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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
15/88

14.行き交う人々の雑踏の中で

 ──首都ウィルヘルム

 アールセルム大陸南部、半島の付け根辺りにあるウィルヘルム王国の中心地。

 私の目から見てその首都は、十二年前に焼け落ちたとは思えないほど堅牢で綺麗な石造りの活気に満ち溢れた街だった。


 門のところで私の身分証がないことで一時引き止められたのだが、どうにも村長が一筆したためてくれていたこととノフィカが身分を明らかにしたところで途端に門番の反応が変わり開放された。

 最後には敬礼までする門番に首を傾げつつ、ついに首都へと入る。


「ふわぁ~……ここが首都ウィルヘルムね、石造りの見事な街並みだわぁ」

「あの、リーシア様……少し声のトーンを下げてください」


 気づくと通り過ぎていく人がちらちらとこちらを見ていた。

 いかん、これではお上りさんじゃないか、間違ってないけど。


『姫は新しいところに行くと変わりませぬなぁ』

(エリアルまでそう言うか……)

『はっはっは、姫らしくて安心いたしました』


 むぅ、私はそんなキャラだったのだろうか、自分のことながらわからないものだ。


 道行く人達に目を向ければ、エウリュアレでは見ることのなかった獣人種族──あまりにも種類が多いため統一して獣人と呼ばれている──やよく見るところでエルフにドワーフと言ったファンタジーではあまりにも王道な者たちが歩いているのが見える。

 できればこのまま街を見物しながらいろんな人達を見てみたいものだが、それは置いておこう、まず済ませるべきことがあったはずだ。


「ノフィカ、まずは大事な用事から済ませてしまいましょう。騎士団だっけ?」

「そうですね、とりあえず案内いたしますがリーシア様。……帽子は深めに被っておいてください」

「わかったわ」


 幅広の帽子のつばが顔を隠してくれるだろう。

 私は自前の鍔の広い三角帽を目深にかぶるようにする。

 鏡がないからまだ見れていないのだけれども、元のキャラメイクなどを考えると人目を引く可能性は十分にある、面倒事を引き寄せるのはごめんだ。

 ノフィカもフードを深く被っており人目を気にしていることがわかる。


 うん、ノフィカもかわいいからね、当然だね。


 髪飾りが少し見えてるけどもまぁ、大丈夫かな?


 傍目から見ると顔を隠して歩く女二人なわけだからそれはそれで絡まれそうな気がするけど、そうなったら私が一肌脱ぎましょう、護衛だしね。

 そんなわけでノフィカの案内で首都の街並みを進んでいく。

 通路が複雑に入り組んだ作りをしていて、慣れないままに出歩いたら迷ってしまいそうだ。

 どこかに案内板でもないものかと思ったけれど、流石にそういったものは見当たらない。


 階段を登って、交差した階段の下をくぐって、路地を曲がって回って……迷ってない?


「ねえノフィカ、道分かってるの?」

「いえ、外周の新商業区は私が居た頃はまだ建設中でしたから正直よくわかりません。ただ中央の城下街区についてはそう変わっていないでしょうからそこへ向かっています。彼は騎士団長ですから流石に本部にいるでしょうし」

