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黒い炎  作者: 陸奥守
第十一章 遠き故郷へ手を伸ばす為に
387/424

サーチ&デストロイ ~ 新しい任務の始まり

2023/1/1 大幅改稿


「……なぁ兄貴」


 黙々とマガジンに弾を込めるテッドをトニーが呼んだ。

 12.7ミリの巨大な弾頭が次々とマガジンに押し込まれている最中だ。


「うるせぇ。兄貴って呼ぶな」


 にべもないテッドの返答にミシュリーヌがクスクスと笑っている。

 それを見ていたトニーは渋い表情だが、めげずに言葉を続けた。


「なんで俺達こんな事してんすかね」


 20個ほど作られたマガジンを5個ずつポーチに収め、トニーはそれを腰から下げていた。やや生地の厚い戦闘服の下にはゲル状の耐衝撃スーツがあった。ニューヨーク降下作戦の時に見たシリウス製ゲルアーマーの発展製品だった。


「戦闘準備がどうかしたのかい?」


 話に割って入ったウッディがそう言うと、チームの面々がニヤリと笑った。そんなタイミングでティルトローター機がガタリと揺れ、トニーは思わず窓の外を見てから溜息をこぼした。


「おぃトニー 溜息なんてやめとけって ツキが逃げるぜ?」


 トニーを指差しながらジャンがそんな事を言うと、トニーは『マジッスか?』と返答した。ただ、その視界に入るのは少々驚く様な太さのケーブルで、それは自分の脇腹に突き刺さった状態だった。


「いきなり電源が落ちるかもしれねぇぜ? バカ言ってねぇでサッサと仕度しろ」


 呆れるようにテッドが言うと、トニーは短く『へい……』と応えて今度はパンツァーファウストの弾頭を1つずつ個別に取り出し、専用のケースに収めて腰からぶら下げた。


 最後に自分の自動小銃を取り出すと、交換用のスペアバレルを銃のフロントハンドガード部に納め、スリングの長さを調整した。対物狙撃銃M82の直系子孫となる大口径自動小銃は、S-8の正式名称で国連軍海兵隊に採用されたものだ。


 そしてそれは、事実上サイボーグ専用装備になっていた。生身の人間が持つには重量がありすぎるだけでなく、強い反動もあって戦闘中などでは扱いきれないからだった。


「まぁ……言いてぇ事は解るが、まずはしっかり仕度しろ。俺の経験的に言えば、しっかり仕度しねぇと痛い目にあうからよ」


 トニーを宥めるようにしてテッドがそう言うと、それを聞いていたヴァルターがボソリと『その通りだよなぁ』と呟いた。クレイジーサイボーグスの面々を乗せたティストローター機は、まもなく北米大陸中央部へ差し掛かるところだった。


「地上に降りたら解るさ。何やってるのかじゃなくて、何をするのかって」


 ウッディは相変わらず柔らかい物言いでトニーに言葉を掛けた。

 ただ、それに噛み付いたのは、意外なことにロニーだった。


「まだ1月なんだし、もう少し大人しくしていて欲しかったっすね」


 そう。年が明けてすぐに立ち上がった国連軍海兵隊という組織だが、まだまだ組織が固まっていないにも拘わらず出動はもう3回目だった。西海岸のシスコを本拠地としている彼等は、合衆国各地の街へ掃討作戦に出向いていた。


 国連軍の編成が中々終わらないなか、国連議会の承認を得ずに動ける即応軍は州兵か海兵隊だけだからだ。そして今、彼等の主要任務は州兵が手に負えないとなったシリウス軍残党の掃討戦闘だ。


「向こうにゃ向こうの都合があるんだろううさ。俺たちにゃ関係ない都合が。だからこっちから出向いてぶっ潰すだけだぜ」


 ディージョの物言いに再びミシュリーヌがクスクスと笑った。

 同じタイミングで再びティルトローター機もガタリと揺れた。


「しかし、何でまた化学薬品工場なんですかね?」


 黙って支度していたヨナがそう言うと、ステンマルクがスイッと指でヨナを指して言った。


「その視点が大事だ。そう。化学薬品工場なんだよな」


 北米大陸におけるシリウス軍の組織的抵抗は完全に終了している。首脳部は北米大陸を撤退し、今は中東地域へ後退した。今現在の抵抗活動は、各所に取り残されたシリウス軍拠点が投降せず抵抗を続けているのだ。


