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9話:そして始まる非日常

「…………んぅ」


 カーテン越しに入ってくる淡い光が部屋全体を照らす。

 眠ったようで眠っていないかのような、複雑な気分で俺はベッドから起きた。

 細目で見た時間は六時五十分。目覚ましがなる十分前に目が覚めたようだ。

 目を擦り勉強机の方を見ると、マキちゃんが昔買った小説をこちらに席を向けつつ、目を細めて読んでいる。

 その姿は人間、と言われても遜色ないものだった。まあ、人並み外れた外見は有してはいるのだけど。


「おはよう、マキ」


 俺の返事にマキは目線をこちらに向け、ニッコリと笑った。

 マキはこの現実では喋れない。しかし小さく口を「おはよう」と動かした。

 多分こういったやり取りは、俺が彼女と二人っきりじゃないと出来ないだろう。

 しかしそれが何故か、俺としては嬉しかった。

 俺にだけしてくれるのだから。


「さて、着替えるかね」


 まだ今日は火曜日。学校は土曜の午前まで続くのだ。

 そう考えると億劫だが、そんな面倒な学校にも、この癒し担当のマキは連れていける。

 それだけが、今は救いだろう。

 気合いを入れるように「うしっ」と意気込んで、俺はベッドから降りた。




*****




「いやぁ、俺っちはもう昔のことはてんで忘れたっすよ」


 学校についてとりあえず雄二に話しかけた内容は「中学の時はどうだったの?」だった。

 どうやら色々やんちゃしていたということは、生徒会長とか風の噂程度では聞いているのだが、実際どの程度なのかはわからない。


「そういえば、恭平は雄二と同じ中学じゃなかったっけ」


 と、今更ながらに思い出した俺は、俺の席の隣でブックカバーをかけた文庫本を読んでいる。

 恐らくはライトノベルだろう。最近は長いタイトルのラノベとか、魔王勇者とか多すぎてなんか食痛気味なんだよね、とか言っていたし。

 なら読まなければ、と思ったりするだろう。

しかし好きだからこそ批判に走ってしまうのは人間の性――俺はそう解釈している。


「ええ、そうですよ」

「あの頃から仲良かったのか?」

「そんな訳ないじゃないですか。雄二といえば第二中の獄炎番長と呼ばれてたぐらいのヤンキーですよ。まず近づきませんね」

「っちょ! 恭平! それは言わない約束じゃないっすか!」

「そんな約束した覚えはありませんね」


 獄炎番長――恐らくあの神威と関係しているのははっきり分かる。

 雄二の日ごろは馬鹿で空気の読めないトンチンカンだが、勝負事とか虐めのような場面に出くわせば豹変するのは既に知っている。

 特に後者に対してはとてつもない勢いだ。高校に入学当初、それでクラス内のいかにもなイケメンリア充と殴り合いそうになったことがある。

 まあ、喧嘩が起こる前にイケメンリア充がビビったのか、結局ぶつかることは無かったが、あの時の豹変ぶりはすごかった。

 多分ああいった正義感みたいなものが、中学の時のセンチメンタルなモノと交わって爆発したのだろう。

 

「別に悪いこととか変なことやってたわけじゃないっすよ? ていうか、俺っちはむしろ善行を行ってたんすよ!」

「分かってる分かってる。そういう設定なんだな?」

「設定とか言わないで下さいっすよ! ホントなんすって!」


 茶化すように言葉を流すが、彼の言い分は理解できている。

 じゃないと恭平のような奴が悪者というか、自分勝手な奴と友達になるわけがない。

 アイツ自身、自己中みたいな部分あるしな。


「はああぁぁあ! マキちゃんって可愛い! ほんと可愛い! ほら見て桜井君!」


 突然叫んだかと思うと、前の席でマキの髪を弄って遊んでいた直江が目を輝かせて俺に話しかけてくる。

 色々な髪形にしては変えていたみたいだが、結局のところ、金髪ポニーテールになっていた。

 

「いいっすねぇ! 直江さん、それいいっす! グッジョブ!」

「金髪美少女というだけでステータスなのに、そこにポニーテールとは……。天は二物を与えしまったようですね」


 雄二と恭平がそれぞれの感想を呟く。

 いや、実際可愛いよ? マキの髪は綺麗にストレートというか、若干のウェーブが掛かっているからか、ポニーテールにすると髪が綺麗に浮いて、創作とかで見慣れたそれになっているのだ。

 とりあえず直江。いい仕事したな。


「今日はこれで過ごさせてよ! ねぇねぇ桜井君!」

「分かったよ。ていうか、マキはいいのか?」


 と、自分の髪形を気にするように触っていたマキに問いかける。

 すぐに俺の方に向いて、笑顔で首肯。こうしていちいち可愛い反応を見せてくれるので、俺としても嬉しいものだ。

 そして気付けば視線が俺たちに集まっていることに気付く。特に直江とは仲がいいが、俺たちとはあまり喋らない女子のそわそわ感がすごい。

 ……あ、視線があった。


「……あ、えっと、その…………桜井君。あのね?」

「言わなくても分かるよ。別に俺の許しとか求めなくていいから、マキが嫌がらない程度で遊んでやってくれ」


 意外とマキは構ってちゃんなのが、図書館で分かったしな。

 とりあえずそう言うと、ものすごい勢いで三人の女子がマキを取り囲んだ。

 

「なんかもう、マキちゃんはクラスのマスコットみたいになってるっすねぇ」

「僕自身としては、とても有りですけどね。目の保養として」

「おい、ゲスイ発言やめろ」


 常に脳内がエロか女の子の恭平に注意を促す。


「でもでも、マキちゃんが出てきて桜井君も変わったよね」


 ここでふと、直江が俺に対してそんな一言を漏らす。

 ……変わった? 俺が?


「どこら辺が変化したんだ」

「まあ昨日の今日であれなんだけどね? 周りに気を配るようになったし、周りの視線を気にするようになったように思うんだよねぇ」


 そう言ってケラケラと笑う直江。

 変化、か。俺という人間は、神威マキという存在を通して変わることが出来るのだろうか。

 今はその答えは見つからない。

 しかしとりあえず、俺はこの神威と過ごす日常を大切にしていこうと――笑みを浮かべる彼女を見て、そう思った。


「あ、虫が――」


 ふと視線を流したときに、窓から入ってきた虫。

 また一部の女子がキャーキャー騒ぐだろうなぁ――と。

 そう思った瞬間、マキの腕にいつの間に拳銃があって。

 虫に向かって、銃弾を解き放っていた。

 

『――――え?』


 零れるクラスメイトの声。そしてカチャンと落ちる薬莢やっきょう

 虫は跡形もなく消え、そして銃弾が進んだ先の壁には銃弾の傷跡が――残っていなかった。

 気付けば薬莢も消えている。

 

「何でもありだな、ホント」


 ふぅと芝居がかったように銃の先を吹くマキちゃんを見て、俺はそう思った。

 あれは多分、朝みていた小説か昨日のテレビに影響されたに違いない。

 しかしこうなると、俺がこの非日常を日常と認識出来るのは、まだまだ遠い先かもしれない。


 固まった生徒。そして何も知らないような態度で「ホームルーム始めるぞー」と入ってきた先生、そしてクラスで人物的にも物理的にも浮いているマキを眺めて、そう感じた。




ここで一度、一章というか、導入部分の終わりと致します。

次からは神威トーナメント前のだらだらとした生活の日々を過ごすことになると思いますが、どうぞ宜しくお願いします^^

ご感想や誤字報告などあれば宜しくお願いします。

この後に簡単な人物、用語まとめを更新しますので!

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