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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
3/88

3.のどかな昼下がり


 案内されるままに応接室に通されたのだが、この段階で私としては精神的に疲れが出ていた。

 一般庶民がいきなり様付けで跪かれるとかされても嬉しくもなければ気分が良くなったりもしない。

 ぶっちゃけ対処に困るだけである。

 挙句にノフィカはお茶を入れてきますと席を外した。

 正直行かないで欲しかったけど呼び止めるわけにもいかないため村長のふたりきりになってしまう。

 ……ノフィカさん早く帰ってきてえええええぇぇぇぇぇぇ。


 せめて気をそらすべく、調度品などに目を向けてみるかと室内を見回す。

 村長ということはつまり村の顔、であればそれなりに豪華なものがあるかともおもったが、外から見た家と同じように装飾のたぐいは見当たらない。

 椅子も机も簡素なもので飾り気もない、どちらかと言えば強度が重視されているのだろうか、作りが悪いわけではないのだが少々無骨という印象がある。


 座るように促されて椅子の一つに腰を下ろすと自然と深いため息が出た。

 思いの外精神的にキているようだ。


「飾り気のない場所で申し訳ない、なにぶん開拓村ですのでご容赦いただきたい」

「気にしませんよ、変にゴテゴテ装飾されてるよりよほどいいですし」

「そう言っていただけると助かります」


 他に室内にあるのは簡素な棚、一番目を引くのはテーブルの上にある綺麗な鉢植えだろう。

 丁寧に整えられていて、それだけで部屋の雰囲気が華やかになっている感じがする。

 花は偉大だ。


 すこししてノフィカがお茶を持って戻ってきた。

 器は木製で、直径10cmほどの木を繰り抜いて作られたもののようで、薄い黄緑色のお茶が入っていた。

 少し薬っぽい匂いがするところからなんとなくハーブ系のものを想像する。

 喉が乾いていたので早速と口をつけてみると、ちょっと飲みにくくなったペパーミントティーのような味だった。

 嫌いではないけど好みは別れるだろうね。


「さて、水姫……リーシア様でしたか。ご自身が何者なのか、どのような目的を持っておいでだったか、覚えていらっしゃいますか?」


 しりません。

 というか今変な聞き方しなかったか?


「もしやとは思いますが、思い出せないのではありませんか?」

「……恐らく、ですがなぜ?」


 なんか言ってくれたので乗ることにしました。

 嘘というよりは解釈の違いだよ、うん。


「リーシア様のような方を、私たちは神使いと呼んでおります。過去に神使いが降臨したという逸話は幾つか残されておりますが、降臨したにもかかわらず目覚めなかったというのは初めてのことでした」

「なにか、問題があったとか?」

「そうですな、最初に光の柱が降り注いだ時から、エウリュアレ村でそれを見ていた誰もが不安を感じずには入られませんでした。光の柱をまるで妨害するかのように、海から闇色の霧が吹き上がりあたりを包み込んだのです」


 う、うわぁ……続き聞きたくなくなってきた。


「闇の霧はなんとか光に払われました、ですがその後現れた神殿で見つかったリーシア様は一向に目覚めることはなかった。これは私の推測ですが、リーシア様は本来十年前に目覚めるはずで、何かしらの役割を持っていたと思います。しかし、それをよく思わない何者かが妨害したのでしょう」

「何者か……魔王の類とかですかね?」

「魔王のというものが、神に敵対する存在であるのならそうかもしれません。リーシア様、まずはご自身の記憶を取り戻すことを優先なさってください、十年の時間がどう影響するかはわかりませんが、まずは足場を固めることです。ここは小さな開拓村ですが、できる限りの協力はさせていただきます」

「……疑わないんですね」


 村長の話を聞く限りでは私を疑うような様子もなく、そういうものなのだろうと捉えてる節がある。


「神使いと呼ばれこの世界に現れた方々はいずれも自覚は薄かったそうです。しかし結果として世界に色々な影響を残した、おそらくリーシア様も何かしら成し遂げられる方なのでしょう。それが何かはわかりませんが」


 なんか変なプレッシャーもらいましたね?


「さて、ノフィカ。リーシア様はお目覚めになったばかりだ、しばらくお前が側について色々とお手伝いするのだ」

「わ、私がですか?」

「同じ女性で巫女であるお前が一番適任だろう。リーシア様も、それで構いませんか?」

「助かりますが、よろしいのですか?」

「無論です、必要なことやものがあれば何なりと、しばらくは来客用の部屋をお使いください」

「ありがとうございます」


 話の一区切りとしてなのだろうか村長は席を立ち、棚の一つから取り出した鍵を渡してくれた。

 鍵は木製で切れ込みが幾つか作られた札のような、たまにある和風なお店の靴箱に使われているような形状をしている、かしゃこんとはめて使うんだろうねきっと。

 表面はむき出しの木ではなく、何かが塗られており綺麗な光沢を見せていた。


「部屋は二階に上がって左手、一番奥になります。何かお聞きになりたいことはおありでしょうか?」

「聞きたいこと、ですか……」


 正直しこたまあるけど聞き始めると終わらなくなりそうだし……。


「村での生活において気をつけたほうが良いことはありますか?」


 とりあえずはこれだろう。

 問題は起こしたくないし、命は惜しい。

 住人が普通に帯剣しているということは身近に脅威が存在しているはずだから、それだけは知っておかないと、剣は持ってるけど実際に使ったことなんてありませんし!


