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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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ニューヨーク降下作戦 02

~承前






 長い尾を引いて地球に降下していく突撃艇の内部。

 準備を整えたCチームは窓の外を見ていた。


 少し大きめのデータディスクほどしか無い窓だが、それでも貴重なモノだ。

 その窓が眩いばかりに輝いていたのは、プラズマ炎によるものだった。

 ただ、そのプラズマ炎が消え去り地球大気圏に入ると、窓の外は安定する。


 ワザと雲の上を飛んで地上から隠れての降下を行った突撃艇。

 その窓から見えるのは、宝石箱をひっくり返したような地上の光りだった。


「すげぇ……」


 その光景を見ていたディージョがそう漏らした。

 シリウスでは中々見られない光景だけに、新鮮なのだった。


 夜の側に入ったアメリカ大陸東部は、すっかり暗闇に覆われている。

 だが、その闇のドレスをまとった都市は、妖艶に輝いていた。


 煌めく様な宝石の数々をまとった美女が横たわっている……と評されるエリア。

 ビリオンダラーの淑女は、莫大な電力を光りに変えて輝いていた。


「ディージョ! スタンバイだ!」


 テッドはそう声を掛け、空挺降下の仕度を始めた。

 凄まじい量の武装を抱えたチームの面々が突撃艇の内部に並んでいた。


「さて……じゃぁ行こうか」


 何とも楽しげな表情でエディはヘルメットを手に取った。

 彼らは地上戦用の装甲入り戦闘服を着ていて、防弾ヘルメットを被るのだ。


 この装備であれば、50メートル以内から5.56ミリ弾を受けても大丈夫。

 その凄まじい防御力を総重量わずか30キロで実現しているのだった。


「全員データリンクしろ。高度50キロで飛び出す。着地目標はマンハッタン島中心部にある大きな公園で上空からはグリーンベルトに見える筈だ」


 突撃艇の内部に張られたニューヨークの地図を指差しながらエディは説明した。

 その地図を真剣に見ているテッドとヴァルターは、何となく同じ事を思った。


 ――――サザンクロスだ……


 あの泥沼の地上戦をやったサザンクロスもまた川の中洲に出来た街だ。

 勿論、その周辺に広大な衛星市街を持っているのだ。


「戦術的目標は連邦軍本部と連邦議会の制圧及び奪回だ。現状ではシリウス軍が占領している状態なので、まずはここに殴り込む。言うまでも無いが抵抗する者は射殺して良し。情を掛ける必要は無い――」


 エディの話が物騒になり始めた。

 全員が黙りこくる中、テッドとヴァルターだけが会話していた。


「シリウスロボはいねぇよな?」

「居るわけねーだろ。まぁ、居てもまたぶっ壊すだけだぜ」

「アイツの弱点は解ってるしな」


 その鷹揚とした姿は、さすが地上戦経験者と周りが思う程だ。

 どうやって叩き潰すかについてディスカッションするふたりだけが浮いていた。


「――まず必要なのは、敵の戦意を挫くことだ。シリウスから遠く離れた所まで戦に来てる彼等だ。故郷へ帰りたい彼等の心情を思えば胸が張り裂けそうだ。従って我々は彼等の帰還を助ける事になる。だが、帰るのは魂だけだ。我々はそれを手伝いに行く」


