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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
38/88

幕間-小さなお茶会


 一連の出来事が終わった後、頃合いを見て私はオラクルを開いた。

 視界が変わるまでに時間はかからず、気づけば再び真っ白な部屋に立っている。

 事前に連絡が出来ないため急な来訪になってしまうのは仕方ないのだが、そのためか部屋は簡素に何も無いままだった。

 ふっと彼の姿が現れるまでに数秒。

 気づいた時には目の前にマギカの姿があった。


「やあリーシア、久し振りだね」

「お久しぶり。お茶しに来たわ」

「ははは……第一声がそれかい」


 困ったように苦笑しつつ、マギカは手を鳴らす。

 次の瞬間にはちょっとしたティーパーティが開けそうなセットが現れていた。

 神様空間は便利なものだなと思いながら早速クッキーを一つつまんで口に放り込んだ。


「それで、アイゼルネの事について何かわかったかい?」

「んー、ひふぉふはへふはあっふぁふぁな」

「うん、ごめん。飲み込んでから喋って」


 話を始める前にさっさと口に放り込んだクッキーをお茶で流しこむ。

 半分はこれが楽しみできたんだからこれぐらい許しておくれ。

 ああ、それにしても久しぶりの紅茶は美味しいわ。

 自分でもお茶を試行錯誤してるけどどうにもあの味は出ないのよねぇ。


「あー、美味しい」

「喜んでもらえてよかったよ……うん」

「ああ、ごめんごめん。んっとね、一つ仮説は立ったんだけど、それについて確認するために聞きたいことがあるのよ」


 私のスキルは、どこまで優越処理されるのか、ということだ。

 エルグラハムの大剣を"剣戟反射(リペリング)"で防いだ時、私のスキルはきちんと発動しなかった。

 エルグラハムが私のスキルに対抗していたと考えられるわけだが、もしもそうであれば、それは試験紙として大きな意味を持つと思っている。

 私のスキルを設定したのがマギカであるから、という条件がつく話だが。

 私の言葉に対してマギカは少し考えを巡らせる。


「君のスキルの優位性か、少なくともボクの用意した世界のルールに対してなら、優越するはずだよ。それぐらいの特権はあっていいと思ってるから」

「……それは、質量や相手の能力を無視する?」

「よほどのことがない限りはそうだね」


 となると、やはりあの拮抗状態は特殊だったというわけか。


「うん、やっぱりこの仮説は有力だと思う。アイゼルネに関わる何か──あいつは、ユングフラウって呼んでたけど……それはたぶん、マギカと同等か、それ以上の存在だと思う。エルグラハムの一撃に対して、剣戟反射が上手く機能してなかったし」


