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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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ニューヨーク降下作戦 04

~承前






 地上戦の大勢が決したのか、シリウス軍側の攻勢はずいぶんと大人しくなり、いつの間にか戦闘が止まっていた。彼等もそれなりに強力な兵器を投入したらしいが、後から降下してきたDチームの火力はそれらを上回る凄まじさで、形勢逆転に時間は掛からなかったようだ。


 そのままマンハッタン島内部に着上陸したDチームは、二手に分かれ行動を開始した。南北に別れ残党の掃討を繰り広げた結果、シリウス側は尻尾を巻いて脱出していき、辺りから銃声が消えていた。


『エディ! ウェイド班は東へと向かう』

『ドッド班は北へ向かいます』


 Dチームはそれぞれが小さな戦闘車両並みの火力を持っている。それが自在に動き回るのだから、対応する方とすれば、冗談じゃないと言いたいだろう。


『よろしい。我々はここの地上軍と接触してみる。そっちはそっちで掃討を継続してくれ。容赦は一切必要ない。火力の違いを見せ付けて心を折ってやれ』


 相手の心を折る戦果が必要なのはそは言うまでもない。弾んだ声で『了解!』を返したウェイドとドッドは、それぞれに侵攻を開始した。都市戦闘と言うこともあって対規模な火力戦にはなりにくい条件だ。こんな時こそ、サイボーグ戦力は威力を発揮する。


「さて、こっちは彼らと接触しよう。全員行儀よくやれ。紳士淑女のように振る舞え」


 ――やたらとエディがご機嫌だ……


 テッドとヴァルターは顔を見合わせ、そんなアイコンタクトをかわした。

 ただ、冷静に考えればエディは地上戦になると途端に生き生きしだす。

 やはりこの人は地上が好きなのだと気付かされるのだが……


「いくぞ!」


 前進を開始したエディは先頭に立って公園の真ん中へと進んでいった。その公園の中心部には乱雑に土嚢を積み上げた抵抗拠点があった。ただ、その連邦軍拠点は見るも無惨な姿だ。


 相当な砲爆撃に晒されたのか、各所にクレーターが残っていて、その周辺には吹き飛んだ土嚢が乱雑に散らばっている。だが、それでも連邦軍の残党はしっかりと戦力を整えていた。


 ――すげぇな……


 率直に驚くより他ないテッドだが、それを当然だとやってのける男達が居た。

 疲労困憊の姿だが、ようやくやって来た救援に表情は明るかった。


「君らの所属は?」


 いきなり現れた連邦軍中佐に驚いたらしいが、それでもしっかりした答えが帰ってきた。


「合衆国陸軍、第1軍団、第12歩兵師団所属。第5ストライカー旅団の……その中の第448戦闘団の生き残りです」


 エディの質問に対し、疲労困憊ながらも笑顔な軍曹がそう応えた。

 隊の生き残りは全部で38人で、うち4名は時間の問題レベルの重傷だった。


「……士官は全滅したのか?」


 怪訝な顔で言ったエディだが、その軍曹は表情を曇らせて言った。


「旅団を率いていた大佐が士官を集合させ、血路を切り開くと行って西へ向かいました。自分は留守番組だったんですが、最先任兵曹長を含めみんな戦死ですんで……、まぁ軍曹で勘弁してください」


 その言葉には隠しようのない苛立ちがあった。

 決して逃げた訳じゃ無いだろう。だが……


「その後の連絡は?」


 胸のネームシールにはディーゼルの文字がある。

 そのディーゼル軍曹は首を振りながら力無く応えた。


「およそ86マイル先のアレンタウン辺りでシリウス軍の攻勢線に捕まり交戦中の連絡が4時間程前にありましたが、その後は梨のつぶてです。応援に向かいますと連絡したのですが、マンハッタン島の死守を命じられました」


 ――え?