「なるほど……」


 そうやって彼女について登り降りを繰り返している時、ふとすれ違った女性に私は意識を奪われた。

 獣人──おそらく狐で綺麗な銀色の毛色をした、尾の二本ある女性だった。

 浅黒い肌にその銀色が更に映えてより強く印象を残している。

 切れ長の青い瞳が一瞬だけこちらを見て私たちは目が合った、整った容貌はそれだけで男性を虜にするに造作はないだろう。

 私は思わず足が止まったけれど、彼女はそれを気にもとめずに通り過ぎていく。

 気だるそうに垂れ気味の耳が少しだけこちらに向いていた。

 私は知らず彼女の歩いて行った先を見送っていたのだが、少しして戻ってきたノフィカに声をかけられて我に返る。

 どうやら一瞬だけのつもりがしばらく呆然と立ち尽くしていたらしい。


「何かありましたか?」

「あ、ううん……なんでもないよ」


 綺麗な人だった、獣人というのも確かに私が好む要素を含んだ種族ではある。

 けれど、今の感覚は何なのだろう。

 少なくとも時間を忘れてまで見とれてしまう程ではなかったと思うのだが。

 ノフィカについて歩きながら、私はそんなことに考えを巡らせていた。




「つまり、この入り組んだ街の作りは外部からの侵入に対する一種の防壁なのね?」

「はい、外部の街の作りを複雑にすることで侵入を防ぎ守りやすくするのが目的だそうで、そのため新商業区は頑丈な石造りになっているんです」

「なるほどねぇ……なんか新しい感じがしたのはそのためか」


 私たちは城下街区へと足を踏み入れていた、このあたりからノフィカの歩きに迷いがなくなったようで土地勘がある場所だということが伺える。

 街の作りは先程までの堅牢な石造りのものから木造のものが増えてきていた。

 中には焼けたあとが残っているものもあり、戦争の傷跡が感じられる。


 騎士団まではわりとすぐついた。

 訓練のために敷地が広く取られていて街路に向かったところで木剣を振るい稽古をしている姿が伺える。

 誰もが筋骨隆々と言った具合でたくましいのだが、なんというか……汗臭そう。

 私達が敷居内に踏み込むと団員のうち数人がはっきりとこちらを向いたほか、かなりの人数が意識だけをこちらに向けて来たのがわかり一瞬たたらを踏む。

 ノフィカは特に怯んだ様子もないのだが……慣れ、ってわけじゃないよね?

 途中まで進んだところで団員の一人が私達の前に立つ。

 誰だかわからないものを奥まで進ませるわけにはいかないという事なのだろう。


「ここはウィルヘルム王国騎士団の本部になる、見たところ旅の者と、巫女殿のようだがどのようなご用件だろうか」


 ここはノフィカに任せる場面だろうということで私は一歩下がる。

 よく見ると私が帯剣しているということもありどうやら私の方を特に警戒しているようだね。

 しまってくれば良かったなぁ。


「騎士団長、ユリエル・カストール殿お会いしたいのですが」

「団長に? どのようなご用件だろうか、もしや話せないわけではあるまい?」


 ノフィカは少しの間反応を迷ったようだが仕方なくフードを脱ぐ。

 といってもそれだけで通じるわけではないのだろう、身分証を取り出し目の前の男性へと手渡し短く告げた。


「エウリュアレの巫女を務めております、ノフィカ・フローライトともうします。こちらの方は私の護衛を務めてくださっているリーシア……さん。エウリュアレ近辺の監視記録を持ってきたとお伝え下さい」


 エウリュアレという言葉が出た途端に団員たちの反応が急に変わる。

 急に姿勢を正し敬礼をする者たちが大半で、それ以外は私に対して露骨な視線を向けてきていた。


「エウリュアレの……! この身分証は確かに、これは失礼いたしました。おい、団長に連絡しろ。……お連れの方、リーシア殿でしたか、身分証を拝見できますか?」

「あ……」


 まいったな、私身分証ないぞ?


「リーシアさんは、とある理由で私の護衛をしてくださっていますがエウリュアレの所属ではありません。村長から一筆預かっております、こちらでは足りないでしょうか?」


 そう言ってノフィカが間に入り文を渡す。

 ありがとう村長。


「エウリュアレの村長といえば……あらためさせていただきます」


 文を開いた男性は読み進めて行くうちに顔色が悪くなっていく。

 何か恐ろしいものでも見てしまったんだろうか。

 貴方はSANチェックです?


「……なるほど、たしかに。では一緒にお通しします、ですがリーシア殿、剣を預からせていただいてもよろしいですか?」

「剣……」

「ここはまがりなりにもウィルヘルム王国の守りの要、例えエウリュアレの客人とはいえおいそれと帯剣させたままお通しするわけにもいきませんので……」


 言っている事はわかる、わかるのだが……この世界において私がかつての世界にいた事を証明する唯一の品のような、エレオラの打った武器を初対面の人物に渡すことに、私はどうしても抵抗感を拭えなかった。

 渡すのを躊躇していると次第に男性の表情が険しい物になる、当然なのだろうけれど……。


「おうおう、かわいい嬢ちゃんに変な迫り方するんじゃねぇよ」

「これは隊長……ですが、ここを譲るわけには」

「お前の言いたいことはわかるが、お前が剣呑になるような理由でこのお嬢ちゃんは剣を渡したくないわけじゃないだろうさ」

「どういう意味です?」

「さげてる剣と、お嬢ちゃんが触ってる剣をよく見てみろってことだよ」


 私が今下げている剣は三つ、スペル・キャストと聖剣ホーリエル、そして短刀である風羽だ。

 手はスペル・キャストをつないでいるベルトにかけたところで止まっている。

 私が躊躇したからだ。


「普通さげてる剣全部渡すときはベルトごと外すだろ、だのにその嬢ちゃんは一本ずつ外そうとしてそこで手が止まった。見た目からして一番高え奴は今は触れてないそっちの白い装飾剣のはずだ。手にしてる無骨な作りの剣と比べるとおかしいとは思わないか?」

「……確かに」

「つまり、その嬢ちゃんにはその剣だから渡したくない理由があるってことだ。かなり使い込まれてるところから見ると一番愛着があるか、さもなきゃ特別な一品なんだろう、迂闊に初対面の奴に渡したくないぐらいの、な。お前はもうちょっと女心を見る目を養え、片恋してた花屋の娘はどうしたよ」


