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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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ニューヨーク降下作戦 01

~承前






「これ、凄いッスね」


 ボソッと零したトニーは、手にしている携帯小火器を眺めて言った。

 12.7ミリを使うM82バレットライフルの直系子孫だ。


 ブルパップタイプではあるが、銃身はかなり長くて1メートル近い。

 これだけあれば直進安定性は充分で威力も稼げるだろう。


「俺達じゃ7.62でも豆鉄砲だからな」


 ニヤニヤと笑いながらやって来たブルは、嬉しそうに新しい兵器を構えた。

 S-4と仮称されているそれは、従来の火薬発射式な50口径弾を用いる。

 ただ、その重量は軽く10キロを越えるので、生身では取り回しに難があった。


「でもこれ、弾はあんま持てないですよね」


 ウッディは腰回りに山ほどマガジンを下げていた。

 その数、実に20個だが、装弾数12程なので、実際には240発しか無い。


 威力はあるのだからもっとバリバリ打ち込みたい。

 まるで爆撃機のように対象物をぶっ飛ばしたい。

 そんな要望は絶対に出るだろうな……と皆が思った。


「総弾数に不安がありますね」


 短い言葉で不安を吐露したティブ。

 トニーと同じようにプラスティックな姿だが、身体各所にマウントがあった。


「トニーの場合はそのマウントにくっつかねぇモンかな?」


 ディージョの言葉にティブが不思議な顔をしていた。

 ただ、発想としては至って真面目でアグレッシブだ。


「まぁ、その辺りは使いながら検討する方が良いんじゃ無いか?」


 ワスプのガンルームにやって来たエディは、そんな言葉で会話に割り込んだ。

 エディの後はテッドとヴァルターで、ふたりともMG7を持っていた。


「……分隊支援火器って役目か」


 指差しながらディージョが言うと、テッドはヴァルターと顔を見合わせた。

 12.7ミリ主兵装の小隊を支援する7.62ミリ。

 それって逆じゃね?と思うのだが、これしか武器が無いのだから仕方が無い。


「まぁ、そう言う事になるな」

「実際の話としちゃ、威力より弾数が必要な時は何度もあった」


 激しい地上戦を経験した古株は多いが、このふたりは更にその前からだ。

 従ってエディにしてみれば実に使いやすいユニットと言う事だが……


「さて、では打ち合わせだ。ドッドとウェイドも入ってくれ」


 エディの言葉に誘われたのか、ガンルームに502大隊の面々が入って来た。

 共通するワッペンマークを身体に入れたアンドロイド部隊。

 通称『デッドエンド・ダイバーズ』の面々だった。


「おっ! ウチの新入りか?」


 嬉しそうな声で室内に入ってきたウェイドは、トニー達を指差して言った。

 ウェイド達と同じ、アンドロイド型の機体を使う5人は目立つのだ。


「バカ言え。こっちの5人はクレイジーサイボーグズのメンバーだ!」


 間髪入れずそう反論したジャン。

 そんな会話を聞いていたテッドは、ヴァルターと再び顔を見合わせた。


「なんか言いにくくねぇ?」


 ヴァルターの言葉にテッドが首肯しつつ応えた。


「あぁ。長ったらしい」


 クレイジーサイボーグズとデッドエンドダイバーズ。

 二つのコールサインが長ったらしいのは、戦闘中に困るのだ。

 もっと手短で簡便な方が良いし、言いやすいのが理想だった。


「なら話は早い。501はCチーム。502はDチームだ。これなら楽だろ?」


 エディの言葉に全員が笑顔になった。手短で簡単だ。

 全員が『Cチーム』『Dチーム』と声に出して確かめた。


「これなら使いやすいな」

「あぁ。混戦してても問題無さそうだ」


 アリョーシャとドッドがそんな会話をする。

 古株衆の反応は上々で、テッドはそれを楽しげに眺めていた。


 気が付けばロクサーヌは完全に溶けこみ、紅一点の女性型で目立っている。

 それをあーだこーだ言う者は無く、ミシュリーヌも自然に接していた。


 ――まぁ、これで良いんだろうな……


 何となく微妙な顔をしているヴァルターを横目で見つつ、テッドはホッとした。

 この中で女性型がどんな末路を辿るのかが、何となく心配だったのだ。

 そしてそれは、将来リディアの処遇を考える時に大きな者になる筈。


 女性型サイボーグを今からしっかり開発していく事が重要だ。

 そうすれば、あのウルフライダー全員がサイボーグになれるだろう。

