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黒い炎  作者: 陸奥守
第三章 抵抗の為に
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デビュー戦


 ――シリウス太陽系 第4惑星ニューホライズン 周回軌道上

    シリウス標準時間 9月7日 午前






「ディージョ! カバーが遅い!」

「ソーリー! サー!」

「ヴァルター! ウッディー! ドッド! 点で押すな! 面で押せ!」

「イエッサー!」

「連携ってモノを甘く見るな。単騎で飛び出せば袋だたきにあう」


 少尉候補生達のシェルトレーニングが始まって1週間。ハルゼ―艦内で嫌と言うほど行軍訓練を行った候補生達は、平面における『戦列』の概念を理解した。遠い遠い昔、平面でしかない草原の上を馬で駆けた騎兵達は横一線の戦列を敷いて的に対し『面』で圧力を掛ける戦い方を行った。それと全く同じ考え方を3次元空間で行おうというのだ。


「ジョニー! ウッディー! 囮になる時は気合い入れて行け!」

「イエッサー!」


 どんな戦闘でも必ず囮は必要になる。

 敵を誘い込む餌は生きが良くて動きも良くて、そして、撃たれ強くて仲間を信頼出来る心の強さも必要になる。その役目を負うのは、いつの間にかジョニーとウッディの役目になっていた。


「よし、もう一度フォーメーションの確認だ」


 エディはマイクとアレックスの両大尉にリーナー少尉を加えた4名で少尉候補生達の作る『面』を突破し奥へ進入する動きを繰り返した。面で防御する陣形を突破してくるシリウス戦闘機の動きをシミュレートしているのだ。

 それに対しジョニーとウッディはまず自分が身体を張って敵の動きを止め、その機動を邪魔し続ける事によって気を引き、一瞬の隙を突いてフォローに回る側が敵を撃墜するフォーメーションだ。


「そろそろ向こうも本気で反撃してくるだろうからな。今のうちに腕を磨け」


 エンジンを最大推力に上げて複雑な軌道を描きながら突入を図るエディ。その左右を固めるマイクとアレックスは面封鎖を図るドッドやウェイドの進路を塞ぐべく牽制射撃を入れた。

 シェルを使った戦闘は航空機同士によるソレと同じく、相手の使える空間を削りあう事が戦術の全てと言って良い。自らの機動力で回避出来ないところへ敵機を追い込み、身動きを封じて手痛い一撃を入れてやる。

 ミサイルが登場する前夜の空中戦は、敵機の後方に回り込み機関銃を撃ち込む何とも牧歌的なモノだった。だが、翻って現代の空中戦は、ミサイルが余りに役に立たない程に機動力を発揮出来る兵器での戦闘だ。そしてその実体は、敵機を機関砲で破壊するという、なんとも先祖返り的な戦闘に戻っていた。


 そんな時だった。


「おっ! 練習相手がお越しなさったぜ!」


 マイクの弾んだ声が無線に流れ、ジョニーは無意識にシェルの戦闘支援モニターを見た。そこには、高速で宇宙を飛翔する種別不明の物体を示す輝点が表示されていた。

 彼我距離は500キロ以上あるが、遮る物のない宇宙空間ではレーダーの餌食になるのは避けられない。まだ小さな点でしかないレーダーのエコーだが、そこに表示されている敵機の数は軽く300を越えていた。


「まさか……なぁ」


 どこか不安げな言葉を呟いたアレックスがモニターの解像度を調整し分析する中、やや離れた位置にいたハルゼーからは続々と戦闘機隊が発艦していた。どの戦闘機も目一杯にミサイルを搭載し、ガチでやり合う腹積りの様だった。


「……パーティーは会費制だろうか?」


 笑いを堪えるエディの声にジョニーはその真意を読み取った。間違い無くエディはこれで戦闘機同士の戦いに介入するつもりだ。最大で秒速11キロに達するバンデットの3倍は速度が出せるシェル。その戦闘力にジョニーも興味を持っていた。