 誰もがそんな顔になって軍曹を見た。

 ただ、それも承知していたのか、軍曹は静かな声で零した。


「この島の中にシリウス軍が1個師団くらい展開していて、この広いニューヨーク市街の中で、連邦軍の支配地域はここだけです」


 僅かに首肯しつつ『そうか』と応じたエディは、アリョーシャを呼んだ。


「地図はあるか?」

「もちろん」


 どんなに電子情報が便利になっても、ぱっと一覧できる地図の方が有利。

 そんな場面は幾らでもあり、こんな時には大人数がいっぺんに確認できる。

 同じ情報を共有し、方針を確認するときにはこれが一番便利なのだ。


「ディーゼル軍曹。シリウス軍の展開状況を教えてくれ」


 目の前の中佐が唐突に切り出した話に、軍曹は目を丸くした。

 上空からやって来た増援は少数だが、凄まじい戦闘能力だ。


「えぇ……シリウス軍の拠点として使われているのはここと……あと、ここと」


 地図上の小さな拠点を指差していくディーゼル。

 そんなタイミングでウェイドから連絡が来た。


『エディ。マンハッタン島を出てブルックリンへ出たいんだが良いか?』


 ちょうど軍曹がブルックリンを指差したときだ。

 エディは間髪入れずに『良いぞ、派手にやれ、全滅させろ』と命じた。


「宜しい。把握した。なかなか大変そうだな」

「えぇ……ですから10名ちょっとの増援じゃどうにも……」


 軍曹は申し訳なさそうにそう言った。

 だが、それを聞いていたエディは、朗らかな表情になって切り出した。


「全くもって君のいうとおりだ。なかなか骨の折れそうな仕事のようだな。が、まぁなんだ、そう肩肘張る必要もないさ」


 ――やべぇ……


 そう直感したテッドがヴァルターを見た。

 そのヴァルターもテッドを見て微妙な表情だ。


「所で軍曹。ちょっと散歩に行きたいんだが道案内してくれないか?」


 軽い言葉でそう切り出したエディ。それを聞いたテッドとヴァルターは、諦めたような顔になって担いでいたMG-7の背嚢を降ろした。背嚢の中に入っているのは大量の弾薬だが、そのベルトリングの再確認だ。


 猛烈な火力で弾をバラ撒くMG-7は、当然の様に弾薬の消耗も早い。背嚢の底に収められた予備弾薬を取り出しベルトリンクを繋げれば、すぐにでも撃てる体制となる。


「弾薬に問題無し」

「こっちもです」


 テッドとヴァルターがそう報告したのを聞き、軍曹も何をするのか理解した。

 近くに置いてあったフルフェイスのヘルメットを手に取り、小銃を担いだ。


「どこへでもお供します。まずはブルックリン辺りへ――


 笑顔になった軍曹が東を指をさした時、遠くで大爆発が起きた。

 続いて、連鎖的な大爆発が発生し、凄まじい火炎が上空へ立ち上った。


「いや、ブルックリンは私の部下が片付けたようだ」


 ディーゼルの肩をポンと叩き、エディは笑顔を見せて西を指差した。


川向こうの大きな島(ロングアイランド)は私の部下に任せておけば良い。アッチには逃げ場が無いから完全殲滅を命じておいた。マンハッタン島の北部も問題無いだろう」


 笑顔のエディがそう言うと同時、マンハッタン島北部で大爆発が続いた。

 軍曹が北側へ目をやると、立ち上る火炎の中に何かが見えた。


「今、アッチで戦闘中なのも私の部下だ。まぁ、少しばかり込み入った問題があって人の姿をしてない者もいるが、とにかく優秀さだけは保証する」


 ニコリと笑ったエディだが、その笑顔が何処かおかしいと軍曹は気付いた。

 そして、その直後に『あっ』と呟いた。


「……サイボーグ部隊ですか?」


 手短ながら核心を突いた言葉が漏れた。

 その言葉にエディ率いるCチームが全員顔を向けて笑った。


「そうだ。海兵隊のサイボーグ部隊。501大隊のCチームさ」


 エディに変わりブルがそう応えた。そして、全員がニヤニヤと笑っていた、死にそうになっても死ねなかった悪運の強い俺達だ。面白い散歩になるのは保証すると言わんばかりの男達がそこにいた。


「さぁ行こうか。戦闘車輌は残ってるか?」


 エディは冗談めかした声でそう言う。

 だが、軍曹は力無く笑って首を振った。


「全部燃やされました。生き残ってると言えば、そこらに乗り捨ててある民間車両ぐらいなモノで……」


 公園の脇を見れば、各メーカーの大型バンが何台も乗り捨てられている。装甲は無いが、歩いて移動する手間は省けるだろう。もっとも、サイボーグなら歩く手間は考慮しなくても良いのだが……


「そうだな。じゃぁ、それを使おう。まずはこのニューヨークの掃討を完了し、その後に西へ向かう事にする。さて……」


 エディの目が島の北側を見た時、ドッド率いる一団が入って来た。全身を外骨格型の装甲でガチガチに防御してあるごつい集団だ。


「エディ。北側の掃討は完了した。シリウスの連中は西へ逃げている。恐らくだが川向こうに拠点があると思われるが……ドローン出すか?」


 ドッドの左肩後辺りにあるハッチがパカリと開いた。その中に入っているのは、ステルス処理された自立飛行型の偵察ドローンだ。一切の電波を出す事無く、所定のルートをGPSに導かれて飛ぶタイプ。