 エディの言葉は極めつけに物騒だ。

 そんな事を思ったチームの面々が表情を硬くする。


 ただ、そうは言ってもやる事は簡単でシンプルだ。

 降りて行って大暴れする。それ以上の事を要求されているわけじゃ無いのだ。


「さて、何か質問はあるか? 無ければ降下準備だ」


 エディが場を締めに掛かったとき、トニーが手を上げていった。

 相変わらず全身プラスティックな姿だが、増加装甲を取り付け物々しい姿だ。


「地上で連邦軍に遭遇した場合はどうしたら良いですか?」


 トニーの質問にエディは首を傾げて答えた。


「まだ抵抗している拠点があると言う話は聞いていない。よしんば有ったとしたら相当酷い状況だろう。素直に海兵隊だと名乗り、救援に来たと言えば良いだろうな」


 エディは問いにそう応えつつ、もうひとつの可能性に思い至った。まったく欠けていた思考の一つで、仮にそれが必要ならば間に合わない可能性が有った。


「あと、現場指揮官に現地徴募されそうになった場合には、所属違いを根拠に突っぱねろ。我々はあくまで海兵隊なのだから、臨機応変を旨とする」


 ――あっ……


 エディの言葉を聞いていたテッドは、思わずヴァルターを見た。

 まだ小僧だった頃、シリウスの地上でその経験をしたのだ。


「了解で有ります!」


 トニーに変わりヨナがそう応えた。

 元シリウス軍関係者としては、その方が安心なのだろう。


 そもそものシリウス軍は非常に縦割り傾向の強い組織だ。

 だが、変な所は柔軟に出来ていて、現場の判断で幾らでも臨時編成出来るのだ。


「じゃぁ行こうか」


 エディはそそくさと仕度を調え、突撃艇のハッチ前に立った。

 まるで遠足に行く子供のようなその後ろ姿に、テッドは苦笑いしていた。


「いずれちゃんとした降下艇を作るようだな」


 上機嫌なブルがそんな事を言う。

 ただ、少なくともそれはサイボーグチーム全員の総意だった。


「降下直前まで外部電源供給受けられたら嬉しいよな」


 ウッディの言葉に全員が各々頷く。

 重量のある装備をしているのだから、どうしたってバッテリーの消耗が早い。

 そんな状態でグダグダと残り電源を浪費するのは歓迎しないことだ。


「簡単に飲み込めてリアクターで効率よく発電できるリキッドとか欲しいな」


 ステンマルクの提案にも全員が頷く。

 そう考えると、まだまだサイボーグは発展途上な兵器なのだと痛感する。

 しかし、そうは言っても今あるもので何とかするのが軍隊の本義だ。


「その辺もおいおい考えよう。司令も理解ある人だし上手く運ぶと良いな」


 アリョーシャの言葉は希望では無く慰めにしか聞こえない。

 だが、それでも頑張るしか無い。


「その為には結果を残さないといけませんね」


 いつも寡黙なリーナーは、こんな時に本質を突いた言葉をズバッと言う。

 それを聞いた面々が『その通りだよなぁ』と呟いた時、後部ハッチが開いた。


「いくぞ! 気合い入れろ!」


 エディは手にしていたヘルメットを最初に被った。

 テッドも同じくヘルメットを被る。外部の音が消え去り静寂だけが有った。


 ――静かだ……


 突撃艇の内部はそれなりにうるさいのだが、ヘルメットの中は静かだ。


『全員聞こえるな?』


 テッドはヘルメットの補助カメラと視界同調したあとでサムアップした。

 生身ではバイザー部分しか視界が無いのだが、こうすれば裸眼と変わらない。


『降下開始!』


 エディの声に導かれ、テッドは2番目に突撃艇を飛び出た。

 フワッと浮き上がった地球大気の中、視野一杯に街の光りが見えた。


『改めて見ると凄いな!』

『スゲー綺麗だ! とびきりの女がベッドで待ってるぜ!』


 ウッディの言葉にジャンが上機嫌でそう返す。

 高度は50キロ少々で、一気に高度を落としていく。


『横風が強い。落下位置を調整する、風を受けて斜めに落ちろ』


 ――マジかよ!


