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黒い炎  作者: 陸奥守
第十一章 遠き故郷へ手を伸ばす為に
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クロスカウンター作戦の静かな幕開け

2023/1/1 若干加筆修正

~承前




 深夜2時を回ったドイツ領南部の都市ボン。

 かつて東西ドイツに別れていた時代には、仮初めの首都だった街だ。

 今は欧州経済を支える重要な街として商工業や金融の街としても機能している。


 そんなボンの上空。一機のティルトローター機が低高度を大きく周回していた。

 機内では501中隊の面々が新型機体の処女戦を準備中だ。

 エディは機内をグルリと見回し、渋い声で言った。


「さて。新型のデビュー戦だ。派手に行こう」


 イスラエルから直接移動してきた501中隊は、ティルトローター機の中で作戦説明を聞いた。2月より始まるクロスカウンター作戦を察知したのか、欧州各所で浸透を続けていたシリウス軍残党が炙り出され暴発していると言うのだ。


 都市部における家宅捜索や身元照会をシラミ潰しに行った結果、様々なNPO組織や新興企業などの事務所が人権を理由にそれを拒否している。探られると痛い腹があるのだから拒否する訳で、そんな所には裁判所より捜査令状が出されていた。


「んで、俺たちゃ何するんだっけ?」


 ニヤニヤと笑っているディージョは、新型ヘルメットを頭に乗せた状態でそう言った。手にしている武器はS-8の多弾倉型だ。12.7ミリの弾頭をぶっ放す自動小銃は微妙に改良が施されていて、従来型をA1と呼称し新型はA2になった。


「立て籠もってる連中をぶち殺しに行くんだろ?」


 同じくS-8のA2を持っているジャンはマガジンを数えながらそう言った。そもそも弾頭が巨大なのでマガジンを幾つも持てば相応に重量がかさむ物だ。だが、この新型の機体にはとんでも無いギミックが仕込まれていた。


「いいね。シンプルで。毎回こう簡単なテーマだとやりやすいんだけどな」


 ぼやくようにディージョがそう言うと、聞いていたミシュリーヌがクスクスと笑いながらニコリと笑った。様々な政治的事情に配慮しつつ、超絶に難しい案件を回避しながら目的を果たしてきた面々の偽らざる本音だ。


 空からポンと降りてバンバンと銃撃戦をやって、人質を解放しテロリストを皆殺しにしてからサクッと帰投する。そう言ったシンプルで解りやすい任務に飢えているのかも知れない。


「でも……それじゃ成長が無いよね」


 窘めるようにウッディがそう漏らすとディージョが苦笑いを浮かべた。今はまだ良いが、やがて部下を宛がわれるかも知れない。その時の為に今から色々と学んでおくべきだとは思うのだが……


「どうでも良いけど……見えてきたんじゃね?」

「多分あれだろうな。スゲェ事になってる」


 テッドが地上を指差すとヴァルターが相槌を打った。ボンの地上。街角にある7階建てのビルを警官隊や地上軍の装甲車両が取り囲んだ状態だ。最上階の看板には地球環境の保全スローガンが掲げられているのが見える。


「……まーたブルースターかよ。いい加減にしろってんだ……」


 不機嫌そうにボソリとこぼしたロニーは、口を尖らせてそう言った。ここしばらく、地球全域でブルースターによる反戦活動が続いていて、最近ではテレビCMやネット番組の冠スポンサーにもなっている。


 『争いは何も生まない!』だとか『軍隊の存在が戦争の元!』とか寝言ばかりを並べているが、太古の昔より言う様に、平和を享受したければ戦争に備えよと言うのが人類普遍の定理であり唯一無二の真実。


 だが、そんな物を無視し薄っぺらい理想を掲げる集団は、いつの時代にも存在する。人口に膾炙するように、『健康の為なら死んでも良い』と真顔で言い出す、自らの矛盾に気が付かない愚か者はいつの世も存在するのだから。


