本当の勝負
※3日前の分を更新し損ね申し訳ありません。一回飛ばしてしまいました。今後は気をつけます。
――地球人類暦2245年12月12日 午後0時
シリウス太陽系 第4惑星ニューホライズン 近隣宇宙空域
単機囮役を買って出たエディ機はグッと速度を落とし、シリウスシェルが襲い掛かってくるのを待ち構えた。そのエディ機周辺には原子核の周りを周遊する電子の様にマイクやアレックスがリーナー機、ドッド機、ウェイド機を従えて高速で周回している。
『さて、仕事熱心なシリウスの皆さんが起こしになるぜ!』
いつもの様に緩い調子のマイクが言う。やや遅れてアレックスがシェルの周回軌道を段々と膨らませて機動を大きく取りはじめた。まるで待ち構えるかのようにしている内側のシェルだが、そこを遠巻きに眺めつつ雑多な軌道を取って遠巻きに周回しているジョニーたちの4機は、今まさに襲い掛からんとしているシリウスのシェルを眺めていた。
『連中、あくまで格子の陣で襲撃する腹らしいな』
『基本的にそれ以外は引き出しが無いんじゃないか?』
デルガディージョの声にウッディがそう応えた。
そして、笑いを噛み殺す声のヴァルターが言う。
『こっちも対応策を検討させてもらおうぜ』
『そうだな。今のうちに研究させてもらおう』
ジョニーの言葉が引き金になったのか、この段階で一斉にシリウスのシェルが動き出した。格子の陣形を保ったまま一斉にクルリとターンした敵シェルは、エディ機を押し包むかのように散開陣形の相互間隔を縮小させながら弾幕を圧縮して突入してきたのだった。
『さて!』
『始めるか!』
マイクとアレックスの声を契機に地球側のシェルが一斉に動き出した。
エディ機の周辺を周回していた内陣機は爆散するように軌道を大きく広げて散開し、シリウスシェルの格子陣へバラバラの角度から斜めに切り込んでいった。
こうする事により陣形の整った状態から一斉攻撃させるのを防ぐのだが、遠めに見ていたジョニーはそんな動きを何時の間にトレーニングしたんだろう?と不思議がっていた。
『さて、こっちも掛かろうぜ!』
先鞭を切って突入して行ったのはデルガディージョだ。
それに続きヴァルターやウッディーが突入していく。
『あっはっはっは!』
『全然こっち見てねぇぜ!』
『鴨撃ちとはこの事だ!』
大きく広がっていた3機がその輪を閉じるようにシリウスの陣形を側面から攻撃し始めた。4つの面を持つ格子の陣を3面で攻撃すれば1面だけが手すきになる。その辺りのシリウスシェルが内部の空いた場所へ補充にずれていくと、攻撃を受けない面だけが削れてえぐれて凹んでいく。
『なるほど、コレなら良いか』
そこ目掛けてジョニーは襲い掛かっていった。周辺から続々と削っていくジョニーたちと内側から斜めに当るマイクたちの相互連携は、格子状の陣形を驚くほどの速度で削っていく。
総勢で100機近い大編隊だったシリウスシェルだが、気がつけば予備戦力を全て使い切ったようで、いまだ戦域に留まっているのは僅か20機足らずだった。
『生かして返すな! 後が面倒だ!』
戦闘増速したエディ機は、ジョニーがして見せたように複雑な軌道を描き、そして、複数のシェルの逃げ道を同時に塞いで直撃弾を入れてみせた。全く無駄の無い動きは芸術的ですらあった。
『すげぇ!』
『さすがだ!』
ヴァルターやデルガディージョも舌を巻く抜群のコントロールで戦うエディ。その流れるような動きを見ていたジョニーは、言葉を失って一瞬だけ見とれていた。
一瞬の間に7機を撃墜したエディは、さらに機体を捻って新しい機動要素を取ると、残っていた10機以上のシリウスシェルに牽制射撃を入れ始めた。
『全機支援しろ! 一気に終わらせるぞ!』
無線の中に返答が流れた。そして、501中隊のシェルはそれぞれバラバラだが統制の取れた動きを見せてシリウスシェルを囲い込み始める。それは、ハルゼ―の艦内で散々練習した団体行動の動きであり、それだけでなく散々と練習した編隊を維持して集団行動を行うトレーニングの成果でもあった。501中隊の男たちはいつの間にか、全く無言でも意思の疎通を可能とする信頼で結ばれていたのだ。
『ヴァルター! そっちへ行った!』
『オーケー! 死んで貰う! ウッディ! フォロー頼む!』
『任せてくれ』
