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黒い炎  作者: 陸奥守
第十一章 遠き故郷へ手を伸ばす為に
398/425

フィッシュと自己犠牲

2023/1/1 若干加筆修正しました


 ガタガタと音を立てて揺れるティルトローター機は闇の中に居た。

 その揺れにもすっかり慣れたなとテッドは思っているのだが……


「兄貴……あれ……大丈夫っすかね?」


 トニーが心配そうに見ている先には、やや顔色を悪くしているルーシーがいた。

 男女平等の時代であるからして、最前線へも容赦無く女性が送り込まれる。

 だが、性差を無視した平等は、少なくとも公平で公正では無い筈だ。


 行き過ぎた平等要求の結果として、義務を求められる事を拒否出来ない。

 場面場面で見れば結果的に女性が泣くことに成る不平等の場面はあるだろう。


 しかし、総体として見た場合ではその評価が異なる場合もある。

 リスクを求められる場面での活動などでは男性が不利となるケースが殆どだ。


「……まぁ、俺も詳しくは知らねぇが、少なくともちゃんと教育は受けてるはずだからな。なんかあったらフォローに回るが、基本的には――」


 チラリとルーシーを見た後、そっぽを向いてから小さな声でテッドは言った。


「――ほっとけ。場数と経験だ」


 吐き捨てる様に言ったテッドを見た後、横目でチラリとルーシーを見たトニー。

 生身向けの装甲服をガッチリと着込んだ彼女は、自動小銃を肩から提げている。


 士官である以上、常に威厳のある姿で無ければならない。

 海兵隊の荒くればかりが揃う現場に咲く一輪の花。

 そんな環境に送り込んだエディ式スパルタ教育だった。



 中南米 ニカラグア



 基本的に反米左派の政権が多い地域だが、その中でもかなり強硬な反米スタンスを貫いている政権が続く国家だ。南北米国大陸を繋ぐ細いエリアにある国家は、どこも伝統的に白人国家による支配を受けてきた故だ。


 その結果として反米反欧的なスタンスを取る国家が多く、しかもその殆どは民主的な選挙などによって政権が誕生していた。酷い話だが、敵の敵は味方理論で中国側に付いた国家はかなりあるのだ。


「けど、降りる先が……問題っすよ?」


 ガッチリとアーマースーツに身を包んだトニーは、左腕に装備されたウェアラブルPCから味方のヘルスデーターを呼び出した。その中には同行する海兵隊の部隊名が掲載されていて、そこに『FISH』の文字があった。


「解ってる。だからフィッシュから目を離すなって言われてんだろ」


 トニーの心配にテッドがそう応える。降下先の地域は麻薬や武器の密売で利益を上げた地域の有力者がガッチリと武装しているエリアだ。そこへ殴り込みを掛け、拠点化してから国家指導部を目指すことになっている。


 麻薬は地球の親米国家などへ流し、武器各種は地球全域で国連軍と戦うシリウス軍に供給されている。その裏では恐らく中国指導部による暗躍があるのだろう。その証拠をつかみに行くのも任務のひとつだ。だが……


「しかし……フィッシュなんてスラング。誰が思いついたんすかね?」


 クククと笑うトニーは、自分もかつてはそうだったことを棚に上げ笑った。落ち着きの無い新人が戦場で勝手にバタバタと走り回り、結果的に撃たれて死ぬ事を嗤ったスラングだ。


 釣り上げられた魚がバタバタ暴れる様を模してのものだが、だいたいこの手は自然発生的なものが主流だ。広域戦場無線などで誰かが言った一言が口伝で広まった結果残ってしまうのだろう。


「知るか。それよりアッチのフィッシュ。ノクトビジョンの蓋が付いたままだ。教えてやれ」

「へい……」


 ウェアラブルPCのモニターに表示される心拍数や体温を見れば緊張度合いが分かると言うもの。戦闘中の死亡判断を素早くする為の装備だが、こんな使い方もあるのかとテッドは思っていた。


 そして、そのモニターに表示されるルーシー・ハミルトンの文字。501中隊はこの日、地球上で編成された国連軍海兵隊の第二遠征師団から選出された第201大隊に同行していた。


