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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
14/88

13.首都へ続く道


 出発を目前にして私は悩んでいた。

 発端はクロウとエリアルの言葉である。


『お嬢様、なんでしたら私が背に乗せてひとっ走りいたしましょうか?』

『クロウ、それならば我の背に乗って飛んだほうが早いぞ』

『む、それは確かに』


 確かに移動となればエリアルに乗って移動すればかなりの短縮になるだろう。

 けれどそれをすれば見送りに来た人の前でエリアルを呼び出すことになるし、もしも徒歩で村を出たのであれば想定される日程と実際の日程が大きく異なることになる。

 馬を途中で降りるとしたら今度は馬をどうするかという話が持ち上がるわけで……。

 当初の予定ではノフィカの操る馬に私が相乗りする形を取る予定だったのだが……どうしたものか。


 正直な話エリアルの背に乗って飛行すると言うのはかなり心をくすぐられるのだが、いきなり空をとぶのはちょっと怖い気もする。

 やはり今回は我慢してもらっておとなしくノフィカと相乗りするべきか。


 ……ノフィカと相乗りも正直結構そそられる案件なんだよね。

 いや、ゼフィアに悪いから手は出しませんよ?


 ちょっと思考がそれたけども、クロウのことを出さないで正解ってユナさんに言われたことを考えると、やはり外に出すタイミングが無い気がするんだよなぁ……。

 ノフィカぐらいだったら話せば大丈夫な気もするけど。

 道中の護衛でも任せるか、でもそれは鼻の利くクロウのほうが適任っちゃ適任なんだけども。


(馬を借りることになってるからちょっと難しいかなぁ)

『そうですか……』


 ああ、やっぱりエリアルも寂しいか何かだね。

 水鏡はしょっちゅう出てきて一緒にベッドで寝たり毛づくろいしたりしてるけどクロウは憑依ぐらいだしエリアルは会話ぐらいでしか呼び出していない。

 グリフォンもフェンリルももう少し小さければ良かったんだ……、呼び出す時の魔力調節とかで召喚サイズ小さくできればいいんだけども流石に無理かね。

 試すにしても村の中では無理か。


(野営のこともあるから、道中ノフィカに話して様子を見てってところかな。悪いけどしばらく我慢しててもらえるかな?)

『申し訳ありません、姫を困らすつもりでは無かったのですが』


 別に困ってはないけどね、姫呼びは落ち着かないけど。


 村はずれについたらすでにノフィカにゼフィア、村長にユナさんにカレンさんといった面々がそろっていた。

 どうやら私が一番後だったらしい。


「ごめんごめん、待たせちゃったかな?」

「……リーシア様、行くなら早く行きましょう」

「う、うん。ごめん?」


 なんというかノフィカの機嫌が悪いんですけど、私そんなに待たせたりしたっけ?