 ついでに言えば、そうやって恩を売れるはずだ……


 ――リディア……


 何となく彼女を思ったテッドだが、その時ガンルームに突然の来客があった。

 フレディことマッケンジー少将が唐突に部屋へ入って来たのだ。


「少将……」


 少々驚いた顔のミシュリーヌ。

 ロクサーヌも目だけでフレディを追っていた。


「諸君、整列だ」


 フレディの言葉に何かを察した全員がガンルームの中で整列した。

 さすがに訓練の行き届いている士官故か、その整列に乱れは無い。

 室内に入ってきた男は『おぉ!』と喜んでから皆の前に立った。


「忙しい所悪いね。だが、重要な事を話しておきたい」


 そう切り出したのは連邦軍海兵隊司令であるハミルトン大将だった。


「忙しいだろうから簡単に済まそう。まず――」


 チャールズはエディにメモリーチップを差し出した。

 それをモニターに挿したエディは、サムアップで完了を伝えた。

 巨大なモニターに地上の地図が示され、全員が目標をこの時初めて知った。


「――効果目標は見て分かる通り、アメリカ合衆国の東部地域最大都市の一つ。ニューヨークだ。地球における経済中心地の一つとして証券市場を始め様々な機関がここに有る。シリウスはここを抑えてしまえば地球の経済が止まると踏んだのだろうな。実際少なくない影響は出ているが、さほど問題では無い」


 多少の強がり的な部分もあるが、概ねは事実と言って良い状況だった。

 ただ、ニューヨークがシリウス側の支配下に入ってるのは歓迎しかねる。


 アメリカ合衆国の主要メディアがこの街に結集しているのだ。

 その街を抑えられてしまうと、幾らでもプロパガンダ放送が出来てしまう。

 連邦軍上層部はそれを危惧しているのだが、シリウス側の守りは堅かった。


「この街へ海路で大部隊を送り込むのは不可能だ。大気圏外から監視され、すぐにばれる。そして陸路の場合はシリウスの構築した防衛線がかなり堅牢だ。ここを突破するだけで骨の折れる思いだ。ただし――」


 チャールズの指が示した位置はハリスバーグ

 そしてその指は、ハリスバーグからボルチモアを指した。


「――現在シリウスの主要軍団はワシントンDCを目指して進軍中だ。シリウスの地上軍はジョンFケネディ国際宇宙港を拠点にロングアイランド島を橋頭堡としている。と言っても、島自体がかなりデカイので、率直に言えば点と線の占領だ」


 そう。実際の話としてシリウス軍が占領しているのは点と線なのだ。

 広域を支配下に置いているとは言っても、現実にはカバーしきれていない。


 つまり、逆に言えば些細なきっかけでシリウス軍は大混乱に陥る。

 それこそ、地球市民による一斉武装放棄など起きた場合には、対処不能だ。

 だからこそシリウス軍はメディアの掌握に力を入れていた。


 対抗より共存を選ぶようにじっくりじっくり工作しているのだ。

 そんな現状をひっくり返すべく、エディ達は大勝負に出ようとしている。


「諸君らはニューヨーク中心部のマンハッタン島へ降下してもらいたい。クイーンズスクエア辺りで派手にドンパチをやり、シリウス側を徹底的に撃退して欲しい。そして、最前線への補給路を裁ち切り、同時に合衆国国民に訴えるのだ」


 そんなチャールズの言葉に『何をっすか?』と聞き返したロニー。

 全員が話の腰を折るなよと言わんばかりの顔で見るがチャールズは首肯した。


「良い質問だ。訴えるのは簡単だよ。チャレンジスピリット。フリーダムスピリット。そして、建国の精神をだ」


 生粋の合衆国国民であるチャールズは、『姿を見せれば伝わる』と付け加えた。

 その言葉の意味は解らないが、それでもテッドは理解していた。


 言葉が通じなくとも姿勢で届くモノがある。

 大人しく占領されても良いのか?と、問いかける意味を持つ。

 合衆国国民に根ざしたインディペンデンスの精神を揺さぶる作戦。


「でも、ニューヨークで暴れ回ったらワシントン攻略部隊が反転しますよね?」


 そもそもそれが目的なのは言うまでも無いのに、ウッディはそれを問うた。

 要するに、攻略部隊が反転した後はどうするんだ?と言うものだ。


「それはね――」


 チャールズの指が再び地図を指差した。アメリカを流れる大河ミシシッピ。

 その下流にある巨大なデルタ地帯に開けた街、ニューオリンズ。

 ジャズと音楽と宇宙産業の街には連邦軍地上部隊500万が結集していた。


「――この軍団が一斉に動き出して送り狼をする。ただ、そもそも地上軍団は我々の動きを知らないし、海兵隊は話を通しても居ない。つまり、一方的なスタンドプレーと言う事になる。故に、下手を打てば全員後になって査問委員会だ」


