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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
360/425

ニューヨーク降下作戦 03

~承前






 地上に降り立ったテッドが見たモノは、死体の山だった。

 ニューヨークの街一面に散らばるその死体は、大半がレプリカントだった。


「シリウスの野郎ども、レプリを使い捨てにしてるぜ」


 震える声でディージョがそう漏らした。

 その死体の大半は白い血を流していて、その中にぽつぽつと赤い血が見えた。


「連邦側の生き残りは善戦したらしいな」


 ステンマルクは手近な死体を検めて言った。

 少佐の階級章を付けたその死体には頭が付いていなかった。


「頭がねぇって……サイボーグセンターにでも送られたか?」


 ステンマルクの死体を覗き見していたジャンがジョークを飛ばす。

 ただ、それが余り笑えないジョークなのは言うまでも無い。


「さて、まずはあの裏側を叩くぞ」


 エディは銃のチャンバーに初弾を叩き込むと、右手を挙げて前に倒した。


 ――――前進!


 テッドはチラリとヴァルターを見てから前進し始めた。

 ヘルメット越しなので視線を感じることは出来ない。

 だが、それでもヴァルターはサムアップを返して前進し始めた。


「前線まで330」


 ウッディは冷静な声でそう報告した。

 連邦側を包囲しているレプリの戦線は、薄皮のような代物だった。


 だが、頭数に勝る場合にはこれで良いのだろう。

 欠けた部分をドンドン補充出来る側の強みは、こんな時には厄介だ。

 そして、少数精鋭チームの場合は対処不能な案件ともなる。だが……


「100を切ったら撃ち始めよう」


 テッドの提案にヴァルターが『そうだな。程よい距離だ』と返してきた。

 激しい地上戦を経験したふたりは、自然とチームをコントロールしていた。


「トニー、ティブ、ヨナ。俺の左右と背後に付け。俺の銃口が右を向いてるときは左側に警戒しろ。その逆もあるからな」


 テッドは4人でパンツァーカイル陣形を作り前進した。

 やや離れた場所ではヴァルターが同じ陣形を作っていた。

 すぐ背後にミシュリーヌを置き、左右にレオとカビーが居た。


「ロニー! 後方から支援してくれ」


 テッドの言葉に『了解ッス!』と返答した。

 その左右にはウッディとディージョが居て、3つのグループが出来上がった。


「HALT!」


 ブルが何かに気が付きそう叫ぶ。

 隊がぱっと停止した後、ブルはズルズルと前進しつつ足下を確かめた。


「どうしたブル」


 エディが訝しがるなか、ブルは重い声で言った。

 その視界に赤々と光る何かが地上にあった。


「B-17系の対人反応地雷だ。所々に未発が残っている。リーナーが見つけた」


 今どきの兵士は全身にセンサーを張り巡らせたアーマースーツを着込む。

 そのスーツは仲間や戦線本部と通信を行っている場合が多い。

 対人反応地雷はその通信に反応して起動し、ジャンプして爆発するのだ。


 電波反応地雷とも呼ばれる仕組みだが、電波が無ければ起動すらしない。

 野生動物が踏んでも反応しない仕組みは、現場の知恵への対処だった。

 地雷を大量の家畜に踏み潰させる手段は、WWⅠの頃からの定番だ。


「なんで大尉は見えるンすか?」


 ロニーの素直な疑問が漏れた。

 だが、それに対する返答はアリョーシャだった。


「工兵の持っている専用のレシーバーだ。武器取り扱い訓練で教えられたろ」


 ややキツ目の言葉に『あー 思いだしました』とロニーが応える。

 ただ、それが出任せなのは言うまでも無いのを全員が感じていた。


「工兵担当は専用のレシーバーを持っていて、その電波に反応して地雷側が所在を教えるんだ。そうすれば爆発スイッチ切って再利用できるだろ?」


 ブルの『教育』にロニーが『頭良いッスね!』と新鮮に驚く。

 ただ、そもそもこれは地雷では無く爆弾扱いだ。

 対人地雷禁止条約が生み出したモノなのだ。


 ――――ほら! 踏んでも爆発しないから地雷じゃ無いですよ!


