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黒い炎  作者: 陸奥守
第十一章 遠き故郷へ手を伸ばす為に
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サイボーグチーム拡大への布石

2023/1/1 若干改稿

~承前




 混乱と騒乱の国連による地球連邦議会発足から2週間。

 501中隊は根城にしているサイバーダイン社のラボへと戻ってきていた。


 激しい戦闘に参加していた中隊はやっと平穏を取り戻し、今はサロン代わりに使っている会議室の中だ。


 ミサイルを身体でブロックしたジャンは予備部品を使ったG02の新製機体となり、セッティング出しに勤しんでいる。その脇ではラグビータックルで爆発に巻き込まれたロニーが一足先にG02を受領し、同じようにセッティング出し中だ。


 ブリテンのサイバーダイン研究所はシスコのとは若干毛色が違うらしく、全員が興味本位で研究に没頭する施設らしい。熱心と言えば聞こえはいいが、はっきり言えばサイコパス一歩前な人間ばかりで、中隊メンバーは少々ウンザリしていた。


「俺達ってほんと機械なんだな」


 そんな事をぼやいたジャン。何を言いたいのかは言うまでも無いが、メンテナンスが無ければ死んでしまうが故に文句を言うのも憚られる。あまり強くは言えないもどかしさを抱え、サイボーグ人間が精神を病むケースは多いのだとか。


 それ故にサイボーグ同士では結構フランクに言いたい事を言い合う関係になる事が多い。そしてこの場合では、テッドがなに遠慮する事無く言い返していた。ある意味、当事者だから言える本音だ。


「俺たち死にたくてもなかなか死ねないからな。それに、悲しむ姉貴を見なくて済んだ」


 最大限良くて実験動物でも相手にしているかのような態度のスタッフには、テッドも少々気分が悪い。いや、少々などと可愛いモノではなく、はっきり言えば頭に来ている状態だ。


 だが、自分たちの生命その物を握られてしまっている以上、あまり強い事も言えないもどかしさがある。それ故の言葉でもあるが、そこにどれほどの意味が込められているのかは考えるまでも無い。


「実際、少しくらいは感謝しろとは思うよな」


 ステンマルクですらも愚痴まがいの言葉を吐くのだが、それについて中隊の誰もが苦笑いを浮かべるしかなかった。少なくとも彼等が拠点としているブリテンの内部でも、無差別犯行的なテロが続いているのだった。


 そしてそのテロの標的には、このラボも含まれていた。501中隊が出入りしていると睨まれれば嫌でも狙われるのが宿命だ。故に『治療中』なメンバーを除く隊員が周辺でテロ警戒に当たっているし、爆発物も処理している。


 そんな中、このラボのエンジニアは世間の事など関係ないとばかりに研究へ没頭する社会不適合系の集まりなのかもしれない。およそ企業の研究ラボと言うところは、そんな傾向の強い人間で無いと生き残れない社会らしい。


「んで、今日は何処に行くんだって?」


 珍しくウッディが予定を把握していない事に周囲が驚くも、実際には無理の無い話だった。様々な現場で護衛を求められている中隊は、そろそろ活動限界に近付いていた。


 国連政府が仮設置されたミュンヘンへ出入りする様々な要人を護衛し、地球全域を所狭しと飛び回っている毎日が続いている。どのケースでもシュトゥットガルトを掠めるようにしているのは、テロリストを釣り出すのが目的だろう。


 釣り出されたら殲滅し動きがあれば地上側の警察が対処する。その手に余った時には要請が出る筈だが、現時点ではドイツローカル政府により対処されていた。


「今日は北アフリカだって言ってたよな」

「あぁ。エディの話じゃ砂漠の北側らしい」


 テッドの言葉にヴァルターがそう応え、全員が渋い顔になった。サイボーグにとって砂漠環境は一番面倒な場所だ。細かい砂が入り込んでクリーニングに手間を要するから、正直言えば一番行きたくない場所だ。


