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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
379/425

サンフランシスコの攻防 02

思う所あって全話を含め全面的に改稿しました。

従いまして、全話から改めて読み直して頂けますと幸いです。

~承前






 ――シリウス軍がここに結集している

 ――我々はそこを強襲し邪魔者を排除したあとで完全爆破する

 ――例の独立闘争委員会の走狗のようだ

 ――彼らも必死なんだろうな


 エディの吐いたそんな言葉を反芻しながら、テッドはシスコ郊外の上空5キロ付近をフリーダイブしていた。辺りにはクレイジーサイボーグズの面々が拡がっていて、同じく地球の重力に導かれていた。


 ――――簡単に言ってくれるけどよぉ……


 内心でそうぼやいたテッドは、視界の隅にもう一度つい先ほど見た映像を再生していた。エディが降下目標に指定したのは、シスコの市街地から外れた砂漠の中にある巨大なストレージハウスだ。


 横幅だけで2マイルもあるその巨大な建物は、シスコ市民の不要物を預かる巨大なレンタル倉庫であり、また、街に必要な非常事態の際の備蓄物資を置いてあるエマージェンシーユニットだ。


 シリウス軍はそこへ強引にエントリーし、中にある食料や様々な物資を吸収して武装を強化しているらしい。そして、市民の持っていた様々な日曜大工道具などを動員し、小破中破状態な7機のシリウスロボを修理していた。


 ――ハミルトン司令からの指示は簡単だ

 ――彼らのやる気の元を折って欲しいとの事なんだが……


 エディの言った言葉に『なんだそりゃ……』と呟いたテッド。上官の指示をどれ程()()に読み取れるかで部下の価値は決まる。そしてこの場合、テッドが受けた印象は単純だ。


 ――――……要するに負けという現実を突き付けて欲しいって事か

 ――――……他にも色々とあるんだろうが……


 実際、それ以上の事は要求されてないと見て良いだろう。テッドにしてみれば、姉キャサリンの脳が再生処理を受けているタイレル社のラボを護り、あわせてサイバーダイン社のサイボーグ量産工場が破壊されるのを防ぐ。


 要するにそれだけであって、それ以外はどうでも良い。ただ、その指示を実行するのは相当キツイ事が解っていた。幾ら重武装でやってきたとは言え、所詮は20名未満のクレイジーサイボーグズなのだ。


 地上のシリウス軍は500人近く居るのだから、相当効率よくやらなければこっちが危ないのは嫌でも解る。おまけに向こうは重機材があるがこっちには無い。つまり、手持ち火器だけでもう一度シリウスロボとやり合う事になる。


 ――――……勘弁してくれよ


 嘘偽りなく、テッドはそんな風に思っていた。ただ、エディの説明は段々と熱が入り始め、いよいよ本音が漏れ始めた。そう。国連軍とか連邦軍とか海兵隊とかでは無く、エディ自身の目標で有り目的達成の手段として行うと言う部分だ。


 ――国連軍本部が見ている

 ――そんな中で我々はしっかりと踊らねばならんのだよ

 ――統率の取れた団体行動を行える事を見せてやらねばならない


 軍隊なんだからそんな事は当たり前だと誰もが思った。ただ、エディ・マーキュリーという人間の言葉を額面通りに受け取るのは危ない事もテッドは知っている。


 だからこそ、気を張り、注意し、一言一句反芻するように言葉を聞いていた。必ずそこにエディの本音があるのだと知っていたから。


 ――我々はただのブリキの人形的な陰口を叩かれる

 ――それを見返すチャンスだ

 ――我々はただの人形では無く生身の兵士の上位互換であるのだと……


 そう。それこそがサイボーグである彼らのプライドで有りコンプレックス。エディはそこからコンプレックスを抜き取る事をやろうとしている。生身の兵士が20名で降りた所でどれ程戦えるかは疑問符が付くだろう。


 だが、501大隊のクレイジーサイボーグズがそこに割って入り、地上を徹底的に掃討し、文字通りに皆殺しにするレベルで粉砕して、上々の結果を各方面に突き付ける事で、最も重要な物を手に入れる。


 つまり、出来る限りでフリーハンドに戦場を渡り歩く権限と権利とを入手する。


 ――――エディの必要なモノだもんだ……

 ――――いやちがうか……

 ――――そうだ……


 テッドの脳内に『ビギンズ』という言葉が思い浮かんだ。そう、最終的にシリウスを独立させる為の工作活動を自由に行えるようにすること。それこそが最も重要な目標で有り、三軍統合参謀本部走狗になるのでは無く、自由な活動が出来るように、各方面に恩を売っておく活動だ。


