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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
氷樹の森の大賢者
13/88

12.お茶菓子と昔の話

 あれから一週間ほどが経ちました。

 防具については公式服では何の役にも立たなかったため、インベントリを漁って多少はマシというものを見繕ってみた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

銘:ハウリングローブ+5

防御力:55(40)+15

耐久力:1600/1600(1100)

固有特性:同じ属性の魔法を使い続けると威力が上がる

使用制限:魔法職


品質補正

防御力:+15

耐久力:+500

所有者:なし

来歴:

一つの属性魔法を極めたものに送られるローブ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 どれか一つでも最高ランクの属性攻撃魔法をマスターすると貰うことができる特典裝備なのだが、その性能故に一部の狩場ではかなり優秀とされた品である。

 当時はイラストでしかグラフィックが無かったのだけど、実際に目にして着てみるとなかなか良いデザインで気に入った。

 濃紺色の手触りの良い生地で作られた右足の前側にスリットが入ったロングスカート、光沢のある生地で作られたブラウスに丈の長いケープといった組み合わせ。

 ローブと言うよりは服一式なのが気になるけど、まぁ気にしないことにしよう。


 刻印魔術のコントロールについても精度が上がり早くもユナさんからは卒業を言い渡された。

 怖くてゲーム時代の魔法についてはまだ使ってないんだけどね。


 なので魔術の開放段階もまだランク2までとなっている。

 使うなら村からある程度離れた場所がいいから首都に行くときの道すがらとかに場所を探してみるつもりなのだけれど、今のところその機会が無い。


 剣についてもだいぶ落ち着いて立ち回れるようになり、以前のようにスプリントボアに背後から襲撃されるということもあれきり起きていない。

 刻印魔術の一つ、"探知"を使って周囲をある程度確認しているというのもあるんだけどね。

 変幻十六刻印に分類されるものの一つが探知、印の作り方次第で周囲を確認するレーダーや、ゲーム時代のマップみたいなものも確認できる優れもの。

 なのだけれどあまり人気はないとかで使う人は少ないのだとか。

 一定の需要はあるらしいんだけどおもいっきりサポート的な能力だから仕方ないのかね。


 時刻は昼下がり、すれ違う村人さんに手を振りつつユナさんの家に向かう。

 最近ではすっかり慣れてしまって向こうも気軽に訪ねてくるわ、こっちからも調味料もらいにいくわでだいぶ親しくなった気がする。

 ちなみに向こうからの用事はたいてい肉類とか、魔物を倒した際に手に入る物品だ。

 この前のスプリントボアの肉が原因だろう。

 今は他の肉に加えて少し遠くに生えている山菜だとか木の実だとか、イモ類だとかがインベントリにつめ込まれている。

 私一人じゃ処理しきれないからちょうどいいし、相手もそれをわかってるんだろうけどこういうご近所さんづきあいははじめてなわけでうまく出来てるか不安。

 今のところ大丈夫そうだけどね。


 ユナさんの家の前までやってくるとゼフィアが待っていたようで玄関前の花壇に腰を下ろしていた。


「よう、早かったな」

「そう? これでものんびり来たんだけどね」

「急かしたようじゃなかったならよかったよ。ユナさんが待ってるし入ろうぜ」


 ユナさんの家へと上がると珍しくもお茶とお茶菓子を用意したユナさんが待っていた。

 促されて席につくのだけれど、なんというかこういうお茶会というのは初めてだ。


「急に呼び出して悪かったね」

「構いませんよ、特にやらなければいけないことも無かったですし」


 やりたいことはいろいろあるけれど急ぐものは特に無い。

 こちらに来る前に探知を軽く広げて確認して見たが、魔物の反応もそう近くなかったため気にすることもないだろう。


「今日呼んだのは他でもない、この村についてのことと、それに関わることで一つ頼みごとがあるんだ。ゼフィアを呼んだのもその関係だね」

「頼みごと、ですか」


 一体どんな内容なのだろうかと軽く考えを巡らせるが、村についての事が関わるとなるといささか知識不足で予測がつかない。

 それについてもたぶんユナさんなら話してくれるだろうからおとなしく話を聞くことにした。


「多少講義的な内容になっちまうがね、まずエウリュアレ村というのがどこにあるかというと、アールセルム大陸南部に位置する半島のやや海寄りの位置にある。街道というほど立派なものじゃないが、多少整えられた道を馬か馬車で北上すると五日ほどで私達の所属するウィルヘルム王国の首都が見えてくる」

「結構遠いんですね」

「そうさね、なんでだと思う?」


 不意に質問で返された。

 この手の知識は無いのだが、開拓村を作るというのにしては結構な距離があるように思える。

 馬で片道五日となると作った麦を運ぶにしてもやや遠いのではないだろうか。

 開拓するのに遠いのにわざわざ作ったとなると場所に意味があるのかもしれない。

 とすると……。


「エウリュアレ神殿ですか?」


 この場所で何かあるとなるとそれぐらいしか思いつかないが、でもそれは開拓村ができたあとの話だっただろうか?

