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6話:マキちゃんの実力

 ああ、俺という人間はどこかで舐めてた節があったと思うよ。

 いつの間にか神威という“神秘”を理解した気でいたのだ。

 本当にお笑い草である。

 

「――――あぁ」


 なんていうか、変な声しか出ない。

 生徒会室に入った瞬間に、知らない世界だった。

 荒廃。その一言に尽きる荒れ果てた場所。空は灰色の雲に覆われ、どこか寂しさを感じさせる場所でもあった。

 そしてそんな場所にブルーシートを広げてお茶をしている四人の生徒と一人の先生。

 あんたら何やってんだ、とかなりツッコみたい。


「いらっしゃい。君たちもまた、神威トーナメントへの出場を志す者ということでいいのかな?」


 その和に入らず、一人俺達に喋りかけてくる男。気障ったらしさがあるが、それに関して文句が言えないほど凡人とは違ったオーラがある。

 ネクタイピンの色は青。つまり三年生。

 ここまで堂々としているということは、コイツが生徒会長か。

 確かにこの男に関しては見覚えがあるように感じる。卒業式や入学式で前に出てなんか言っていた。

 そういえばクラスの女子でもこの生徒会長――鈴谷英心すずやえいしんの隠れファンだと言っていた奴がいた。

 別に隠れなくてもいいのに。


「そういうことっすよ、生徒会長!」

「君は確か、斉藤雄二君だったかな? 中学ではかなりの問題児みたいだったらしいけど、えらく高校に入ってからは大人しいみたいじゃないか」

「っは、そんな昔のことは忘れたっすよ」


 雄二が不敵な笑みを浮かべてそんなことを言う。

 ていうか雄二の知らない過去がここで一気に明るみになってきている。

 全然そんな感じしなかったけどね、初対面の時でも。


「そして君は中嶋恭平君だね。なんでも君の神威は任意の相手に特定の異能を付与出来るというのは風の噂で聞いたことがあるよ」

「っふ、情報に敏いですね。流石と言いましょうか」


 どこか影があるような演技をして恭平が顔を押さえつつそんなことをのたまう。

 …………あの、少しいいですか。

 何か変な雰囲気になってません?

 明らかに通常の男子高校生がやっていいような演技じゃないんですが。

 ていうかお前ら、生徒会長の空気に呑まれてんじゃない。


「そして君は――――誰だ?」


 そしてごく平凡たる男子高校生の俺のことは、よく知らないみたいだ。

 知らなくて当然と言えよう。


「彼は桜井奏多さん。人型の神威を発現出来る二年生です」


 俺が名乗ろうかと思っていたところで、一緒に生徒会室(?)に入ってきていた立花に説明される。

 説明を受けた俺はとりあえず「ども」と小さく返事をする。隣にいたマキも小さくお辞儀をし、そのまま浮いて俺の首に腕を回し、朝に学校へ来た時のスタイルになった。

 ありがとう、何だか落ち着く。


「ほう、人型の神威……か。なかなか稀有ではないか。どうして今まで噂になっていないのだろうか」


 心底不思議そうに生徒会長が呟いた。

 すみません。今日芽吹いたみたいなので。

 俺自身、神威っていうのは今日初めて知ったんですけどね。


「まあ良い。では三人にはある簡単な検査を行う」

「どんな内容っすか?」

「何、私の神威が出す攻撃を、受けてくれさせすればいい」


 生徒会長のその発言に、俺の両隣のやつらが不敵な笑みを浮かべた。

 この空間にいると中二心のようなものをくすぐられるのだろうか。二人の纏う雰囲気が普通じゃない。

 ていうか戻ってこいよ。現実に。


「そんな楽勝みたいなのでいいんすか」

「君みたいな人には、確かに楽勝かもしれないね」


 でも、それが全員出来るとは限らないんだよ――と。

 生徒会長は囁くように俺たちに忠告した。


「さて、トップバッターは――」

「僕からやらせてもらおうか」

「それじゃ次は俺でよろしくっす」


 いつの間にか順番やらも決まって、まあ実力試しというか、審議というのが始まるみたいだ。

 俺としても二人の権能は気になっていたし、とりあえず観察させて頂こうか。

 


*****




 とりあえず、一言いいだろうか?