 201大隊には新任士官8名が同行していて、それに含まれるルーシーはバリバリに緊張している状態だ。モニター上には彼女の内面が数字で示されていて、若干過呼吸気味なのが見て取れた。


  ――――――ジャン……

  ――――――どうすんだよ……


 どれほど学問的な事を覚えたり、或いは演習を積み重ねたとて緊張はする。訓練と実戦は違うのだ。訓練は実戦のように~と人口に膾炙するとおりの事も知らぬはずが無いが、実戦は撃たれて当たれば死ぬのだ。


「……兄貴。あれ」


 一緒に向かうはずの海兵隊新兵を面倒見てきたトニーは、ニヤニヤと笑いながらルーシーを見ていた。彼女の傍らにはジャンが来ていて、彼女の上官となるらしい名も知らぬ大尉と一緒に談笑している。


 その場でジャンが取り出したのは、黄色い女性物のスカーフだった。それを見たルーシーが眼を大きく見開いて驚いているのが見えた。それに何の物語が込められているのかは知らないが、ジャンはそれをルーシーの右腕に縛り付けるのだった。











   ――――――2276年3月5日 地域標準時間 午前4時

           中南米 ニカラグア上空 高度8000メートル











「……意味は解らねぇが良く目立つぜ」


 クククと笑ったテッドはジャンが彼女の傍らを離れるシーンを見ていた。

 そしてその時、ハッと思い出した。すっかり遠くなってしまった日。

 シリウスの地上、サザンクロスの郊外で姉キャサリンと解れた日の光景だ。


 バスの窓から顔を出していたキャサリンは首元に黄色いスカーフを巻いていた。

 あの時のモノと同じかどうかは解らないが、それはテッドとキャサリンの母が使っていた唯一無二の形見だった。


「あれさ、フィッシュ全員に付けたら良いと思わねぇ?」


 テッドの所にやって来てそんな事を言ったヴァルターだが、テッドは少し抜けた声で『あぁ』とだけ応えてルーシーを見ていた。彼女はそのスカーフに手を添えていて、まるで泣きそうな顔になっているのが見えた。


「どうしたテッド」


 ディージョも不思議そうにして居るのだが、テッドはふと我に返り『あの子がしてるスカーフ。あれ、姉貴のモノかも知れねぇんだわ』とだけ説明した。テッドの廻りに居て話を聞いていた中隊の面々が『え?』と聞き返すのだが……


「なぁジャン。あれ……――」


 中隊へ戻ってきたジャンを捕まえ、テッドはそう切り出した。

 ただ、当のジャンは涼しい顔をしたままで、静かに笑っていた。


「――姉貴のか?」


 それ以上の言葉は要らなかった。ジャンは静かに首肯し、『女房から預かったんだよ。シリウスに帰る前に』とだけ応えた。それを聞いたテッドは奥歯をグッと噛んでからジャンを見て言った。


「もしかしたら……おふくろの……唯一の形見かも知れねぇんだ」


 テッドの言葉に僅かながらも表情を変えたジャンは、一旦足元に視線を落としてから気を取り直し、静かに笑って言った。


「じゃぁ……アレにとってはおばあさんの形見だな。グランマの愛が護ってくれるだろう」


 返すとか大事にするとかでは無く、護ってくれる……

 その言葉の意味をテッドは嫌と言うほど理解していた。そして……


「そうだな。その通りだ。俺にも姪に当たるんだし」


 何かをストンと理解したらしいテッドは、黙ってルーシーを見ていた。

 海兵隊士官として油断の無い装備の姿だが、その身体のラインは装甲服越しでも女性だと解るモノだ。


「先ずは処女戦を生き残らせる。どうせ10回も戦闘すれば生身の士官は後方勤務だろうしな。タクティカルアーマーでガッチリ固めたんで問題無いだろう。あとは戦闘中にはぐれない事を祈るしか無い」


 相変わらず薄笑いのジャンはそんな事を言いながら窓の外を見た。

 漆黒の闇が続いている状態だが、処女戦には絶好なのかも知れない。



   ―――――目標到着まで5分! 全員降機準備! 神のご加護を!



