5話:再び現れる彼女
私立三ツ谷学園には校舎が三つある。
それぞれA、B、C棟と何の捻りのないネーミングだが、まあ規模が大きいのは言わずもがな。
生徒会室は生徒校舎であるB棟の右となりにあるC棟――部活動、並びに委員会活動を行う場所――の三階にある。
渡り廊下でC棟に向かうと、すでに生徒会室の扉の前には、三人の生徒が並んでいた。
中に入らないということは、もう一組が中に入って手続きをしているということか。
「結構出ようとする生徒が居るんだな」
「まあ神威使って燥げるイベントといえば、このトーナメントか、文化祭ぐらいっすから」
「そういえばそうだったな」
全然分からないが、とりあえず相槌を打っておく。
知らねーよ、とか言ってしまうと、またおかしな人を見る目で見つめられるだろうからな。
そういうのは真っ平なんだ。
「失礼、しました」
と、少しやるせなさそうな声を出して、三人の生徒が出てくる。
ブレザーのネクタイについているピンが緑色なので、恐らく一年生だろう。
ちなみに二年生は赤、三年生は青で、これは入学当時に決められるカラーだ。卒業生がいなくなれば、それを来年度の新しい一年生が引き継ぐ。
「あの様子を見ると、残念だったみたいですね」
と、小声で恭平がつぶやいてくる。
まあ結果は聞かなくても出ていく時の様子で分かっちゃうよな。
しかし! そんな中でもマキちゃんは常に俺に向かって笑顔です。
はぁ~、癒されるぅ。
「前の生徒が入っていきましたね」
俺がマキの微笑みに惚れ惚れしていると、前の三人組が生徒会室へと案内されていた。
その案内している人は、まあ、なんていうか。
言わずもがな。
「あら、桜井さん。奇遇ですね」
今日のお昼にばったり出くわした生徒会副会長、立花菖蒲殿である。
彼女はそのまま俺たちの前に並んでいた生徒を入れると、自分は戻らずに俺たちの元へと寄ってくる。
いいの? 選考しなくていいの?
まあそのまま出てくるということは、別にいいのだろう。
「奇遇っていうか、まあ生徒会室に来るってことはこうなるのは必然だよな」
「それもそうですね」
俺と立花が坦々とした会話を始めたところ、両脇の二人が固まった。
美人だから気負ってんのか?
「どうしたお前ら」
「どうしたって、何で副会長と仲良さげなんだよオイ」
「雄二。いつもの口調が無くなってるぞ」
雄二のあの口調はやっぱりのところキャラ付であり、戸惑った時や本気の時は口調に舎弟感が無くなってしまうのは、今に知れたことではない。
「今まで彼女と接点なんてありましたっけ、同士」
「なかったよ。今日まで」
「お昼にそこの神威ちゃん関係で仲良くなりまして」
「成程、マキちゃん様々ってことっすね」
口調の戻った雄二にそう言われて、そういえばそうだなと今更ながらに実感する。
マキが居なければこうして彼女と会話することは、恐らく学園生活中には無かったかもしれない。
そして立花は「マキちゃんって言うんですね」と微笑んでいた。
「ところで、なんで二人は立花のこと知ってるの?」
「「……本気で言ってます?」」
真顔で、シンクロ発揮されて、小馬鹿にするように俺に言ってくる二人。
あ、やっぱり有名人なんですね。
何で俺はこうも、交友関係というか、外聞に疎いのだろうか。
そして女の子の情報に変に詳しい恭平が、そのまま説明してきた。
「二年生の成績上位者として常にトップに名前が挙がり、生徒会副会長であり、なおかつ去年の神威トーナメントでの優勝したグループの一人ですよ、彼女」
「いやぁ、確かにあれはすごかったすよねぇ」
うんうん、と頷くようにして神威トーナメントの情景を思い出しているのか、雄二も腕を組みつつそんなことを呟いた。
へぇ、全然知らないからわかんない。
「やっぱり私のことを知らなかったのは、桜井さんぐらいでしたね」
くすっと立花は品のある笑みを浮かべて、俺にそう言ってくる。
本当に申し訳ございませんでした。
「しかし貴方たちがここに来るということは、つまり……」
「つまりはそういうことだ」
この二人にそそのかされてな、と一言付け加えて。
「しかし大丈夫なのですか?」
「何が?」
「まだ神威を発現させて初日。今からクラスマッチまでざっと1か月ないでしょう。それまでに彼女の権能を把握し、理解し、戦闘に活かしきることが出来ますか?」
なるほど。彼女の言うことは最もだ。
どこかで読んだことがある。戦闘に必要なのはまず自分を知ることであり、敵の分析はその後に行うものだと。
敵を知っても、その敵に対して何か出来なければ意味ないからだ。自分自身をより知っておけば、何か対抗できる術が出来るかもしれない。
それに戦いとなると、自分は経験したことないが、なんかあるんでしょ?
その、ひよっこは引っ込んでおれ!? 的な?
「やっぱり俺、今回――――」
「何言ってんすか。二人でフォローするって言ってるじゃないっすか」
「そうですよ。それに、マキちゃんを見てください」
マキを? 何で?
とか思って彼女を見ると、いかにもやる気があります! と言わんばかりに、腕をシュッシュっと突き出したり引いたりしていた。
和む。なんて破壊力だ。
って、そうじゃない。彼女がやる気なのだ。パートナーであろう俺が引いてどうする。
「引けない状況なんで、今回はフォローしてくれる二人に合わせます」
「そう。でも、審査で通るかどうかは別ですよ。以外と今年の生徒会長、厳しいですからねそういうこと」
立花が坦々とそう伝えてくる。
「大丈夫っすよ。マキちゃんは並みの神威とは違うっすからね!」
「その根拠はどこから?」
「勘!」
雄二の一言によって、立花さんの非常に白けた表情が完成した。
そういう顔も出来るんだな。
「失礼しました」
ダラダラと廊下でそんなことを会話していると、扉越しに聞こえてくる生徒の声。
どうやら俺たちの前に入った生徒達の審議が終わったようである。
声色は至って普通だったので、出場できるか出来ないかは分からないけど。
そのまま出てくる女生徒三人。扉を出てB棟の方へと歩いていく。
何歩か歩いたあと、露骨なアピールみたいなものが見えたので、恐らく出れるようになったのだろう。
良かったね。
「ていうか審議ってやつは、こんな狭い部屋で出来るのか」
「それは入ってからのお楽しみですよ、桜井さん」
俺の何気ない一言に、立花がニッコリと微笑みそんなことを呟く。
ふぅん。まあ、何か策みたいなものはあるのだろう。
そんなわけで立花が部屋を開けて、「どうぞ」と小さい声で生徒会室へと招く。
意気揚々に雄二と恭平が進む姿を見て、俺もマキちゃんと一緒に生徒会室へと進んだ。
明日も更新します!
次回、ようやくマキちゃんの本気が……!?