 聖別っていってたけど、それが何か影響を与えてるんじゃないだろうか。


「何か心当たりはないの?」

「うーん、いや……うーん、どうかなぁ、他に何かヒントになるようなものはあった?」

「そうねぇ……アイゼルネの、ユングフラウとか言うのがエルグラハムを聖別したとか言ってたな。でも聖別って基本的に物に対してするものよね」

「そうだね、人にするという意味なら洗礼という言葉のほうが正しいけども……聖別、か」


 ふむ、と思考を巡らすマギカに、更にヒントになるものがないかとあの時のやり取りを思い返す。

 あまり数はないように思えるが。


「あとは……十二年前の時に一度死んでたらしいとか、伝承の再現をした装備を持っているとか……」

「伝承の再現?」

「エルグラハムが着ていた鎧ね、私の仲間である屹立する城塞(アクティブスチール)バウム・ガレリオンを元にした伝承から作られてたみたいでね……」

「ああ、なるほど……そんなことができるってことか」


 更に深く思考に潜るマギカを横目にドーナツを一つつまむ。

 むぅ、油でギトギトしているわけではなく、さっぱりとしたオールドファッション、素晴らしい一品ですわ。

 至福至福。


「なるほど、介入の意思がある何者かは、僕と同等か、それ以上の存在であると考えていいってことか……厄介だな。でも、どうだろう……どうかな……まさかとは、でも」


 この何とも言えない、心当たりはあるんだけど言い出せないって感じの空気嫌だなあ。

 ぶつぶつと独り言を繰り返すマギカを観察しつつ、パウンドケーキをひょいとつまむ。

 ふんわりしっとりとした食感にラム酒の香りがし、ドライフルーツもふんだんに入っているあたり贅沢だなぁと思う。

 あれもこれもとひょいひょい食べ比べる間も、マギカはずっとしかめっ面で考え事をしていたが、最後に頭を横にふることで考えを巡らせるのをやめた様子だった。


「これについては、まだ保留しておきたい」

「そう、じゃあそういうことにしておきましょうか」


 そういって話を終わらせる。

 正直その反応だけである程度推測はついてしまうのだが、さてどうしたものか……。

 マギカが、心当たりとして思い浮かびながらも疑うことをためらう存在、それはつまり神々の一柱ということになるだろう。

 それも、相当な力を持った神だ。

 あるいは、マギカよりも……。

 あいにくと私はその辺に詳しくはないわけだが、これは少し調べてみる必要があるかもしれないなぁとどこかで考えを巡らせる。

 その間にシフォンケーキのお皿が空になった。


「それじゃあ今後のこと。私は……まだ確定事項ではないけど、ほぼほぼってところでミスティルテインっていう組織に協力することになると思う」

「組織、か……どんな活動をしてるんだい?」

「アイゼルネに対抗する組織、って聞いてるわ。そこならいろいろ情報も入りそうだしね」

「そうか、キミが決めたのならいいんじゃないかい」

 

 あっさりとそれを肯定するマギカに、やっぱりなあという気分である。

 神様からいろいろと便宜を図られている私がどこかに属するなんてそれだけでパワーバランスが変わりかねないと思うのだけど、そのへんはあんまり気にしないんだよねぇ。

 まあ、神様の在り方なんての私が分かる話じゃないから何も言わないけどさ。


「それで、なんだけど、ちょっと世界の事についてマギカの把握してる範囲で説明してもらえたりしない?」

「うん? 構わないけれど、あんまり細かい社会情勢については把握していないよ?」


 それはそれでどうなんだ神様と思わなくもないが、そんなのいちいち把握していられるかって言われると確かに情報量としては膨大すぎるのかもしれないなぁ。

 なんというか、神様のイメージは本当にぶっ壊れたな。


「とりあえず世界地図とかある? ウィルヘルムで見せてもらった地図は王国内のものでしかなかったから」

「世界地図か……」


 マギカがぽん、と手を叩くとテーブルの隣に3Dグラフィックのような地図が浮かび上がる。

 思っていたよりも遥かに詳細なもので、こういうところを調べようと思えば詳細に調べられるあたりはやっぱり神様ってことなんだろうなぁ。


 地図は西と東に大陸が二つ、北に数個の大きな島と、その周辺に点在する小さな島々からなる諸島がある。

 西にある大陸がアイゼルネの存在するポルセフェネ大陸だろう、こちらは切れ込みの入った三角形のような形をしており、中央を横断するように山脈が走っている。

 ウィルヘルム王国の存在するアールセルム大陸は伸びたアメーバというか、粘菌のような感じで言ってしまえば大きな半島が3つほどくっついた形をしている。

 中央に山脈があるのは同じだが、特徴としては大陸の東に存在する空に浮かぶ島々だろうか。


「ポルセフェネ大陸とアールセルム大陸はわかるよね?」

「ええ、大体。位置関係から察するにポルセフェネ大陸に一番近いこの半島付近にあるのがウィルヘルムとエウリュアレよね?」

「その通り。ウィルヘルムから北に行くと機械王国ロジックロック、そこから西の街道を通ればスプリングファーミア、東の街道を通れば南はクロノターミナル、北がシエルズ・アルテ、そこから更に北に行くとアクアテーゼという国がある」


 距離感がよくわからないけども、小国が乱立してる感じなのかな?

