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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
16/88

15.鉄を打つ音


 ユリエルさんの休憩時間という口実でのお話はなんだかんだで楽しかった。

 休憩になったのかというと疑問を挟むことかも知れないが。


 その後は執務があるからということで団員に案内されて騎士団のロビーまで戻ってきた。

 なんというか、こういう場所って少しぐらいはならず者な雰囲気があるかと思ったらとても礼儀正しい感じであんまり怖くは感じない。

 昔は暴力沙汰に慣れてる人って怖い感じがしてたんだけどなんでだろうね。

 纏う空気が違う、これが紳士というものなのか。


「リーシア殿、こちらを」

「あ、ありがとうございます」


 入り口で剣を返された。

 そういえばスペル・キャストはまだしも聖剣ホーリエルとか見せたらまずい代物だったんじゃないだろうかと今更気になって、なんとなく反応を伺ってしまう。

 団員からの不審な反応はないように見えるのだが、一番気になるのは手入れした人か。

 そう思っていると側に居たドワーフから声をかけられた。


「おう、嬢ちゃんがその剣の持ち主かい」

「は、はい……」

「黒い無骨な作りの奴はきっちり手入れしといてやった、新品みたいに使えるはずだ。他の二本については手入れの必要がなさそうだから放ってあるが……短刀はまだしもあの白い装飾剣についての由来を教えてもらえたりはしないかね?」