 ユナさんとゼフィア、それに村長が渋い顔をしているのはなんだろうか。


「リーシア、これを渡しとく」

「ん? 何これ、紹介状?」

「首都についたらそこの宿に行くといい。……ノフィカが嫌がったら無理やりにでも連れて行ってくれ」


 声を潜めて言ってくるゼフィアだがその背中をノフィカがしっかり睨みつけていた。

 ……だいたい察した、つまり一番の目的はこれか。

 ノフィカがここまで露骨に不機嫌になるとか一体何があるのか不安なところだが、ゼフィアくんはわかりやすいんだろうね。


「何考えてるのかはわからないけど、一応覚えておくわ」

「頼んだ」


 それだけ言い残してゼフィアは見送りまで残らず帰ってしまう。

 それを見てノフィカは少し警戒を解いた様子だった。


 ユナさんとカレンさんはおそらく事情を知っているんだろうけど私に話すつもりは無いようで、聞くのならノフィカから聞けという雰囲気が露骨に漂っている。

 まぁ、当事者から聞くのが一番だろうねぇ。

 その場では挨拶したぐらいで私とノフィカは馬に乗り首都に向けて出発したのだった。




「ゼフィアは私のことを気にし過ぎなんです」

「はぁ……」

「私は私の意志で巫女になったのであって、ゼフィアを気にしてとかでは断じてありません」

「そうなの」


 馬の背に揺られながら村を出てからずっと続くノフィカの愚痴を聞かされ続けて三十分ほど、そろそろ返しが思いつかなくなってきた。

 いや、愚痴っていうのはとやかく言わずに聞くだけに徹するのが一番なんだけどさ。

 下手なこというと火に油だからね。


「その紹介状だってどうせあそこに決まってるんです」

「あそこ?」

「私の母親代わりの人が経営している"草原の羊亭"という宿の紹介状です。いい宿ですけどね」

「……もしかして結構帰ってない?」

「私がエウリュアレの巫女になるために半ば家出同然に出て以来ですから、七年ほどになりますか」


 それは、ゼフィアの気持ちも分からないではないな。

 七年も家出同然でほったらかしでは挨拶の一つもしてこいと言いたくなるだろう。

 思ってても絶対に口には出さないけど。


「そのうち、ちゃんと会いに行かないととは思っていたんですけどね……私が巫女になることを一番反対していた人ですから、正直どうすればいいのかわからなくて」

「私からはなんとも言えないわねぇ」


 相手の人のこともわからないからなおさらね。

 ただまぁ、一般論を言うならひっぱたかれるとかありそうだなとは思うけどさ。


「そういえばゼフィアとノフィカって一緒にエウリュアレに来たの?」

「いえ、ゼフィアのほうが一年ほど早かったですね。私は……置いて行かれた気がして」

「まさかそれで追いかけたの?」

「いえ、もともとエウリュアレに行くための準備はしていましたからそういうわけではないです。……焦りはしましたけど」

「なるほどねぇ」


 ノフィカが家出同然で出たのが自分のせいなんじゃないかってゼフィアは気にしてたのかもしれない。

 話すだけ話して満足したのかノフィカの様子はすっかり普段通りに戻っていた。


 そういえばそろそろいいかな?


「村からもだいぶ離れたしそろそろいいかな?」

「何がです?」

「契約獣を召喚しようかとおもってね、これでノフィカのことを守るよう頼まれてるから出来る限り最善を尽くしたいし。あとこれを身につけておいて」


 そう言ってノフィカに渡したのはリーゼロッテの飾り花と呼ばれるレア裝備。

 時間で耐久値を自動回復し、耐久値分のバリアを張るという結構貴重な代物だ。

 安全を考えるなら彼女に身につけておいてもらいたい。

 彼女はそちらについてはなんとなく察してくれたのか素直に身につけてくれた、うん可愛いね、似合う似合う。


「契約獣、ですか? あれって、神話時代のお伽話ではなかったんですか……私てっきりその人を象徴する神獣みたいなものかとおもってたんですが」

「まぁ、その気持はわからなくもないかな。今から出すけど結構大きいからびっくりしないでね」


 馬が驚いて落馬されても困るから一旦降りてもらい召喚の詠唱をする。

 一応心配だからすこし離れて。

 探知で周囲を確認したけれど魔物らしき反応も無かったので大丈夫だろう。

 ついでだから大きさを少しいじれないかためしてみることにしよう。


「天穿つ大樹より生まれし者、天空の枝に実る者、御身契約を糧として永久に仕え、悠久の時を歩むべし……気高き蒼天の翼、エリアルよ馳せ参じよ!」


 私の中から飛び出した光の玉は馬よりも少し大きいぐらいのサイズへと膨らみ実体化した。

 元の大きさを見ていないけどこれは成功かな?


『おお、姫は相変わらずお美しいですな。久しぶりにお姿を拝見でき光栄です』

「……うん」


 なんか恥ずかしい。

 馬はどうやら驚いてなかったようで落ち着いたものだ、敵意があるかとか感じ取れるんだろう。

 ノフィカはというと、エリアルの姿を見て呆けていた。

 驚いてはいるのだろうけれどどうにもその方向は恐れとは逆のベクトルのようだ。


「グリフォン……すごいです、初めて見ました」

『初めてお目にかかりますノフィカ殿、姫に良くしていただき感謝しております。この旅の間は我が姫共々お守りいたしましょう。どうか大船に……いや、大翼に乗ったつもりでいらしてくだされ』


