新兵器
「迎えに来たぞ。ジョニー」
リハビリ開始から1週間が経った日。
純白の牢獄だったジョニーの部屋にエディが現れた。
「……エディ」
この1週間、ジョニーは地獄のような日々を送っていた。
肉体的苦痛の無いサイボーグの身体だが、それでも連続しての身体制御誤差を潰す地道な作業は堪えた。もぐら叩きとも表現される地味な作業だが、それを怠ると戦闘中にいきなりハングアップしたりするらしい。
サイボーグが戦闘の現場で使われるようになってまだ50年と経過していないのだから、この技術はまだまだ発展途上なのだとジョニーは教育されていた。
「もう問題ないか?」
「あぁ。しっかり勉強した」
サイボーグとは相当特殊な乗り物のオペレーターでしかない。そんな教育を受けたジョニーは、『自分の身体』となったサイボーグのボディについて濃密なレクチャーを受けていた。
「シミュレーターの学校は楽しかったろ?」
「……余り思い出したくないな」
「なぜ?」
苦笑するジョニーはシミュレーターの中の『授業』を思い出していた。自分の入っている身体を前に、ケーブルで予備ボディに接続して自分の身体をオーバーホールすると言うものだ。
基本的な部分での学力に問題があるジョニーだ。マニュアルを見ながらの作業ですらも簡単な記述での文章読解に問題があった。注意事項を読み飛ばし、肝心な部分のセッティングが甘くなってしまう事も多々あったのだ。
予備ボディからケーブルオフし自分の身体に帰ったモノの、システム起動後の身体制御が上手くいかずハングアップして、自分ではどうも出来ない状況に陥ると言うリアルならば絶望しかない状況を何度も経験した。
「……いつもテストの成績は悪かったから」
「補講を受けただろ?」
「あぁ」
そんな授業は何度も何度も『出来るまで』繰り返されることになる。一度や二度の失敗で諦めることはなく、ジョニーはマニュアルを丸暗記するレベルまで徹底的に同じ事を繰り返していった。そして気が付けば身体各部のビスやナットを締め付けるトルクの規定値まで暗記し、スラスラと暗唱するレベルにまでなっていた。
「理解すれば良いんだ。むしろ、理解がより深まったかもしれないぞ」
「前向きってこういう事なんだな」
「ジョニーはいつも前向きだった筈だぞ?」
「……そうだっけか」
苦笑しつつもエディを見るジョニー。金属と炭素繊維で出来ていた身体には、すっかりと人口筋肉や人工皮膚のカバーが付いていた。生身だった頃に比べ、一回りも身体が大きくなったように見える。
サイボーグの身体を仕上げる最後の行程は丸3日かかるモノだ。それ故、逆に言えば連続して72時間ものまとまった時間をシミュレーター上で過ごす事になるのだ。その時間を使って徹底的に仕込まれたサイボーグ体の構造学は、ただのかカウボーイだったジョニーをサイボーグ構造の専門家レベルにまで押し上げていた。
「さぁ、行くか」
手招きしたエディをジッと見ていたジョニーは静かに笑う。どこか不安げにしていた1週間前の男はもう居ない。男子三日会わざれば刮目せよと言うが、いまここに居るジョニーは丸3年近い日数をシミュレーターの中で過ごし、ヴェテランサイボーグユーザーに育っている。
「あぁ」
数歩進んでから振り返ったジョニー。自信溢れる背中や軽快な足取りや、『違和感なく過ごしている』というその姿を見ていたアリシアは、両腕を組んだまま満足そうに笑っている。
「あなたも私の自信作の一つね」
「自信作って?」
「私の作品は自立して動くのよ」
フフフと笑ったアリシアも数歩進んでジョニーの尻をバシッと叩いた。
「さぁ、ここからが本当の勝負よ!」
「ここから?」
「そう! サイボーグの社会復帰はこれで終わり。ここからは一人前の軍人としての社会復帰よ!」
