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3話:お昼での邂逅

 昼休憩。ようやく注目から解放される。

 今いるのは人の少ない中庭のベンチ。五月になって暖かくなってきたが、やはり学食から中庭が遠いのが原因だろうか。それとも外で飯を食べるのが億劫なのだろうか。使用する人がかなり少ない。

 現在、俺は昼食を買いに行った雄二と恭平を待っている。

 時折こちらを見てくる目があるが、そこまで気にされる様子もなく――ただ単に俺が気づいていないだけかもしれないが――平穏な時間を過ごすことが出来ている。

 

「ずっとこうならいいんだけどな」

「――――」


 俺のボヤキに、マキがニコッと微笑んで小さく相槌した。

 これから数か月は色々と噂とか注目とかあるかもしれないが、よく言うではないか。

 人の噂も七十五日、と。

 二、三か月待てば沈静化すると考えれば、まだ我慢できそうだ。


「ま、今はそんなことどうでもいいよな」


 そういう訳で弁当箱を開ける。

 綺麗におかずが並べられた弁当。白米の上には海苔で「ファイト」と小さく書かれていた。

 母さん、もう恥ずかしいから言葉とか書かなくていいって言ってるじゃないか。

 しかし、それでも味は素晴らしいのだ。

 料理上手の母親には感謝するべきだと思う。


「マキはご飯食べなくていいのか?」


 神威な彼女に食事が必要なのかは分からないが、とりあえず訊いてみる。

 マキは俺の言葉に小さく頷き、しかし弁当の端っこにあったウインナーをひょいパクした。

 ひょいパク。ひょいっと自然に取ってパクっと食べる。

 流れがあまりにも綺麗すぎて、思わず「おー」と言ってしまう。


「食べなくてもいいが、物は食べられるってことか」


 俺の言葉に、マキちゃんは首を縦に二回振る。

 なるほど。あくまで神威にとって食事は重要な欲求ではなく、趣味とか、好奇心とか、そういったもので摂るものなのだろう。

 知れば知るほどなかなか興味深いな、神威という生き物は。


「ていうか、そもそも生き物なんだろうか」


 これを通常の生き物としてカウントしていいものか、それは分からない。

 と、そんなくだらないことを考えつつ弁当を摘まんでいると、ふと左側のスペースを開けていたベンチに人が座ってくる。

 しまった。物でも置いて二人のポジションを確保しておけば良かったな――と。

 そんなことを思いつつ、俺は横目で腰を掛けた人物を覗く。

 

「――――」

「…………あの」


 こちらが覗かれていてビビった。

 初対面なのに、声を思わずかけてしまうほどには動揺した。


「あら、すみません。わたくし、こうして人型の神威を見るのが人生二度目でして。思わず我を忘れてしまいました」


 大変綺麗な言葉遣いである。

 少なくとも、恭平の裏がありそうな敬語とは違って気品を感じることが出来た。

 見た目もなかなかにお嬢様っぽいことが分かる。

 長い髪は艶があり、頭の両脇から少しずつ髪をとって編み込み、後ろで束ねている。

 所謂、ハーフアップという結び方だろうか。とても似合っていた。

 顔立ちはマキのような可愛らしい顔立ちというより、品のある大人びた、美女という類だろう。

 ネクタイピンの色から同級生なのは分かるが、道端で並んでいれば間違いなく同年代とは思われまい。


「はあ、やっぱりそうなんですか」

「ふふふ、その様子だと、かなりの人に声をかけられていらっしゃいますね」

「声はかけられてないんですが、まあ、かなり見られますよね」


 コイツ、他の神威みたいに消えたりしないもので。

 と、そう言ったところで彼女は面白そうに笑った。


「神威は基本的に透過が得意なのですが、稀に透過が苦手な子もいます」

「へぇ。それは知らなかった」

「一般常識ではありませんこと?」


 と、くすくすとお嬢様が笑う。

 いやいや、こちとら神威超初心者なもので。

 多分、幼稚園児と神威雑学クイズをすれば速攻で負けてしまうだろう。


「あらあら、その顔を見たところ、あまり神威に関して知識がないみたいですね」

「……分かりますか」

「そうですね。あとその子、もしかして今日初めて姿を現したりしたのでは?」

「貴方は名探偵か何か?」


 流石に怖くなってきたぞ。

 俺の訝しげな様子に、お嬢様はまたくすくすと笑った。


「元々神威を発現出来ない人は、神威に関する知識が少ない人、もしくは神威という存在に憧れを抱いて猛勉強したり、パソコンで調べて知識を得ている人の二パターンに別れます。貴方……えっと、お名前は?」