 私の答えにユナさんは何やら納得したように一度頷いた。


「考え方は間違ってないだろう、けどエウリュアレ神殿はこの村ができたあとに現れたものだ。エウリュアが村がこの位置にある理由は別、この村から見える海岸沿いに十二年前アイゼルネの軍勢が上陸したのがその理由だ」

「アイゼルネ?」

「海を挟んで向こう側──ポルセフェネ大陸にある宗教国家の名前さ。その遠征軍がこのそばの海岸に上陸し、そして十二年前に首都が半壊する事態になったのさ」


 一気にきな臭くなったなぁ。

 命にかかわるトラブルはできればご遠慮願いたいのだけども。

 しかし、その話で納得がいった。

 つまり──。


「エウリュアレ村は開拓が目的で切り開かれたものではなく、アイゼルネが過去に上陸した海岸線を監視するという目的のために生まれたということですか」

「そういうことさ、話が早くて助かるよ」

「……なにか、変じゃないですか?」

「なんとなく言いたいことはわかるが、なんだい?」

「この村って、兵役についていると思われる人を私は見たことがありません。国にとっては重要拠点であるはずなのになんで監視塔のようなものすら無く、そこに常駐する兵士も居ないんです? 見張り台は在りましたけど……こう言うとなんですが少々お粗末ですし」


 エウリュアレの存在意義をそのまま解釈するなら国境警備と言い換えてもいい、そんな場所が国の騎士団だとか兵士だとか、そういった存在を欠いたままなんて明らかに不自然だろう。

 私のそんな疑問に答えたのはユナさんではなく、途端に不機嫌になったゼフィアだった。


「この村は俺達の意思で作った開拓村だ」

「どういうこと?」

「ゼフィア、腹が立つのはわかるが嬢ちゃんに当たってもしょうがないだろう。ちゃんと順を追って説明しないとだめさ」

「……すまん、ちょっと頭冷やしてくる」


 短く一言だけ謝ってこちらの返事も待たずにゼフィアは出て行ってしまった。


「この話題になるとゼフィアはいつもああだしノフィカもね、気持ちは分からないでもないんだが……」

「結局のところ、どういうことが起きたわけです?」


 私の問いにユナさんは少しだけ、ほんの少しだけ思い出したくないことを思い返すかのように間をおいた。


「首都が半壊するような事態に陥った国ってなどうなってると思うね?」

「それは……」


 正直あまり考えたくもないが、家屋の多くが焼け落ちて、多くの人が死んで、国の守りを担っていた騎士団だとか軍事力は半壊かほぼ壊滅といったところだろうか?

 雑な想像だけど。


「なんとかアイゼルネの軍を壊滅させたとき、ウィルヘルム王国は酷い有様だった。国民の三割ぐらいは死んだだろうし、騎士団はほぼ壊滅、国としての機能をかろうじて回復するまでに一月ほどかかった。そんな矢先に、片道五日もかかる海岸線の監視に軍の一部を割くってな相当の反感があったんだよ。食料をどうするのか、首都の守りをどうするのか、ってんでね」


 気持ちはわからなくはない、魔物の脅威もある以上首都の警備をおろそかにするのは戦争によって焼け出されたばかりの街の人達には恐ろしいことだっただろう。

 何より首都まで戦火が広がったのなら畑にも大きな損害が出ていたはずだ。

 あるいはすぐに次はこないと、そう思いたかったのかもしれない。


「またアイゼルネが侵略してきたらどうするんだ、って声が上がったのは少しさ。皆夜が怖かったんだろうけどね……結果、監視砦建設計画は案こそ上がったものの実現されなかった。それに怒ったのは……当時の戦争で家族を失った連中。もっと早くアイゼルネの侵攻に気づいていれば、そう思わずにはいられなかったんだろう、今の村長──あいつ名乗らなかっただろう? マクネス・ウィルヘルムっていうんだが」

「……ウィルヘルム?」

「一応分家だけども王家の血筋でね……あんまり顔も知られてなかったんだが。あいつは自分の身分を全部捨てて、開拓村としてエウリュアレを作ることを決めて人を集め始めたのさ、そしてそれに乗ったのがこの村にいる連中ってことさ」