 そしてそれ以上に言えるのは、地球文明において面倒事が積み重なっている一番のホットスポットだという事。シリウス側では無く地球側におけるあれやこれやの民族間衝突だ。


 処置を一歩誤ればシリウス側への対策以上に骨が折れる事態となる。恨み骨髄レベルに至った数千年に渡る闘争の歴史が今も続いていて、民族間闘争では無く人種間闘争。もっと言えば文明の激突であり宗教の激突になっている。


 人々を救いたいと願った宗教的救世主の名を騙り、全く関係無い人々同士が激突する。つまり、正義vs正義の終わりなき闘争だ。しかも始末に悪いのは、凡そ地球人類の伝統芸として、正義の存在を信じる側による闘争には、博愛だとか遠慮と言ったものが一切欠如する。


 人間の性として、己に正義有りと思った瞬間から如何なる非道をも自己肯定してしまうのだ。自分は悪くない……と。


「どう考えても面倒な事になる。だから我々の出番と言う事だ。分かりやすいだろ?」


 軽い調子で部屋に入ってきたエディは自ら全員に書類を配った。

 そこに書かれていたのは環地中海国家による共同体重要メンバーの所在地だ。


 南欧人系だったりスラブ系だったりアフリカ系だったり。まるで人種の見本市になっているその資料を精査すれば、要するに縄張り争いの仲裁を行うという目的が透けて見えた。


 敢えて火中の栗を拾うヤバイ行為だが、各陣営に食い込んでシリウス系工作員を炙り出して始末するには良い機会なのかもしれない。


「このメンツを収容し、ミュンヘンまで護衛する。もちろん帰りもだ。その課程で起きた如何なる事も記録する。つまり、我々は護衛すると同時に記録もする役割を期待されている。今後に繋がる事だ。手を抜くなよ」


 ニヤリと笑ったエディ。その顔には悪魔のような喜色が見えた。サイボーグはウェアラブルカメラなどが無くとも視界それ自体を記録出来るし、なんならリアルタイムに高速回線で画像を共有出来る。


 何かアクションを起こそうとしている側にしてみれば、現場で何が起きたのかをリアルタイムに拡散される護衛をまずナントカせねばならない。そう。単純に言えば一番最初に狙われる囮のポジションだ。


「つまり、俺たちは望んで火の粉を被る役と言う事ですね?」


 プロフェット・カビーの言葉に全員が表情を固くした。厄介ごとの現場に行くだけでも十分ウンザリなのだが、今回はそんな現場で火の粉を被る役らしい。いうなれば、ワイルドウィーゼル活動を地上でやる羽目になる。


 そして、現場を引っ掻き回し、結果的に安定している様々な軋轢の地層をほじくり返し、より一層不安定にして帰ってくるのが役目だ。


 各陣営から消耗品としてシリウスの工作員を投入させ、彼らが動けばそれを殲滅する。拒否すれば地球側からシリウスの工作員が炙り出されるので、これまた殲滅する。


 つまり、地球サイドにしてみれば、無駄なく最大効率でシリウスの工作員を殲滅できるいい機会ということだった。


「それは結果論だ。任務はあくまで護衛であって、それ以上の事は要請がない限り動かない」


 エディの言い回しには、言うに言えないアレヤコレヤが滲んでいた。地球サイドの連合軍であるからして、迂闊なことをすれば各方面から恨まれかねない。だが、エディはエディでやりたい事を遠慮なくやれる環境を望んでいる。


 そしてその為に必要なのは、各方面の有力者へ貸しを作る事だ。出来るものなら命懸けレベルの危険を乗り越えると良いだろう。しかし、それは自分達も危険な目にあう事を意味する。


 問題は、エディがそういった危険を望んでいる事だ。凪の海は船乗りを鍛えないように、エディ自身がより危険で困難な道を望んでいた。


「まぁなんだ。難しく考える事はない。今まで通り、極上のピンチを乗り越えていくだけだ――」


 ニヤリと笑ってそう言ったエディ。

 全員が渋い表情になっているのを見て、満足そうに言った。


「――その方が……楽しいだろう?」


 暗黒面を隠す事なく満面の笑みでそう言われれば、もはや中隊の面々も首肯するしかなかった。テッドとヴァルターもしかめっ面で顔を見合わせ、ため息をこぼしながら言った。


「楽に死ねそうにねぇ」

「全くだ」


 そんなふたりですらも楽し気に眺めたエディは、気を取り直し言った。


「2時間後に出発する。1時間後にはガンルームに集合しろ。最終打ち合わせを行う。今回も色々と面倒が多い。こんな時、アジアじゃこう言うそうだ。藪をガサガサ荒らすと大蛇が出てくるってな。今回はそんな作戦だ」


