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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
382/425

サンフランシスコの攻防 05

今日2話目

~承前






 ――――イテテテテ


 身体にめり込まないまでも、その打撃を受ければ微妙に痛いのは自明の理だ。全身にオモチャの銃弾を受けているような感触を覚えるし、当たればピシピシと鋭い痛みを覚える。


 思わずイラッとしたテッドは、走りながら銃を構えて遠慮無く射撃を加えた。会敵距離100メートルを切った距離でキャリバー50の弾丸を食らうと、人体など簡単に両断されてしまうのだ。


「っざっけんなクソが!」


 30連のマガジン一本を撃ちきった後で素早くマガジンを交換し、再び遠慮無くバリバリとうち始めるテッド。12.7ミリの連射は銃身に相当な負担となるもので、その交換時期も早くなる。


 その意味ではもっと改善の余地があるのだが、それは後で考えれば良いこと。辺りの死体を踏みつけながら倉庫の出入り口にたどり着いたとき、テッドはふと気がついた。


 ――――あれ?


 改めて辺りを見回したとき、流れている血は赤ばかりだった。そう。どこにもレプリの白い血がないのだ。シリウス軍の地上戦力はレプリカントで大幅に水増しされているのが常識で、指揮命令系統を潰せばレプリは戦力足り得ない。


 人の上位互換というべき能力を持つレプリ故に、地球連邦軍はその地上戦においてずいぶんと苦労を重ねていた。撃たれ強くてしぶとく死なず、最後には遠慮無く自爆して果てる。故に、相手戦力の中でレプリの数を見極める事は重要だ。


 そんなレプリが全く見当たらない。まだまだ地上に残っていて、その処遇をめぐって停戦交渉で紛糾したりもしているのだが……


『エディ! シリウス軍にレプリがほとんど居ない!』


 テッドはそう報告をあげた。それを聞いていたエディは『やはり何かあるな』と無線のなかで独り言を呟いている。だが、そんなやり取りの最中、テッドの目の前に手榴弾が飛んできた。


 ――――え?


 恐らく倉庫の中から投げられたのであろうソレは、いつ爆発してもおかしくないタイミングだった。だが、テッドは迷うこと無くそれを掴むと、遠慮無く倉庫の中へ向けて投げ返した。


 そのタイミングで手榴弾は炸裂し、それを見ていた全員が『あっ!』と叫んでいた。爆発の煙でテッドが完全に隠れたように見えたのだ。


「あっぶねぇ!」


 テッドは瞬間的かつ無意識に両腕のリミッターを外し、最大出力で手榴弾を投げ返していた。後になってもう一度やれと言っても恐らく出来ない芸当だろう。シェル戦闘の最中に見せる深い深い極限の集中力、いわゆるゾーン状態に入ったのだ。


『テッド! 大丈夫か!』


 ラジオでエディが確認してきた。その声を聞いたテッドは我に帰り、振り替えってサムアップしていた。


『問題ないです!』


 無茶で無鉄砲な弾丸小僧ッぷりを発揮したのだが、後になってからドッと恐怖が沸き起こった。いくら何でもアレが目の前で爆発していたら即死しかねない。


 ――――危なかった……


 素直にそう思える瞬間がやって来た。いわゆる賢者タイムだ。ただ、そこに居続けられるほど長閑な時間でない事もまた事実だった。


『テッド! 中を確かめろ! 連中が何を隠しているのか暴け!』


 絶妙なタイミングでエディがそう指示を出した。間髪入れず『イエッサー!』を返したテッドは、マガジンの残りを数えてから倉庫の中に足を踏み入れた。天井までは驚く程の高さがある倉庫で、その中には2階建て構造の大型コンテナが並んでいる状態だ。


「こりゃ……すげぇな」


 ボソリと呟き黙りこくったテッド。倉庫の中は莫大な物資で溢れていた。何より驚いたのは、夥しい量の自家用車が収められていたのだ。ピカピカに磨かれた車から埃を被った怪しい車まで、実にその数55台。


「これ、シリウスに持ってく積もりだったんじゃねっすかね?」


 ロニーがそんな分析をしているが、あながち間違いでもないらしい。車はどれも鍵が付いていて、いつでも電源が入る状態だ。地球の地上では内燃機関で動く自家用車などとっくに淘汰されているが、シリウスではまだまだ現役。


 そんな所に地球製のエレカーを持ち込めば、それだけで良い商売になるのが目に見えているし、利益を生むのは確実だ。


 だが……


「誰だ!」


 トニーが急に鋭い声音で叫んだ。その声の方向に目をやったテッドは、思わずアチャーと呟いていた。そこにあったのは、夥しい量のカプセルとそして両手を頭上に挙げている男達だった。


「撃つな! 撃たないでくれ!」


 必死でそう叫びながら両手を挙げている男達。彼らは皆おなじようにタイレル社の作業服を着たエンジニア達だった。


 ――――タイレル?