散開した各シェルは各々に異なるRの旋回軌道をとって一点に集約していく。魚群に向かって大きな網を広げ、文字通りに一網打尽の動きで一気に全滅させたのだった。
『全機集合!』
エディがそう発令した時、501中隊以外に動くシェルは一機も居なかった。
『この軌道要素なら破片群は全部シリウスベータに落ちるな』
『手間が無くて良いさ』
編隊の周辺を大きく周回していたウェイドとアレックスは、巨大な破片群となったシリウスシェルの残骸が辿るコースを計算で導き出した。そう遠くないうちにシリウスベータの強力な引力に引っ張られ、全部落下してしまう事だろう。
青く眩く輝く『シリウス』と言う星は巨大ではあるが、その影にある伴星となった白色矮星のシリウスベータは光りを碌に発さず暗い星になっていた。ただ、その重力は本星シリウスに引けを取らず、辺りにあるもの全てを引きずり込んでしまうのだった。
『我々も吸い込まれる前に脱出しよう』
先程までの喧騒を忘れた無線の中にエディの静かな声が流れた。戦闘の興奮が収まったジョニーは頭の中心にズーンと疼痛を感じていた。そんな時、エディの静かな声はまるで頭痛薬の様にスーッと溶けていってしみこんでいった。
――さて…… 帰るか……
ふと、そんな独り言を呟いたジョニー。すっかり気を緩めてしまい、なんとなく戦域情報モニターに目を落とした。近隣5000キロ圏内に敵影は無く、所々に何らかの乱反射によるゴーストが浮いているだけだ。
『中々の手応えだな』
『こういった集団戦闘をもうちょっと洗練したいもんだな』
マイクとアレックスはオープンな条件でアレコレとディスカッションを繰り返している。その姿勢は常に向上を目指し、また、促すものなんだと皆が感じるようにだ。部下統率の基本姿勢を常に体現するふたりの大尉は、士官候補生としてエディに預けられた若者たちを教え育てる指導者としての振る舞いに腐心していた。
『まぁ余り魂詰めてやるとフとした時に切れてしまう。適度に緩くやろう』
エディは咎めるでもなく慌てるでもなく、柔らかな口調でそう言った。大尉とは違う形の部下統率を見せるエディの姿はジョニーにとって、遠い日に見た父親の背中といつの間にかダブっていた。
モヤモヤとした感傷の様な気持ちを持て余しているジョニーだが、何かを言おうと言葉を選んで考えているとき、戦域無線が悲鳴に近い警報を発し始めた。慌てて近隣地域に敵影を探すも有効なエコーは無く、宙域戦闘情報リストをリフレッシュさせてデータを精査すると、対地砲撃準備中だった戦列艦の艦隊がシリウスの戦闘兵器から断続的に攻撃を受けている様子が映し出されていた。
『おいおい、マジかよ……』
『こんな所に居やがった』
再び口を開いたマイクとアレックス。だが、それ以上の言葉は無い。モニターを食い入るように見つめていた501中隊の面々もまた、唖然として言葉を失っていたからだ。
モニターの向こうに例のピエロのシェルがいた。朝方にハルゼ―の艦内で見た、ウッディが言う『アグレッサー』と思しき腕利きの連中だ。501中隊の面々と同じか、若干それ以上にシェルを使いこなしているような印象も持ったのだが、それ以上に驚いたのは対地砲撃の準備をしていた戦列艦が、次々と撃破されている事だった。
『……やるなぁ』
そう呟いたエディ。ジョニーはなんとなくだがエディは嬉しそうだと感じた。
直援に当たる戦闘機隊を全て撃破したシリウスのシェルは戦列艦の防御火器をかい潜り、幾つもの大型艦艇をシリウスβに向かって墜落させつつあるその戦闘シーンは、皆から言葉を奪っていた。
――近隣地域全航空戦力に通達。タスクフォース038が襲撃を受けている。大至急支援に迎え。繰り返す……
『作戦本部が、なんか言ってるぜ?』
マイクの声は笑いをかみ殺すように不自然な歪みを伴っていた。今すぐにでも突撃しようと言い出しかねない雰囲気なのだが、エディは返答を保留していた。
『エディ?』
『ちょっと待ってくれ』
『どうした?』
訝しがったマイクの声は、どこか不機嫌な色を帯びていた。楽しいおもちゃを取り上げられた子供の様な雰囲気だが、エディに代わりアレックスがすかさずフォローを入れたのは流石だとジョニーは唸った。
『あのピエロ集団、なんか動きが違うと思わないか?』
『……言われてみればそうだな』
『さっきのシリウスシェルはスピードリミッターの掛かった一般型だが……』