「行ってみりゃわかるぜ。やるんだろ?」


 無線に流れたマイクの声はヤル気に満ちたものだった。新しいおもちゃを買い与えられた子供のようでもあり、そして、未知なる新兵器のデビュー戦には持って来いだとジョニーも思う。

 一方的に蹂躙されることになったシリウスロボのデビュー戦を思い出し、その逆を演じる事になる自らの幸運を神に祈っても良いくらいだ。ニヤけた表情を遠慮なく浮かべたジョニーは突撃命令を待った。


「マイクの言うとおりだ。戦闘機隊が掛かったらその後方から行こう。あまり手の内を見せるのは好ましくないが、デビュー戦位は派手にやらないとな」


 エディの声が終わると同時にジョニーの視界には戦闘手順が表示された。素早く作られたと思しきその表示は、アレックスが送信者だ。


「ざっくりと言うが向こうよりも大幅に機動力がある関係で追い越す事が多くなるだろう。後方から接近し一撃を入れて離脱する。その際、後方こら『オツリ』を貰わないように気をつけろ。当たれば痛いからな」


 無線に流れた言葉に失笑を禁じえないジョニーだが、早くその場へと突入してみたいという衝動を抑える事が出来ない。いまや遅しとエディの『掛かれ!』を待っているのだが、戦端を開いた戦闘機隊の善戦をジッと眺めるエディはタイミングを伺っているばかりだった。


 ――なんで?


 気ばかりが逸るジョニーはウズウズと焦燥感に駆られているが、5分10分と様子の経過を眺めるエディはだんまりを決め込んでいた。


「予想以上にシリウス側の動きが悪いな」


 不意に無線の中へ流れたマイクの声は、焦燥感を持て余していたジョニーの精神に冷や水をぶっ掛けるかのような衝撃だった。つまり、大尉は状況を見て『攻め』ではなく『待ち』を選択していた。


「シリウス側のパイロットレベルが落ちているな」


 状況を冷静に分析したアレックスの言葉もまた、ジョニーの心を鎮めるだけの威力があった。ただ単純に突っかかって行けば良いという事では無い。状況を俯瞰的に把握し分析し、結果を考慮して動く。その立体的な思考は冷静な状況判断を積み重ね続ける事でしか身に付かない。


「何故だろうな?」


 この『何故』を持っていなければ士官は務まらない。沢山の部下を預かると言う事は人の命を預かるのと同義だ。だが、すわ戦闘となれば部下を死地へ送り出さねばならない。自分ではなく部下に『死ね』と命じる事になりかねない。

 だからこそ、士官は常に慎重に慎重を重ね、冷静に状況を分析し、激情に流されること無く、しかも必要な結果を得なければならない。


「俺が思うに、パイロットの多くが素人に毛が生えたレベルだ。おそらくは……」

「あぁ、俺も同意見だ。恐らくは教育学校を出たばかりの新人だろう。ちょっと手荒な洗礼と言うところだ。生きて帰った見込みのありそうなやつだけ専門教育を施すのかも知れん」


 マイクの言葉にアレックスがそう答え、そんな会話を聞いていた士官候補生の6人は場数を踏んだ士官たちの状況判断を固唾を呑んで見守っていた。


「問題は、何故ここに来てそんな素人を出撃させたかだな。シリウス側もヴェテランが育ちつつある筈だ。向こうの戦闘機乗りにしたって、おいそれと撃墜されるような……」


 ここで言葉を飲み込んだエディ。その様子に異変を感じたジョニーは、どこか冷静になって戦闘支援モニターの中から役に立つ情報を探す。

 言われる前に考える。それが全ての基本なのかもしれないのだが、モニター内に表示されているのは、シリウス側の戦闘機がほぼ全滅の状況になった事と、その後方に控えていた別のシリウス戦闘機グループだった。


「やっぱりそうか」

「あぁ」


 マイクとアレックスが我が意を得たりと膝を叩くように声を弾ませる中、ヨタヨタと逃げ帰っていくシリウスの戦闘機を押し包むように、後続の戦闘機隊が大きくスペースを開けて迎え入れた。