驚いたジョニーがエディを見た。
「聞いた通りさ。ジョニーは…… いや、ジョニーも含め、ここからが大変なんだよ。一人前の士官になってもらうぞ? 覚悟しろよ」
「そう言えばサイボーグユーザーはみんな士官なんだっけ」
「まぁやむを得ない話しだ。なんせ俺やジョニーが使っている身体は下手な戦車一輌分よりも金が掛かっている」
「……基本、オーダーメイドですからね。これ」
「そう言う事さ」
エディに促され部屋から一歩外へ出たジョニーは、そこが宇宙空間であった事を始めて知った。窓の外に広がっていたのは、蒼い海の広がるニューホライズンの地上だった。
「綺麗だ」
ボソリと呟くジョニー。足を止めたエディやアリシアも同じようにニューホライズンの地上を見ていた。
「所でこの船は……」
「これか?」
ジョニーの問いを聞いたエディはニヤリと笑ってアリシアを見る。その視線を受けたアリシアは胸を張って自信ありげに答えた。
「ナイチンゲールをファーストシップとするフローレンス級医療救護艦の3番艦、アグネサヴォヤージよ。地球連邦軍の医療救護船のウチ、唯一の高度医療救急救命設備を持った、いわばサイボーグ建造船と言う所ね」
アリシアの口から出た『サイボーグ建造船』という言葉に驚くジョニー。もう一度窓の外を見たとき、ニューホライズンの周回軌道上には地球連邦軍の戦列艦が十重二十重に艦隊を組んで航行していた。
「さぁ、遊んでいる暇はないぞ」
「イエッサー!」
エディの後について行くジョニー。それほど広くない艦内だが、そのどこを見てもサイボーグをメンテナンスする為の設備が所狭しと置かれていた。ニューホライズンの地上で見た連邦軍の先進的な装備や設備も凄いと息を呑んだのだが、この艦内はそれを上回る充実した装備に溢れていた。
「やっぱり地球は凄いや」
「人類文明の母なる星だ。それだけ先に進んでいるって事だ」
どこか笑いを噛み殺しているかのようなエディに続いて歩いて行くジョニー。
通路を進んでいっていくつかハッチを潜り、やがて大きなハンガーに出たジョニーだが、その目の前には今まで見た事の無い物体が鎮座していた。
「……これ」
見上げるほどにその大きな物体は、まるで2階建ての建物のような存在感だ。だが、その存在感は余りにも大きく、そして、威圧感に溢れていた。なぜなら、その物体を一言で言うなら『巨大人型兵器』そのもので、ジョニーが見上げるその巨躯には地球連邦軍のマークが貼り付けられていた。
「空母の中でジョニーも見ただろう。大気圏外汎用作業機だ」
「……あぁ、見た。あの人型の」
「そう。アレをベースにして、とにかくでっかいエンジンを積んでみましたって代物だ。それに伴って装甲を施し、ついでに武装してある」
「……それってシリウスロボと同じじゃ」
「そう言う事だな」
ヒョイヒョイと手招きしたエディはジョニーを誘う。ハンガーの中に並ぶその人型兵器は5機。つや消しの漆黒に塗られた気体には01から05のナンバーが入れられていた。
「全高7メートル程だが重量はおよそ30トンある。慣性質量が大きい関係で小回りさせるには色々小技が必要だ。ただ、その分だけ武装と装甲はしっかりと奢ってある。40ミリモーターカノンどころか105ミリ速射砲を距離300で受けても心臓部は守られる仕組みだ」
楽しそうに説明するエディはその人型兵器の胴体部を指さす。
「ただし、心臓部にコックピットは含まれていないけどな」
「えっ?」
「当たらなきゃ良いんだよ」
ハハハ!と笑うエディは背面へと回る。まるで弾道ロケットのメインエンジンの如き巨大なスカートノズルが三つ、肩胛骨と腰辺りに鎮座している。そのノズルはジンバル機構が付けられていて、この巨大な兵器を自在に動かす様にしているのだろうと思われた。