「桜井です」

「桜井さんは前者のパターンだと思いました。そしてそんな貴方が神威を連れている理由は、近頃になって初めて神威を発現させた――そんなことではないかと察したのです」


 この年代で発現する人はかなり稀有なんですけども、と言っていたが、そんなことはどうでも良かったのだ。

 彼女の洞察力はすごいな。

 素直に拍手することにしといた。

 マキもつられて手を叩く素振りをする。

 なんだこの可愛い生き物。

 ……あ、ちょっと待って。マキに囚われすぎて訊きそびれるとこだった。


「何で今日神威が出たっていうの分かったんですか?」


 もしかして昨日とか一昨日とか、近頃というのは今日だけではないはず。

 俺の疑問に、彼女は「それはですね」と答える。


「私、毎日他の人の神威を確認するようにしているんです」

「……えっと、なんで?」

「なんでって言われても――あら、もしかして私のことご存じではない?」


 と、目を丸くして言われた。

 ご存じではない? ということは有名人か何かなんだろうか。

 といっても普段テレビあまり見ないしな。部屋でネットサーフィンばかりである。


「その様子を見る限り、知らないようですね。結構これでも、学園内なら知らない人はいないんじゃないかと思っていたのですが、まだまだ頑張らないと」

「えっと、なんかすみません」


 声は聞き覚えある気がするんだけどな。


「いえ、こうして貴方のような人と喋れて、今日は幸運でした。可愛い神威ちゃんともお逢い出来ましたしね」


 と、ニッコリしてマキを見るお嬢様。

 マキも嬉しそうである。

 彼女はその後、俺の方にゆっくりと向き、


「では、改めまして。私、二年四組の立花菖蒲たちばなあやめと申します。この私立三ツ谷学園の生徒会副会長です」

「……まぢですか」


 生徒会の副会長を知らないとか。

 そういえば声は聞き覚えあると思っていたが、思い出した。学校の朝礼とかで彼女が司会をしていることが多いのだ。

 ただ大抵立ったまま目瞑って話を聞いているか、他の親友たちと雑談していたりしたので、顔をゆっくりと拝見出来る時間が無かった――ということだろうか。

 とりあえず、


「すみませんでした」

「別に謝る必要はないと思いますよ。何しろ貴方と私は初対面なのですから」


 知らなくて当然です。

 と、彼女はきっぱりと言った。とても有り難い。


「あと口調は普通でいいですよ。私のこれは素ですが、桜井さんのは無理してるでしょう? 同学年なのですから、タメ口で良いのですよ?」

「……そう言うなら、お言葉に甘えて」

「それはそうと桜井さん。貴方、部活動は何かやっておられますか?」

「いや? 特には」


 中学校まではサッカーをやっていたのだが、高校に入ってからは気分で部活には入ってなかった。

 俺の発言に、彼女は嬉しそうに、「そうですか」と小さく声を漏らす。

 全く意味が分からない。


 そこから他愛のない話を繰り返した。特に中身のない、大変学生らしいダラダラとした会話だ。

 しかしそれも十分程度。

 俺が弁当を食い終わりそうになった時、彼女が動いた。


「もう少しお話しを、と思いましたが、初対面ですし今回はこの辺で」

「あ、はい」


 立花は一人で納得したようにそう言うと、ベンチから腰を上げた。


「それでは、また」

「はい。また」


 気分良さそうに彼女はそのまま校舎の中へと消えていく。

 俺はマキと共に中庭に残され、今の今までの状況を思い返す。


「全く意味分からないな」


 突然注視され、声を掛けられ、名探偵ぶりを発揮させられ、最後に部活動の有無を尋ねられる。

 そして初対面の人とダラダラと、長年の親友かよと思えるほどのどうでもいい雑談。

 いつもなら「なんだこれ」とでも言ってしまいそうではあるが、しかし別段として、それは驚くべきことではないのだ。

 俺は今日という日、朝から驚愕の連続である。この程度のことで動揺を起こすことはなくなっていた。


「……それはそうと、二人とも遅いな」


 購買に行った二人がなかなか来ないことに気付いた俺は、スマホを取り出した。

 スリープモードから解除すると、画面にすぐさま出てきたワード。


『購買で良いの買えなかったから、学食でうどん食うことにしたっす』


「……うん、まあ、いいか」


 本日はマキという新しい知り合いが出来たのだ。

 彼女とじゃれ合いながら、今日の昼の残り時間を過ごすことにしよう。




学園物語に生徒会。

やっぱりいると思います!


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