「なんだこれ」


 よく分かんなかったが、説明させて貰おう。

 俺がここまで見た一部始終を――――




 ――――まず会長が青い竜みたいな神威を出した。そりゃもう、モン○ンで新しく登場するモンスターかと思うぐらいの仰々しい感じの竜だ。

 そいつが荒廃から念動力みたいな能力で、直径三メートルぐらいの岩を浮かび上がらせたのだ。

 もうこの時点で察した。

 俺は、もうあの頃のような日常には戻れないのだと。

 

「それでは、やるとしましょう」


 と、眼鏡をクイっと中指で位置を戻すかのようにして呟いた恭平。

 何やってんだお前――まで言いかけたところで、まあ俺は言葉を失うことになる。

 異形がいた。

 翼が四つ。ところどころ破れかけている漆黒の羽。そして一対の捻じれた角の生えた、まるで地獄から這い上がってきたかのような鬼が、手を前に翳す。

 青い竜が放ってきた大岩を不可視なバリアのようなもので防いだ鬼は、そのまま俺たちの後方数十メートル先に岩を解き放った。


「流石、といったところか」


 生徒会長は満足したかのように、続いて恭平の横に並び立っている雄二を見つめる。

 すでにやる気満々らしい。「よっしゃこーい!」と呑気にのたまっている。


「君には、こんな感じのはどうだろうか」


 と、続いて会長が呟いて右手を挙げた瞬間、またまた竜の後方に岩が浮かび上がる。

 しかしそれは先ほどの丸い大岩ではなかった。先っぽが鋭利に尖っている、まるで自然が創造した槍のような形になっている。

 それが五本。

 とりあえず、早くお家に帰りたいです。


「それぐらいならどうとでもなるっすよ!」


 そう声を張り上げた雄二の後方には、一人の女剣士が立っていた。

 恭平の出した神威とは全く異なる、三対の純白を体現した羽。頭の上にあるリングが神々しく輝き、彼女自体が淡い燐光を解き放っている。

 顔は仮面で覆われ、表情は見えない。厳格を体現したかのような雰囲気は凄まじく、そして彼女の持つ一振りの直剣には、ゆらゆらと紅焔が渦巻いていた。


「素晴らしい」


 会長が右手を振り下ろすと、射出されるかのように五本の槍が恭平目がけて突進した。

 女剣士がその様子に対し、煩わしそうに剣を横なぎに振るう。


 閃光が眼前を突き抜け、熱風が辺りを包んだ。


 とんでもない破壊力を帯びた一振りは、会長の神威が解き放った一撃を呑みこみ、そのまま彼と、その青い竜を切り裂こうと直進する。

 しかし会長の手前になって、その一撃は急激に止まった。そのまま別次元に呑み込まれるかのように、赤い一閃が消えていく。


「雄二君。君の今のは、若干危ないと思うのだが?」

「大丈夫っすよ。一般生徒には絶対向けないっす」

「なら、いいのだがね」


 ニヒルに笑む生徒会長。それに対して満更でも無さそうに笑う雄二――――

 



 ――――そして、現在に至る。


 ここまで説明しておいてだが、俺は今とても恐怖というか、現在陥っている俺の状況というものが恐ろしく感じた。

 下手したら死ぬんじゃないだろうか。

 ていうか、むしろ心配なことは、


「マキ、大丈夫か? あんなの防げるのか?」


 それである。

 もし大岩を寄越され、マキが怪我でもしたらどうしようか。

 まあいざそうなれば、俺は生身の体で生徒会長とその神威に喧嘩を売れるだろうがな。

 そんな無謀なことを考えていると、ポンポンと俺の頭を撫でるマキちゃん。


「――――ッ!」


 私に任せなさい!