「じゃぁもう一度確認する。今回はデモンストレーションだ。至ってシンプルで簡単だが失敗は絶対に許されない。良いか?」


 ティストローター機の中、最後の戦術確認をブルが始めた。それを聞いていたメンバーはまるでスイッチが入ったように真剣な表情となり、睨むような眼差しでブルを見ていた。


「人質は殺すな。全員解放する。テロリストには全員死んでもらう。証拠品となる内部の機器は出来るだけ壊すな。降下を開始した時点で記録を開始しろ。出来るだけ高画質高音質が望ましい。良いな?」


 最後に確認したブル。その声に全員が『Sir!(サー)』を返した。


「じゃ、行こうか。神のご加護を」


 エディがそう言うと、全員がティルトローター機の後部ハッチへと続くカタパルト上へ一列に並んだ。古い時代のスキー場の様に、T字状のバーが床面に並んでいるところだ。


 そのT字バーを腰に当て、床面部の足を乗せるソケット部にブールのソールをはめ込めば、後は電磁カタパルトが後方へ一気に叩き出してくれる仕組みだ。中隊全員を一気に後方へ押し出し、そのまま地上へと降下する仕組み。


 高速で飛ぶ航空機から速度分を相殺する様に後方へと押し出されるそれは、狙った場所へまとめて垂直に落とされる最高のギミックだった。


「コイツは楽しみだな」


 楽しそうに笑うティブを見つつ、テッドは銃のスリングを再調整していた。






   ――――――2時間程前


「じゃぁ要するに、連中は自分達の職員を人質にしてるって訳ですか?」


 呆れかえったような声音でそう言ったのはヴァルターだった。ドイツ南部にある街、ボン。その街の片隅にあるNPO組織の内部で立て籠もり事件が発生したのだという。


「そうだ。そして立て籠もってるのは恐らくすべてがレプリカントだ。それも活動限界に近い奴だな。NPO組織がシリウス系と取引する企業から相当なキックバックを得ているのは確実で、今回はその証拠をつかみに行く」


 そう説明したアリョーシャは、モニターに情報を表示しつつそう切り出した。およそNPO組織なんてものにまともなモノなど存在しやしないのは、もはや人類の伝統芸能そのものだ。


 昔から言う様に、様々に後ろめたい部分のある連中がそれを誤魔化す為に立派なご高説を垂れつつ胡散臭い理念を掲げ、それに騙された脳内お花畑の連中が純粋な理想だけを信じて構成員になってしまう。


 彼等は社会から様々に批判を受けるが、その批判を受ければ受けるほど先鋭化してしまう悪循環が繰り返されている。正しいから批判されると勘違いする者は、自らを疑い思索を巡らすなんてしないのだから。


「……要するに、ウソがばれると困るんで、自分達も被害者だって自作自演で騒ぎを起こしてるって事か」


 ディージョが言うそれは、NPO組織の行っている活動の中身だった。ボンにある支部の主な活動は外太陽系に存在する様々な企業の城下町と言うべきコロニー都市住人との交流活動支援だった。


 だが、メインベルトの外側に広がる外太陽系の様々な施設がシリウス軍の中継点になっているのは公然の秘密。そしてそんな企業施設の労働者達が暮らすコロニー都市では、シリウス軍が地球への足掛かりとして滞在している。


 そんな地域と『交流を図る』などと言うのはつまり、地球上で孤立したシリウス軍組織の重要人物などをシリウスへ送還する為の、いわば隠れ蓑とも言える。同時にそれをする事で、地球上の企業に様々なキックバックを行っているのだ。


「そう言う事だろうな。要するに儲かれば企業は文句を言わないし、配当で喰ってる連中にしてみれば企業業績が伸びた方が良い。もちろんNPO組織だってそこから金が入るなら支援する。まぁ解りやすい共存関係という事だな」


 アリョーシャの説明にテッドは露骨に嫌そうな顔をした。

 金儲けの為に頑張るのは良い。だが、金儲けの為に他人を不幸にするのは……


「でも、なんで職員が人質なんだろう?」


 テッドの思索を邪魔するようにトニーがそう疑問を漏らした。その問いはテッドも『あぁ、そうだな』と思うような素直な視点だった。


「良い質問だ」


 ニヤッと笑ったエディは、トニーを指差しながらそう言った。

 そして、アリョーシャもまた幾度か首肯しつつ、その核心を説明した。


「要するに、口封じだ。NPOを隠れ蓑に色々とやって来た連中はとっくに地球を離れていて今頃は木星辺りに居るんだろう。消耗しても問題ない切り捨てられる人材に騒ぎを起こさせる古典的なやり口だ。けどな――」


