NPOという隠れ蓑
2023/1/1 大幅改稿
~承前
「アジアって地域じゃ今日は女の子を祝う日らしいぞ?」
冗談のような密林のなかを進みつつ、ヴァルターはそんな事を言った。
北米大陸の北エリアにある広大な森の中を行く中隊は、散開陣形で北進中だ。
いつの間にか3月となったが、その3日目は色々とイベントが多いらしいのだ。
周囲には天を突くような巨木が並んでいて、豪放磊落に広がった枝葉により空を認める隙間すら無い状況だった。
――――シリウス軍の残党が森の中で共同生活中らしい
――――相当な量の重機材をまだ持ったままだ
――――反撃の機会をうかがっているらしい
そんな垂れ込みが国連軍海兵隊にもたらされ、501中隊へ白羽の矢が立ったと言う事だ。多分に政治的な思惑が絡んでいるようだが、そこは出来る限り考えない様にしておいた。
州兵を動員した場合、仮にそれが空振りだったなら野党側から遠慮の無い批判にさらされる事になる。州議会でそれなりに議席を持つ野党は市民団体やNPO等から支援を受けた市民派と呼ばれる勢力だ。
シリウス工作員による懐柔策を受けているとも囁かれるが、その実態を暴くには至っていない。ただ、注意が必要な団体故に与党サイドも迂闊な事が出来ない歯痒い状態だった。
「へぇ。じゃぁ私の事も祝ってくれるの?」
何かを期待したようにミシュリーヌが言うと、中隊の面々が笑い出した。彼女とヴァルターとの関係は周知の事実なので、何を期待しているのかは言うまでも無いだろう。
ただ、迂闊に口を挟めば火の粉を被る危険性がある。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うように、ただ闇雲に噛み付くにはリスクが大きい状態だった。
「女の子であって女は無理だな」
ヴァルターが連れない言葉を吐き、ミシュリーヌは『期待して損した』と唇を尖らせた。ただ、そこで痴話喧嘩に及ぶような事などはまず無い。少なくとも、この森の中ではそんな余裕など無かった。
「HALT!」
中隊の最右翼に陣取っていたロニーが鋭くそう言うと、全員がパッと足を止めて茂みの中に姿を隠した。ややあってそれそれの身体に付いている震動センサーが何かの動きを捕らえ、視界にオーバーレイを始める。
『索敵ドローンだな』
ラジオの中にオーリスの言葉が漏れ、同時に実視界が全員の視野にインポーズで割り込んできた。こんな処理が自動で出来るのは便利だと妙なところで感動しているテッドは、音を立てないようにナイフを抜いた。
『近くに来たら素手で捕まえてたたき落とす』
テッドの視野にドローンが入り込み、その進路予想がシェルのフラワーラインのように表示された。速度はそれほどでも無いが、まるで蝶のようにフワフワと動くので捕まえるのに苦労しそうだと思った。
『いや待て。そのまま泳がせろ』
エディは何を思ったかテッドの手を止めた。泳がせろとはどういう意味だ?と思ったのだが、ドローンである以上は電源補給の為に戻るはずだと気が付く。
――――なるほど……
咄嗟に状況を読み、次の一手を打つ。それを繰り返しつつ、自分に有利な状況を作り出していく。エディの繰り返す積み重ね的な対処は、全て一本の線で結ばれているのだった。
『……どうやら帰還ルートのようだな』
観察していたアリョーシャが何かに気が付いたらしい。
ドローンは優雅に向きを変えてそよそよと羽ばたきだした。
『全員見失うな。距離を取って慎重に前進しろ。近いぞ』
ティルトローター機を降りてから既に5時間が経過している。
森の中を歩きづめ歩いているのだから、普通なら肉体的に疲労困憊の筈だ。
『肉体的な疲労が無いって言うのは強いな』
ウッディがボソリとこぼすと、すかさずオーリスが付け加えた。
エンジニアとしての視点が抜けないせいか、まるで他人事のような口振りだ。
『神経的にもだいぶ楽になったしな』
身体を動かすという意味では全く楽になったと言って良い状況なのだが、それで苦労が消えるかと言うと実際にはそうでもない。
AIによる自律的な行動を監視すれば良いだけだが、実際にはもっともっと注意深く振る舞わねばならない状況だ。