 何度もシミュレーターで訓練してるはずだが、リアル降下では難しい課題だ。

 上手く降下せねば海に落ちるのだから、ある意味では命懸けだった。


『効果速度が速すぎる! 少し速度を落とそう!』


 アリョーシャの声がやや上ずっている。

 視界に浮かぶ降下データを見れば、時速300キロを越えていた。


『空気抵抗が少ないから速度が乗るな』

『断熱圧縮でローストされるのは勘弁だぜ』


 オーリスの言葉にステンマルクが返す。

 熱を受ければ機体にどんな影響が出るか解らないのだから慎重だ。


 ――この辺りを臨機応変に出来る様になればきっとヴェテランだ……


 そんな事を思ったテッドだが、口に出さないでおいた。

 きっとヴァルターもそんな事を思ってる筈だと、妙な事を考えた。


 だが、当のヴァルターはすぐ近くを降下中だったミシュリーヌが心配だった。

 身体を硬くしている彼女は、不安定な姿勢を必死に立て直そうとしていた。

 もっと身体の力を抜いて……とは思うものの、空に飛び出してしまえば孤独。


 全てが自己責任の状況下では、何が起きても自分で対処せねばならない。

 フリーダイブとなるこの状況では、対処不能となったら死ぬだけだ。


『さぁ! 地上が見えてきたぞ! もう少しだ!』


 エディの声が聞こえ、テッドは改めて地上を見た。

 眩い光が地上に見えて来て、幹線道路沿いの街が一際眩しい。


『あれ?』


 不意にアリョーシャが声を上げた。

 灰色に作られた視覚ユニットが地上の何かを捉えたのだ。


『交戦中だな』


 ブルもそれを見つけたらしい。

 まだ高度は8000近くあるが、彼方に見える地上には眩い鉄火が見えた。


『何が戦ってるんすか?』


 ロニーが油断しきった声で問うた。

 それに対し応えたのはエディだった。


『地上に連邦軍の生き残りが居るらしいな』


 まだ距離が有りすぎて地上の識別は難しい。

 だが、凄まじい鉄火を撒き散らしながら打ち合っている二つの勢力は解る。

 そしてこの場合、拠点防御で交戦中ならば、それは連邦軍だろうと思われた。


『まだ距離が有りすぎて判別できないが、生き残りの連邦軍かも知れないな』


 マジソンスクエアーガーデンと名付けられた公園に防御拠点を作り上げた勢力。

 それは、間違い無く連邦軍の最後の生き残りだろうと思われた。


 ニューヨーク全域に展開した連邦軍は14個師団あったらしい。

 だが、彼らは僅か7個師団のシリウス軍に圧倒されたのだとか。


『なぁ、気のせいだと思うけどさぁ…… あれ……』


 ディージョが視界を全員に転送して言った。

 それは、信じられないモノが地上に居ると言う言葉だった。


『ありえねぇ……』


 公園を包囲するように展開しているのは、間違い無くシリウスロボだ。

 遠く10光年の向こうから地球に運んできたらしい。


 少なくとも、個人携帯レベルの兵器では対処出来ない敵なのは……


『嘘だろ!』


 ヴァルターがそう叫んだとき、シリウスロボが1機、大爆発を起こした。

 膨大な部品をバラ撒きながら吹っ飛んだその機体からは衝撃波が発生した。


『やるなぁ……』


 テッドもそう言うしかない戦果。

 見事に吹っ飛んだロボは上半身を失って倒れた。


 その光景を複雑な気持ちで見ていたテッドとヴァルター。

 シリウスの地上で散々と苦労した敵が木っ端微塵だった。


 自分達が編み出した対処法を使ったのか。

 それとも、なにか地球特製のトンでも兵器を使ったのか……


『地上に行くのが楽しみだ……』


 複雑な心境を吐露したテッド。その声にヴァルターだけが『あぁ』と反応した。

 サザンクロスの戦闘を経験した2人は、言葉に出来ない劣等感を持った。


『新しい兵器が登場したらしいな。しっかり見とけよ!』


 ブルは楽しげな声音でそう言った。

 あの重装甲なシリウスロボを一発で吹っ飛ばす携帯兵器。

 そんなモノが存在するなら、あのサザンクロス戦で使いたかった。

 だが……


 ――20年だものなぁ……


 ふと、テッドはそんな事を思った。

 自分達がグリーゼに言ってる間に、新たな兵器が誕生したのかも知れない。

 そしてそれは、地上戦での不利を軽くひっくり返すトンデモ兵器かも知れない。


 高度5000を切った所で、リーナーは『予備減速!』と叫んだ。

 減速用の補助パラシュートを広げたチームの面々は、地上を凝視していた。


 程なくして、別のシリウスロボが擱座した。

 股関節部分を完全に破壊し、身動きが取れなくなっていた。


『あのパイロット。死ぬぜ……』


 そんな事をヴァルターが漏らした。その直後にコックピットハッチが開いた。

 構造的に何ら進歩してないらしいが、実際にはそれで良いのかも知れない。


 ただ、そのハッチが開いてパイロットが姿を現したときの事だ。

 左右から壮絶なクロスファイヤーが行われ、パイロットは蜂の巣だった。

 どれ程にあのロボが強くとも、脱出したパイロットは生身の人間だ。


『やってる事は変わらねぇな』


 ため息混じりに零したヴァルター。

 一方的に強い兵器のオペレーターは、必ず惨たらしく死ぬ運命だ。


『それより着地だ。あのシリウス軍の背後に降りる。大暴れするぞ!』


 エディがやる気を漲らせている。だが、そんなやる気は周囲に拡がるのだ。

 テッドは思わず『やってやるぜ!』と叫んでいた。

 そして、チームの全員が同じように叫んで居るのだった。


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