 アリョーシャがモニターの表示を変えると、そこにはウンザリするモノが映っていた。ボンの価値角にある雑居ビルの内部を示したモノだが、そこには大量の爆薬がセットされた状態だ。


「――NPO組織がシリウスの片棒を担いでいる。その証拠がばれそうになっているんで、内部に匿っていたシリウス軍レプリが暴徒を装って立て籠もっていると言う事だ。NPO職員のフリをしていただけで、要するにグルだったんだな」


 話を整理すれば簡単だ。シリウス軍の便宜を図っていた組織がNPOを隠れ蓑に使っていた。そに内情が明るみに出そうになったので、今度はNPO組織を人質にして抵抗する事にした。


 ここの主目的は二つで、職員の口封じと証拠の抹消。だが、それと同時にもう一つの目的がある。それはつまり、シリウス側を追い込みすぎると暴発するから程々で止めておけという社会へのメッセージだ。


「で……だ。ここで我々が登場して、美味しい所を掻っ攫っていくことにする。この施設へ殴り込み、情報を持つ人質を解放し、テロリストに皆殺しの圧力を掛け、シリウス軍残党を一網打尽にするのだ」


 ニヤリと笑うアリョーシャだが、それを聞いた中隊の面々も同じように悪い笑みをこぼしていた。残党が地上で何をやっていたのか?については、情報部が相当詳しく調査分析を進めていて、ほぼ丸裸にされている。


 だが、それらについての更なる情報源が欲しい。もっと言えば、彼等の組織がどんな活動をしていたのか?について赤裸々に語って欲しい。その為にはNPO組織の職員が死なないようにする必用がある。


 ここで重要なのは『死体は情報を吐かない』だ。それ故に殺してはいけないし、生け捕りにせねば意味がない。だが、ハードルが高いのは言うまでもなく、作戦の成功率は一気に悪くなるだろう。場合によっては誤射もあり得る。


「立て籠もってるのは……使い捨てのレプリって事か――」


 そう漏らしたテッドは、しばらく前にカナダで遭遇したレプリばかりの拠点を思い出していた。心理学者らしい男がカウンセリングをしていたというが……


「――あのカナダの施設。もしかしてこういう任務にレプリを送り込む為のトレーニング施設かも知れないな」


 テッドの視点にエディは満足そうな笑みを浮かべ首肯した。

 そんな反応が出るという事は、どうやら正解なのだろうとテッドは思った。


「テッドの予想した通りだ。あそこで捕虜にした男が舞台裏を全部吐いた。活動限界が近いレプリカントに因果を含ませ、最後の一花咲かせて華々しく終わろうと洗脳していたようだな。人間だって簡単に折れるのだから、レプリなら簡単だろう」


 余りにうんざりするようなそのやり口に、全員がまるで鉛でも飲んだように重い沈黙状態となった。手の内を見せないようにする手段としてはやむを得ないのだろうが、だからと言ってレプリに自殺させるのはいただけない手法だ。


「レプリには戦って死んでもらおうか」


 気を取り直したヴァルターがそんな一言を漏らす。それを聞いたミシュリーヌは『最期にもう一回くらいはハグしてあげたいね』と応えた。実に女性らしい視点だと誰もが思うのだが、そんな一言がササクレ立った中隊の空気を和らげた。


「彼等の人生にとっては最期のあだ花かも知れないが、こちらとしては歓迎しない事態だ。最期は穏やかに死なしてやりたいが、そんな事を言ってられる状況でもないからな。サッと降りて皆殺しだ。面倒だがきっちりやってくれ」