 そんな言葉で企業担当者が発表したその兵器は、兵士だけを殺す仕組みだ。

 だが、携帯電話など電波を発する機器があれば爆発する代物と言える。

 つまりは一般市民が写真を撮ろうとスマートフォンを向ければ爆発する。


「……陰湿な兵器だよ」


 リーナーはそんな事をブツブツ良いながら、信管の起爆スイッチを切った。

 専用端末はそれなりのサイズだろうが、サイボーグならば内蔵出来るのだ。


「安全か?」


 最後尾にいたエディが確認する。その声に『大丈夫です』と返したリーナー。

 エディは数秒の沈黙を挟み、前進を指示した。


「ん? なんだこれ?」


 前進を再開して100メートルほど進んだとき、ヴァルターが何かを見つけた。

 円筒形の鉄パイプ構造にグリップと照準器が付いている代物だ。


携帯型対戦車兵器(スティンガー)の発射筒だな。それがどうした?」


 テッドがそう返答したとき、ヴァルターが別の映像を送って寄こした。

 そこに見えるのは、地面にぶちまけられた蛍光イエローの液体だ。


「爆発物反応なし。有毒物反応なし。なんだこれ」


 手にとって指先で揉んでみると、妙に弾力性のある液体だった。

 むしろ液体と言うより粘性体と言った方が良い代物だ。


 ――あいつみてぇだ……


 何となくあのスライムになったシリウスの男を想いだしたテッド。

 マイクロマシンに喰われたクロス・ボーンは、今もあのコロニーにいるはずだ。

 自分自身を栄養源に消化しながら、段々と消えて無くなる……


「あぁ。解った。これだ」


 ヴァルターが進んでいった先にあったのは、全身がぶくぶくに膨れた死体だ。

 だが、その死体が膨れている理由は腐敗や膨張では無い。


「対ショックゲルスーツか?」

「防弾処理された軟体アーマーのようだな」


 技術屋であったオーリスとステンマルクが早速そんな分析をした。

 手で押せば乙女の柔肌のような感触で、ギュッと握るとガシッと硬くなる。

 強い衝撃が加わった瞬間には硬化するが、その基底部は柔らかいまま。


 銃弾などの強い衝撃を受け流し、点ではなく面で受ける構造らしい。

 表面には焼け焦げたような点々が残っていて、どうやら弾痕らしいが……


「この仕組みは賢いな」

「あぁ。強い衝撃には恐ろしい硬度で対処するんだろう」


 ユゴニオ弾性限界の理論を逆手に取る発想から生み出された代物だろう。

 超高速の物体を徐々に減速させるための仕掛けといえる。


「それの中味か」


 ステンマルクがそう漏らすのだが、その時点でテッド班は侵攻点に着いていた。

 背中の弾薬ボックスからベルト給弾を受けるMG-7が鈍く輝く。


 暗闇の中でボルトを引いたテッドは、全員の銃をロックンロールにして言った。


「テッド班。侵攻点につきました。攻勢を開始します」


「よし。いけ」

「イエッサー」


 まだ100メートルほどの距離があるが、テッドはそのまま腰低く前進した。

 それに続きヴァルター班も『こっちも前進します』と動き出した。


 シリウス軍側は連邦側に気を取られていて、バリバリと撃ち続けている。

 そんなシリウス側の前線から30メートルほどまで進出し、左右を確認した。

 すぐ背中にトニーがいる。右にはティブ、左にはヨナが居た。


「トニー、ティブ、ヨナ。落ち着いてやれなんて言っても最初は無理だろうから先に言っとくけど、ヤベェと思ったらまず伏せろ。話はそれからだ」


 幾多の地上戦を経験したテッドの言葉に3人がイエッサーを返した。

 それを確かめたテッドは、中腰姿勢のままMG-7の引き金を引いた。

 毎秒25発を撃てるMG42の直系子孫が猛然と火を噴いた。


 それはまるで火を噴くチェーンソウだった。

 或いは、射線に捉えたモノを粉砕するウォーハンマーだ。


 僅か30メートルの距離から連射を受けたシリウスの前線が混乱している。

 それもそうだろう。背後から分隊支援火器で撃たれるなんて思う筈がない。

 青天の霹靂の様にシリウス側がパニックを起こす中、ヴァルターが撃ち始めた。


「あっはっは! 愉快愉快!」


 ズルズルと前線に上がってきたブルも射撃に加わった。

 試作品でもあるS-4が吐き出すのは12.7ミリの銃弾だ。


 その威力は凄まじく、シリウス側の作った土嚢を粉砕し始めた。

 すかさず振り返って撃ち始める者も居るのだが、そこにも銃弾が降り注いだ。