 要件を伝えエディは部屋を出て行った。会議室に残された中隊の面々が何を思うのかは言うまでもない。ただ、何事もなく作戦が終わる筈もなく、また、終わらせるつもりも無いのだろうという事は解っていた。


「……今回は何をやるんだろうな」


 ディージョは身支度を整えながらそう言った。戦闘用の装備を整えるのはこれからだが、対ショックゲルを充填した装甲スーツを着込むには、身体にぴったりとフィットするワンピースのつなぎを着込む必要がある。


 それは何も装飾上の都合だとかではなく、サイボーグの機体から発せられる熱を逃がすための放熱バイパスを繊維として織り上げた代物だ。風も入らない装甲服は熱を逃がさない為、結果的にそうなるのだった。


「所でエディの言ったアジアの話ってなんだ?」


 ディージョの問いに応える前に、ヴァルターがそんな問いを発した。勿論答えるのはアジア系なウッディで、その答えにヒントがある様な気がしたからだ。


「あれは……うん。そうだね。そもそもは藪を突いて蛇を出すって諺で、余計な事をして、却って面倒な事になるって意味だけど……エディが言った言葉の意味から思うには、藪に隠れてる蛇が出てきざるを得ない様にするのが目的だと思うんだ」


 ウッディの説明に何かを得心したらしいジャンが『なるほどな』と呟く。そんなジャンにヨナやレオが『説明しろよ』と言わんばかりの視線を注いでいた。


「要するにあれだろ? 地球の各陣営に溶け込んだりしたシリウス側の残存兵力とか工作員とかを炙り出して、んで、そいつらが組織の中に居られないようにするんだろうな」


 ジャンがそう説明すると、間髪入れずにオーリスが応えた。


「つまりあれか。地球側の各陣営が争い出さないようにするのが目的で、シリウスの代理として地球政府とガチでやり合わない様にしようって」


 オーリスが見立てたその見地は、中隊の中に微妙な波紋を立てていた。はっきり言えば地球ローカル政府が困ろうと苦しもうと、あまり関係ないって思っている節がある者ばかりだからだ。


 そして、地球側が一枚岩になる様にお膳立てをする理由も理解出来ないし、その意義どころか意味すら理解したくなかった。シリウス側への圧力が強まるだけと言う発想を、どうしても消せないのだ。


「まぁ、あれだ。エディにしてみれば地球を一枚岩にしておいた方が都合が良いんだろ。この戦争がどんな形で終結するかは解らないけど、その後になってあれこれ交渉する時、前みたいに複数陣営になってると面倒が多い」


 ジャンがフォローするような言葉を吐いた時、ウッディは『あぁ、そういう事なのか』と何かに気が付いた。


「さっきの藪を突いて蛇を驚かすって言葉はちゃんと出典があってね、元々は草を打って蛇を驚かすって言うんだけどね。これ、要するに見せしめの意味なんだよ」


 そんな調子で切り出したウッディは、モノの由来を語り始めた。その昔、中国に何とかという汚職まみれの小役人が居たのだが、あれこれと小銭を巻き上げたりネコババしたりで蓄財に勤しんでいたのだという。


 それに見かねた市民達はその小役人に代わりに小役人の部下の賄賂を告発する連判状を書き、なんとそれを小役人に告訴したのだと言う。もちろん小役人は驚き、市民達に自分らの悪行が筒抜けである事に驚いたのだとか。


 その告訴状を読んだ小役人は『汝、草を打ったといえども、吾すでに蛇を驚かしむ』と延べ、その告訴を受理決裁したと書言故事にあるのだとか。


「要は、市民達が単に草を打ったつもりだったけど、それでその何とかって小役人も驚かせたんだって意味なんだ。自分を草むらに隠れてた蛇に例えたんだ。だからエディは地球側の内側で揉め事起こして儲けてる連中にも警告したいんだろうね」