 その実態が理解出来ないテッドは『全員そこを離れろ!』と叫び、同時にカプセルに肉薄した。そして、そこに何があるのかを理解した。そこに描かれているのはラッパを持ったピエロのマークだ……


『エッ! エディ! ここに! ここに!』


 咄嗟にどう言って良いのか言葉にならないテッドは、言葉の前に画像を転送していた。そこにあったのはパイドパイパーのマークが入ったレプリカント育成用ベッドカプセルだった。


 恐る恐るその蓋を開けたテッドは息を呑んだ。そこに入っていたのは交差する二つの剣が描かれたドッグタグを首に提げているレプリボディだった。その隣にはワイングラスの描かれたカプセルがある。


『テッド! そのカプセルは絶対に壊すなよ! 壊したら俺がこの手でお前をぶっ壊してやる! 解ったな!』


 解りません!などと言う余地は1ミリも無かった。テッドが最後に辿り着いたカプセルには、鳴り響く鐘のマークがあった。そしてその隣には頭からすっぽりとケープを被った黒いシルエットがあった。


 ――――リディア……


 そう。そこにあったのはタイレル社製のレプリボディだ。だが、改めてツインソードの裸体を見たテッドは、その違和感に気が付いた。


 ――――え?


 そう、かつてシリウスで何度か見たツインソードはアラブ系を示す黒髪だった。だが、このカプセルに入っているボディは、まるで何か映画のキャラクターの様な銀髪だ。


「………………………………なんで?」


 素っ頓狂な言葉を漏らしたテッドは、必死になって考えた。だが、生物学的な知識など一切無いのだから、考えた所で始まらない。


 ――――こうなりゃ!


 テッドは手当たり次第にウルフライダーのカプセルケースを開け始めた。そしてそこで驚くべき事を知った。リディアの身体が入っているはずのカプセルを開けた時、そこに居たリディアはあの真亜色の髪ではなく、銀髪だったのだ。


 そして、よく見れば肌の色もどことなく銀に染まっている様に青みがかった白い肌をしていた。まるで皮膚の下にアルミ箔でも入っているかのような、作り物臭のする身体だった。


 すっかり遠くなってしまった日、グレータウンの郊外で何度も肌を合わせた女の姿では無く、完全に作り物然とした別の存在に変わっていた。愕然としつつ『リディア……』と呟いていたテッド。だが、そんなテッドをロニーが呼んだ。


「兄貴! なんか別の集団がいやすぜ!」


 ロニーが見つけたその集団は、倉庫の最奥にある事務所のような場所に潜んでいた。彼らはタイレルやサイバーダイン社のスタッフの様で、トニーが銃を突きつけて大人しくさせている状態だった。


『トニー! そいつらも殺すな! 重要な存在だ!』


 そんな指示を出したエディは、大股で歩きながら倉庫の中へと入ってきた。威風堂々としたその立ち振る舞いは、間違い無く王のそれだとテッドは確信していた。


 ――――エディは全部知っていたんだ!


 このボディの為にエディは事態に介入し、安全を確保しに来たのだ。それを理解した時、テッドはエディが背負っているモノの重さを初めて実感したのだ。何より、地球側とシリウス側との間の深い所に、しっかりとしたパイプがある事を知った。


 エディは全部承知で事態に介入し、恋女房の使うはずの身体を回収しに来た。ここに有るのは何らかの手段でシリウスへと運ぶはずだったモノだ。そして、何らかの実験をかねたモノなのは間違い無い。


 ――――辻褄は……合うな……


 恐らく強行派の面々もこれを知っていたのだろう。その上でこの身体を破壊するか回収して脅迫の種にでもするつもりだったのかも知れない。ましてやこの姿を見れば、女遊びに熱を上げる面々が喜ぶかも知れない。


 だが、そんな所へ現れたエディは、両社のエンジニアを前に満面の笑みを浮かべながら切り出した。


「やっと見つけた。なに、取って喰おうと言う事じゃ無い。ちょっと話を聞いてくれれば良いんだ」


 なんだ?と訝しげな表情で話を聞いているテッド。

 だが、エディの口を突いて出た言葉は、全くの想定外な話だった……



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