「基本的には戦闘機と言うより戦車の戦い方だ。真っ直ぐ突撃し大きく旋回する。そして、戦車と同じように砲を旋回させ、全方位へ攻撃する。ただし、この兵器の場合だと旋回するのはターレではなく自分自身だがな」
人型兵器の右腕先端には5本指のマニピュレーターが装着されているのだが、そのすぐ上辺りには連装65ミリモーターカノンの砲身が鈍く光っている。
「これ、バンデットの65ミリですよね?」
「そうだ。ただし能力が全く違う。毎分600発の砲撃能力があり、それを連装にして、オマケにつるべ打ちだ。従って実際には毎分1200発発射できる。短い時間に一発でも多く殴るのは喧嘩でも戦争でも一緒さ」
右腕の上部に付けられた機関部へは、背中のエンジン辺りから給弾ベルトが伸びていた。毎分1200発ともなると砲弾供給が重要なのは言うまでもない。
「機関部の弾薬ストッカーは60発まで入る。つまり一門辺り30発だ。毎秒10発撃てるから射撃フェーズは3秒までと言う事になる。弾薬ストッカーの中身を撃ち尽くしたらリロードに15秒は掛かるから、余程上手く使わないといざと言う時に弾切れで射撃出来ないって無様をさらす事になる」
どや?とでも言いたげなエディ。
ジョニーも話を聞きながら段々と笑顔になっていた。
「だけど、何時の間にこんなものが」
「ジョニーが居眠りこいてる間に受領したのさ」
「……居眠り」
「そう。そして、この1週間も含めた一月程の間に運用法や戦闘手順を研究し続けていたんだよ。アレコレためしたんだが、最終的に出た結論は戦車戦のように戦列を作って敵を包囲するのが良いようだ」
話を聞きながら歩いているジョニーは人型兵器の左腕側へ回り込んだ。見上げるようなその巨躯の左腕は右腕以上に膨らんでいる。
「この出っ張りは何が入ってるんですか?」
「ここには30ミリチェーンガンが納められている。毎分3900発さ。だた、装弾数は1000発少々なもんで20秒足らずで撃ちつくす」
複雑な心境で見上げていたジョニーは不安そうに言う。
「武装は強力ですけど、手持ち弾薬が……」
「そう言う事さ。戦車だって実体弾頭は良いとこ50発か60発。その後は荷電粒子砲モードでバッテリーとジェネレーターの能力次第ってところだろ。だが、この機体のジェネレーターはかなり貧弱なもんでな。荷電粒子砲を搭載できなかった」
「メインエンジンがこれだけ大きいと……」
「そう言うことだ。実は地球の研究所では熱核反応型のリアクターエンジンを研究中だそうで、それを装備すればだいぶマシになるだろう」
「……じゃぁ、今の燃料は?」
「バンデットと同じだ」
ジョニーの不安げな表情を見つつ、エディは忍び笑いを噛み殺し正面のタラップを上がった。コックピット部の前に立って振り返ると手招きしてジョニーを呼ぶ。
「乗ってみたいだろ?」
嗾けるような言葉にジョニーが笑った。
「少し不安だな」
「おいおい」
ジョニーの胸を小突いたエディは小馬鹿にするような眼差しだ。
「あの好奇心の塊だったジョニーは何処へ行っちまったんだ?」
「……ザリシャグラードのクレーターに置いて来ちまったのかも」
「じゃぁそれを回収に行こう。これで」
「これで?」
「そうさ」
コックピットハッチを開けたエディはシート部分のストラップを緩め、その椅子の上にジョニーを押し込んだ。
「ストラップはこうやって締める。バンデットよりガッチリ締め付けられるが窒息の心配は無い。どうせ俺もお前も機械の身体さ」
されるがままにしていたジョニーだが、コックピットシートの上でハッと気が付いた。このコックピットにはインパネの類が一切無いのだ。そして、インパネだけでなく、コックピットにあるべき視界確保の為の窓部分が一切無い構造で、それを一言で言うなら、地上で乗っていた装甲車や戦車と同じだった。