 そこに含まれる意味は嫌でも理解できる部分が多い。外太陽系にある様々な企業の生産施設や権益は、地球とシリウスがもめてくれる限り利益を生み出すのだから続けてくれた方が良い。


 ついでに言えば、地球内部において人種間闘争を煽り燃え上がらせることで利権を得る者だっている。ことにアブラハムの宗教じゃ他宗教との対立で権威を保ってる聖職者が多い。


 敵を作り出すことで結束を図るのもまた地球人類の伝統芸だが、シリウスサイドにしてみればシリウスが共通の敵では困ると言う面があるのだろう。それ故に地球上で対立を煽りたいのかもしれない。


「……エディは色んなもんと同時進行で闘ってんだな」


 テッドがそうボソリとこぼすと、アチコチから『全くだ』と肯定的な反応があった。ただ、そうは言っても……


「だからと言って砂漠は歓迎しないわね」


 ヴァルターの近くに座っていたミシュリーヌがそう言うと、失笑を隠しきれないようにクククとヴァルターが肩を揺すって笑った。そして、そんな笑いが中隊全体へと伝播した。


「いずれにせよしっかり準備しよう。俺達だけで事が済めば生身を使わなくても済むからな。そっち方面でも感謝されるぜ」


 ヴァルターの言葉で全員が腰を上げた。

 失敗に繋がるミスはひとつでも減らしておくに限る。


 徹底的に準備し、完璧にこなす。

 中隊に存在するそんな意識は、ミシュリーヌ以下の新人達にも浸透し始めた。






 ――――――2時間後


「民間空港なんて初めて来たぜ」

「あぁ。俺もだ」


 少々面食らっているテッドとヴァルターは、バーミンガム郊外の空港に居た。

 中隊全員が私服姿に変装していて、まもなく搭乗開始となる旅客機へ乗り込む時を待っていた。


「けど、これで本気でやり合うつもりなんすかね?」


 相変わらずの調子なロニーだが、その姿はビシッと背広を着こなす紳士だ。

 そもそもが良いとこ出の坊ちゃんと言う事もあって、板に付いているのだ。


「まぁエディがそう言うんだ。間違い無いだろうな」


 ロニーの近くでコーヒーカップ片手に立っているジャンがそう言うと、全員が僅かに首肯していた。小一時間程前になるが、最終ミーティングでエディから言われたのは、少々意外な手順だった。


 ――――まずはテルアビブへ飛ぶ

 ――――久しぶりの夜間降下だ

 ――――夜景を楽しめ!


 思わず『は?』と聞き返したテッドだが、それを説明するエディは上等なスーツに身を包んだ立派なブリテン紳士のなりだった。そしてそれから1時間後。軍装では無く私服姿の中隊は、全員がスーツ姿で空港に集結していた。


「俺達ちゃんとビジネスマンに見えるかな?」


 そんな私服など持っていなかったトニーは、海兵隊情報部の衣装室より借用しての参加だ。どちらかと言えば特殊作戦軍の民間浸透部隊にも見えるが、ジャンやステンマルクなど民間企業経験者は身のこなしが全く違っていた。


「どちらかというと新人が社会勉強に出ていると言う感じだな」


 コーヒーカップ片手にそう言ったジャンは、美味そうに一口呑んでからチラリと遠くを見た。驚く程に上等な三つ揃いを着たエディは、何者か正体不明な存在と立ち話中だ。


 恐らくは作戦の打ち合わせだろうと思うが、誰も近付くなと先に釘を刺された以上は聞き耳を立てるのが精一杯だった。


「どんな算段で何をしようって言うのかは分からないけど……」


 ミシュリーヌがふと切り出した時、ヴァルターは首だけ横を向いて彼女を見た。その時に視線でも交差したのだろうか、ミシュリーヌは楽しげにニコリと笑って惚れた旦那を見ていた。