 そんなことを言いたげに、彼女は自信満々に、そしていつも通りの朗らかな微笑みを浮かべて、無言ながらも俺にメッセージを伝えてくる。

 

「えらく人間っぽいな、君の可愛い神威は」


 生徒会長が驚いたように俺を見る。

 どうやらその様子から、通常の神威はここまでスキンシップのようなものが取れる存在ではないのかもしれない。

 まあ、今はそんなことどうでもいいのだ。


「始めましょうか、生徒会長」

「ああ。君の神威は未知数だから、少し怖いけどね」


 そう言って会長が手を振り翳し――、


「――――」


 それは一瞬だった。言葉も発せないほどの、一時ひとときだった。

 突如として頭上の曇天から大きな雷が、俺の頭上目がけて落ちてきていたのだ。

 気づいた時には轟音が、稲光が、そしてマキの顔がすぐ目の前にあった。さっきまで横にいたはずだが、俺の眼前に彼女の綺麗な顔がアップで映る。

 彼女振り上げた手の平に、バチバチと高密度な電気エネルギーが溜まっていることが見て取れる。


「ほう、あれを防ぐのか」

「……会長、今の攻撃は、明らかに致命的・・・ですよ?」


 ここまで沈黙を貫いていた立花が、睨みつける。

 俺は全く気が付いていないのだが、今俺はもしかして、殺されかけたのか?


「マキ……」

「――――」


 マキちゃんのいつものプリティな笑顔が、氷が凍てつくかのような真顔に変貌していた。

 とても近寄りがたく、決して自分とは違う“者”なんだということに、その様子から改めて気づく。

 普通の人間が、こんな濃密なプレッシャーを放つことが出来るのだろうか。

 彼女は能面のような表情で、生徒会長を見つめている。


「マキ。お前はそんな顔しちゃダメだ」


 お前は笑っていないと。可愛い顔を見せていないと。

 じゃないと何だか、お前が遠くにいるみたいで嫌じゃないか。

 こんなに近くに居るのに。


「――――」


 俺の言葉を聞き、彼女は再び、無言のまま俺の方へと振り向いた。

 そこには先ほどの真顔はなく、いつも通りの可愛いマキちゃんの笑みが戻っていた。

 うん、やはりお前は笑っている顔が一番似合うと思う。

 少なくとも、今日一日過ごしてそれだけはハッキリと理解出来た。


「すまないね。君の人型の神威がどんな能力を有しているか、気になったんだ」


 生徒会長は悪びれずにそんなことを言う。

 とりあえず、「別にいいです」とは答えておくが、俺は今、やり返してやろうと気が満々である。


「それにしても、君の神威の能力がいまいち見えてこない。吸収、とはまた違うみたいだ。かといって攻撃的な要素も今は見えない」


 生徒会長が少し悩むような素振りを見せる。

 まあ、俺も突然のことで訳分からなかったが、彼女の能力がどんなのかは、今のところ攻撃を受け流すぐらいにしか分からない。


「少しあの会長に攻撃してみてよ」


 ボソリ、と小さく呟く俺。もちろん、生徒会長には気づかれないようにだ。

 俺自身、マキちゃんが攻撃出来るのか気にはなってたし。

 ポコポコと殴りに行くのかな? それとも先ほど掴んだ雷撃をやり返すのかな?

 そんな風に想像しながら、俺の発言を聞いた彼女の様子を観察する。


 両腕が、巨大かつ凶悪な重火器に変貌していた。


「――――っは?」


 気づけば会長目がけて重火器を乱射するマキちゃん。

 その表情は「快……感ッ!」とでも言いたげである。


「なんだこれ」


 もうこの一言しか出ない。

 雷を受け流し、突如として体の一部を重火器に変貌させて乱射しまくる能力。

 俺にはそんなもの想像つかないし、現在撃たれまくって防戦一方の生徒会長、そして傍観者となりつつあった三人も、驚愕の表情をマキに向けていた。


 ――うん、でもさ。

 

 このミステリアスさも、またいいのかもしれない……。



マキちゃんはやっぱり神威でした(しみじみ)

次回より、いつも通りのコメディのテンポ戻していきます。



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