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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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ニューヨーク降下作戦 08

~承前






 捕虜にしたチーノを憲兵引き渡した501大隊の面々は、戦闘の後片付けを終えて再び移動開始した。ニューヨークからワシントンDCを目指す国道をダッジなどの大型バンで淡々と走っている

 複数の車に別れた大隊は、途中で編入した地上軍の生き残りや州兵を加え、気がつけば500人を軽く超える規模になりつつある。大隊規模の大所帯だが、テッドチームとヴァルターチームに別れ、だんだんと編成を整えつつあった。


『ドッド。逃げ出したシリウスのチョッパーを追跡しているか?』


 エディの声がラジオに流れ、テッドは意識を現実に引き戻した。戦闘を終え負傷者や軽傷者を医療部隊へと引き渡し、その後に今後の戦闘へ加わる者を志願させたのだ。


 エディは何を思ったのか、そんな面々をいくつも集団に分類し、20名~25名ほどの小隊を10小隊ほど編成した。そして、テッドはトニーを副長とし、州兵崩れやニューヨークの留守番組を中心に22名程の小隊を一つ引き受けた。


 そんなテッドチームのコールサインは、かつてクレイジーサイボーグズを命名したときの発案に沿って、Bチーム『ブラックバーンズ』と名乗っていた。ただ、テッドチームである第1中隊の中隊長を引き受けはしたが、筆頭となる第1小隊はアグリーエンジェルスを愛称とするディージョに譲っていた。全部まとめて引き受けるほど、テッドも余裕がある訳じゃなかった。


『チョッパーはワシントンまで行ったようですが、ドローンは途中で撃墜されてますね。最終映像では対物ライフルで撃たれる様子があります』


 ドッドは報告と共に最終映像のフィードタグを全員に流した。さすがに映像情報はファイルが大きくダウンロードに時間を要するが、ワシントンの様子はそこに映っていた。


 ――――ハリネズミだぜ……


 ワシントン周辺はとにかく武装が固められていて、連邦軍と戦線を接している状態だった。双方で野砲を撃ち合い、古式ゆかしい戦闘が続いていた。


 ――――こりゃ極めつけにヒデェ……


 アチコチに全壊したビルが残っていて、その間を双方の歩兵が走り回っている。

 かつてサザンクロスなどで見た光景と同じものがここでも繰り広げられていた。


『ウェイド。そっちはどうだ?』


 ラジオの中に流れる声は終始穏やかで、エディは上機嫌と言って良かった。501大隊は軍集団としての体裁を整え始めていて、少数精鋭的な空気だったかつての501中隊がここに再現されつつある。上機嫌の理由も、恐らくはその辺りだろうな……と、テッドは思案するのだが。


『だいぶ形になってきた。まぁ、なんでも興味を持つのは良い事だ』


 ウェイドが送って寄こした画像には、Dチームの面々が持つ装備を興味津々に見ている少年兵らが映っていた。先の戦闘のあとでついて来た少年達は、まとめてウェイドの所に送り込まれた。


 Dチーム向けなら戦闘に参加する事は無く、後方支援で動き回るアシスタントとしての役割を与える事で安全を担保出来る。これから将来を背負って立つ若者を戦闘ですり潰すのは得策じゃ無い。


『……ずいぶん若いな』


 エディは優しい言葉でそう言った。きっと映像を見ながら好々爺の笑みで居るだろうと察しが付く。こんな時のエディはとにかく優しくて頼りになる男だった。


『なんでも、フィラデルフィア攻防戦の時に自主参加したハイスクールボーイだそうだけど、自宅にあったショットガンで参戦してきたらしい』


 そんな声を聞くとは無しに聞いていたテッド。

 視界の中に見える少年は、まだあどけなさの残る若者だった。


『……わけぇな』

『あぁ……』


 スケルチモードでヴァルターとそんな会話を交わしたテッドは、改めて自分自身を顧みていた。あの時、エディと出会った時からもう30年近くが経過している。


『なぁ……』


 テッドは声音を改めて切り出した。


『ん?』

『俺達、いつの間にか顔が変わってねぇか?』


 テッドは油断しきった言葉でウェイドにそう言った。思えば、あのシリウスの街道で出会った時はもっと若々しい姿をしていた。それがいつの間にか、年齢相応の中年を感じさせる姿になっている。