 そのデータは無線では無く回収後に直接吸い出す事になるが、電波を出さないだけにアクティブホーミングなどで撃たれる事が無い仕組みだった。


「あぁ。そうしてくれ。ついでに各交差点の状況も確認しろ。あぁ、それと、生き残りを探すようにな」


 イエッサーを返したドッドは左腕を伸ばしてカタパルトを繋げた。その上をリニアモーターで加速していったドローンは、数百メーターを飛んでから自立飛行に移った。


「所でウェイド達は……」


 ドッドが東側を見た時、激しく立ち上っていた火炎が再び大きく舞い上がった。

 それを見れば激しい戦闘が続いているのは火を見るより明らかだ。


「対岸で派手にやってるようだ。ウェイド達の装備なら問題もあるまい。まぁ、向こうは広そうだから――


 そのまま何事かを言いかけたエディ。だが、無線の中にウェイドの声が聞こえ、全員がそれに耳を傾けた。


『エディ。島の中の大きな空港にシリウス軍を押し込めた。どうする?』


 どんな戦闘手腕なのかとテッドは驚くが、シリウス側はとにかく後退局面なのを覚悟していた様な状態だ。各部からの報告電波が飛び交い、アリョーシャは首を傾げている。


『そうだな。そのままシリウスまで帰ってもらおう。ただ距離が有るからなぁ』


 エディの言葉は尻すぼみに消えた。ただ、『了解した。長旅だがやむを得ない』とウェイドが返した事で、その中身を全員が知った。


「あぁ。すまない軍曹。いま私の部下がロングアイランド側のシリウス軍を掃討中だ。前線に居た兵士は空港まで押し返したらしい。全部では無いが一段落はするはずだ」


 エディがそう言う中、再び遠くから凄まじい砲爆撃の音が聞こえた。

 立ち上る火炎と煙がマンハッタン島にも流れ込んできている。


「なにを……しているのでありますか?」

「いや、特別な事はしていないだろう。敵の反撃を絶ち、追い詰め、包囲して殲滅する。やってる事は簡単だ。まぁ、手際は良いだろうがな」


 軽くそう言ったエディの姿に軍曹は唖然としていた。

 ただ、アリョーシャがそれに注釈を付けた。


「向こうの島にいるシリウス側の指揮官はヴェテランと見える。気を見るに敏と言うが、引き潮を了解したなら潔く後退するのも名将の条件だ。シリウス側の指揮官は場数と経験に勝るのだろう。状況的に有利な所まで後退したらしいが……」


 一般的に空港という場所はオープンスペースで見通しが良い。

 その中央の建物に立て籠もれば、四方から来る敵は嫌でも丸見えになるモノだ。

 ましてや歩兵の戦闘なのだから戦闘車輌は無い。そんな状況では……


「攻め倦ねませんか?」


 ディーゼルは不思議そうな顔になってそう言った。

 ただ、それもやむを得ないだろう。現状におけるDチームの戦闘能力は、常識では計れない所まで来ているのだ。


「まぁ、普通はそうだろうな」


 何とも掴み所の無い返答をしたエディ。

 遠雷のような音が聞こえてきて、全員が東を見た。


「ただな、我々はシリウスの地上にいる頃からこんな戦闘を何度もしてきた。サイボーグは疲労も空腹も知らずに動き続ける事が出来る。シリウス軍に知己は居ないが――」


 エディがニヤリと笑う。そして勿論、テッドやジャンがニヤニヤと笑う。

 さらには、チームの面々がクククと含み笑いを零した。


「――まぁ、同情くらいはしてやっても良いな」


 何を同情するんだ?と首を傾げたディーゼル。ただ、その間にも遠雷は響き続けていた。そして、その音にシンクロしたりしなかったりを繰り返しつつ、眩い光が上空の黒煙を照らしていた。


「エディ! 航空機!」


 何気なく空を見ていたミシュリーヌが空を指差して叫んだ。

 全員がぱっと空を見た時、そこにはシリウス軍のチョッパー(ティルトローター)がいた。


『ウェイド、シリウスは逃がせ。送り狼だ』


 間髪入れず『イエッサー!』が帰ってきて、それと同時にドッドの部下がドローンのスタンバイを始めた。


「さて、どこへ逃げるのか見ものだな。フォックスハントだ。全員気合い入れろ」


 エディの顔に歓喜の色が沸いていた。

 ただそれは、得物を前にした肉食獣の浮かべる笑みその物だった……



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