『しかしさぁ……』
愚痴る様にヴァルターが漏らすのだが、テッドはすぐさま宥めに掛かった。
『ボヤくなって。情報が正しけりゃ大金星だぜ?』
この日、彼らが目指しているシリウス軍の残党拠点には3万近い兵士が居るらしいとの事だった。実際にそんな数が居るはずは無いのだが、情報提供者は最低3万と言う数字を示していた。
『居なかったらとんだ無駄足だけどさ、居ないことを確認する為に行くのも意味があると思うんだよね。そう思わない?』
ウッディの柔らかな言葉使いがラジオに流れ、全員が少しばかりホッコリした気持になった。こんな時に中隊の不平や不満を和らげ、上手く行くようにそっとアシスト出来るのはウッディの人徳だった。
穏健派。或いは平和主義。無駄に角を立てる事はせず、組織や全体が上手く回るように気を配る役。そう言う存在が中隊に一人いるだけで、不思議と問題は事前に回避される傾向が強かった。
――――こんな人間は貴重なんだ……
ふと重要な事に気がついたテッドは、人間的な違いから来る衝突の真実にも気がついた。ただ、だからと言って自分がこれを出来るか?と言えば、間違いなく無理だろうと妙な自信もある。
『……真面目に飛び始めたな』
ヴァルターの言葉で我に返ったテッドは、慎重に姿勢を変えてドローンを目で追った。電子戦の出来る人材がいればハッキングなどで行方を追えるのかも知れない。それを思えば、まだまだ学び足りない事にも気が付いた。そして……
『アリョーシャ。あいつハッキング出来ないかな』
ふと、そう提案したテッド。それを聞いたアリョーシャは『良い視点だな』と返答した。ロニーからも『さすが兄貴は違いますね!』と囃す声が聞こえるが、同時になんで今までやらなかったのかを考えた。そして。
『ハッキングは良いが対抗措置無しにやるのは無謀だ。こっちがカウンターハックされた場合、中隊全部が危険に晒される。それでもやってみるか?』
案の定、その答えを言ったのはエディだった。おそらくは今まで何度も同じ事を検討したのだろう。そしてその都度に危険性を考慮して止めたのかもしれない。どんな時にも安全を優先するやり方は、実にエディらしいと思った。
『やめといた方が良さそうだな』
『……だな。間違いねぇ』
ヴァルターがそう言い、テッドが相槌を打った。ただ、サイボーグの可能性にも気が付いたのは事実で、将来的に何かしらの提案をしたいと考えた。ただ、それをする為には実績が必要だ。
『距離が空いたな』
どうやら僅かな間に思考の縁へ沈んだだけで距離が開けられたようだ。テッドは少々焦りの臭いを混ぜて呟いた。それに応えるように『もう少し詰めようぜ』とヴァルターが返してきて、短く『……だな』と応じた。
――――少しばかりヤベェ気がする……
全く根拠など無い話だが、直感としてテッドはそう思った。そして、テッドとヴァルターのふたりは申し合わせなど一切無く、周囲を置いていくほどの身のこなしを見せてドローンに迫った。
機体を使い慣れてきたと言うのもあるだろうが、それ以上に天性の部分があるのだろう。もっと言えば、場数と経験の積み重ねに加え、気合と根性が少しばかり他とは違うのだった。
そのままヒラヒラと舞うドローンを追跡し、ざっくり2km近くを前進したふたり。その目の前では一定の箇所でドローンが旋回し始めた。間違い無く近くにコントロールしている人間が居るはずと思うのだが……
『なんか嫌な予感しねぇ?』
ヴァルターがボソリと漏らすと、テッドは黙って首肯しつつ『なんか……な』と異常な感覚を認識していた。そこにある[総体としては見えない何か]を違和感として処理出来るのは、それなりの場数と経験が為せるワザだ。
同時にそれは、間違い無く何らかの対抗措置を必要とするものだ。ふたりの脳が訴えている違和感は、言うなれば目に見えない死神が来た事を示す数値的には認識出来ないデータそのもの。
『自爆はしないだろうが……』
テッドが感じたそれは、極上のピンチという奴だ。逃げも隠れも出来ない状況で敵に正対する。その上で命の取り合いに及ぶ極上のピンチ。シェル戦闘でチェックメイトに追い込まれそうな状況を地上で味わっている。
――――誘い込まれた!
