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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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サンフランシスコの攻防 03

~承前






 高度1000まで降下したとき、テッドの目には地上の様子がボンヤリと見え始めた。どうやら灯火管制らしい事が見てとれる地上では、おびただしい数の人間が右往左往しているのが見えた。


『なんかパーティーも盛り上がってるみたいだな!』


 嬉しそうな声でジャンがそう言った。前後を大軍に挟まれているシリウスの残党は、夜明け前から戦闘準備の様だ。そんな光景を上空から赤外で見られているなど慮外も慮外なのだろう。


 シリウスロボの回りにスタッフが集結し、起動させるべく忙しげに動いているのが見える。そこには偽装らしきモノは一切無く、完全露天で様々なハッチを開け整備が進められていた。


 重装甲かつ高火力なシリウスロボを相手にまた戦闘する事になる。まともな対抗手段が無い場合には、第1次世界大戦に使われたレベルの戦車ですらも難儀するモノなのだが……


『なら混ぜててもらおうぜ! 招待状は無いけど!』


 テッドも遠慮無くそんな言葉をはいた。その自信とやる気の根拠は、今回の降下に際し始めて登場した新兵器であり秘密の打撃兵器の存在だった。


『浮かれるのは良いがしっかり減速しろ! 足を壊したらロボの標的に置いてくからな!』


 浮かれ上がっている面々を締めるようにブルが叫ぶ。総重量300キロ越えでのHALOは、それだけで格段に難易度が高い。


『そのうちHALOするにしたって、自動で制御してくれる機体が出るだろうね』


 ウッディの言葉は、その裏返しこそが真実だ。難しい条件を全部自分で制御しながら降下する。その技術と度胸と、なにより責任感を胸に任務に当たる存在。サイボーグの兵士が軍隊の中で居場所を確保する為の理由は、自分達で切り開く。


 それを解っているからこそ『格好良く降下しようぜ!』とヴァルターが言った。そしてそれは、このクレイジーサイボーグズに共通するポリシーその物だ。


『高度500! エディ! あのロボ周りにぶっ放して良いですか!』


 テッドは試作の小銃を構えてそう叫んだ。

 もはや着地するだけだが、その前に地上をどうにかしてやろうという思惑だ。


『あぁ構わんぞ! むしろ派手にやれ! パーティーの途中参加は派手な登場が基本だからな!』


 エディのご機嫌な声に弾かれ、アチコチから『よっしゃ!』と声が上がった。

 

『ダイナミックエントリー! ヒーハーッ!』


 テッドが初弾を放つ直前、ステンマルクが10ヶ以上の手榴弾を投下した。地上までは5秒と掛からない距離故に、地上の者達がそれを見て認識して喚いた瞬間に爆発を起こし始めた。


『くーたーばーれー!』

『鉛玉のプレゼントだぜ!』


 テッドとヴァルターが一斉に射撃を始めた。もはや地上まで200メートル無い状況だが、パラシュートの制御などほっといてバリバリと撃っていた。50口径の巨大な銃弾が降り注げば、不運にも命中した人体など一瞬でバラバラだ。


 ステンマルクに続きオーリスが手榴弾をバラ撒き、それに釣られティブやヨナも手榴弾を地上に投げまくっている。その1つがシリウスロボのコックピットに落ちたらしく、挽肉状になったパイロットの死体が弾け飛んでいた。


『全員着地姿勢!』


 アリョーシャの声が聞こえ、テッドは射撃を止めて着地姿勢になった。もはや高度は10メートルで、一気に引き紐を引いて減速しフワリと着地する。その直後、まだパラのロープが張ってる状態でナイフを抜き、その紐を全部斬り捨てた。


『テッド着地!』


 着上陸報告をテッドが上げた直後、チームのメンバー全員が一気に着陸し、戦闘態勢へと切り替わった。


「ここから肉声に切り替える! 円環陣形! とにかく撃て!」


 エディの指示通り、全員が巨大な輪を作って自分の正面の敵へ銃弾を叩き込み始めた。大口径小銃故に連射速度はそれほどでも無く、毎秒5発程度のゆっくりしたモノだ。


 だが、逆に言えば一発一発をコントロールする余裕に繋がり、そもそも重量のあるサイボーグ故に射撃姿勢も安定している。つまり、敵にして見れば飛びきりの悪夢が上空からパラシュートで降ってきた様なモノだった。


「ミシュリーヌ! 走れ! 全員で情報共有しろ! オーリス! ヴァルター! 彼女を支援しろ! 残りは全員視界に入る敵を片っ端から撃て! アリョーシャは頭数の勘定だ!」


 エディの指示は簡潔で明瞭だ。敵の戦闘能力を一方的に奪い続けろと言う指示。そして、どれ程撃ったのか?倒したのかの数を数えろ。その結果が積み上げられれば、自ずと勝利は見えてくる。


