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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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熱い言葉

~承前






「今日は何日だっけ?」


 無線の中にその声が流れ、テッドは改めて視界の時計表示を見た。

 ヴァルターの問いに答えるように『4月22日だ』と声を流した。

 ワスプは火星周回軌道から更に上空へ遷移している。


「あの遠くに見える明るい光がそうかな」


 ウッディは視界の中に矢印を表示させて全員で共有を掛けた。

 遙か彼方に眩く輝く光は、サンの光を受けて輝くコロニー船の発電パネルだ。


 遠く8光年先から20年を掛けてやって来た大船団。

 その中身は約6億の帰還者達だった。


「どうやらその様だな。とりあえず旅の無事を祝っておこう」


 いつの間にかクレイジーサイボーグズのまとめ役になったジャンがそう言う。

 その言葉の通り、彼らは長旅を終えて眠りから覚めようとしている。


 道中にどんなドラマがあったのかは、ログノートを見るまで分からない。

 だが、少なくとも4隻が失われているのだから、安定航海では無いだろう。

 小規模なボイドをショートカットしてきたコロニー船。

 テッドはその中身を早く確かめたい衝動に駆られた。


 だが……


「さて、出番だ」


 エディの声が聞こえ、全員が集中力のギアを一段上げた。

 ワスプのハンガーに並んでいたロイヤルネイビー仕様のタイプ02が動き出す。

 それぞれのシェルは機体各部のミサイルハッチを全て開放していた。


「ミサイルランチャーは4基持て。両手に1基ずつと背中に2基だ。これで各ミサイルを4種類4発ずつ持てる。事前教育の通り、|CLCの《発射制御コンピューター》報告は絶対に見逃すな。ELS(電波源測位システム)は常に電源投入だ。TAS(目標選別設定)はAIがある程度代行してくれるが、最終的にはパイロットが選択する。どれを使うかは任せるが、全弾撃ち尽くす事を考えろ」


 エディは一方的にそう説明し、最初にカタパルトに乗った。

 まるで鉛筆立てのようなミサイルポッドを持ったシェルは、見るからに凶悪だ。


「念のために280ミリを持っていくが、ヤバイと思ったら遠慮無く使え」


 ワスプのデッキクルーが発艦準備を整えている。

 最後まで確認し続けるレッド(兵装)チームがサムアップでシェルを離れる。

 続いてイエロー(発艦)チームがシェルの進路を目視し安全を確認する。

 そして、スイッと艦首を指さし、反対の手でサムアップを送った。


「マーキュリー少佐。発艦する。準備は?」


 カタパルトチームの声が聞こえ、エディは『OK』を返した。

 その直後、ワスプの電磁カタパルトが一瞬唸り、シェルが打ち出されていった。


「テッド少尉。発艦する。準備は?」


 カタパルト管制士官の声が聞こえ『いつでも!』とテッドは返した。

 その直後、強烈な加速度を感じ、テッド機は宇宙へと叩き出された。


 ――やっぱすげえ!