理屈では無く直感としてそれを思ったテッドは、全く説明の付かぬ行為ではあるが全身の武装を解いて身軽な格好になった。自分の身体が200kg以上あるヘヴィ級故に、なにか咄嗟の行動が一瞬遅れるのだ。
重要なのは防御力ではなく機動力。鈍重でも装甲が守ってくれれば良いが、実際には絶命しかねない手痛い一撃を受ける事になる。自分自身がサイボーグである事を忘れ、最大限の戦闘能力を発揮できる体制を構築した。
『……俺、苦手なんだよな……これ』
僅かに遅れてヴァルターも身軽な格好になった。テッドは胸の鞘からナイフを抜いた。一瞬だけふたりの視線が交差し、それぞれが相方の向こう側を見た。そして気が付いた。炯々と光る悪意、或いは敵意に満ちた眼差しに……
「何者だ!」
鋭い怒声の誰何。ややラテン語圏訛りな言葉による呼び掛けがあったのだが、同時に何かが襲い掛かってきた。短い棒を持った数人の男だ。軽くテイクバックしながら距離を作って最初の一撃を躱し、その後でスッと踏み込んでナイフを突いた。
――――……ッチ!
手の中に嫌な感触が沸き起こり脳に伝えてきた。生身の身体を刃物が切り裂く感触だ。テッドが精一杯伸ばした手の中にあったナイフは、襲い掛かってきた何者かの上胸部に突き立てられ上部胸腔内を切り裂いた。
ただ、その時に吹き出した返り血は真っ赤では無く真っ白だった。人間では無くレプリか!とテッドが認識した直後、ヴァルターの側から低く籠もったうめき声が聞こえてきた。
――――殺ったな……
視線を向けずとも解る状況的な判断。ヴァルターもナイフで幾人かを処分したのだろう。やや腰を落とし次に一撃を放てる体勢になった時、頭の上を鉄の棒が通過していった。
腰を落として近接戦闘モードになったテッドだが、そんな心構えが命拾いの理由だったらしい。大振りして姿勢を崩したレプリの脇腹から上部胸腔に向かってナイフを突き刺したあと、僅かな手首の返しで内部を抉った。
全身の血管主要部に逆止弁の付いたレプリカントを確実に絶命させるにはこれしかない。最低最悪の手応えだが、文句を言っている場合じゃない。殺さなければ殺されるのだから。
『全部殺すな! 死体じゃ黒幕を吐かない!』
エディの声が聞こえ、テッドはふと我に返って辺りを見た。無我夢中になって戦った結果として、周囲には20体近いレプリの死体が転がっていた。そのどれもがまるで森の中でキャンプしている様な姿で、娯楽の一環と言った雰囲気だった。
『あっ! 逃げる!』
ふたりを取り囲むように展開していた中隊だが、敵わないと見るや逃走を図ったレプリが居たらしい。それを見つけたティブが声を上げ、一番近くにいたミシュリーヌが足を払って森の中に転げさせた。
少々ブザマな転び方をしたレプリは男性型のようで、鼻から白い血を流しながら痛みに呻いている。そして、『お前、中身は人だな?』と、レオが銃を突きつけつつそう言った。かつては自分自身がそうだったので、すぐに解ったのだろう。
「……なぜここを知ってるんだ?」
まだ若い声でレプリがそう問うたのだが、そこへエディがやって来て返答した。
驚愕の事実にシリウス残党がショックを受けるような話だった。
「君らを見捨てたシリウス軍本部からの垂れ込みだよ。面倒になったんだろうな」
ナイフの血糊を払いつつ、テッドは言葉を漏らさぬように驚いた。
フルフェイス型のヘルメットが欲しいと思ったのは内緒だ。
「……いや、もう見捨ててくれと言ったのはこっちだ。もう勝手にしてくれと」