 もはや勝利の希望をなくした状態だが、地球側に投降するのは嫌なのだろう。死に場所を求め、最後に一花咲かせてやると腹を括った連中は案外手強い。迂闊に手を出せば返り討ちにされかねず、地球側も安易に撃滅戦闘など出来なかった。


「別に連中は化学薬品なんか必要ないんだよ。けど、地球側は必要だ。だから奪回するべく軍を派遣することになる。連中が本当に欲しいのは、自分たちを殺しにくる国連軍だよ」


 ウッディの分析にヨナが『そうか……』と漏らす。そしてその横で聞いていたティブが『はた迷惑なラブコールですね』と吐き捨てるように言った。


「そうさ。連中は死ぬ理由を求めてるんだ。だから行って殺してやる。ついでに言えば、生身の連中がやりたくない仕事をサイボーグが買って出る。各方面に恩を売るには絶好の機会ってことだ。分かりやすいだろう?」


 準備を終えたエディは最後に現れるなり、遠慮無くそう言った。ティブやヨナが『本当ですね』と返答した。心底鬱陶しいと言わんばかりの返答に、再びミシュリーヌがクスクスと笑うのだった。











 ――――――――北米大陸中央部 カナダとの国境付近

         西暦2275年 1月 25日 現地時間 AM5:00











 それは唐突な指令だった。


 ――――地球上で抵抗活動を続けるシリウス軍を強力に掃討せよ


 火星に陣取っている筈の海兵隊司令官であるハミルトン将軍から発せられた命令は簡単だ。各州の知事が所轄する州兵で対応してきたシリウス軍残党の掃討作戦だが、簡単な所は大凡やり終えた。残っているのは頑強な拠点ばかりだ。


 そんな残党拠点に対し、いわゆるサーチ(探しだし)デストロイ(殲滅)をせよ。それ以上は要求されてないし、それ以外をする必要もない。海兵隊の本分を遺憾なく発揮する為、501中隊は海兵隊の尖兵として現場に向かい殲滅するだけだ。


 ただ、その裏にある思惑は全員が感じ取っていた。言葉にせずとも直感で解る事もあるように。しかし、今回の場合に関しては、直感ではなく体感として伝わってきた。なぜなら……


「けど、これ本当に良いな」


 嬉しそうに言うウッディは、背骨を伸ばすようにウーンと伸びをして見せた。サイボーグにはそんな行為など一切必要ないが、いまはそれが嬉しくて仕方が無い。


 第1世代として採用されたサイボーグ機体はG00と形式命名され、パラリンピック義体競技用に作られたアスリートモデルを更に発展させた機体故にか、驚くべき快適性と素直な反応を示していた。


「……だよな。何というか素直に動く」


 ジャンが言ったそれは、従来の機体とは一線を画す動きやすさだった。多分に感覚的表現ながら、まるで自分の身体に帰ってきた様な気分になるものだった。


 それがどんな物か?と問われても、具体的に説明出来るものでは無い。だが、そこに見え隠れする感覚的な誤差やもどかしさと言った物を簡潔に表現するなら、ドライバーでは無くマスターになったと言う様なものだ。


「今までってさ、何となくだけど操作してるって気になってたよな」


 上機嫌でそういうオーリスは、自分の胸の前で両手を合わせてグリグリと三次元的な動きをして見せた。従来であれば一つ一つ頭で考えて動かしていた。だが今は自動でそれが出来る様な気がする。身体の方が入力に対し素直に勝手に動く。


 本当に些細なことながら、そんな部分における身体の反応が違うのだ。機体を制御するAIの出来が良いと言うだけじゃなく、それを造った者達の配慮が隅々まで行き届いていた。