 あ、渋い顔になった、と言うか助けておいてもらって何だけど程々にしてあげて団長さん。


「さて、そんなところだろうとおもうが、あってるかい嬢ちゃん?」



「……ええ、この一振りは私にとって命の次に大事なものよ。……親友の形見みたいなものだから」


 もう会えないだろうことを考えれば、間違いではない。

 そう思って口に出したことで余計苦しくなった。


「そうか、読みがあたってて安心したぜ。ここまで語って全然見当違いな理由だったら恥ずかしいからな」


 団長さんは少しの間からからと笑うが、すぐに表情を真剣なものへと戻す。

 ま、笑って済ませられるものじゃないよね。


「こいつも言っただろうが、ここはこんな古びたなりでも国の守りを司る重要施設だ。帯剣させたまま通すのは対外的にも問題がある、何かあれば最悪国家間の諍いだって起こりかねない。帰るときには傷一つつけず剣を返すと、このウィルヘルム王国騎士団長ユリエル・カストールが約束しよう。それに免じて剣を預けてはもらえないか?」

「……分かりました」


 ベルトの留め具を外して剣をすべて彼へと渡す。

 何かあったら暴れてやると思いながら。


「ありがとうお嬢さん。ふむ、無骨だが良い作りの……お嬢さん、つかぬことを聞くが」

「なんでしょう?」


 お嬢さん呼びもなんかムズムズするんだけど。


「……もしかして剣の手入れはあまり上手い方ではなかったりするか?」

「まぁ、慣れてるとは言いがたいですが」

「こう、ちょっと気になってな、うちの専属鍛冶師に手入れさせてもかまわんかね?」

「……こ、壊さないでくださいよ?」

「うちの専属鍛冶師の腕は確かだ、安心するといい。さて、それでは案内しようか」


 私のせいで無駄な時間を使ってしまった気がするが、騎士団の奥へと案内される。

 ユリエルさんの部屋は質実剛健というか、非常に質素な作りだった。

 まぁ、さっきのやり取りを見ても過度な装飾とか好まなさそうな人だとは思うしおおよそイメージ通りか。

 壁に盾や剣が飾られているほか、机の上には最低限の執務道具ぐらいしか置かれていない。

 この手の部屋によくあるようなお酒の入った棚なんかも見当たらなかった。

 剣は何かしら貴重な代物なのだろう、細かい彫金と細工の施された鞘に収められ、柄頭に宝石があしらわれている。

 座るようにと促されてソファに腰を下ろす、来客用なのか座り心地は思ったよりも良い。


「さて、エウリュアレからの定期報告と……ん?」


 ユリエルさんはノフィカを見て言葉を止めて少し考えこむ、ノフィカもその様子に気づいたのか少々居心地悪そうに、けれどおずおずと口を開いた。


「お久しぶりです、ユリエルさん。お元気そうで何よりです」

「ノフィカ……そうか、アーレイスの弟子のノフィカだな! 何年ぶりだろうな、いやぁ綺麗になったものだ、今の今まで気が付かなかったぞ!」


 二人は知り合いだったようで一気に空気が緩み、ちょっとした昔の話に花が咲く。

 まぁ私は護衛なので特に話すこともない、出されたお茶でも飲んで話が終わるまで待っていよう。

 暫くの間続いた二人のやり取りはノフィカの言葉によってようやっと本題へと戻った。


「こちらが報告書になります」

「拝見させてもらおう」


 ノフィカも一息ついたのかお茶に口をつけて、少し浮かない顔をしている。

 先ほどの話にも出ていたが、やはり母親代わりでもあるという人のことが気になっているのだろう。

 ノフィカの反応を見る限り、嫌っているという反応ではないと見ている。

 どちらかと言えば困っているという表現が適切なように思えるんだよね。


「ふむ、確かに受け取った。私は今後のことについて会議しに行かねばならんから……と言いたいところなのだが」


 なんだろう、なんか嫌な予感がするのだけど。


「まだ剣の手入れも終わっていないだろうし、このまま返すと私がほとんど休めなくてな」

「はあ……」

「というわけで、少し休憩がてら話し相手になってほしい」

「いいんですかそれは」

「使いは出すが、今すぐ会議ができるわけでも無いからな、早くて明日というところか。何よりそちらのお嬢さんについて俺はまだ何も聞いていないからな。紹介ぐらいはしてくれてもいいんじゃないのか?」


 こうして思わぬ形で私も話に参加することになった。

 結局私が神使いと呼ばれる存在であることも話すことになったと付け加えておく。



リーシアは剣の手入れなんて慣れてないからやっぱり下手なんです。

途中で出会った獣人の女性については……今後をお待ち下さい(うずうず


2016-3-16追記

街中ですれ違った女性について描写が不足していたので下記を追記。

── 浅黒い肌にその銀色が更に映えてより強く印象を残している。

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