 ――さて、出番だな


 逃げ帰った戦闘機を見届けたジョニーが機体を加速させる準備を始めたその時、リーナーが一際大きな声を上げた。


「あいつら督戦隊か!」


 一瞬だけ意識を敵側から放していたジョニーは、視界に写るシリウス戦闘機が次々と爆散していく光景を捉えていた。シリウス側へ逃げ帰った最初の攻撃隊生き残りは、第2陣としてやってきた集団から集中攻撃を受け次々と爆発していくのだった。


「……何やってんだ?」


 不意に不機嫌なマイクの声が聞こえた。その声には隠そうという意識がカケラも見えぬほどに怒りが込められていた。味方の手によって宇宙の塵となったシリウスの戦闘機は、ニューホライズンの引力に牽かれ次々と地上へ落下していった。


「逃げ帰ったところを粛清されたんだな」


 ポツリと呟いたアレックスの言葉が無線に流れ、それっきり無線の中が静かになった。だが、それと同時進行で先ほどとは全く違う戦闘機同士の戦闘が始まった。先程までの一方的な戦闘ではなく、一進一退を見せる激しい戦闘は数に勝るシリウス軍側の圧力を性能に勝る連邦軍側が上手くいなしているような状況だ。


「性能はともかく数がなぁ……」


 珍しくドッドが言葉を漏らした。士官候補生と言う立場に入ったドッドは意図して沈黙を貫いてきた部分がある。何故言葉を発しないんだろう?とジョニーは不思議だったのだが、理由を尋ねてもドッドはそれを説明していなかった。


「数に頼んで嵩に掛かった攻撃はジワジワと効いて来る。こっち(連邦)側の精神的な部分をジワジワと蝕んでいくだろうな。撃っても撃っても限が無いってのは辛いもんだ」


 誰にと言う訳でも無く説明し始めたマイクの言葉にゾッとしたジョニー。第2陣としてやって来たシリウスの戦闘機は、やはり300近い数だった。迎撃に出た連邦軍のバンデットは100少々でしかなく、そのうちの大半がミサイルな銃弾を使い果たすか残り少ない状況だ。


「まさかとは思うけど、最初に来たシリウスの戦闘機って……」


 ボソリと漏らしたジョニーの言葉は皆の不安感を煽るだけだった。考えられない話だが。いや、考えたくない話だが、第1陣は撃墜されるのを前提に出撃させられた集団では無いだろうか。第2陣として襲いかかる戦闘機達が有利に戦闘を運ぶ為に、迎撃側の手持ち弾薬を使い切らす為の、いわば『必要な犠牲』として割り切って出撃させられた者達……


「ジョニーの想像通りだろうな。少なくとも第2陣は新型戦闘機だ」

「あぁ、その様だな。バンデット対抗機種が早速登場というわけだ」


 アレックスの分析を聞いたエディが楽しそうに言葉を返した。ただ、ここでハッとジョニーは気が付いた。あのサザンクロス防衛戦の前。シリウスの地上軍がシリウスロボを投入する前夜に行ったハチャメチャな戦闘……


「第1陣はシリウスの地上で経験した、残存戦力整理の為の消耗前提出撃と言う事に成るんですか?」


 祈るように問うたヴァルターの言葉は僅かながら震えていた。まさかとは思うが貴重な戦力をここまで無駄にするとは考えにくい。ただ、第2陣として殺到した新型戦闘機はバンデットと互角な戦闘を繰り広げ得ているのも事実。


「ヴァルターの話は正解だろうな。つまり、シリウス側にしてみれば旧性能機を持っていても仕方がないので、弾を消耗させる為に使ったと言う事だろう」

「じゃぁ! あっち(シリウス側)は戦闘機の生産に支障がないと……」

「それも間違い有るまい。キーリウスへの艦砲射撃により工場再建と同時に新型の生産ラインを立ち上げたと言う事だろう。転んでもただでは起きない連中さ」


 思わず『うへぇ』と溜息を漏らしたジョニー。同じようにヴァルターも一つ息を吐いた。数で勝るシリウス側は、連邦側の戦闘機をゆっくりたが確実に削り始めている。ジワジワと味方の数が減っていくのを見るのは、精神的な余裕をジワジワと失わせ、連邦側の兵士は追い詰められていく