     『 ―― 違 和 感 が 無 い 機 体 ―― 』



 口で言うのは簡単だが、実際にそれを使ってみた者達の率直な感想として、まるで生身に戻った様だと言うものが出て来る。もっと簡単に言えば感動を与えているのだった。


「まぁなんだ。実際の話として、サイボーグはまだまだ発展途上だ――」


 黙って話しを聞いていたエディは少しばかり笑いながら唐突にそう切り出した。

 そして、機内に居並ぶ面々を見回してから本当の指令を発した。

 全員が苦笑いしながら首肯するものを。


「――今回も散々ハングアップさせろ。それこそが本当の任務だ」


 サイバーダイン社があるサンフランシスコの街を拠点としている最大の理由。それはつまり、未来を見据えたサイボーグ技術の発展と向上だ。そして、新しい機体のバグ出しこそが現場における501中隊最大の任務だった。


「けど、戦闘中のハングアップは本気で悪夢だわ」


 テッドの漏らした素直な言葉はチームの共通認識だ。サイボーグにとってのハングアップは戦闘中に完全な無防備状態となることを指す。幾度か直撃弾を受けて機能停止してしまったテッドは、その実を実地で体験している。


 中隊の面々とて、大なり小なり戦闘中にシステムの再起動を掛けた事などいくらでもあるのだ。腕だけ。脚だけ。そんな部分毎に制御システムを独立させた仕組みなのだが、時にはメインAIごと再起動させたこともあった。


「今はまだ大したこと無いが、そのうちもっと痺れるシチュエーションで戦闘をする事になる。その時のためにバグ出しを真剣にやっておけ」


 ブルの言葉に全員が神妙な顔で首肯した。現状がヌルい戦闘であると言う認識など無いが、今以上の戦闘を行うのは間違いない。激しい戦闘と言う意味もあるが、それ以上に感じるのは、失敗の許されない場面だ。


 命のやり取りと言う現場で困った事態にならない様に。自分の命だけじゃなく仲間の命が掛かってる状況で困った事にならないために。失敗してサイボーグなど不要だと烙印を押されない為に。その為の努力を惜しむな……


「……間違いねぇ」


 ヴァルターがそう呟き、『未来に繋げていかねぇとな』とテッドが付け加える。ここまで使っていた機体を不便だと思った事などないが、これから先を見据えた大事な事だった。


「さて、じゃぁもう一度全員で確認する。目を覚ましてモニターを見ろ」


 アリョーシャが笑いながらそう切り出し、テッドはひとつ息を吐いてからニヤリと笑ってモニターを見た。ごくわずかな事だが機械っぽさ抜けた状態だった。


「降りるのは国境の小さな街だ。だが、ここには窒素系の有機肥料工場がある。ここを抑えられると農家が困るって訳だな。ここを解放し、立て篭ってる連中を全部排除する。シリウス側戦闘員は全員殺して良い。むしろ生き残りを作るな。頭痛と面倒の種が増えるだけだ」


 モニターに表示されたのは縦横1キロも無いジョボい工場だ。従業員は全部で50名未満と言う事で、始業前のほぼ無人な時間帯に入り込んで立て篭ったらしい。


「工場労働者は全員救出済みだ。工場内部に残ってるのは全部シリウス系という事だから心配ない。5分で降下し30分で終わらせ撤収する。出来る限り工場は壊すな。上々に仕上げて見せろ。次も我々にお呼びがかかる様にな」


 冗談めかした言い回しでアリョーシャがそう言うと、聞いていたロニーがプッと笑ってテッドの顔を見た。何故そうしたのかは全く理解できないが、何か言えと話を振られた様に思った。そして……


「チョロい仕事だってなめて掛かると痛い目にあうからな。気合い入れてけ。細心の注意を払って大胆に。優雅に空を舞って抜かりなくだ」


 そんなテッドの言葉にディージョが『そうだな』と相槌を打ち、マガジンをライフルに叩き込んだ。まだボルトは引いてないが、戦闘の準備は整った状態だった。


「よし! 行くぞ! レィディース&ジェントルメン! 気合は十分か!」


 エディがそう問うと全員が『サー!』を返した。それと同時、中隊のサイボーグ達は背負っていたパラシュートの引き紐を天井のレールにフックした。飛び出せば自動でパラが開くので面倒が無いし、開かずに終わってしまう事も無い。