 なんとなく感じていた違和感、考えてみれば私がこの村で過ごすようになってから、外部から来る人なんてほとんど居なかった。

 ユナさんが言うには数ヶ月に一度、どうしても村では調達できない物品を運ぶために行き来があるぐらいだと聞いている、開拓村というにしては少々孤立しすぎなのだ。

 誰もそこに行きたがらない監視拠点、それがこの村だというわけか。


「一応、そろそろ落ち着いた頃合いだろうってことで騎士団が砦建設を再度訴えてるらしいが、どうなるかねぇ……若い連中まで来ちまって、それだけが誤算だったかねぇ」


 私の考えていたことがわかったのか、ユナさんが神妙な面持ちで言った。

 有事の際の、命がけの伝令。

 この村の人達は自らその役目を引き受けたのだ。




 話が再開されたのはゼフィアが落ち着いて戻ってきてからだった。

 結局のところ未だにユナさんからの頼みごとというのを聞けていないどころか前段階、前提のところで話が止まっている。

 私としてはいろいろとこの世界のことを知れるから構わないのだけどもね。


「今まで話したことを前提にしてだね、この村は海岸の監視記録をつけてて、それを定期的に王国騎士団に報告してるのさ。それで次の報告をそろそろしなきゃいけないんだが……最近コボルトが結構な数出たことで剣を使える連中を外にだすかって話でちょっと意見が別れてね」

「確かにそういう時に戦える人を減らすのは抵抗ありますよね」

「かと言って報告をしないなんて選択肢はないわけで、どうするかって話で一つ提案が出てね」

「察しました」


 これ、私にお使いに行けパターンだろう。


「察しのいい子は嫌いじゃないがまぁ最後まで聞いとくれ。報告事態に外部の者をつかうのは避けたいわけさ」

「知らない人がいきなり報告に来てもびっくりしますものねぇ、門前払いとかもありますし」

「で、報告に誰をやるかって話になって……ノフィカをって声が出たのさ」


 なんでや、ノフィカって治癒の刻印魔術使えるからそんなに自由にならない立場な気がするんだけど?

 ユナさんに疑問の視線を送ると彼女はゼフィアに視線を向ける。

 そのゼフィアは視線をそらすしで彼が一枚噛んでいることは理解した。


「ゼフィアくん、さっさと吐きなさい」

「くんて……いや、まぁ……おせっかいというか、戦略的撤退というか、気になるっていうか……」

「めんどくさいなぁ。聞かれたくないわけ?」

「まぁ、あんまり言いたくない、お前には」


 なんじゃそら、そんな感じはしないけどもしかして嫌われてるのか?


「まぁ、なんか思うところがあるらしくてね。それでノフィカを使いにやるって方向で話がまとまったんだが、魔物が出るようなろくに整備もされてない街道をろくに戦えもしない巫女一人で行かせるわけにもいかない、じゃあ誰を護衛にするんだってことで白羽の矢が立ったのが……」

「私だと」

「そういうことさ。提案したのは村長なんだが、それに賛成を投じたのがゼフィアなわけで、特に反対する理由もなくこうして話を持ちかけることになったわけさ」

「女同士だし、お前の実力はこの目で見てる。刻印魔術に関してもユナさんのお墨付きとあればこれ以上安心して任せられる人間なんて、俺には正直ユナさんかカレンさんぐらいしか思い当たらなくてな」


 嫌われてるわけじゃなさそうと言うかむしろ信頼されてるっぽいのはいいんだけども、女同士って要素はあてになるのかあやしいよそれ?

 ゼフィアは知らないことだし私も言うつもりはないから外から見ると間違いないんだけどさ。

 いやまぁ、手を出すつもりもないけど。


「そんなわけで、頼まれちゃくれないかい? お嬢ちゃんもエウリュアレ以外を見てくる良い口実になるだろう、ついでに何か見つかれば万々歳って村長は考えてるみたいだがね」

「私で良ければ構いませんよ。首都にはそのうち行ってみたいと思っててなかなかタイミングが合わせられなかっただけですし、いろいろしてもらってますから御礼もかねて」


 私には特に断る理由もない。

 しいて言うならば私に人を守りながらの戦いができるかだが、そこはまぁ御鏡やらクロウやらエリアルやらを出せば十分すぎるほどではないだろうか。

 後でインベントリを漁って何かノフィカに裝備させるような品物でも見繕っておけば更に安全だろう。


「回ってほしい所とか、済ませて欲しい用事についてはノフィカに伝えておくから案内してもらってくれ。……一つだけ、ノフィカに直前まで言わないでおいてほしいこともあるんだがそれだけ頼んでいいか?」

「うん、なになに?」


 こうして私はゼフィアが本当に私に頼みたかったことが何だったかを聞いた。

 とても不器用で、それでいて彼女のことを気にかけている、そんなゼフィアの一面が見えた。

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