何かを言い掛けて言葉を飲み込んだアレックス。言いたいことは皆理解している。どうみたって自分達と同じ機動力を持った高機動型だ。言い替えるならそれは、標準型のシェル。つまり、本当のシェルどうしの戦いとなる公算が高いと言うことだ。
『どうするエディ』
ここから先は中隊長の高度な政治的判断となる。一方的な勝利を得られれば最高だが、その逆の場合は中隊の存亡に関わる事になる。
『大勝ちは難しいが大負けもしないだろう』
『ただ、シリウス側に負けなかったと言う実績を作られるのは歓迎しないことだ』
やるのかやらないのかハッキリしろいとけしかけたマイクに対するエディの返答は、ジョニーたち候補生にとってすると何とも掴み所の無いものだった。
『要は負けなきゃ良いんですよね?』
重い空気をかき混ぜるように明るく言い切ったデルガディージョは、やろう!と言わんばかりに口火を切った。若者らしい無鉄砲さと言えば聞こえは良いが、それでもどことなく危ういと思わせるような部分もある。だが……
『やばいと思ったら逃げて良いですか? まぁ、なんとか抵抗を試みますが』
同じように明るい声でヴァルターも戦闘を提案した。
その後を待っていたかのようにウッディが口を開く。
『正直怖いですが、やるからには勝ちましょう。困難が人を強くするはずですし』
存外に熱い男だとジョニーは思った。そして、ふと父の背中を思い出す。
――困難から逃げるな
……と、いつもそう言っていた父だ。
――お前が困難から逃げると、夢はお前から逃げていく。
――だから逃げるな。立ち向かえ。
そう言っていた父は、いつもいつも、困難に立ち向かう強さをみせていた。どれ程の強敵であっても、腰に下げたピースメーカーとシェリフのバッジだけを持って立ち向かっていた。いつも無傷で帰ってきた父をジョニーは誇らしく思っていた。
『ウッディの言うとおりだと思う。強敵と立ち向かうから強くなれる筈だ』
ジョニーは力を込めてそう言い切った。途端にデルガディージョやヴァルターが『その通りだ!』と相槌を打った。若き候補生達の熱い言葉をエディは頼もしく聞きつつも、ふとドッドに意見を求めた。
『どう思う? ドッド』
一瞬の間が開き、ジョニーはドッドの言葉に耳を傾けた。
『……現状では負けはしませんが勝ちきるのは難しいかと。ただ、向こうも手探りの筈です。これから先々、あの連中と何度もやり合う可能性を考えたら、今はこっちが有利ですから、まぁ、出来るかどうかは別として、苦手意識を植え付けるには絶好の機会じゃないかと思いますが…… こちら側にどれ程の被害と犠牲を許容出来るかと言う部分で難しい判断です』
長いこと中隊長付きの下士官長を勤めてきた男はこう見るのか……と、ジョニーやヴァルターは舌を巻いた。冷静に状況を判断し意見を述べ、隊長を補佐する役目とはこういう事なのかと学んだ。
(凪の海では、船乗りは成長出来ない)
『A Smooth sea never made a skilled sailor』
静かにそう呟いたエディは『……よし』と小さな声で決断した。
ジョニーはグッと奥歯をかみしめて次の言葉を待った。
『全機、武装を再点検しろ。あのピエロ集団とガチンコでやり合うぞ。俺が言うべき事は一つだ。絶対に死ぬんじゃないぞ。良いな』
全員が『イエッサー!』と返答し、一斉に機首を返した。両椀の武装ポイントに付いている予備弾薬部分へリロードを行い、再びガチでやり合う準備をする。戦闘中の高G環境では出来ない作業だ。サイボーグなのだから深呼吸という訳にはいかないが、それでもジョニーは心で深呼吸を行って、そして、どこかへ出掛けたきりの冷静さを呼び戻す努力を続けた。
――それから約1時間後
ニューホライズンを周回しているタスクフォース038は、大型戦列艦3隻を中心とする総勢25隻ほどの対地砲撃チームだった。ニューホライズンを平均100分ほどで周回している戦列艦は単縦陣を組み、約3分ほどの時間差を開けて地上拠点へ集約砲撃を加えていた。
まだ比較的浅い角度での対地砲撃から始まり、有効射撃角度内にある内に7斉射か8斉射を行うのが攻撃の流れだ。それを3隻の戦列艦が時間差で行うのだから、地上では小規模な隕石が平均して30秒に一発ずつ落ちてくる事になる。重量1トンに迫る有質量砲弾が地上へと着弾すると、いかなる装甲を持つ施設であっても木っ端微塵では済まず、綺麗に蒸発して消えるのだった。