「低高度強襲降下だ。飛び出すと同時に撃ってよし。良いな!」


 全員の顔を見てからそう付け加えたエディは、中隊の最後尾に回ってハンガーの一番奥でレールにフックした。指揮官が最後に飛び出すのは当たり前の話だ。そんなエディの様子を見ながら、テッドは1週間程前に直接聞いた話を思い出した。




  ――――1週間程前


 黙々と作動チェックをする面々は、基地の中で新型の機体を動かしていた。

 サイバーダイン社の新型機体はAIの作り込みが少々甘いらしい。

 だが、逆に言えば使い込むことで徹底的に馴染むはずだ。


「面倒だけど楽しいな」


 そんな事を言ったテッドは、両手を開いたり閉じたりしながら視界の中に浮かぶ各種データーを目で追っていた。各部のアクチュエーターが動作状況をリアルタイムに表示する中、視界へ唐突にスケルチの文字が浮かんだ。


『ジョニー。俺のオフィスまで来い』


 ラジオに流れたエディの声で、テッドはただ事じゃ無いと直感した。高度な暗号化でテッドにのみ伝わる様にエディが呼び出しているのだ。そしてなにより、テッドでは無くジョニーと呼び掛けられている。


「ちょっと変だな。ダインのラボまでちょっと行ってくる」


 何気なく口から出た出任せだが、仲間達は新型機体の調整に余念が無いので『そうか』とか『異常は早めに見付ねぇとな』などと普通の対応だった。


  ――――よしよし……


 何も言わずに部屋を出たテッドは、エディがなぜジョニーと呼んだのかを道々考え、一つの結論を得た。


「……内緒話か」


 どんな話が飛び出るのか、あれこれ思案しながら歩いたジョニー。

 どう考えても碌な話じゃ無いのが目に見えている。だが……


「テッド・マーキュリー。入ります」


 上官であるエディの部屋をノックし、そう言って部屋に入ったジョニー。

 室内には他の人影が無く、エディだけが待っていた。


「調整中に悪いな」

「いや、それは良いけど、なぜジョニー?」


 率直な言葉を漏らしたジョニーだが、エディはニヤリと笑って言った。


「身内の者にしか言えない言葉もある。いわゆる内緒話だ」


 身内……


 テッドはその言葉で自分がエディの義理の息子である事を思いだした。

 ただ、それと同時にとんでもない男が言う内緒話の部分にも目眩を覚えた。



  ――――碌な話じゃ無い



 短くない付き合いだけに、その中身を聞かずとも重い話なのは容易に想像が付いたのだ。少なくともまともな話では無いだろう。だが、そこでエディから聞いた話はテッドの想像を軽く飛び越えて行くものだった。


「それ、マジで言ってますか?」

「……当たり前だ。それくらい出来るようになってくれないと色々困る」


 笑みを添えて言い切ったエディ。サディストなんて言葉じゃ到底足りないレベルの酷い話を吐いたとは思えない穏やかな表情だが、テッドは目眩を通り越して立ちくらみするレベルの衝撃だった。


「まぁなんだ。ここから地上掃討戦をしばらくやる。その課程で彼女には苦労して貰う事になる。だが、そこで割り切ることも学んで貰いたい。その為の存在なんだからな」


 言ったからにはやるのだろう。それは間違い無い。だが、だからといって賛同できる話では無かった。そして同時に、自分にだけこれを伝えたエディの真意。この件に限って言えば、自分は上司と部下や親と子ではなく共犯関係なのだ。


「まぁ、上手く振る舞ってくれ。50年もしないうちに結果が出るだろう。その時の為の投資だ。頼んだぞ」


 半ば強引に話をまとめられ部屋を出たテッド。その脳裏に浮かんだのは、まず自分が生き残る為に何をするべきか?と言う問いだった……




  ――――ティルトローター機内


「よしっ! 行けっ!」


 エディの指示を受けて最初に飛び出したのはテッドだった。間髪入れずヴァルターが飛び出し、蒼い地球の空に飛び出した。フックが引かれつや消しの水色に塗られたパラシュートが開き、同時に鈍い衝撃が襲ってきた。