「そうですな、村の周辺は比較的安全ですがあまり離れると村の守りも効果が薄くなります。それより遠くでは魔物と出会うことが多くなります。神使いの方ならよほどのことがない限り遅れをとるとは思えませんが、リーシア様の場合色々と不測の事態が起きております、一応注意しておくと良いでしょう」

「わかりました」

「そうだリーシア様。神使いということは村人に伝えても問題はありませんかな?」

「う……それ、目立ちますよね?」

「注目を浴びるのは間違いないでしょうな。お嫌なようでしたら神使いということは伏せて旅人が滞在しているということにしておきますが、いかがなさいます? とはいえ、ノフィカを連れて歩けば嫌でも目立つとはおもいますが」


 あー、巫女さんだもんね。

 そんな人を一緒に連れ回したらどっちにしても目立つか。


「旅人ということにしておいてください」

「かしこまりました。それでは私は連絡がありますのでこれにて一旦失礼いたします」


 丁寧に頭を下げてから家を出て行く村長を目で追いつつ、私はノフィカに部屋に案内してもらうことになった。




「こちらがお部屋になります。なにぶん開拓村ということもあって調度品も少ないですがご容赦ください」

「すっきりしてていいじゃない。助かるわ、ありがとう」

「は……はい」


 ああ、ベッドはちょっと硬いかな。

 仕方ないか、素材とか色々調達も大変そうな世界っぽいしねぇ。

 草わらじゃないだけマシ、というかこれもしかして来客用だからそれなりに高級なものだったりするのかな?

 ランプもあるけど多分油はそれなりに値がするんだろうね、今までの反応からして使っても特に何も言われないだろうけど、できる限り使うのは控えておくか。


 そんな風に部屋を見ているとノフィカが少し不思議そうな表情でこちらを見ているのに気がついた。

珍しいんだろうか。

 でもなんかそういう好奇心とは違う視線を感じるような?


「えっと、私何か変なこと言ったかな?」

「へ? あ、いえ。なんといいますか、村にたまにくる王都の人とは全然違うな、って」

「視察とか何かで来る人たち? なんか文句多いとか?」

「……そうですね、ベッドが硬いとか、何もないとか、絨毯がなくて床が硬いとか寒いとか」

「普段どんな生活してるのか予想つくなー」


 王都でいい暮らししてるんだろうね。

 というかそんなやつを視察によこしてもダメだろう、すっごい難癖つけてきそうじゃんそれ。

 聞いただけで開拓村に何望んでんだって私でも思うぞ。


「そういうことを言わないのはお付きの騎士団の人ぐらいです。なので、神使いとなったらもっとこう……なんといいますか」

「あー、わかるわかる。嫌なやつなんじゃないかとかおもって身構えるよね」

「そしたらなんといいますか、なんか思ったより軽い感じの方だったので、意外だなって」


 庶民だからね。

 ティーバッグのお茶とお茶菓子があれば幸せになれる人です。

 高級店の品物とかむしろ疲れる。


「様付けもやめてほしいなー」

「それは、えっと……」

「まぁ、無理にとは言わないけどね。さて、これからどうしようかねー」

「村を見て回るのであればご案内できますし、聞きたいことがありましたら答えられる範囲でおこたえしますが……」

「うーん……まぁ、知りたいことは沢山あるんだけど、何から始めたものかな。逆にノフィカさんは私に聞いてみたいこととかないの?」

「聞いてみたいこと、ですか? 神代のお話だったら聞いてみたいと思いますけど、覚えていらっしゃいますか?」


 神代の話って、前世の話じゃないよねぇ……。

 ゲームの世界の話ってことかなぁ?

 というか……。


「神使いって神代の人が選ばれるってこと?」

「私はそう聞いていますけど」


 なるほど、つまり神使いってのは元プレイヤーって認識で良さそうだ。

 ということはこの世界は大樹世界の未来か、それに近い何かなのだろう。

 それなら話せることも多そうだ、何せ私が一番長くプレイしていたゲームなのだから。

 特に世界観まで含めて調べたりするの大好きだったからね!


「なるほどね、そういうことなら私の知っている話でよければいくらでも話してあげるわよ」

「そ、それでしたら……」


 恋愛沙汰のクエストとかも結構あったんだよね、いやぁこの年頃の女の子は可愛いよねぇ。

 やっぱり王子と庶民のラブロマンスとか聞きたいんだろうか。


「リーシア様は、アーネンエルベという"単輪の円卓"をご存知ですか?」


 ノフィカの言葉に今度は私が固まる番だった。

 円卓ってのはまぁギルドのことで、単輪ってのは所属できる人数とギルドのランクを意味する。

 単輪は一番所属できる人数が少なくて十二人、複輪になると三十六人、三輪で百八人が最大になるんだ。


 それはまぁいい、ゲームのシステムだったしもうそういう話が伝わっててもおかしくないさ。

 けどアーネンエルベって私が所属してた円卓だぞ!?


「あー、多分知って「マジですか!?」」


 あの、ノフィカさん顔が近いです勢いが怖いです。

 自分が所属メンバーですとか口が裂けても言えない、というか言ったらやばそうだ。

 ていうかあなた急に豹変しましたね?


「知名度はあまり高くないのですが、彼らの冒険譚はどれも大好きで……特に見習い魔女と鍛治師の弟子の話が」


 思い当たるふしのある話をされて私は恥ずかしくなると同時に、どんな風に話せばこの子をがっかりさせないで済むかを考えるのに必死になるのだった。


 ゲーム時代のお話が残ってるのは鉄板ですよね。

 アーネンエルベって言葉の響きが好きです。

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