「……気になります?」

「そりゃぁ、な」


 だよねぇ、普通気にする、絶対気にする。

 攻撃力だけでスペルキャストの三倍近いもんなぁ。


「……実は、元は賢者の持ち物だったんです。とある出来事で私が受け継いだんですけど」

「賢者のねぇ……なるほど、相当の業物なのはそういうことかい。いや、いいものを見せてもらったよ」

「そ、そうですか……」


 大事にならなくてよかった。

 そんなことを考えながら騎士団を後にした。




「さて、次はどこへ行くの?」

「そう……ですね」


 夕暮れにはまだ早く、かといって日が傾いてきたという言葉は控えめすぎるぐらいの微妙な空を見て、ノフィカは小さく嘆息した。

 時間的にそろそろ宿へ足を運んだほうがいいのだろうとは思う、けれどまだ決心ができないと言った様子がはっきりと見て取れる。

 彼女も少々言い出しづらいのかもしれないと考えていて一つ思い出したことがあり、もしかしたらいい口実になるかもしれないと思って私はそれを口にした。


「そういえばさ、ゼフィアが新しい剣を頼んでるっていってたけど、もしかして受け取りを頼まれてたりする?」

「え? ええ、確かに頼まれていますが……」

「じゃあ行き先って鍛冶屋よね? どんなものがあるか見たいから近場なら先にそこに行かない?」


 私の提案の意図に気づいたのか、ノフィカは少しだけ困ったような笑みを浮かべてから、小さく頷いたのだった。


 ゼフィアが新しい剣を頼んだ鍛冶屋は騎士団からそう離れていない場所に店を構えているらしく、大通りを二人で歩いて行く。

 案内するノフィカの足はどこか重たそうで、先程よりもゆっくりとしたものだった。

 そのおかげで私は街並みをある程度ゆっくり見物することができ、そこかしこに残った傷跡や、後で見てみたいお店だとかを幾つか見つける。


 程なくして"鋼鉄の槌"と書かれた看板を掲げるお店の前へとたどり着いた。

 簡素な扉を開けて店の中へ入ると、右手奥に鍛冶場に繋がる入り口があり、その手前にカウンターが設えてある。

 部屋は一面の棚に武器が並べられていて、私が見たこともないものはもちろん、試作品と書かれた札が下げられた棚には少々奇抜な形状をしたものも並んでいる。

 そんなどこを見ても武器ばかりの店内に一箇所だけ毛色の違うものを発見した。

 その棚には板に簡素な文字で"神打"とだけ書かれており並んでいるものも統一感なく数も少ない、だが見ただけでも周りの品よりずっとすごいものだと感じることができる。

 それぐらいに持っているオーラのようなものが周りの武器と異なっているのだ。


 そんな風に店を見ていると奥から一人のドワーフの男性が現れた。

 身の丈ほどのハンマーを担いでいるところを見るにこの店の鍛冶師だろうか。


「なんじゃ、細い女二人が客か? 確かに女手で扱えるものもあるが、客としては珍しい組み合わせじゃのう」

「あ、あの……私ではなくて、エウリュアレのゼフィアが頼んでいる剣があると思うんですが」

「なんじゃ、お主あいつの関係者……ん? お主、もしかしてノフィカか?」

「……お、お久しぶりです、グランさん」


 ノフィカの返しに対してしばらく考え込んだグランと呼ばれたドワーフはしばらく彼女の顔をじっと見ていたがすぐにその視線を外してしまった。


「まあええわい。ワシがとやかくいうことではないからな、リリエラのところにはちゃんと顔を出しておけよ」


 そう言って一旦鍛冶場の方へと引っ込んで、少しして紐を通した木箱を持って戻ってきた。

 大きさからすると剣がはいっているのだろう、紐が通してあるのは下げて持ち運びしやすくするためのようだ。


「できれば渡す前に剣を使う奴に検めてもらいたんだが……そっちの嬢ちゃん、ノフィカのツレだよな? 剣を使うっぽいし検めちゃくれんか」

「んぅ、私?」

「おう、よさ気な剣さげてるしそこそこ扱えるクチだろう?」


 剣の見立てとかできるのかな、データなら見れるだろうけど。

 だが興味はある。

 見ていた棚からいそいそとカウンターの方へ移動する。


「えーっと、今回ノフィカの護衛ということで同行してるリーシアと申します」

「ほう、ノフィカの護衛をねぇ……そういやぁ今はエウリュアレで巫女してるんだっけか、ほんの数年前に家を飛び出したと思ったのに時の流れは早いもんだ。ワシは鍛冶師のグランという、この店の商品は大体ワシが手がけとる」


 そう言ってグランさんはカウンターの上においた木箱を開ける。

 どうにもそのまま空くわけではなく、秘密箱のように開くのに多少の手順が必要なようだった。

 数度の手順のあと箱から出てきたのは一振りの装飾まで細かく施された長剣、刀身の金属は木目のような不思議な模様を持っており刃のところに刃紋が浮かんでいる。

 柄はシンプルな作りで柄頭に宝石があしらわれているぐらいか、魔力を感じるから何かしらの付与もありそうだ。


 素人目の判断で見るなら、切れ味に重点を置いた剣だろうか?

 確かこういう不思議な模様のする金属の名前も聞いたことがある、なんだったかすぐに出てこないけれど。


「えっと、検めるって何をすれば?」

「重心の検分だとか、刃こぼれがないかとか、剣を使う奴の目でみて問題がないかだな。本当は使うやつが持って振ってみて判断するんだが、あいつも今は村からおいそれと離れられん立場のようだからのう」


 あ、もうお手上げです、万物の叡智(ルータスノーツ)使おう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

銘:ハウンド+4

ベース武器:ダマスカスソード

祝福:なし

攻撃力:124(90+24+10)

耐久力:2300/2300(1800)

属性:なし

固有特性:頑強(耐久度減少半減・武器破壊無効)・鋭刃

永続付与:非腐食性


製作者:グラン・スキット

品質補正

攻撃力:+24

耐久力:+500

所有者:未定


来歴:

守護剣士ゼフィアのために名工グランがダマスカス鉱から作り上げた剣。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 データ見た感じ問題はなさそうなんだけどねぇ。