 ――――とっておきにめんどくせぇ仕事だ……


 正直、テッドの持った印象はそれで、少々ウンザリ気味だ。だが、その言葉の端端に見え隠れするエディの思惑とハミルトン司令の配慮がやる気を繋ぎ止めていたのだった。


 ――――少しくらい働かねぇとな……

 ――――リストラされたら廃車置き場直行だぜ……


 そう。国連軍の無駄飯食いと揶揄される前に、サイボーグは軍の役に立つ存在だと実績を積み上げる必要があるのだ。そしてそれは、今後の自分達の処遇にも繋がるはずだ。


 海兵隊の予算を多く喰うであろう自分達が、投資に見合うだけの結果を出さねばならない。それは、社会における絶対不変の原理であり、地球人類の常識という面で言えば定理と言って良い事だった……


『全員聞こえるな』


 カンパニーラジオにエディの声が流れ、テッドの意識は現実に帰ってきた。あの、グリーゼへ空挺降下した時よりも遙かに重武装のテッドは、ジッと地上を見て内心でため息をこぼした。


 装備重量を加算した自分自身の重量は軽く300kgを越えている。そんな存在が重力に引かれれば、凄まじい速度で落っこち続けているのだ。正直言えば、夜の側で良かった……と神に感謝したい位だった。


『高度5000で予備減速。1000を切ったらメインパラを広げて着地に備えつつも攻撃の準備だ。着上陸した時点で手筈通りに攻撃を開始する。最初の5分程度は反撃も散発的だろう。それ以降は酷い事になる』


 ……ソレイコウハヒドイコトニナル


 その言葉を吐いたエディの声が何とも楽しそうだ。


 銃や砲で抵抗されるなら全く問題はない。だが、彼らは本気で死に物狂いの抵抗を試みるだろう。鉄パイプやスコップと言った原始的な武器まで使った抵抗の為の抵抗だ。


 彼らは勝つのでは無く抵抗する事が目的にすり替わっている。勝てないから降伏などという選択肢は最初から存在していない。そう。勝てないまでも死ぬまで抵抗する事こそが本義なのだ。


『シスコはまだ夜だぜ』


 ジャンがそんな事を漏らすのだが、ワスプの艦内に居れば地上の時間感覚など完全に遮断されてしまう。故に、国連軍基準時間で彼らは行動する。たとえ真夜中の行動となっても、まったく眠気の無い活動が自由に出来るようになるのだが……


『連中も寝ててくれるとありがてぇな』


 ディージョの言葉にアチコチからクスクスという笑い声が漏れた。相手が寝ててくれるなら、こんな簡単な仕事は無いのだ。さっさと行ってサクッと始末するだけで終わる。


 それほど簡単では無いと解っているが、それでも期待してしまうのだった。やはり、ガチでのドンパチは歓迎しないのだから。


『それより全員、体内ヒーターに注意しろ。氷点下50℃を切っている極寒だ。装甲服を着ているから実感沸かないが、アチコチの油圧系が動きを悪くしてるはずなんで注意しないと危ない』


 アリョーシャの注意が聞こえ、テッドは改めて身体がちゃんと動くか確かめている。超低温状態では機械の動きが悪くなるのは言うまでも無い事だ。


『テッド。問題無し!』


 元気よくそう返答したテッド。その次の瞬間、眼下に見えていたシリウス軍の集結しているストレージエリアにある街明かりが一斉に消え始めた。


『何が起きてる?』


 ブルが訝しがる様にそう言うと、エディがそれに返答した。

 事態を把握してるのか?と一瞬期待したテッドだが、異なる言葉が漏れた。


『地上で戦闘が発生しているかも知れない。全員注意しろ。流れ弾に注意だ』


 思わず『はぁ?』と抜けた声を出したテッド。それを聞いたロニーが『いま兄貴完全に素で言いましたね』と突っ込みを入れてきた。だが、空中では逃げる事も回避も出来ない。


 いつの時代も空挺降下は気合と根性で降下するしか無いのだから、あとは地上へ降りるだけだ。しかし、その地上で予定外の戦闘が発生しているのであれば、それは歓迎せざるる事態だ。


『地上に降りるまで事態は正確には分からない。だから誰かが最初に強襲降下して、後続の導きとならねばならない。それをサイボーグチームの仕事にしてしまおうと思っている』


 それこそがエディの本音。思惑の全て。そして、サイボーグの存在意義その物だった。なにより、リストラされずに軍の中で確固たる存在理由を作れる部分だ。


『……なるほど。考えましたね』


 ウッディが感心したように言う。

 その言葉に満足したのか、エディはやや饒舌な調子になって切り出した。


『地上に降りたなら、そこがポイント・ゼロだ。そこから同心円状に拡がり、こちらの勢力範囲を拡大し、あわせて敵を掃討する。ミシュリーヌ。君にはまずエリアをサーチし、敵の居そうな場所を探す任務を与える。その後、全員で地上を徹底的に掃討する』


 ミシュが『イエッサー!』を返しやる気を漲らせている。きっとヴァルターは面白く無いだろうが、普通に考えたら投影面積の最も少ないミシュにはうってつけの仕事と言える任務だ。


『さぁ残り2000だ! 全員気合い入れろ!』


 エディの熱い発破がラジオの中に響いていた……

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