小さく息を吐きつつレプリの男はそう言った。そして、そこから一気にシリウス地上軍の実情が語られ始めた。現状すでに組織だった統制が執れてない事や、地球各所に浸透した工作員による宣撫活動が思う程効果を上げていない事。
それ以上に驚いたのは、地球上の各勢力それぞれに個別浸透を図り、各勢力同士を仲違いさせる作戦が功を奏しすぎてむしろ止めに回っていた事などだ。事にイスラム圏における反ユダヤ・反キリスト教闘争などでは収拾が付かなくなってた。
もはや最初の理由も理論も全て吹き飛んでいて、ただただ、とにかく、理屈など関係無く憎い。その感情を晴らす為であれば、正義も法も全部無視して良い。一万年闘争の決着を付けるので加勢しろ。さもなくば死ねと脅されたらしい。
「俺達が開けたのは勝利への扉じゃ無くてパンドラの箱だった。曲がり形にも安定してた仇同士の関係に再点火しガソリンを注いじまったのさ。今頃中東じゃお偉方がムジャヒディン相手に命乞いの真っ最中だ」
欲望や金儲けでの戦争は何処かで手打ちの余地があるもの。だが、民族対立や思想信条の対立にストッパーは無い。事に宗教が絡んだ場合には、どちらかが絶滅するまで闘争が続いてしまうもの。
人を教え導く筈の教義が人を闘争に駆り立てるのだから、心底始末に悪い話だ。ただ、それを行っている宗教指導者も管理者も、もちろん信者も含めた宗教総体の思想として、矛盾が許されない以上はやるしか無かった。
「なんか……人類の愚かさの……根を見た気がするな……」
トニーがボソリと呟いた。その言葉をテッドは微妙な表情で聞いていた。ブーステッドの生き残りであるトニーがそれを言ったのだ。人類の上位互換として生み出された存在が……だ。
何処かの代理母から産まれて来たはずだが、遺伝子レベルでデザインされた存在なのだ。そんな男が人類の生み出してきた様々な物を思えば、なんで神の存在と言う概念すら生み出した人類がそれで争うのかは理解出来ない話だった。
「神は偉大でグレートだが、神の存在を笠に着る小者にとっちゃ神の権威が一番大事なんだろうさ。なんせ自分の権威や肩書きの担保だからな。宗教戦争の根っこの根っこなんざそんなモンさ」
神の教えに反すると言う主張はつまり、その宗教の最高位にある者の権力を護る為の方便に過ぎない。そして、その取り巻きとなる者達の権利や権力を維持する為には、最高責任者を負けさせる訳には行かないのだった。
「で、話はグルッと一周回って戻るが、君らはここで何をしていたんだ?」
エディの隣にやって来たアリョーシャがそう尋ねると、レプリの男は急に押し黙ってアリョーシャをジッと見た。言うべきか止めるべきかを思案している状態にも見えるが、相手を値踏みしているだけにも見える。
そんな思惑を読み取ったのか、エディを挟んでアリョーシャの反対側に立ったブルは唐突に切り札を切った。レプリの男が驚いて目を剥くような、歓迎せざるる真実と言う奴だ。
「心配するな。ここに居る海兵隊は全員シリウス人だ」
その言葉に『えっ?』と驚いた顔をしたレプリの男は、自分を取り囲んでいる中隊をグルリと見回した。そんな男を抱え立ち上がらせたテッドは、服に付いた土を払ってやりながら言った。
「俺はニューアメリカ州のタイシャン出身だ。まぁ、グレータウンって言っても知らないかもしれないけどな。あの荒野で牛飼いをして居た男の倅だよ」
テッドの言葉が少々意外だったのか、レプリの男は猜疑の眼差しでもう一度全員を見た。ただ、それも仕方が無いのだろう。テッドは追い打ちをかけるように『今は全員がサイボーグだけどな』と付け加えた。