 改めてバンの中にある鏡を見れば、紅顔の若者では無く30近いオッサン顔だ。気にする事など今まで無かったしそんな余裕も無かったが、改めて見れば……


『まぁ、メンテナンスのたんびにエイジングって処理されてるしな』


 ヴァルターはボソリとメンテナンスの真実を零した。余り意識した事は無かったが、何度も経験しているリフレッシュメンテの都度、様々な処理が繰り返されているのだ。


 そしてそれは、サイボーグのアイデンティティを保ちつつ、微妙な影を落としていた。精神の成長にともなって顔や姿は変化するが、その中身についてはまったく変化が無いのだ。


 つまり、歳を取った実感が湧かない。機械の身体は足腰の痛みを訴える事など無く、老眼で手元が見えなくなる事も無い。何より、回復の遅さで体力の上限が徐々に下がってきて衰えを実感する事も無いのだ。


『……まぁ、そうだけどよぉ……』


 テッドは妙にイラッとする心境だった。

 自分の預かり知らない所で自分が弄られている事に腹を立てたのだ。


『言いたい事は解るぜ。けど、ウッディとかディージョは余り気にしてねぇみたいだ。つうか、考えても始まらねぇ事だと思う。それにさ――』


 ヴァルターはどうやらラジオの向こう側でもうひとつ作業をしてるらしい。

 言葉が妙に抽象的かつ総論的だし、それに、考え無くても出てくる言葉ばかり。

 何をしてるんだろう?と考えたテッドだが、車が違うので確かめる術も無い。


『――いつまでもティーンエイジャーの姿じゃ困るだろ』


 ヴァルターの言った言葉にテッドが『だよな』と返す。

 ただ、その時点で『……あ』と気が付いた。


 ――――ミシュリーヌか……


 まさか移動中のバンの中でしっぽりやってる事は無いだろう。

 それに、そんな事をしたくても、そんな機能が身体に無いのだ。


 ――――なにやってんだ?


 段々とそっちに興味が移ったテッドは、心中でアレコレ言葉を練った。

 どう攻めるべきかを思案して、牙を研いでいたのだ。


『どころでミシュは平気か?』


 まずはジャブだ。

 探りを入れる事から初めて、それで次のパンチを考えよう。

 そんな事を思ったテッドは、いつの間にかニヤリと笑っていた。


『いや、それがだな……』


 ヴァルターはこっそりと映像を送って寄こした。

 ミシュリーヌの右脚が完全に分解されている状態だった。


『膝関節の部分にストレスがたまるらしく、砂を噛み込んでオーバーホール中だ』


 基本的にはコンパニオンドールの機体なので、各関節部は相当強化してある。

 だが、会場で笑顔と愛嬌を振りまき、カメラと視線を一身に集めるのとはどうも勝手が違うようだ。


『……酷いのか?』



 テッドの興味はミシュリーヌの機械的な部分に移った。

 そもそもヴァルターだって手先は器用で機械には明るい方だ。


 シリウスの貧しい地域ではどんな事でも自活が求められる。

 そんな環境で生活していれば、少々の機械など自分で修理してしまうもの。


 事実、ヴァルターは何人かの州兵に支援を受け、ミシュリーヌの脚部を分解して清掃している。精密機器の取り扱いに関する基本は何でも一緒だ。


『関節部がそっくり人口皮膚でカバーされてる俺達と違うからな』


 ミシュリーヌの各関節部はパーティングラインが目立つオープン構造だ。

 サイバネティクスの発展に伴い、こんな部分にエロチズムを感じる層向けだ。


 だが、それは環境的に恵まれているコンベンション会場などでの使用が前提の機体故に許される、いわばお遊び構造だ。半オープン構造にしておいて、メンテナンスをやりやすくする意味もあった。


 そんな配慮の塊である機体だが、戦場という苛酷なフィールドでは、完全シールド型が求められる事をミシュリーヌの身体が語っていた。


『……もう少し研究がいるな』

『全くだ』


 作業に集中させるべくそれ以上の言葉を言わなかったテッド。

 ヴァルターが見ている世界を横から覗き見しつつ、ふとリディアを思いだした。


 ――――元気にやってるかな……


 あの最後の戦闘以来、テッドはまったく連絡を取ってない。

 きっと何処かで遭遇するだろう……と、そんな事を思っている程度だ。


『全員聞け』


 唐突にエディの言葉が無線に流れた。テッドはスッと緊張の度合いを上げた。

 先ほどまでの声音とは全く違うのだから、厳しい話が出ると覚悟した。


『参謀本部から情報をもらったが、ワシントンを砲撃している砲座に殴り込みを掛けることにする。厳しい戦闘になるだろうから、各小隊は部下をしっかり統率して全員を生きて返す努力をしろ。お前達にも学ぶ機会が巡ってきた。成長するといい』


 それはエディ流の愛の鞭なのだった……

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