『しかし……』
思わず言葉に詰まったデルガディージョは次の言葉を探しあぐねていた。それに助け舟を出すようにヴァルターはつぶやく。
『艦砲射撃ってエライ迫力だよな』
『全くだ。こんなの受ける側は溜まったもんじゃない』
どこか新鮮な驚きを見せているデルガディージョを横目に、ジョニーとウッディは渋い表情だ。もっとも、シェルのコックピットにいる限り、外部からそれをうかがい知ることは出来ないのだが。
『さて、掛かるぞ!』
戦列艦へと到達した501中隊の前には、あのシリウスのピエロマーク付きなシェルだけでは無く少しばかりだが標準型のシェルがやって来ていた。総勢でも30機程でしかないが、護衛の戦闘機全てを失った艦艇にしてみれば、そのシェル全てが死神と同じだった。
『こりゃ……』
『ヒデェな』
砲塔収納部分を集中的に攻撃されたのか、各部を大きく大破させて半ば漂流状態になりつつある。そんな戦列艦の艦尾付近には消えかけたペイントがあった。目をこらしてそれを見たジョニー。直撃弾を受けたらしく消えかけている部分もあるが、レパルスの文字を読む事は出来た。
『戦列艦ってここまでやられるもんか?』
『目の前に証拠があるんだ。やられる時はやられるんだろ』
『大艦巨砲主義は航空機により粉砕されるって所だな』
マイクとアレックスは相変わらず緩い調子だったが、エディ機を独楽の中心にして回転しつつも放射線状に広がっていく。先ほどと同じく、大きく包囲するような流れだ。
そこへシリウスのシェルが襲いかかってくるのだが、先ほどのような格子の陣では無く、各機が狙いを定めて一対一の勝負を挑むかのような動きだった。
『サシでやり合おうって感じらしいぜ!』
『受けて立ってやろうぜ!』
デルガディージョとヴァルターが先頭切ってシリウスシェルに向かい突撃していった。その後ろをウッディが固め、3機編隊となってデルタ陣形を取っている。
――あれ、やばくないか……
ふとそんな事を思ったジョニーは平面では無く立体として考え、デルガディージョ達の編隊から単機大きく距離を取った。そして、エンジンをギリギリまで絞り慣性だけの飛行に切り替えて全周囲へ意識を飛ばし敵機の警戒をしている。
――どこから来る? どこから…… どこから……
ジョニーの興味はその一点に集まっていた。全方向へ気を使いつつ待っていたら、デルガディージョ達の3機へ向けシリウスのトロい方のシェルが襲いかかっていくのが見えた。
およそ10機ほどのシェルだが足の遅さは如何ともし難く、一瞬にして陣形を散開させつつ挟み撃ちにしたり、或いは、錐もみ状に追い詰めて撃破を繰り返していた。余りのスペック差なのだから、こんなシーンは当たり前のレベルだ。
――アッチは問題ないな
信頼溢れる眼差しで仲間を見つつ、ジョニーはレーダーのエコーに神経を集中させていた。自分が操縦するシェルと同じ動きをする、高機動型のシェルを探したのだ。最凶最悪の敵は皮肉な事に自分のシェルと同じ機体だった。
――いた!
この3ヶ月の間に何度も脳内でシミュレーションした相手だ。
そして、対戦してみたいと願った相手でもあった。
だが……
――あれ?
ラッパを咥えたピエロのマークのシェルは10機では無く12機に増えていた。そして、そのシェル全てに小さな白い狼のマークを付けていた。
――なんだ?
大きなベルのマークを付けたシェルが率いる12機のシェル。
ベルの周囲に音符の飾りが付いたのは明らかに指揮官機だと思われた。そのすぐ傍らには副長なのだろうか、煌びやかなティアラのマークを付けたシェルがいた。
――アレが…… ボスか……
訝しがったジョニーだが、先ずは襲いかかってみなければわからない。
一瞬だけ逡巡し、次の瞬間には機を横へ滑らせて斜めに襲いかかっていった。
――いくぜ!
チェーンガンを乱射しつつ一気に斬り込んでいったジョニー。同じシェルだけ合って向こうも重装甲だ。幾つも直撃弾を与えているが、装甲を貫通するほどでも無いようだ。
正対し一気に距離を詰めて撃ち込まない限りは貫通が難しいのだと気が付く。ただ、だからといってやらない訳にはいかない。この突撃は挨拶代わりでしか無く、本当の戦闘はここから始まるのだ。だが
――え?