「エディ。これ、どうやって」
「こうするのさ」
エディはシートバック脇にある小箱を開けると、中からロック機構の付いたハーネスを取り出した。そのハーネスの一端は気体に直付けになっているが、もう一方は汎用構造の通信バスだ。
「ジョニー、首筋のバスは使い方を教えられたか?」
「……もちろん」
「じゃぁ、そこへ差し込め」
通信バスを受け取ったジョニーはリハビリ教育の一環でやったように、首裏の通信バスへケーブルを差し込んだ。極僅かな静電気によるリークを背筋に感じたが、その直後に視界の中へ警告ダイアログが浮かび上がり、メインシステム起動を通告してきた。
「エディ! こっ! これって!」
「シェルが目覚めるのさ!」
「シェル? シェルって?」
「この機体は高機動装甲戦闘服。HMVと名付けられている。だが、整備班は一目見た時からこう呼んでる。装甲付き移動機。だから、これに係わる全員がシェルと呼ぶようになった。そして……」
コックピットから数歩下がったエディはコックピット脇の制御パネル前に陣取ると、ジョニーがコンタクトしているシェルのメインシステムを外部から起動させた。ジョニーの視界に大量のシステム起動情報文字がスクロールして流れ、その後にジョニーの背中辺りから翼が生えたような錯覚を覚えた。
「エッ! エディ! なんだこれ!」
「この機体はサイボーグしか動かせない! サイボーグにとっては自分の身体そのものになるんだからな!」
「なんだよそれ!」
「自分の身体だと思って上手く動かせ!」
「ちょっと待ってくれよ! もっと説明してくれ!」
声を張り上げるジョニーを他所に、エディはコックピットハッチを閉じた。閉まりゆくハッチの隙間。チラリと見えるエディが手を振りながら言った。
「考えるな! 感じろ!」
「エディ!」
鈍い音を立てて幾重にも装甲ハッチが閉鎖される音を聞いたジョニー。完全な暗闇の中、ジョニーの視界には幾つもの警告が浮かび上がった。
――Permission to Sortie
真っ赤な文字で浮かび上がった出撃許可を眺めながら唖然としていると、不意に身体全体を揺さぶるような振動と轟音がコックピットに響いた。
――MAIN ENGINE IGNITION
まるで鳴り響く鐘に頭を突っ込んだ様だとジョニーは思った。
だが、そんな感想や感慨に耽る余裕など一切なく、ジョニーの視界の中にパネル状の仮想モニターが幾つも浮かび上がった。それはまるであの装輪戦車のターレにあった全周視野付きなモニターのようで、シェルの視野をコックピットの中に再現したモノだった。
「ジョニー! 準備は良いか?」
「準備って、どうすりゃいいんだよ!」
「動かし方は自分で覚えろ」
「そんな事言ったって」
「寝言も泣き言も後で言え。いま必要なのは動かし方だ」
「え?」
「行くぞ!」
ハンガーの中から整備スタッフが姿を消し、ややあってハンガーの大型ハッチが大きく開いた。そんな中、01のナンバーを付けたシェルが宇宙へ向かって飛び出していき、それに続いて02、03、04が宇宙へと飛び出していく。
『カタパルトで叩き出す! 覚悟は良いか?』
突然脳内に響いた声。
サイボーグは無線を直接聞く事が出来るとレクチャーは受けていた。しかし、その実地訓練らしき事をジョニーは一切やっていないし受けていない。それがエディの教育方針なのだけど、説明無しにいきなり現場へ放り込まれる恐怖は如何ともし難い。
「覚悟?」
返事の仕方すら解らずコックピットの中で叫んだジョニー。
その直後、常識では計れない急激な加速度に襲われ、一瞬視界が黒く塗りつぶされた。バンデットライダーの育成教育で受けた脳殻内液の偏りによるブラックアウト現象だ。
――じょっ! 冗談じゃねぇ!