「……旗色悪しだな」

「あぁ、そろそろ介入の頃合いだ」


 アレックスとマイクはエディの言葉を呼び水するように差し向けた。総勢で三倍近いシリウス相手に連邦のパイロット達は善戦している。しかし、数の差というものは見ている以上に効いてくるものだ。


「性能的に互角なら、最後は数だな」

「あぁ。数は正義。太古の昔から続く勝利の第1法則だ」


 早くしろと急かすようなアレックスとマイクの態度は、ジョニーにもその真意を痛いほど伝えてきた。戦闘支援モニターに映るシリウスの戦闘機は未だ200を越えるが連邦の戦闘機は遂に残数50を切った。


「さて……」


 一言漏らしたエディ。無意識にエディ搭乗のシェルを見たジョニーは、エディ機が腕を左右へ広げ横一列陣形を指示している事に気が付く。慌てて位置を変え陣形を整えた501中隊のシェルは、エディを先頭に立てた楔形のパンツァーカイル陣形をとった。


「速度差がありすぎる! こっちは向こうの3倍速い!」


 エディの指示に合わせたジョニーはヴァルターと共に、右翼の先端付近へ陣取った。横一線に並んだ9機のシェルは、そのやや前方を飛ぶエディ機を追跡する形になっていた。


「乱戦になった場合には味方同士が空中衝突しかねない! この陣形を絶対に崩すな! これから敵のど真ん中を突き抜ける! 自分の正面と左右30度範囲がそれぞれの責任範囲だ。全て撃墜しろ! 向こうが躱しても深追いするな!」


 エディ機は一気にエンジンをブーストさせて加速した。ジョニーもそれに合わせ一気に加速する。速度計の表示が毎秒12キロから33キロへ跳ね上がった。


「シェルは戦闘機じゃ無い! 戦車でも無い! シェルとは自分自身だ! 昔々の大昔、草原を掛けていった騎兵のように! 騎士のように戦え! 行くぞ!」


 エディの言葉に胸を叩かれたような錯覚を感じたジョニーはグッと息を溜め、正面から放射状に広がる10枚以上のモニターを睨み付けた。どこか現実感の乏しい世界だが、哀しいほどの美しい世界でもあった。


 ――戦闘機が止まって見える!


 古来より空中戦における速度差というモノは、機体の性能差以上に効いてくる要素であった。またレシプロエンジンが生み出したトルクでプロペラを回し、風をかき混ぜて戦闘機が蒼空を舞った時代。その速度差が50キロ有れば速度で負ける側は有効な反撃手段すらなかった。

 そして現状では、秒速11キロという途方も無い速度で飛ぶ戦闘機に対し、3倍近い秒速33キロでシェルは襲いかかっていく。徒歩でやって来た兵士に対し、騎兵が槍を揃え一列に並んで戦列を組み、王の剣となって斬り込んでいくのだ。


Follow Me(騎士よ 我に 続け)!」


 エディの声が無線に響く。ジョニーの意識はあのグレータウン郊外の草原へ飛んだ。馬に乗り広大な放牧地を走った日々を思い出した。駆け抜ける風を受け、目深に被ったカーボーイハットのアゴヒモを締め直した父親の口元に笑みが浮かぶ。


 ――オヤジ……


 柔らかな笑みを浮かべた父親の姿。その時、一陣の風が駆け抜けジョニーの被っていたベースボールキャップが風に飛ばされた。慌てて手を伸ばしたジョニーの手をすり抜け、キャップは風になぶられ草原を転がっていく。

 その転がったキャップを手にした父親がジョニーへと差し出した。頭の上にポンとキャップを乗せ、そして歯を見せて笑った。遠い日に見た在りし日の光景。だが、再び強い風が吹いて父の大事にしていたカーボーイハットがめくれ上がり、その下から顔を出したのはエディだった……