 最後にそう締めたエディ。

 テッドは遠い日に自分の農場で死んだレプリカントを思い出していた……



   『後部ハッチ解放』



 唐突に無機質な声が響き、テッドはハッと我に返った。開いたハッチの向こうにボンの地上が見える。まだ暗い時間故に、地上はまるで宝石の海だ。


「……綺麗なもんだよな。地球の地上って」


 ボソリとこぼしたテッド。

 その肩をヴァルターがポンと叩く。


「シリウスは暗いからな」

「あぁ……」


 隅々まで発展しつくした地球に比べ、シリウスの開発はまだまだ道半ばだ。

 その絶望的なコントラストを思うとき、何となく忸怩たる気にもなる……


「んじゃ、行こうぜ」


 テッドと共に隊列の先頭に居たヴァルターがヘルメットを被った。それを見て取った全員が同じようにヘルメットを被った。一切隙間なく装甲に護られる外部装甲システムは、視野が驚くほど広くとられていた。


   『射出5秒前』


 再び無機質な声が響き、いきなり5秒前からカウントが始まった。心の準備としては問題ないと思いつつも、何となく腰が引けている気にもなると言うモノ。テッドはもう一度銃のセーフティーを確かめ、グッと腰を落として加速に備えた。


   『5 4 3 2 1 ……』


 一瞬の静寂と無限にも感じるゼロコールへの時間。

 自分の感覚が圧縮され精神が研ぎ澄まされている状態。


 シェルドライバーならば『あ……これ……』と、瞬間的に思い出す一瞬。

 撃墜するべき相手をターゲットクロスゲージに捉え、射撃する瞬間と同じだ。


   『GO!』


 全く感情を感じさせないマシンボイスが脳内に響き、同時に足元のフットマウントが猛烈な速度で前進した。身体が一瞬後方へ仰け反るも、腰を支えるTバーにより支えられてそれ以上は下がらない。


「こりゃすげぇ!」「ヒャッハー!」「ヒーッハー!」


 誰が叫んだか解らないが、少なくともロニーが混ざっているのは解った。僅かな加速行程が完了し、機外へと放り出される瞬間にTバーがスポッと収納され、そのまま上空へと放り出された形だ。


 あとは自由落下で地上へと落ちる事になる。高度は500メートルほどで、パラを使ったHALOとは全く異なるオペレーションにより501中隊は戦場へと飛び込むことになる。


「バーニアを展開しろ! 種火に点火だ! 時間がないぞ!」


 何処かご機嫌なブルがそう叫ぶ。テッドは背中に装備されたバックパックのモニターを視界に表示させ状況を確認した。新型の外殻装甲システムは低高度大気圏内専用のロケットを背負っているのだった。


「予備減速する!」


 テッドが最初にロケットへと点火し、自由落下の速度がグッと落ちた。その炎が地上から見えたのか、建物の屋上に居た何者かがこちらを指さして叫んでいるのが見えた。


「撃って来やがった!」


 テッドと共に予備減速を始めたヴァルターがそう叫んだ。屋上にいる者達がこちらに向かって銃を撃っているのが見える。小口径の高速弾らしいが、地上からの撃ちあげでは威力が大幅に減衰しているようだ。


「応射!」


 エディの声が響き、テッドはセーフティを外して銃を構えた。その瞬間、背中のロケットシステムが推力を上げ、空中に静止する様になった。微妙に揺れる環境だが、射撃にはあまり影響がない。


「これ便利だなぁ!」


 感嘆するオーリスの声が聞こえる。

 中隊の収束射撃が続き、あっという間に建物の屋上は白い血の海になった。


「全部レプリだぜ」


 推力を落として屋上に着地したステンマルクが近くの死体を検めた。上空から撃ち降ろされる12.7ミリの威力は凶悪その物で、肩口から着弾したらしいそのレプリは、胴体を真っ二つに引き裂かれて即死していた。


 人間の上位互換と言える強靭な肉体のレプリカントも、さすがに大口径弾の直撃には無力なようだ。腕や足が吹っ飛ぶような着弾ならともかく、胴体を引き裂かれたなら即死は免れない。