 機のオペレーターがアナウンスし、テッドはもう一度自分の装備を点検した。新型の機動装甲服は燃料込みで200kg近い重量となる関係で、地上に出てから問題を出してもどうにもならない。


「さぁ、あとはちゃっちゃと終わらすだけだ」


 そう呟いたテッドはジャンに拳を出した。

 その拳をジャンの拳が叩き、気合いの入った顔になって言った。

 誰もがニヤリと笑う、入れ込んだ姿だった。


「オヤジの威厳って奴を見せに行くか!」


 ジャンがそう言った直後、機内に大きなジングルが鳴った。

 着陸態勢を示す物で、同時にそれは喧嘩支度の最終段階を教える物だ。



  ――――死ぬなよ



 テッドはルーシーが巻いているスカーフを凝視していた。

 遠い日、砂塵舞う農場で母親が自分の首に巻いてくれたスカーフだった。


「…………………………」


 出来る物なら手に入れたいが、今は姉貴から娘に引き継がれたのだ。

 ならばやる事は一つ。あのスカーフを護るだけだ。


 ただ、機が密林に開けた着陸ポイントへと到着して降りた瞬間、そんな思惑などどうにもならない現実がテッドの視界に飛び込んでくるのだった。




     ―――――約1時間後




「この雨どうにかならねぇかなぁ」


 忌々しげに吐き捨てたディージョは、密林の中で息を潜めていた。

 キューバ本島に存在する米国海兵隊基地から直接乗り込んだここは、コスタリカとの国境まであと僅かな地域で、周辺にまともな集落などない地域だった。


 ほぼ熱帯気候な関係で容赦無く叩き付ける雨が酷いのだが、そんな中を海兵隊の1個大隊が待機中だ。事前情報に因ればコスタリカとニカラグアの国境となる川を武装したシリウス軍が移動してくる事に成っているらしい。


「まぁ、これで向こうもこっちを見れないんだからラッキーだよ」


 ディージョを宥めるように言ったウッディは、川の対岸辺りに居るらしい連中を最大ズームで探していた。ニカラグアに負けず劣らず反米なコスタリカでは、シリウス軍の兵士がじっくりと英気を養っているとの情報だ。


 そこへ北米や欧州から離脱してきたシリウス軍残党が合流し、一大拠点化しつつあるのだという。ただ、頭数は揃っていても武器が無いのはいただけない。その関係でニカラグアが窓口になり、武装の融通をして居るとのことらしい。


「連中、なかなか元気だな」


 雨の中で器用にドライレーションを取り出したディージョは、そいつをヒト齧りしてからハイドレーションパイプで水を飲みつつそんな事を言った。アンドロイドとは違いサイボーグなのだから、カロリーを補給せねばならない。


 ただ、このイスラエル製の機体は人間らしい振る舞いをするのには、非常に高性能なのが不思議なくらいだ。恐らくはユダヤ教の教義に基づく事情が絡んでいるのだろうという事だが、率直に言えば味を感じるのが楽しい部分もある。


「この雨の中を2時間歩いてきて、おまけに雨の中で待機だぜ。生身には堪えるだろうな。いくらあの橋が重要なんだって言ってもよぉ……」


 ヴァルターが指差した先に見える橋は、ニカラグアとコスタリカを結ぶ小さな橋だ。川幅が400m程しかないエリアに掛かるその橋は、幅10m程の本当に小さなものでしかない。


 それはこの地域に暮らす民族が国境など無視して掛けた、地域コミュニティを維持する為の生活道路だ。国境警備なども無いに等しいもので、これでは警戒網の維持もままならないと誰もが思うレベルだ……


「シリウスの連中は向こう側に居るんだろうな」


 ヴァルターの言葉にテッドがそう返答すると、ウッディはポーチからタブレット端末を取り出して確認した。


ピーピングトム(大気圏外監視)の情報によれば、ざっくり2個師団は居るっぽいんだよね。森の中に偽装したテントがいくつもあるし、バラックもいくつかある様に見えるんだ。恐らくは……あまり良い環境とは言い難いだろうけど」