「よそ見をするな!」


 突然無線の中に響いたマイクの声。

 ジョニーはハッと我に返り前方を見据え、砲の発火電源を入れた。


「各個射撃開始!」


 エディの声が響き、ジョニーはモニターに見える敵機を続々と攻撃し始める。密集している部分へ遠慮無く突入していき、恐ろしい速度と精確さで次々とシリウス戦闘機をスクラップにして行った。

 約5秒ほどでシリウス戦闘機の密集しているエリアを突き抜け、大きく弧を描いて旋回すれば、遠心力に負けて行き足が鈍る事は無い。再び高密度で存在するシリウス戦闘機へ向けシェルを突入させると、右腕の40ミリモーターカノンと左腕の30ミリチェーンガンをそれぞれ個別に制御しながら、ジョニーは次々とシリウスの新型戦闘機を破壊していくのだった。

 1航過、2航過、3航過と突き抜けていき、5回目の頃にはシリウス戦闘機も随分と数を減らしている状態だった。戦闘支援モニターに映るシリウス戦闘機は全部で50機足らず。5度ほどの航過攻撃の間にジョニーは20近いシリウス戦闘機を撃墜していたのだった。


「そろそろ潮時だな。引き潮だ。シリウスも家に帰りたがっている頃だろう」


 大きく旋回しつつ突入を踏み留まったエディは、シリウスの戦闘機が帰り支度を始めたのに気が付いて居た。


「全滅させなくて良いんですか?」


 ヴァルターは確認するようにエディへ言葉を向けた。しかし、それに返答したのはエディの片腕とも言うべきポジションにいたドッドだった。幾度もエディと共に死線を潜ったドッドだ。エディが何を考えているのかは言われなくとも良く分かっている。


「全滅させるのは当然だが、多少は生かして帰さないと新兵器のデビューをシリウスも気が付かない。映像は見てるだろうが、やはりパイロットの生々しい言葉が一番効くのさ。その為には多少は生かして帰さないと困るが……」


 明らかに笑いを噛み殺しているとわかる口調のドッドはエディの言葉を待った。その一瞬の『間』を感じ取ったエディは、ワザともったいぶる様にして数秒の時間を置き、それからスローなペースで呟くように言うのだった。


「生きて帰るのは…… ひとり居れば充分だろう」


 静かな口調ではあったが、その言葉にゾクリと背筋が震えたジョニー。

 右腕に装備されたモーターカノンは弾薬のリチャージを負えていて、左腕のチェーンガンは残弾が500発以上残っているのを確認した。燃料はまだまだ推力全壊を維持できるだけの量があり、あと数度の突入にも全く問題が無かった。


「エディ! どいつを生かして帰すんだ?」


 マイクが最初に意見を求めた。猛烈な速度差のある戦闘ゆえに、シェルから見れば戦闘機との戦いは事実上のターキーシュート(七面鳥撃ち)状態だ。そんな七面鳥狩りの最中、殺される事なくエディによる『恩赦』を与えられる機体を選んでおく事は、無駄な弾を使わずに済ます意味もあった。だが……


「ブリテンじゃローストターキーはクリスマスのご馳走だ。我々のデビュー戦にこのような恵みをもたらしてくれた主の思し召しに感謝しようじゃ無いか」


 珍しいエディの軽口が無線に流れ、アチコチから笑いがこぼれた。細波のような笑いが収まった頃、エディのシェルが再び右腕を上げ『我に続け』の意思を示した。


「一気に削るぞ! 成り行きで良いが最低一機は生かして帰す!」


 その言葉と同時にエディ機が進路を変えた。速度は秒速33キロを維持したままだ。コックピットの中で目まぐるしく星々が流れ、ジョニーはエディ機に続いてシリウス戦闘機の中へと突入していった。

 まだ残っていた連邦側戦闘機とシリウス戦闘機の戦闘は続いていたのだが、そこへ再び介入していったシェルの姿を見たのだろうか、連邦の戦闘機はその場を離れていって距離を取った。


「それ! 行けっ!」


 エディの声にケツを叩かれ、ジョニーは真っ直ぐに突入していくのだった。

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