 この発艦だけは何回やっても甲高い声で奇声を上げそうになる。

 一気に速度に乗って秒速10キロ近くまで加速したテッド。

 やや進んだ所でエディの右隣について編隊を組んだ。


 程なくしてヴァルターやウッディが追いつき、デルタ編隊を組んだ。

 そのやや後方にディージョとロニーがやって来て、ブルと編隊を組んでいる。

 アレックスはリーナーと共にジャンやオーリスを引き連れていた。

 最後にステンマルクが合流し現状のフルハウス12名が揃った。


 ――これ位が一番動きやすいんだろうな……


 テッドは何となくそんな事を思った。

 チームは人数が多すぎても小回りが効かなくなる。


 一芸に秀でた人間を集め、12名か多くて14名程度で運用するのが効率的。

 そんな事をツラツラと考えていたら、コックピットのモニターに何かが出た。


「さて、CLCが攻撃目標の提案を始めたぞ。コロニー船へ向かうが、そのやや後方にシリウス艦が居るようだ。解ってると思うが船を楯にしろ」


 船を楯にする。

 つまりそれは、シリウス艦艇による砲撃はコロニー船の影に入って隠れろだ。

 中々えげつ無い手を使うなぁと思いつつ、テッドはシリウス船を必死で探した。

 レーダーに帰ってくるエコーを分析すれば、何処に敵が居るのかは見当が付く。


「大きくなってきたね」


 シェルの視界にコロニー船を捉えたウッディが何処か嬉しそうだ。

 出来るものなら全部の船の乗客を全て安全に降ろしたい。

 そんな期待をチーム全員が共有した。


「こんな時はお帰り!っすかね」


 ロニーの緩い物言いで全員がクスクスと失笑する。

 そして、そんな言葉にブルが言葉を返す。


「実際にはシリウス産まれの方が多い。お帰りじゃなくていらっしゃいだな」


 ブルはシリウス帰還船の真実をそれとなく伝えた。

 多くの乗客はシリウス生まれであり、純粋なシリウス人だった。


「そうっすね!」


 ロニーの緩い声と共に全員がもう一度クスクスと笑う。

 そんな状態のままエディはグングンと速度を乗せてコロニー船へ真っ直ぐだ。


「ほぉ! 早速来たな!」


 アレックスはモニターに表示されるELSの情報を見ていた。

 シリウス艦艇が照射しているレーダー波は、航海用のものでは無かった。


「全員AGM-03の発射電源を入れろ、最初は03Lからだ」


 対レーダー攻撃様ミサイル。AGM-03。

 これは高性能個体燃焼ロケットによる長距離向けの打ちっ放しミサイルだ。

 同じ筐体で造られるAGM03だが、攻撃距離で使い分ける事が重要だ。


「03Lスタンバイ!」


 テッドはミサイルランチャーの種別選択を03Lに設定して発射の合図を待つ。

 直後、コックピットの視界に幾つもの赤い点が浮かび上がった。

 それはシリウス船籍の船が使っている防空戦闘用レーダーだった。


「レーダー照射受信!」


 モニターに直接手を触れて攻撃目標を選ぶ。後は撃つだけだ。

 テッドは無意識にエディ機を見た。そのエディはミサイルポットを構えた。


「撃て!」


 その声と同時、エディ機がミサイルを発射した。

 長距離向けミサイルの03Lは一気に固体燃料に火を付けたようだ。


 テッドも負けずにミサイルを撃つ。

 シェルが持つと余計大きく見えるミサイルポットからミサイルが飛び出した。

 全速力まで加速すれば、秒速40キロを軽く越える速度になる筈だった。


 ――すげぇ……


 それ以上の言葉が無いテッド。

 ミサイルはグングン加速していって宇宙の虚空へ解けて消えた。

 発射から10分近くが経過した頃、遙か彼方に幾つもの火球がうまれた。

 それは、間違い無くミサイルが命中した光だった。


「命中だな」


 アレックスの呟いた言葉にブルが言い返した。


「当たる様に作ってあるからな」


 全員が再び『プッ!』と笑った時、エディはもう一発の03Lを撃った。

 今度は左で持っていたミサイルポッドでの一撃だった。


「どんどん撃ってよし!」


 エディの命は至ってシンプルだった。

 手持ちのミサイルを撃ち尽くすまで撃てば良いのだ。


 テッドは次々とミサイルを撃ち始める。

 すぐ近くに居たヴァルターもミサイルを撃った。


 AGM-03は大気圏外におけるアンチレーダーミサイルの定番だ。

 遙か彼方に幾つもの火球が産まれ続け、そろそろ03Lに続き03Mの出番だ。


「03MからはAI制御だ。高価な兵器だから必ず当てろよ?」


 冗談めかしたように言うエディの言葉に全員が笑った。

 次々とミサイルを撃ち続けたテッドは、空になったポッドを背中に戻した。

 何となく淡々とし過ぎた戦闘だと思うのだが、長距離ではこんなもんだろう。


 ――なんか拍子抜けだな……


 ワイルドウィーゼルと言えば、度胸一発の接近が肝の筈だ。

 そして、かつてシリウスのコロニー防衛戦闘で経験した事を思い出す。


 ――リディア……

 ――いや、ソフィアか……


 そのどちらでも良いとテッドは思った。

 一枚の紙の表と裏なのだから、どちらでも良いのだ。

 ただ、彼女の底なしの度胸にテッドは胸奮わせる。

 それは、会いたいと言う感情を精一杯にデコレーションしたものだった。


「あっ!」


 それを最初に誰が叫んだのかは解らない。

 だが、その叫びの理由は嫌でも理解出来た。


 シリウス艦艇が発砲したのだ。ミサイルの直撃を受けてなお。

 それなりに強力なミサイルなので、被害が無い事は無いだろう。

 しかし、宇宙における艦艇は海中に沈没する事はない。

 従って電源や操作系が生きていれば反撃が可能だ。


「さて、中々楽しくなってきたぞ! ここから先が本当のワイルドウィーゼルだ」


 エディは先頭に立って一気に接近していった。

 それに続き、アレックスとブルがリーナーを従えて続いていく。


「全機フォーメーションは組まなくて良い!」

「そうだ! ランダムに軌道を変位して飛べ! 当たるんじゃ無いぞ!」


 アレックスとブルはそう叫びながらエディに続いた。

 その直後にいたリーナーもまた、熱い言葉を吐くのだった。


「気合と根性だけじゃ無く、我々の真価が問われる戦いだ。怯むな。逃げるな。立ち向かえ。その先に勝利はある。我等の王に続け!」


 テッドの心の内に何か熱いものが沸き起こってきた。

 淡々とした戦いなど戦いでは無いと、そんな事を思っていた。

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