 促されて箱から出して構えてみるが、見た目の予想よりも軽い。  

 ダマスカス鉱ってそういうものだったっけか、ちょっと記憶に無いけども。

 ともあれ、構えてみた感想としては非常に持ちやすい、こうした表現が適切なのか私にはわからないけれど、すんなりと腕の延長として認識できるような不思議な感覚があった。


「このまま使ってみたいなぁ」

「そいつは勘弁してくれ。とは言え特に問題はなさそうだな」

「と思います。見た目より軽くて扱いやすそうですけど、切り結ぶにはちょっと弱いかも知れませんね」

「二刀流は基本相手と正面からは切り結ばねえよ」


 あー、片手持ちだもんね。

 両手で振るう剣を片手で受け止めたらそりゃ負けるわ。

 てことはこれは二刀流用の剣なんだね、切れ味重視ってことであってるのか。


 納得して剣を箱に戻し、ノフィカが受領のサインを済ませる。

 その頃には私は別のものに興味が移っていた。


 先ほどの"神打"と書かれた棚、他の棚は品揃えがジャンルごとに分かれているのにここだけ分かれていないのが気にかかる。


「なんだ嬢ちゃん、神打(かみうち)に興味あんのか?」

「かみうち?」

「なんだ、知らねえのか。神打ってのは鍛冶師に神がふらーっと降りてきてできる変わった武器の総称だ。どれも特殊な効果がつくことで有名なんだが、その分使い手を選ぶんでなかなか買い手が見つからねえのよ、使ってなんぼだから使える奴がいるならくれてやってもいいんだけどなぁ」

「なるほど……」


 ゲームで言うところの装備制限のあるユニーク武器か。

 しっかし、鑑定スキルなんかで使い方とかわからんのかね、私が見たら分かりそうなもんなんだけど……。

 そう思って目についた長杖に万物の叡智(ルータスノーツ)を発動させてみる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

銘:アルデバラン+4

ベース武器:長杖

祝福:地母神アーセラ

攻撃力:80(60)+20

耐久力:1500/1500(1100)

属性:聖

固有特性:マナ収束力回復

永続付与:【再生】刻印強化

     重量増加

     適正者所有時重量軽減

使用制限:巫女・女性聖職者


製作者:グラン・スキット

品質補正

攻撃力:+20

耐久力:+400

所有者:なし

来歴:

ドワーフの名工であるグラン・スキットの神打によるもの。

2mを越える長杖は多彩な使い方ができる。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「この杖とかノフィカ使えそうだけどねぇ」

「ノフィカが? 鋼で作った杖術用の武器じゃないのか? 重量だって結構あるぞ?」

「自分で作っててもそういうのわからないんだ? 付与と特性見る限り魔術師用だけどねぇ」

「ふぅむ……ノフィカ、ちょっと持って見てくれるか?」

「……重そうなんですが」


 ノフィカの身長を軽く上回る鋼で作られた長杖は確かに結構な重量がありそうで、彼女の細腕で持ち上がるのか不安になるぐらいだ、でも適正者が持つと軽くなるって書いてあるしなぁ、説明読んだ限りでは。

 恐る恐るノフィカが杖を握ると、杖から淡い輝きが溢れ彼女へと吸い込まれていく。

 力を込めてノフィカが杖を持ち上げたと同時に、天井から何かを破砕する音が響いた。


 見た目で重量があると認識し勢い良く掲げられた杖はノフィカが適正者だったために思いの外軽くなったのだろう、杖が木張りの天井を突き破っていた。

 あー、脆くなってたんだろうねうん。

 私はしらんぞ。


「ノフィカ、お前さん案外力持ちだったのか?」

「ちちちちがいますよ!? 見た目よりずっと軽くてですね」

「冗談だ、"神打"にはそういうこともあるらしいからな。……ノフィカ、それはお前さんにやろう」

「えっ!? ……あの、"神打"ってかなり希少なものですよね?」

「構わん、どうせ今の今まで埃を被ってた代物だ。お前さん、エウリュアレの巫女になったんだろう? ならそれなりのものを持っておいていいだろう、大分遅れたが祝いということでな」


 そうしてノフィカが戸惑って礼を言えないでいると、グランさんが首をぐるりと回して私をとらえたのだ。

 直感的に面倒事になると思ったのだけれどノフィカが固まってしまっているから逃げようがない、私だけ店から出てもどうしようもないのだ。

 これは観念するしかないか?