 高温多湿で年中雨に見舞われる地域だ。住環境としてはとてもじゃないが快適とは言い難いのだろう。だが……


「シリウスの寒いエリア育ちにしてみたら天国だぜ。なんせ雪が降らねぇ」


 横から口を挟んだステンマルクの言葉に全員が思わず失笑を漏らした。寒く飢えるシリウスの環境を思えば、暖かくで食べられる地球はそれだけで天国だとテッドだって思うほどに。だが……


「テッド兄貴! あっち、なんか動きそうですぜ!」


 ロニーが何かを見つけ指をさした。森の奥深くで待機している面々の彼方。海兵隊の201大隊が動き始めた。米軍海兵隊を中心に英語圏の兵士をメインとして編成された彼らは、細い橋の袂を取り囲むように展開していた。


「あそこにエディ達も居るはずだよな?」


 テッドに確認する様にヴァルターがそう言う。

 501中隊の面々は海兵隊から少し離れた場所で、森に溶けこんでいた。


「あぁ。少なくとも向こうの指揮官の所には居るはずだ」


 何かしら思惑があって自分達がメイン集団から離されているのは間違い無い。

 だが、その意図を教えてくれるほど親切では無いし、良心的でも無い。


   ―――――自分達で考えろ

   ―――――リスクを回避し結果を出せ


 言われなくとも解っているエディの教育方針。

 だが、少なくともこの場面では状況を読み取りきれず判断材料が乏しすぎる。


「まぁ、もう少し待機しよう。今のうちに電源のケアしといた方が良いだろうな」


 ディージョは再びドライレーションを囓り、口中で水を含ませてから飲み込む。腹腔内にある有機転換リアクターで徐々に電気へと変換されるはずだ。同じように中隊全員がドライレーションを囓り始め、とにかく待つ事を選んだ。


 実際の話、戦闘に至るまでの待機が最も長いのだろう。全員が手持ちのドライレーションを食べ終わる頃には夜が明け始めた。雨は徐々にあがり始め、森の中も外も徐々に霧が出始めた。


「視界が悪いな」


 監視を続けていたオーリスが忌々しげにそんな事を言った。

 違う角度から監視していたステンマルクもボソリと呟く。


「赤外の方が良さそうだ」


 霧の密度がこれ以上濃くなると見通せなく成りかねない。

 なんとかせねば……と焦り始めた頃、何処かからエンジン音が聞こえてきた。


 ややあって川の上流から大きな船がやって来て、橋の下あたりへ接岸した。

 その船の上には驚くほどの人が乗っているのが見えた。


「あれ、シリウス軍じゃない?」


 なにかを見つけたらしいミシュリーヌが最初に口を開いた。

 ただ、彼女がそれを言う前に、多くのメンバーがそれを現認していた。


 コスタリカ側からも人が出て来て、橋を渡り始めている。

 各地に散らばっていたシリウス軍が結集していると考えるのが自然だった。


「さて、お次はどうなるんだろう?」


 少しばかり悪い声音でトニーが言うと、全員がクスクスと失笑した。

 コスタリカ側から姿を表したシリウス軍は驚く程の人数だ。

 軽く見ても千人か二千人規模なのが見てとれた。


 そこに船から上陸したメンツが合流し、何事かを談笑している。

 その数は百や二百とは思えぬ数だ。


「感動の再開ってところですね」


 ヨナの呟きに『間違えねぇな』とディージョが応えると、ウッディが一言『歓迎のクラッカーでも鳴らしてやるべきだよね』と言った。それが何を意味するのかは言うまでもないが、攻撃開始の命令はまだ出ていない。


「随分のんびりだが……何を待ってるんだ?」


 すこしばかりジャンが苛立っている。

 そんな苛立ちが伝わったのか、そそくさと逃げるように船が岸を離れていった。


    ―――――逃がすのか?