「あんま見せ付けんじゃねーよ。女房の顔を思い出すぜ」


 妬いたようにジャンが漏らし、テッドも『俺もだな』と合わせてぼやく。

 それに合わせて全員がひと笑いした時、無線の中にエディの声が流れた。


『全員聞け。状況が変わった。このままテルアビブへは飛ぶが、その後の戦闘は無さそうだ。行った先で旧交を温める事にする。個人的な繋がりだが今後に生かされるだろう。その間、イスラエルのサイボーグセンターに行っててくれ』


 内心で『マジかよ……』と漏らしたテッド。

 だが、それを聞いたか察したか、アリョーシャが早速フォローを入れた。


『我々の活動が社会的に認知されだしたようだ。宇宙軍地上軍共に重傷者や回復の見込みが無い重病で死を待つばかりの者からも志願者を受け入れる事になった。これから法整備が進むが、その前にデータが欲しいようだ』


 それって何をするんだ?と首を傾げたのだが、引き続きエディが説明を入れた。

 その間合いの良さに、これもまたエディの利権に繋がるのだとテッドは思った。


『サイボーグ自体の研究を各社が競争するように仕向ける。なにせこれが発展させるには一番早い方法だ。そう遠くない将来の話しとして、本格的に501中隊の大隊化を図る。その時、人材の供給源が増えた方が良いからな。それに――』


 ……なるほど


 思わずニヤリと笑ったテッド。

 ふと見ればヴァルターも悪い笑みを浮かべていた。


『――実は今、イスラエルのサイバネティクス系企業でウェイド達が研究に参加している。そっちにもあれこれと便宜を図ってこちらの都合を通しやすくする。将来的にはサイバーダイン社をサイボーグ専業にさせたいからな』


 エディの描いている将来図が段々と形を帯びてきた。

 そして、それを聞いた若者達も自分達の未来をイメージし始めた。


「大隊化ってどうするんだろうな」


 ヴァルターが小声で漏らす。

 テッドはふと先の地上戦を思い出した。


「その内、CチームDチーム的な感じで増えるんだろ」


 テッドの漏らした言葉にロニーが『んじゃ、オイラは兄貴のお伴っす』と戯けて見せた。だが、そんな頭をステンマルクがガシッと掴みながら言った。


「バカ言え。お前も隊長やるんだよ。ディージョにテッドにウッディ。あと、ヴァルターとお前とジャン。そして俺だ。オーリスはアリョーシャのサポート。ミシュリーヌはヴァルターのチーム。テッドのお伴はトニーだ」


 思わず『マジッスか!』と大袈裟に驚いたロニーだが、すかさずカビーがロニーの所にやって来て『言ったとおりになったでしょ?』と同意を求めた。


「それってなんだよ?」


 説明を求めたオーリスに対し、カビーは『将来的にそうなりますよって言ったんですよ。で、自分はロニーのサポート役になるって』と応えた。ただ……


「でも、たぶんですけど戦争が終わる前に何人か死にます。多分ですけどこの中から4人です。まだ未来は不確定ですけど、これは多分当たりますよ」


 プロフェットのニックネームを持つカビーの言葉に全員が微妙な表情を浮かべ、当のカビーはしてやったりの顔になっている。だが、そんなカビーの脇腹をヴァルターがド突いた。


「バカ言ってねぇで搭乗しろ。始まったからな。俺達はビジネスシートだ。優雅に振る舞えよ?」


 ミシュリーヌがクスクスと笑うなか、カビーは『了解です』と短く答えた。

 だが、それが現実のものになると言う未来は、避けられない事実だった。

 誰もが『まさか』と言わざるを得ない無慈悲な未来は、すぐそこまで来ていた。


「まだ死にたくねぇな……」


 ご丁寧に民間機のレジナンバーへ偽装した地上軍空軍の大型人員輸送機へと吸い込まれたテッドは、シートベルトを締めながらそんな事を漏らした。目を閉じれば瞼の裏に浮かぶのはリディアの姿。


 そのリディアが悲しそうな顔をして立っているシーンをイメージして、グッと奥歯を噛みしめた。まだ死ねない。そんな思いを新たにする頃、人員輸送機はドアを閉め、滑走路に向かってプッシュバックを始めるのだった……

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