 それにしても大体なんとなく名前に覚えがあるのはありがたいね。

 それよりも気になるのは、アールセルム大陸の北西と南東の半島二つの空白部、それからポルセフェネ大陸ほぼ全域を覆うグレーアウト状態だ。

 ……聞きたくないなぁ。

 でも聞いておかないとめんどくさいだろうなぁ。


「参考までに聞くけど、ポルセフェネ大陸についての情報は?」

「……今読込中のはずなんだけど、ずっと動かないね」

「確認のために聞くけど、アールセルム大陸にある空白部は未踏破域よね?」

「そうだね」

「ポルセフェネは?」


 黙りこむマギカに、それが答えなんだろうと溜息をつく。

 どういう原理で情報を最新化しているのかは分からないが、それに対しても隠蔽を食らっているのだろう。

 あんまり期待していなかったとはいえ、予想外のことが判明してしまったな。


「そっちの事は置いときましょうか。北の島国と、このシエルズ・アルテの東にある浮島群みたいなのは?」

「北の島々はグレアリム諸島だね、国としての形はなしてない感じかな。シエルズ・アルテの東にある浮島郡はポーステイル群島」

「ファンタジーだなぁ……」


 浮島郡とか見てみたい光景だよねぇ……そのうちいけるかなぁ。


「そういえばさ、ダンジョンとかはないの?」

「ああ、あるよ。と言ってもキミが知るものとは少し違うだろうけどね」


 具体的にはどんなふうに、と私が聞くとマギカは簡単に幾つかのマークを地図に表示させた。

 おそらくそれらが現在ダンジョンが存在する位置なのだろう。

 ダンジョン名までは表示されていないため、どうやらゲームシステムを取り込んだ上でこの世界なりの別のシステムとして動いているようだ。


「この世界のダンジョンは不規則に出現し、踏破されると踏破者がダンジョンの外に出た段階で消滅するようになってる。中ではキミが持っているような神話級装備もみつかる事もある」

「ふぅん、ということは私達以外にも凄い武器を持っている人間は存在するってことね」

「そうなるね。ダンジョンを踏破するにはそれなりの実力が必要になるから、そう多くはないはずだ」

「一応警戒対象と覚えておいたほうが良さそうかな、それぐらい?」

「ダンジョンについてはそうだね」


 ダンジョンアタックにも興味はあるが、流石に一人で挑むのは無謀だし当面縁はないだろうと思うと少し寂しい物がある。

 ゲームの延長みたいに思っているつもりはないが、心躍るのは確かなんだよね。

 エウリュアレのそばにもダンジョンがあればいいのに。


「一応言っておくと……ローグライクって言えば通じるかな?」

「ああ、イメージはわかったわ」


 MMORPGには無かったタイプのダンジョン、後期には実装したところもあったっけか?

 ダンジョン内に罠とかもしっかり張り巡らされたいわゆるランダムダンジョンだ、ソロは……しないほうがいいな、特に何の知識もない現代人感覚で挑んだらすぐに死にそう。


「無駄死はしないでね、君の代わり探すのは大変そうだから」

「雑な忠告ありがとう」


 お茶が不味くなる。

 口直しにバラのジャムをティースプーンに一匙すくい、舐めながらロシアンティーとして楽しむことにする。

 そういえばロシアンティーってするの初めてだな。


「ところで、近況はどんな感じだい?」

「近況? アイゼルネについての報告ならさっきしたと思うけど」

「いやいや、もっと身近な話だよ。村での生活はどうなのかな、とか」

「お風呂がないのが不満ね」


 作ろうと画策しているけれど、どうやってお湯をわかすかが一番の問題点である。

 個人用のお風呂であれば私が火の刻印をつかって沸かせば何ら問題はないのだけれど、村単位となるとある程度効率化していないとコストがかかる。

 エウリュアレに負担させるのに労力となるようでは好意的には受け入れてもらえないし、根付かないだろうと考えるとなかなか難しいのだ。


「他には料理が似たものばっかりでバリエーションに欠けるなあとか、ノフィカとゼフィアが全然進展しないなーとか、カレンさんのところ無事に娘さん生まれてよかったなー、とか」

「上手くやってる事はわかったよ」

「私にしてはそれなりかな。最近は前の世界の料理をイメージして創作料理を作ったり、あとは剣の訓練をしたり、かな。刻印魔術に関してはもう少し詳しく学びたいんだけど、ユナさんはこれ以上教えられないって匙なげられちゃったから」

「ボクが教えてもいいんだけど……」

「神様直伝の魔術とか怖くて使えないわー」


 万が一そんなことがばれたりしたら世界中の魔術師から命を狙われそうだし。

 それに、一から十まで答え見ちゃうようなやり方はあまり好きではない。

 ゲームだって攻略本のデータを黙々と眺めるのは好きだったが、攻略方法についてはああでもないこうでもないと工夫するのが楽しかった。

 でなければ読解者(プロフェッサー)なんて職やってなかったしね。


「さて、そろそろ帰るわ。また何かあったら来るね」

「ああ……リーシア、最後に一つアドバイスだ」

「うん? なによ」

「キミが特異点なのは重々承知していると思うけど、キミの認識というのは、一つの大きな意味を持つ。それは君の持つスキルを、大きく規定するだろう……そのことを、覚えておいてほしい。キミが生き残るためにも、事をなすためにも……失わないためにも」

「なんだかひどく曖昧な言い方ね……けどまあ、悪い気はしないわ」


 意味のない言葉ではないだろう、だからこそその答えを探すことも目的に加えて、私はマギカの領域を後にした。


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