 訝しがっていた面々を他所に、海兵隊も全く動く様子がない。

 ただ、そんな時、もう一隻の船がやって来て接岸した。

 もやい綱が投げられた直後、シリウス軍は一斉に動き出して船に集まり始めた。


「荷下ろしだぜ……」


 恐らくはオーリスの声だと思うが、テッドはその声の主が解らなかった。

 ただ、森の奥から次々とシリウス兵が出て来て橋を渡り始めている。

 そして彼等は船の中へ入り様々な木箱の陸揚げを始めた。


「ビンゴだな」


 クククと笑ったジャンの声が少しばかり大きくなった。

 船中にあったのは、大量の自動小銃と弾薬。そして無反動砲などの武器だった。

 つまり、人員と武装を供給したらしいのだが……


   ―――――マジかよ……


 それは恐らく、501中隊の共通認識だ。

 なぜ武装を陸揚げさせたのか。彼等の手に渡らないうちに処分するべきだ。

 これから激しい銃撃戦が予想されるなら、そこに油を注ぐような行為の筈。


 だが、その向こうには色々と高度な事情が隠れている可能性もある。

 つい先だっての欧州ではスタンドプレーと陰口嫌味を叩かれたばかり。


「……ここで攻撃してぇ……」


 ボソッと漏らしたヴァルターだが、テッドも『あぁ』と応えている。

 しかし、この出撃の主役な筈の海兵隊は全く動きが無いのだ。


「俺達だけで動き出すか?」


 少々痺れを切らしたらしいディージョは、不意にそんな提案をした。それに対しウッディが『良い案だと思うよ』と応じ、銃のボルトを引いた。50口径の巨大な弾丸がチャンバーに叩き込まれ、戦闘準備が整った。そんな時だった。


「あっ!」


 ウッディと同じようにボルトを引こうとしたミシュリーヌがそれを見付けた。森の木々を掻き分けるようにして駆けていった『何か』の存在だ。それがドローン兵器だと彼女が気が付いた時、何処からか銃声が響いた。


 ここまでシリウス側を見守るだけだった海兵隊の収束射撃だ。各種の重機材を総動員した猛烈な射撃が始まり、猛烈な鉄火が飛び散った。


「ウワッ!」


 流れ弾と思しきモノが飛んできて、ティブが後ろにひっくり返った。全員が慌ててヘルメットを被った時には、シリウス側の反撃が始まっていた。ただ、シリウス側がパニックに陥り始めていて、もはや適当に乱射状態だ。


「冗談じゃねぇ!」

「マジかよ!」


 ジャンとテッドが同時に叫んだ。ふたりの外部装甲に鉄火が飛び散った。流れ弾や跳弾では無いモノの直撃だ。その光をシリウス側が現認した場合、こっちに被害が出る可能性がある。


「後退して散開しよう」


 ステンマルクがそう提案し、一も二も無く全員が動き始めた。

 メンバーそれぞれが5m程の距離を開けて一連射で全滅するのを防いでいる。

 そんな中、海兵隊が前進を始めた。森の中から猛烈な射撃音が響いている。


「やるな! あいつら!」


 ジャンの声でテッドもそれに気が付いた。人海戦術による面制圧だ。猛烈な射撃が続きシリウス側の足並みが乱れた。その直後に細い橋が突然大音声を立てて大爆発した。事前に爆薬でも仕掛けたのかと思われる程の爆発だった。だが……


「橋を落とした訳じゃ無いのか」


 日が上り始めた頃、森の中に風が吹き抜け蟠っていた靄を吹き飛ばした。

 徐々に視界が効くようになった時、ウッディがそんな事を言って驚いていた。

 大爆発したのはどうやらドローン系兵器のようで、恐らくはクレイモアだろう。


「けど、どっちにしろ逃げ道を塞いだ事には変わりねぇ!」


 テッドが言う通り、統制を乱したシリウス軍は闇雲に乱射しつつ塊化し始めた。

 撤退できない以上はそれしか選択肢が無いと言う判断だろう。しかし、それ自体が悪手なのは言うまでも無い。


「手榴弾でイチコロだぜ」


 ヴァルターの言葉とほぼ同時に海兵隊側が手榴弾や擲弾を使い始めた。

 だが、その直後に中隊の面々は信じられないモノを見た。


「気合入ってるぜ……」「マジか……」「スゲーっす」


 中隊の面々が驚くなか、投げ込まれた手榴弾や擲弾の上にシリウス兵が身を投げて仲間を護っていた。人体が手榴弾などに対する有効な遮蔽物になり得るのは、兵士ならば常識だ。


 だが、知識として知っていても、それが出来るかどうかは全く違う次元の話だ。そしてそれが出来る軍隊は、結束の強さが最大の脅威になるのだった。

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