「中佐! ストレージエリアに突入します!」


 ミシュリーヌが強い前傾姿勢で走り始めた。女性型サイボーグ故に男好みの体付きになるのは仕方が無いが、そんな身体を上手く使ってミシュリーヌは戦場を一気に加速していった。


「ヴァルター! 女房の首にヒモでも付けとけ!」

「そりゃ無理ッスよ! 首輪掛けた時点で撃たれそうだ!」


 オーリスとヴァルターはミシュリーヌの後方について走っている。3人の地上移動速度は軽く100キロ近くまで出てそうな気配だが、そんな状態でも射撃出来るだけの姿勢制御をサブコンが見せていた。


 ――――スゲェな……


 サイボーグの身体はサブコンの姿勢制御が全てだ。出しゃばらず脳の指示を実現する為だけにAIが身体の全てを制御する。それはいわば、サイボーグ機体の自律神経だ。


「3時方向! シリウスロボ起動中!」


 絶叫染みたジョナサンの声にテッドがそっちを向いた。寝転がっていた筈のシリウスロボが上体を起こし、立ち上がろうとしているのが見えた。


「トニー! 俺のポジション代われ! アイツを潰してくる!」


 テッドの声に『イエッサー!』を返したトニーは、テッドの陣取っていた場所で12.7ミリをバリバリと撃ち始めた。ただ、それを見届けること無く、テッドは秘密兵器を持って立ち上がりつつあるシリウスロボに肉薄した。


「テッド! サザンクロス市街でやった事をもう一度だ! ぜんぶ潰せ!」


 ブルの声がご機嫌だとテッドは思った。ただ、改めて指示されるまでも無く、同じ事をするつもりだし、全部ぶっ潰してやると肉薄していた。


「テッド! 身体を壊すなよ!」


 エディの声まで笑っていた。つまりそれは無償の信頼その物。シリウスロボの撃破は間違い無いことで、あとは無事に終わってくれと祈るだけだった。


「兄貴! 手伝いますぜ!」


 ロニーも射撃を止めてテッドのあとを追った。ただ、そんなロニーに一瞥すらくれること無くテッドは走っていた。そして、背中に手を伸ばし持ってきた秘密兵器を取り出した。それは、三つ折りに畳まれた発射筒だった。


 ――――頼むぜ……


 ニヤリと笑ったテッドは、その発射筒を展開し安全装置を解除して構えた。全長1m少々のそれは、折り畳み型のRPGだ。従来のRPGは全長が2m近くある取り回しに不便なモノだった。


 そんなRPGの構造を簡素化し、発射筒を多重折りたたみ構造に改良した打撃兵器。300年近く前に産まれた対戦車兵器であるパンツァーファウストの、いわば現代仕様に再製作された改良版だ。


 クルップ式無反動砲の構造を取り入れたそれは、弾頭を詰め替えれば幾らでも撃てる再利用型兵器なのだが、弾頭以前にその発射筒自体が打撃兵器にすら転用出来る巨大な鈍器その物だった。


「ロニー! そこで止まれ! 見てろ!」


 テッドがそう叫ぶと、手近な物陰に隠れたロニーが『へいっ!』と応えた。それを聞いたテッドはサザンクロス市街でやったのと同じように、ロボの足下まで接近して装甲スカートの内側にある脚部構造の付け根を狙った。


 ――――いけっ!


 ほぼ無衝動で放たれたパンツァーファウストは鈍い音を立てて飛び、その弾頭はロボの左足付け根に命中した。重量の掛かる部分故に多少の打撃でも致命傷に為りかねない部分だが、その構造自体を完全に破壊して擱座せしめた。


 姿勢制御を失ったロボは仰向けに転倒し、様々な物資と逃げ遅れた整備員を押し潰してしまった。


「兄貴すげぇっす!」


 まるで子供のようにロニーが喜んでいる。だが、テッドは油断すること無くロボの上に這い上がり、コックピットまで走って行った。そして、パイロットが脱出するべく装甲キャノピーを開けた瞬間、自動小銃の弾を叩き込んだ。


「おらっ! 一機目!」


 血の海とかしたコックピットの中にパイロットだった肉片が幾つも浮いている。極めつけにグロいシーンだが、今さら何とも思わなくなっている自分がおかしいとすら感じた。


「ロニー! 行けるか!」


 テッドがそう叫ぶと、ロニーは『やってみるッス!』と返答し、同じようにパンツァーファウストを展開して走り出した。手順を実際にやって見せたのだから、あとはもう同じ作業の繰り返しだ。


 シェルでの戦闘と同じく、真っ直ぐに突っ込む馬鹿な事さえしなければ危険は少ない。そんな状態で次々にシリウスロボを破壊していくのだが、最後の7機目でそれは起きた。


 テッドが狙い澄ましてRPGを構え見上げた時、シリウスロボのスカート部分に存在する近接防御兵器の発射口がテッドを狙っていた……

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