 そう言って胸を張るエリアルを見て彼女は目を輝かせている。

 乗りたそうにしているのとエリアルが拒否しないこともあり、しばらく馬には荷物だけ乗せて歩いてもらいノフィカと一緒にエリアルの乗り心地を堪能することになった。




 適当に場所を用意しての初の野営はノフィカの主導によって行われた。

 それなりの道具も積んできてあるらしくやったことといえば焚き火の材料である枝集めとか、焚き火の周りに置く石を集めたぐらいだ。


「意外と手馴れてるのね。野営なんてほとんど経験がないかと思ってたけど」

「エウリュアレ開拓初期の頃にゼフィアやカレンさんから教わりまして」

「私はこの辺も詳しくないから参考になるわ」


 小枝やらをまとめて焚き火の準備をし終えたところでノフィカが中に鉄の輪のようなものを投げ込む。

 印が刻んであったからたぶん刻印魔術を利用した道具だと思う、用途を考えればたぶん火の印だろう。


「……マナよ、つどいて理を成せ」


 ノフィカの言葉に反応して鉄の輪が燃え上がる、短時間でそれの火は消えるのだが焚き火に点火するには十分だったようだ。

 そういえば家のかまどに入っていたのもあんな感じのものだった。

 なるほど、旅をするには便利だね。

 他にもいろんな道具があるんだろうけど、これは一式揃えておきたいなぁ。

 こういう道具もロマンだよね。


 夕餉にはまだ残っていたスプリントボアの肉を使ってもらい、ノフィカが驚かなかったこともあったことと、ゲーム時代のシステムのくびきがないことでなんとなく予想はできていたのだが、エリアルのほかにクロウも御鏡も永祈も呼び出すことができた。

 ノフィカは怖がるどころか神話の物語の登場人物になった気分ですとはしゃいで皆とすっかり打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。


「そうだ、リーシア様。こちらを」

「んう?」


 渡されたのは布袋で、中からする音はたぶん銀貨と銅貨、そこそこ重いところからすると結構な量がはいっているようだ。

 中には一枚の紙もはいっているようでそれを開いてみれば村長からの手紙だった。


 "今日までの契約分の代金です、少し色を付けておきましたので路銀としてお使いください。

 素材の買い取りを行いたい場合はギルドかバルネス商会をおすすめします"


 といった簡素な内容がしたためられていた。

 硬化は鋳造で作られているのか意外とできが良く、これならゲーム内の通貨をそのまま使うこともできるかもしれない。

 この世界の初の仕事料、大事に使わせていただこう。


 賑やかな夕餉が終わったあと、ノフィカはクロウの毛皮にもたれて眠ってしまった。

 やはり村での仕事と旅では疲れ方が違うのだろう。

 寝顔は幸せそうでついつい頭を撫でたくなるが自重しておく、起こしても悪いからね。


「良く寝てるわねぇ」

『かなりはしゃいでいましたから疲れたのでしょう、若いころのお嬢様を見ているようです』

「私こんなだったっけ?」

『エレオラ様との修行時代はこんな感じでしたよ。まあ女らしさという点ではノフィカ様のほうが……失言でした』


 クロウが懐かしそうに言うけれど、私にはその記憶はないためそうなのかと頷くぐらいだ。

 あとそれ失言でもなんでもないから、中身男の私のほうが女らしいとか言ったらノフィカに失礼。

 修行時代って言うとレベル70前後ぐらいまでかな、確かにあの頃までが一番目新しい物を見続けられる時期で一番楽しかったかもしれない。

 エレオラの記憶もあるんだねぇ……。

 私の相棒とでも言うべき彼女はこの世界には居ないだろう。

 せめて元気でやっているといいのだけれど。


『しかし、神話の物語の登場人物ですか。彼女はどんなふうに捉えているのでしょうな』

「さぁ、どうかしらね……アイドルだとかそういう類じゃないと思うけど」

『まあ、そうでしょうが。幾つかの感情が混ざっていたように感じられまして』


 エリアルは意外と人をよく見ているようで、ノフィカがはしゃいでいたその奥にある何かを感じているようだった。

 言葉に出来ないのは私と同じか。


『そんなの姉様へのあこがれに決まってるわよ!』

「どうかな……彼女の、ノフィカの神話の時代の物語に出てくる人たちの認識ってのは、もっとこう」


 憧れの一種ではあるのかもしれないが、何か上手く言葉の出てこない別種のものであるような気がする。

 ダメだな、考えても答えが出てきそうにない。


『姫もそろそろお休みください。見張りは我らが務めましょう』

「う、ん……そうね、あとは任せるわ」


 慣れない馬での旅、といっても半分以上はエリアルの背の上だったけど、思いの外疲れが溜まっていたらしく急激にやってくる眠気には抗えそうにない。

 一掴みの乾燥させたナナフシジャコウソウを焚き火の中に投げ込み、私もまどろみの中へと沈んでいった。


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