堅いシートバックに身体を押し付けられたジョニーは身動き一つ取れず、激しい加速度と戦いながら宇宙を飛翔した。宇宙を飛んだ事はこの何週間かで慣れていたのだが、バンデットとは比較にならない速度で宇宙の景色が動く事にジョニーは戦慄した。
『しっかりコントロールしろよ!』
不意に脳内へエディの声が聞こえ、辺りを確かめたジョニーはやや離れた場所にいる01号機を見つけた。
「これ、どうすれば――
コックピットの中に響く自分の声を聞き、ジョニーは対応能力の限界を越えたことを痛感していた。慌てふためきコックピットの中でジタバタするも、シェルはそんな事を無視するかのように真っ直ぐ飛ぶのだった。
『ほら! そろそろ旋回しろ!』
再びエディの声が脳内に響く。ジョニーはその声を聞きつつ、コックピットの中にあったスティック状のバーに両手を添えた。コックピット左右の壁から生えるように突き出ているバーだ。グッと握って動かそうと力を入れたのだが、そのバーはビクともしなかった。
「これ、どうやって動かすんだよ!」
コックピットの中で叫んだジョニー。無線の使い方すらまだ解らない状態なのだが、そのジョニー機の各所に激しい衝撃が幾つも走った。まるで自分の腹部を殴られた様な衝撃を感じ、ジョニーは思わず自分の腹部を触る。
『次はコックピットを狙うぞ!』
笑い声の混じるエディの言葉にムカッと腹を立てたジョニー。しかし、エディは遠慮無くジョニーへ向かってバルカン砲を撃ち込んだ。
『なにすんだよ!』
何も考えずに脳内で叫んだジョニー。
胸の内へ叫んだ独り言とも言える。
『おぉ! その調子だ! 無線はそうやって使え!』
無線の中へ流れたジョニーの声。それを聞いたエディは喜色の混じった声を返してきた。ただ、返ってきたのは声だけではなく、40ミリ砲の砲弾も立て続けにジョニーの機体へ着弾した。
『今のが実弾ならお前は戦死だ』
『なにを!』
『リディアを探したかったら早く一人前になれ!』
ジョニー機を囲むようにしてらせん状に飛びながら、遠慮無くモーターカノンを打ち込み続けるエディ機。その姿をイライラしながら見ていたジョニーは、脳内で宇宙を彷徨う自分をイメージし、水中を泳ぐような身体の使い方を考えた。するとそのジョニーのイメージをシェルがトレースし、宇宙空間で進路を変え、エディの砲弾を躱すのだった。
『ハハハ! さすがだなジョニー! お楽しみはここからだぞ!』
『エディ!」
医療船を飛び立ったエディ機とジョニー機は、宇宙という虚無の空間で激しいドッグファイトを繰り広げ始めた。秒速30キロもの速度を誇るシェルでの戦闘は考える前に身体が動かないと戦えない代物だ。
そのシェルは自分の稼いだ速度と上手く付き合うことが要求される。毎秒30キロともなれば、遠心力で機体のあちこちに異常を来すからだ。
『視野の左隅に透明な水色の花が咲いていないか?』
『あぁ咲いている!』
『その中心にある赤い点が自分の機体だ』
急激な旋回を立て続けに行ったジョニーは機体の行き足が落ちていることに気が付いた。バンデットと同じく連続した急旋回は慣性運動のエネルギーが遠心力に取られて速度の低下を引き起こす。重力圏内飛行の場合でも揚力の喪失は墜落一直線なのだが、宇宙の場合はより危険な事態となるのだ。
『惑星重力に引っ張られると速度が落ちる。重力に負ければ墜落だ』
『惑星に墜落?』
『そうさ。そして断熱圧縮で機体が燃え尽きる。いくら強靭な機体でもそれは無理だ』
一瞬背筋がゾクリとしたジョニー。サイボーグだって悪寒を感じるんだと驚くのだが、そんな事をしている間にもジョニーの乗るシェルは不安定な起動を描きながら宇宙をヨタヨタと飛んでいた。
『ジョニー!』
『はい?』
『楽しいか?』
『エッ?』
裏返った声でエディに応えたジョニー。
らせん状の複雑な軌道を描きつつ、エディのシェルはジョニーをつつき続けた。
『早く一人前になれ。一日も早くだ』
様々な方向からエディ機の攻撃を受け痛みを感じつつ、ジョニーは必死でシェルを制御し続けるのだった。