そんな説明がストンと腑に落ちたのか、レプリの男の顔つきがスッと変わった。疑っているというよりも、納得できない。或いは承服できないと言わんばかりの不機嫌さを纏っていた。
「君も面白くないだろうが……まぁ、立ち位置と思想信条の違いだな。そこは諦めてくれ。で、ここはひとつ、我々の質問に正直に答えてもらいたい。ここで何をしていたんだ?」
エディはにこやかな笑みでそう尋ねた。だが、その笑みの向こうに見え隠れするモノは脅迫めいた尋問だ。正直に答えねば命が無い。そんな気にもなる迫力をエディは見え隠れさせていた。
「……まもなく活動限界を迎えるレプリが安心して死ねるよう、カウンセリングを繰り返していた」
本能レベルの直感で『嘘だ』とテッドは思った。実際はもっと酷い事をしていた可能性があるのだと感じたのだ。だが、エディは何処か達観したような顔になっていて、その隣のアリョーシャまでもが『なるほど』などと言い出していた。
「で、最終的にどうするつもりだったんだ?」
エディは遠慮なく一番重要な話を聞いた。北極圏までもう少しな森の中で何をやっていたのか。それが何より重要な情報だ。
「……もうシリウスへ帰れないレプリをここで土にする作業だ。重傷者を中心に死を待つばかりの者達が最期の時を待っていたんだ」
レプリの男が告げたそれは、シリウス人にはよく分かるものだった。人に混じって共に働くレプリカントの寿命は8年。それを完うしたレプリは、シリウスの大地に土葬される運命だ。
絶望的に痩せた大地へ有機物を混ぜ込む為の、いわば肥料として扱われるのが宿命なのはある意味でやむを得ない。だが、短い生涯を生きるレプリカントに対し、思想的な根幹として『お前の生涯は無駄じゃ無いぞ』と安心させる為のもの。
そのように思想教育されてきたレプリカントは、地球で死ぬ事に恐怖を覚えていても責められない事だろう。
「なるほどな…… 所でここには、あと何人居るんだ?」
腕を組み幾度も首肯しつつ聞いていたブルがそう問うた時、レプリの男は明らかに表情を強張らせた。言いにくい事なのかも知れないと思ったテッドは、一言一句聞き逃すまいと神経を集中した。だが……
「……ざっくり300名だ」
思わず『は?』と漏らしたテッド。
ヴァルターもハモるように『マジかよ』と漏らす。
「重傷者は全員処分した。地球の土に還って新しい命になるんだと良い含ませて。残りの者は移動して収容してもらう手筈になっている」
レプリの男がそう告白すると、アリョーシャは間髪入れず『収容とは?』と聞き返す。それが尋問なのは言うまでも無いが、レプリの男はジッとアリョーシャを見てから言った。
「ブルースターというNPO組織がある。そこが支援してくれると連絡してきた。恐らくシリウス系残党による結社だろうが、そんな事はもう関係無い」
段々と全体像の見えてきたエディは、『最後になったが、君の名を聞かせてくれないか?』と問うた。それに対し、レプリに入っていた男はしばし思案した後で言った。
「……ビリンガム。トーマス・ビリンガム」
その言葉の響きにブリテン系を想像したのだろうか。エディは『じゃぁビルで良いかい?』と聞き返し、ビリンガムは『あぁ』と答えて了解したようだ。
「もう少し聞きたい話がある…… そうだな。とりあえず歩きながら話そうか」
エディが浮かべた表情は、愉悦を隠しきれない悪巧みのそれだった……