「あっ!」


 誰かが叫ぶと同時、あの蛍光イエローのリキッドが空中に飛び散った。

 その直後には真っ赤な血煙が見えた。おそらく当ったのは指揮官だろう。


「撃ち方やめっ!」


 エディがそう指示を出した。

 全員が撃ちやんだところで、テッドとヴァルターが一気に前進した。

 シリウス側の作っていた前線は、幅200メートル近くが挽肉に変わっていた。


「テッド! ヴァルター! 左右を掃討しろ!」

「ッサー!」


 テッドは素早くMG-7の銃身を新品に交換し、バリバリと撃ち始めた。

 同じようにヴァルターも銃身を交換して撃ち始めた。


 射撃速度の早すぎるMG-7では銃身の磨耗が激しい。

 それを見て取ったふたりだからこその動きだった。


「ロニー! ウッディ! ディージョ! 前進して連邦側にこちらの到着を知らせろ。 ジャン! オーリス! ステンマルク! ロニー達を支援しろ!」


 矢継ぎ早に指示を出して行くエディは、隊列の最後尾で左右を確認していた。

 どこかにスナイパーが居ないか。どこかに自爆ドローンが居ないか。

 臆病だからこその動きではなく、強力な兵器への備えだ。


「リーナー。爆発物を探せ」

「イエッサー!」


 リーナーが工兵の仕事を始めた時、無線の中にウェイドの声が聞こえた。


『エディ! こっちも降下する』


 ふと空を見上げれば、Cチームよりも一回り大きな突撃艇が見えた。

 そのハッチが開き、一際大きなパラシュートの花が開いていた。


『ウェイド。逆サイドに降りられるか? 挟み撃ちにしよう』

『了解です。そっちに風で流されます』


 そんな事も出来るのか?と不思議がったテッドたち。

 だが、マンハッタン島中央部の公園に陣取っていた連邦軍兵士から丸見えだ。


「あれじゃ隠密降下って訳には行かないぜ……」


 空を見上げていたディージョがそんな事を言った。

 だが、すかさずウッディが口を挟む。


「だから良いんだよ。地上で戦ってる兵士には希望になる」


 その通りだとテッドは感心した。

 何とかって言う公園を取り囲む短辺の掃討を終えたテッドは長辺に取り付く。

 土嚢を積んだ前線も、真横からの攻撃にはからっきし弱いのだろう。


『ウェイド! 空中射撃できるか?』

『やってみますよ!』


 エディの言葉と同時、大型パラシュートで降下中のDチームが撃ち始めた。

 両腕に直接銃を装備したDチームの戦闘姿は、まるで小さなシェルだった。

 或いは、強力な武装でやってくるシリウスロボの小さい版だ。


「そういえば、例のロボットはもう居ないのか?」


 アリョーシャが何かに気が付いた様に言った。

 それが危険を知らせるフラグである事を全員が知った。


「やべぇ! 居やがった! 島の東の川向こうだ!」


 ヴァルターが目にした視界を全員が見ていた。

 遠い日、シリウスで見たあの川を挟んだ攻撃のシーンをテッドは思い出す。

 だが、その時と違うのは地球側の武器だった。


 ――――何処の部隊か解らないが支援に感謝する!

 ――――シリウス側の大型戦闘兵器に射撃するので注意してくれ!


 ラジオの中に聞こえた声は間違いなく地上軍だろう。

 そんな事を思ったとき、公園の中から猛烈な炎が上がった。


「レールガン!」


 エディの声と同時、アチコチにあった電磁作動式地雷が一斉に飛び上がった。

 レールガンの発射による一時的な擬似ECMの影響だった。


「全員伏せろ!」


 エディの金切り声が響く。

 それを聞いたチームの全員が考える前に伏せた。

 頭と首周りを守るように手を添えるのは兵士の基本だ。


 アチコチで対人地雷が炸裂し、シリウス側にもかなりの死傷者がでたらしい。

 黄色いリキッドがアチコチで吹き上がるのだが、テッドは驚いてそれを見た。


「ウソだろ……」


 あれほど強靭だったシリウスロボも、レールガンには無力らしい。

 散々手こずったあのロボの胸部装甲を一撃で貫通していたのだ。


 直後にロボが大爆発し、凄まじい衝撃波が辺りのビルを壊した。

 そしてその崩れるビルの下敷きとなり、ロボが次々と擱座した。


 ――すげぇ……


 それ以上の言葉が無く、テッドはただただ呆然とそのシーンを見ていた。

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