「お前さん、リーシアだったな。面白い特技を持っとるようだが」

「……見なかったことにしておいてもらえると助かりますね」


 使用制限が多いために使い手が見つからず、それゆえに取られているこれまでの武力バランス、それをここから一気に放出したらどんな影響があるかわかったものではない。

 そう数があるわけじゃないけども他の武器とは一線を画すだろうし。


「そうじゃな、ワシもそこそこ歳じゃからなぁ、忘れてしまうかもしれんなぁ……お前さんが他の"神打"を使えそうなやつを教えてくれれば」

「やっぱそう来ますよねー」

「ワシも鍛冶師じゃからのうー、せっかく作ったもんが埃をかぶって長いこと転がされてるのを見るのは正直つらくてのうー」


 なんだか楽しそうだグランさん。

 言ってることは本音なんだろうけどさ。


「……教えてもいいけど、一つ条件があります」

「条件? なんじゃ、自分が使えそうな"神打"をよこせとかか?」

「それはまあ、興味が無いといえば嘘になりますが……渡す相手は選んでください、ということです」

「ああ、そんなことか。安心せい、命を奪う道具を作っとる者として、人を見る目には自信はあるつもりじゃ」


 その辺の判断材料は私にはないからねぇ。

 ここはノフィカの旧知であるということを信じようか。


 万物の叡智(ルータスノーツ)で調べた情報を一つずつ伝えるとグランさんは紙とペンを持ってきて一つずつ書き取っていく。

 数がそう多くないのでそれほど時間がかかるものではなかったのだが、やはりどれも特殊な制限と付与がかかっている。

 たしかにこれは知りたくもなるだろう。

 鑑定を終わらせたころにはグランさんはほくほく顔だった。


「いやぁ、便利なもんだのぅ。嬢ちゃんうちに来たらどうじゃ」

「……まだどこにとどまるかとかは決めてないので」

「そうか、それじゃあ仕方ないの、たまに遊びに来るといい」


 そのたびに鑑定させられそうだな。


「それと、この短剣じゃが、お前さんも見たところ二刀流じゃろ? 持って行くといい」

「え?」

「二刀流を使う奴なんぞほとんどおらんのじゃよ。ゼフィアとカレンは長剣二本じゃから短剣は使わん、お前さん以外にワシは使えそうなやつをしらんからな。それにその短剣は見たこともない作りをしていて少々目立つ、目立たないものを持っておくほうが良いこともあるじゃろ」


 そう言ってグランさんは鞘に収めた短剣を私に向けて放る。

 慌てて受け止めるわけだけれども、先ほどと同じように淡い光が生まれて私の中へと吸い込まれていった。

 確認してみると所有者の場所に私の名前が追加されており、どうにも武器事態が使い手を選んでしまう仕組みになっているようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

銘:ソードダンサー+6

ベース武器:マインゴーシュ

祝福:祭神エントゥクレタ

攻撃力:105(75)+30

耐久力:2000/2000(1300)

属性:なし

固有特性:

永続付与:敏捷性+10%

     マナ収束力+20%

     残像:動き続けている限り敵の攻撃精度低下

     魔斬:魔術を剣で切る事ができる


使用制限:二刀流


製作者:グラン・スキット

品質補正

攻撃力:+30

耐久力:+700

所有者:リーシア・ルナスティア

来歴:

ドワーフの名工であるグラン・スキットの神打によるもの。

所有者に大きな制限をかけるとともに、多くの恩恵を授ける。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 これはもう返せないか、ありがたくいただくとしましょう。


「それでは、そろそろ失礼します。……グランさん、ありがとうございました」

「おう、元気でな。リリエラがちぃっとばかしめんどい事になるかもしれんが、まあうまくやれ」

「……はい」


 ノフィカがげんなりしてるなぁ……。


「嬢ちゃん、ノフィカのこと頼んだぞ」

「ええ、任せてくださいな。短剣、ありがとうございました」

「おう、大事に使ってくれ」


 挨拶をして店を出た頃には空が綺麗な朱色に染まり、ゆっくりと夜の帳が落ちてくる頃合いだった。

 さて、宿は間に合うかな?


リーシアが歩く武器庫になりそうな気がしてきました、作者の趣味のせいです。

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