 ――――収穫期が楽しみだな


 テッドの目に飛び込んできたのは、眼下一杯に広がる広大な麦畑だった。

 青々としている畑の各所にマシーンが置かれ、自動で手入れをしている。


 ――――ハーベスター計画(プラン)か……


 不意に思いだしたそれは、連邦軍本部より送られてきた士官向け資料に書かれた今後の計画だった。簡単に言えば、地球上に残るシリウス軍への対処要項だ。広範囲に分散している連中を特定の箇所へ集め、戦力の集中投入で一気に片付ける。


 その先に見える物は、シリウスへの進出と地上の掃討だろう。その予行演習として、地球上でシリウス軍の残党狩りを行う事になる。それを指しハーベストと言い切った連邦軍本部は、随分と詩的だとテッドは思った。


「全員散開陣形! 射撃開始! 面倒は残すな!」


 ブルの声で我に返ったテッドは空中で射撃を開始した。鋭い衝撃が返ってくるS-8のリコイルだが、そもそも身体自体が重いので殆ど問題にはならない。


「こんな条件じゃ大口径より小口径高速連射の方が有利だな」


 アリョーシャの声を聞きつつ、テッドは狙いを定めて射撃し続けた。

 次々と赤い華を地上に咲かせ、空中からやって来る死神伝説を作っていった。


「連射が遅いぶんだけ照準修正がしやすいです。これはこれでアリなのでは?」


 ミシュリーヌの言葉がラジオに流れ、その分析は間違ってないとテッドは思う。だが、一撃必殺で確実に殺していくのと同時に、敵を釘付けにする威圧系の制圧射撃も必用な事に気が付いた。


「チョロチョロ逃げ回るゴキブリ退治にゃスプレーだぜ!」


 余り口を開かないティブがそんな事を言うと、強襲降下中だというのにラジオの中で笑い声がこだましている。気負ってないし緊張もしていない、ある意味では理想的な状態だ。


「白くとも黒くとも、ネズミを捕るのがいい猫だってアジアじゃ言うそうだよ」


 博識なウッディの言葉にもうひと笑いして、射撃をしつつも対地距離を測りながらフワリと着地したテッド。気が付けばこんな空挺降下も慣れきっていて、今ではバスから降りるような感覚だ。


「テッド着地! 行動開始する!」


 素早くパラシュートを処分したテッドは視界にある全てに射撃を開始した。ややあってエディが着地し、ゼロポイントが指定された。間髪入れずミシュリーヌが走り出し、狭い工場の索敵が開始された。


 流れるようなオペレーションのスムーズさは、高い練度の証でもある。ただ、同時にそれは戦争慣れを意味していて、それを思えば少々気も重くなると言う物だ。


「30分だぞ! 間に合わない奴は置いてくからな!」


 上空で旋回するティルトローター機を指差しながらブルが言う。

 各所で眩い鉄火を撒き散らしながら行動する中隊の面々が『サー!』を返す。


「乗り遅れたらタクシー代は自腹っすか!」


 ちゃんと泣き言を付け加えたロニーの声に、ミシュリーヌが再びクスクスと笑っていた。そして『ポイント3-0-7 オフィスに人影 タクシー代せびってくれば良いんじゃない?』と付け加えた。


 上手く回っている。それを確信する仲間の声に、テッドはこの作戦の成功を確信した。そして同時にこれから始まるであろう重い現実に気が重くなった。



  ――――彼女も災難だな……



 逃れようも無い運命というものは確実にある。己の生まれは選べないのだから、上手く踊るしか無い。だが、それにしたって限度があるのだと言う事を、エディは知らないか知っていても無視するタイプ。それ故に……



  ――――まぁこっちも上手く振る舞おう……



 そんな事を思ったテッドなのだった。


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