にアラクネの前に身を躍らせ二刀を抜く。

 ついで迸った三条の銀線を剣で弾きながらアラクネを見れば、糸を抜く事もできず絡め取られた虫も同然だった。


 無理もない、貫いた銀線はそのまま岩盤に突き刺さっており、反対側はミスリルクロウラーのすぐ前まで、かなりの長さがある鋼線だ。

 そんなものが体に絡まっていて、まともに身動きできるわけがない。

 鋼線を弾きながらなんとか魔術による障壁を作り出して安全を確保した私はアラクネの腕を貫いた糸を"弱点看破(ウィークネス)"する。

 何処なら断ち切れるか、それを理解したと同時に刃を閃かせれば、いとも容易く切り払うことができた。


「……な!」

「アラクネ、一旦引くわよ!」


 アラクネの腕を掴み鉱山の奥へと駆け出す、その背後で私の生み出した障壁が砕ける音がした。




 時折起きる振動は次第に遠ざかって、やがて静寂だけが坑道の中を包み込んだ。

 ふぅ、と小さく息を吐きどうにか緊張をほぐす。

 すでにどう走ったかは覚えていない。


「腕、大丈夫?」

「この程度は問題はないわ。もとよりさして太くもない糸、腕を突き刺した程度じゃ致命傷には程遠いわね」


 刺さった糸を引き抜いて治癒の魔術を施すアラクネは少々忌々しそうにそう答えた。

 それはそのまま自身の武器に対しての不満も混ざっているように感じられる。


「しかし予想外だったな。刻印魔術を発動するより早いとは……」

「貴方の刻印の構築速度はそれほど早くないからね……でもそれだけじゃないわ、あいつは確実に貴方を無力化させようとしてた。危険だと判断したんでしょう、ミスリルクロウラーの中でも上位の個体だと思う」

「まいったな……」


 あのミノタウロスといい、私は変な個体に遭遇するような因果でもあるのかね。


「あの様子じゃ、場合によっては私の魔術からも即座に逃げの一手を取る可能性もあるよね」

「少なくとも足止めは必要でしょうね……」


 魔術を行使して地図を再展開する。

 最下層は結構あちこちが崩落しているらしく、通路は複雑に入り組んだ迷路のようになっている。

 

 その中に一箇所、開けた空間があるようだった。


「アラクネ、此処はどうかな?」

「うん? ……なるほど、確かに、狭い坑道よりはマシそうね」


 通路の大半は途中で埋もれていてだいぶ遠回りが必要となるそこへ向けて移動を開始する。

 できれば途中で襲われないようにと祈った。


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