 マジですか?とウンザリ気味な顔になったウッディ。

 だが、テッドは笑って言った。


「いいね。解りやすい。敵のケツをぶっ叩いて反転したら、今度はそっちがぶっ叩かれる仕組みか」

「だな。シリウスの地上でやり合った時とは逆なんだよな。こっちの方が有利だ」


 テッドの言葉にヴァルターがそう応えた。

 増援無き戦線を護る為にどれ程苦労したのかをふたりは覚えている。

 今回は護る側で無く攻める側なので、気は楽だし安心も出来るのだった。


「司令。撤収はどんな塩梅でしょうか?」


 手を上げて質問したステンマルク。

 ニューヨークに降りた後の補給は期待できないので、やばくなったら逃げだす。

 そんな手順が最善手なのだと全員が思った。だが……


「念のためチョッパーを用意してあるが……個人的な要望としては逃げ出す事無く徹底的に暴れ回って欲しい。武器が無ければシリウス側の武器を鹵獲し、それを使って抵抗し続けて欲しい」


 チャールズの言った言葉に『え?』と素っ頓狂な言葉を返したステンマルク。

 その隣に居たオーリスが援護射撃の様に言葉を浴びせた。


「つまり、死ぬまで帰ってくるなって作戦ですか?」


 抗議がましい声でそう言ったオーリス。

 ただ、中身としてはそれに近いモノがある。


 そもそもサイボーグはまだまだ精密品で有り、砂塵や高湿度の環境を嫌う。

 機体が故障したサイボーグなど、ただの巨大な廃棄物に過ぎない。

 そんな状態でも回収が見込めないなら、それは自殺紛いの片道特攻だ。


「いや、そうじゃない。出来る限り死なないように振る舞って欲しいし、全員生きて帰ってきてくれなきゃ困る。だが、重要なのは努力している姿勢を地球人に見せる事であり、シリウス相手に抵抗する意思を見せる事だ」


 ――――そうだった……


 そんな表情になってチャールズを見たオーリス。

 不承不承に飲み込んだとも言えるが、少なくとも問題はない。


 要するに、作戦の本質は地球人に『まだ間に合う』と思い起こさせる事だ。

 地球からシリウス軍を追い出し、少しでも有利な状況にする事。

 それによって戦争自体を終わらせる事が本願だ。


「まぁ、細々した問題はやりながら改善しよう。まずは地上へ降下だ。恐らくだが……凄く面白いぞ」


 エディがこの顔になる時は、碌な事が無い。

 それを確信したテッドはヴァルターを見た。


 ――――やべぇな……


 そんな顔になったヴァルターもテッドを見ていた。

 地獄巡りは確定したので、後は少しでもマシな地獄を期待するだけだ。

 もっとも、エディは喜んで最悪の地獄に飛び込んでいくだろうが……


「全員降下艇へ移れ。1時間後に出発する。言うまでも無いが装備は最大限持て。考え得る限りの装備だ。食料は現地調達するので問題無い。あぁ、あと――」


 何かを思いだしたように室内をグルリと見回したエディ。

 どんな言葉が出るのか?と全員が息を呑んだ。


「――大事な事を言うのを忘れてた。トイレは済ませておけ」


 一瞬の静寂。そして、プッと誰かが吹き出す。

 サイボーグにトイレなどあり得ない。つまり、エディなりのジョーク。


「まぁ……派手にやろうぜ」


 ヴァルターはニヤリと笑いながらテッドの肩をポンと叩いた。

 そのテッドは肩をすぼめて言った。困った様な笑顔を浮かべながら。


「まだ死ぬ訳にはいかねぇしな」

「だよな」


 このふたりがそれを言うと、まったく異なる深い意味になる。

 それを分かっているからこそ、全員がニヤリと笑うのだった。


「とりあえずこれだけは言っておく」


 チャールズは最後になって声音を改め切り出した。

 全員がスッと聞き耳を立てる体勢になり、息を呑んだ。


「神のご加護がありますように…… 祈らせてもらうよ」


 そんなモノにどれ程の意味があるのか!と憤る者は多い。

 だが、サイボーグになった者は、その言葉の意味を誰よりも知っている。

 幸運の女神に見込まれ死の淵から帰ってきた者達は、スッと敬礼を返した。


 全員のスイッチが入った……とテッドはそう思った。


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