襲いかかっていったジョニーに対し、音楽を奏でるピアノのシルエットが描かれたシェルが迎撃にやって来た。そのすぐ脇には音を飛ばすヴァイオリンマークと、同じように音を飛ばすフルートのマークがいた。
見事なコンビネーションを見せて立体的に機動を入れ替えつつ、変幻自在に舞うような動きを見せてジョニーの前に立ちはだかったのだった。
――ッチ!
短く舌打ちして機体を捻り込みながら隙間を抜けベルのマーク付きシェルに肉薄を試みるジョニー。だが、ベルのマークとティアラマークの影に別のシェルがいるのに気が付いた。
真っ赤な薔薇のシルエットにリボルバー拳銃のシルエットを重ねたマークの付いたシェル。そして白い百合を持ち、フード付きのマントを頭から被っている女性のシルエットのマークを付けたシェル。この2機は大きなベルのマークを付けたシェルのすぐ近くを寄り添うように飛んでいたのだった。
――もしかして…… 新人か?
どこか辿々しい動きにも見えるその2機は、ベルのマークが付いたシェルと優先で連結されていた。一番最初に自分自身が飛んだときは、エディの手で問答無用にシェルに押し込まれ、構う事無くカタパルトで叩き出されたもんだ。
しかし、ベルのマークに導かれた2機のシェルは、まるで手を取って引っ張って貰う歩き始めたばかりの子供のように、辿々しい動きでベルに寄り添っていた。
――どっちにしろ構う事無いな
再びチェーンガンを構えて襲いかかっていくジョニー。そのジョニー機に向かって、今度はやや離れた位置にはワイングラスからこぼれるワインのマークを付けたシェルがカバーに襲いかかってきたのだった。しかもその隣にはハイヒールとルージュのシルエット付きが見えていて、文字通り壁になって立ちはだかるように迫ってくるのだった。
――邪魔すんじゃねぇ!
精一杯のマニューバでかわしたジョニー。音楽トリオに続き、2機の遊び女をかわして尚も迫るのだが、少し離れた場所に居たらしい、交差した2本の剣のマークを付けたシェルと羽ばたく青い鳥のマークが付いたシェルが新たにカウンターを仕掛けてきていて、その奥には長く尾を引く流れ星のマークを付けたシェルが居た。
――マジかよ!
金星狙いで一気に襲いかかったジョニーだったが、逆に8機のシェルから追いかけ回される事態へと陥った。そのどれもが連携の取れた美しいフォーメーションを見せていて、素早くポジションを入れ替えながら次々とジョニーに一撃離脱を試みていた。
『ジョニー! 今行くぞ!』
切羽詰まって言葉も出なかったジョニー。その耳にはエディの声が届いた。それと同時にジョニーへ狙いを定めていたシリウスのピエロシェル各機が一斉に銃撃を受けていたのだった。
『エディ!』
『気を抜くなよ! 勝負はここからだ!』
エディに励まされ、ジョニーは奥歯を食いしばってピエロのシェルに食い下がっていた。501中隊の機動飛行に全く引けを取らない見事な機動をみせているシリウスのシェルは、連邦側と同じく秒速34キロの猛スピードで宇宙を駆けていた。
『勝負はここからだぜ小僧!』
同じくフォローに入ったマイクはアレックスと連携して2本の剣のシェルが率いる3機と戦い始めた。数に頼んで押し掛かってくるシリウスだが、マイクのアレックスのふたりは息の合った連携を見せ、徐々に押し返しつつあった。
――すげぇ!
驚きの眼差しで見ていたジョニー。その機体へ突然幾つもの直撃弾を受け驚く。さすがの装甲で全部防ぎきり難を逃れたジョニーだが、襲いかかってきた音楽トリオのシェルは次々とポジションを入れ替え連続攻撃を仕掛けてきた。
必死の機動でその全てをかわすべく逃げ回るジョニーだが、その最中、言葉では表現出来ない不思議なものをジョニーは見た。相手の機体の次の挙動が。ほんの数秒後に行うであろう全ての挙動がイメージとなって見えたのだ。
『見える! 俺には見えるぞ!』
無意識に叫んでいたジョニー。
音楽トリオの攻撃を全て躱しながら、ジョニーはほんの数秒後の世界を前提に反撃のチャンスをうかがうのだった。