「前進しろ! 内部へ突入する! 何も見落とすな!」


 エディの命が飛び、テッドがすぐ近くにあった建物内部へと続く扉を文字通り蹴り開けた。200kgを越える自重の重量級サイボーグが能力いっぱいに蹴るのだから、鍵など簡単に破壊できる。


 だが、それとこれとは違う話がここで発生した。テッドの視界が一瞬真っ白に光り、後方へと吹き飛ばされた。何が起きたのか理解するまでに少し時間を要し、その視界が回復した時には外殻装甲に感謝していた。


「クレイモアだぜ」


 ひっくり返ったテッドに手を貸したヴァルターが渋い声でそう言った。身体前面の装甲各部に凹みを作っているが、直撃を受けても死ななかったのは大きい。指向性対人地雷と呼ばれるそれは、19世紀後半に開発された人の悪意の結晶とも言える兵器だ。


 プラスチック爆薬により加速された凡そ700個の鉄球は、左右に60度ずつ合計120度の展開範囲内へ襲い掛かって来る。生身が至近距離で受ければ、間違いなく挽肉にされてしまう代物で、ブービートラップの定番だ。


「装甲に感謝だなテッド。ビビるなよ! 行けッ!」


 鬼畜っぷりをいかんなく発揮したエディがそう命じ、テッドは左手を上げて了解の意を示した。ここでビビると後を引く。トラウマになる前に行動あるのみ。身体は機械になっても心まで機械になった訳じゃないのだ。


「兄貴。これチャンスですぜ!」


 いつの間にかテッドの所に来ていたトニーがそう言うのだが、エディは『なんでだ?』と素直に聞き返した。シェルに直撃弾を受けても動揺しないテッドだが、さすがに動揺しているなとヴァルターやロニーは思った。


「だって、連中はこれで侵入者が死んだって思ってますぜ! 行ってぶち殺しやしょう! 倍返しって奴っすよ!」


 いつからかは知らないが、何かのドラマ作品で使われたセリフは人類共通の慣用句になっていた。遠い昔から演劇や物語で作られた新しい言葉は、人類の行動様式として定着してきた。そしてそれは、ビデオドラマでも同じことが起きていた。


「よし。そうしよう。トニー! お前が先行しろ! 俺がバックアップする」


 ヘルメットの内側でニヤリと笑ったテッドがそう言うと、トニーは素っ頓狂な声で『マジっすか!』と返答した。ただ、それがテッドへの配慮である事は明白で、動揺している筈の兄貴分を現実に引き戻そうとしているのだった。


「そうだな。それが良い。トニー! ティブ! ヨナ! パンツァーカイル陣形で突入しろ! テッド! ヴァルター! ロニー! 支援に付け! ウッディ! ディージョ! 別の侵入経路を探せ!残りはここで待機! 掛かれ!」


 淀みない指示を出したエディは辺りを確かめながら空を見上げた。

 周囲にドローンでも浮いていて様子を伺っている可能性を警戒したのだ。


「アリョーシャ。何らかの映像電波は捉えられるか?」


 何を警戒しているのかすぐに理解したアリョーシャは、周辺の電波を全スキャンした。そういう部分で才能のある人間故に、手抜かりないのが真骨頂だ。


「……いや、ピーピングトムは居なさそうだ」


 あとは有線監視を警戒するだけだが、仮にそれで監視されていたならこちらの視界画像で対抗できるだろう。幾多の条件を掻い潜り結果を出す心労は、些細な事の積み重ねでのみ解消されるのだ。


「エディ!」


 何かを見つけたらしいディージョがエディを呼んだ。

 彼が指さしていたのは、階下より梯子を使って登って来る非常脱出路だった。


「なるほど。では背中側に陣取るぞ。何者かが上がって来たら拿捕だ。何をしていたのか我々の前で吐かせよう。突入チーム次第だが、逃げ道は塞いでおくに限る。他のルートも探すんだ」


 抜かりないエディの姿勢に全員が妙な安堵を覚える。階下からは時々鋭い発砲音が聞こえていて、事態が進行しているのが解る。だが、その結末はあまりに呆気ない物になる事を、この時点では誰も想像していないのだった。

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