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黒い炎  作者: 陸奥守
第十章 国連軍海兵隊 軌道降下強襲歩兵隊
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地球上空会戦

~承前






 煌めくような星々の大海に巨大な船舶が結集している。

 そのどれもが赤い薔薇のマークを船腹へと付けたシリウス軍だった。


「全機待機だ。学生諸君はまず観察する事からだ」


 教官役であるエディの声が流れ、テッドは不覚にも笑い出してしまった。

 失笑とはこういう事を言うんだなと再認識し、改めて視界を確認した。


 モニターに表示されているシリウス艦艇は約400隻。

 その大半が突撃艇のような小型船舶で、大型船はざっくり70隻だろうか。


 ただ、テッドはその中に見覚えのある形状の船を見つけていた。

 構造的に言えば大気圏外向けの空母だった。


 ――ハルゼーだ!


 何の根拠も無い事だが、テッドはそれを確信した。

 あのコロニー船救出作戦で一杯食わされ、ボイドの中で乗り捨てた船。


 自動航行でシリウスに帰ったはずだったが……


「ありゃ……ハルゼーっぽいっすね」


 ロニーが無線の中にそんな言葉を流した。

 テッドは咄嗟に『バカ!』と内心で叫んだ。


 この無線が敵にも味方にも聞かれていたなら、情報が筒抜けになってしまう。

 仮に訓練中な士官候補生の正体がクレイジーサイボーグズだとばれたら……


「きっと同型艦だろうな……だいたいハルゼーはシリウスで戦没だぜ」


 ジャンが咄嗟にそんなフォローを入れた。

 そして、当人もその言葉の意味を察したのか『そうっすね』と応えた。


 ここまで身バレしないように気を使ってきたのに迂闊な事をしやがって……

 そんな事を思うのだが、チーム内だけで話が収まる仕組みが必要だとも思う。

 つまり、無線で言う所のスケルチ機能だ。


 どんなに高度な暗号化処理をしても量子コンピューターが突破してしまう。

 リアルタイムで出来なくとも、後になってから交渉の材料として使われる。

 そんな下手を打つ位なら、最初からダンマリの方が良い。


 ロニーも早くそれを学べとテッドは思うのだが……


「それよかあれだね。航空宇宙戦闘団が全部来てるって凄いね」


 素直な言葉で感動を示したヴァルター。

 現状のシリウス迎撃チームには、創立時に訓練した戦闘団が揃っていた。

 VFA101スペースランサーズとVFA102アストロナイツは教え子だ。


 その他にも、基礎訓練を担当したVFA103スターフォックスが見えている。

 その隣にはVFA104グレートスターズが居るが、ここは全く接点が無い。


 見れば見るほどご機嫌なシェル戦だとテッドは思った。

 何故なら、自分達の使うタイプ02の低速型でノンビリと機動戦を行っている。

 ただ、その中に垣間見えるのは戦闘団パイロットの驚くべき技量だ。


 何時か何処かで聞いた話だが、兵器の性能に制限はあっても訓練に制限は無い。

 機体をより上手く使いこなせる方が強くなるのは自明の理なのだった。


「いやぁ……勉強になるな」


 歯の浮くような事をテッドが漏らした。

 その言葉にアチコチからクスクスと失笑が漏れる。

 しかし、そんな失笑はレーダーパネルの新たな輝点でスッと消えた。


 まだベルトの向こう側だが、広域戦闘情報で示されたそれは巨大なエコーだ。

 戦闘支援コンピューターがデータ解析を進めるが、その陣形に見覚えがあった。


「……そうか。20年か」


 ウッディもそれに気が付いたらしい。

 自分達はグリーゼへと旅した関係で約20年程度を時に喰われている。

 それ故に実感が中々湧かないのだが……


「コロニー船が太陽系へ帰還したのか」


 ジャンは懐かしそうにそう漏らした。

 そして、それを聞いていたテッドはハッと気が付く。


()()()はコロニー船を奪われないように展開しているのか……」


 それは同時にシリウス側の都合でもあった。

 突撃艇として展開しているシリウス軍艦艇は、地球側の艦艇の邪魔が任務。

 一隻でも多く撃沈し、シリウスによるコロニー船奪回を進める腹だろう。


「あの中身の人達……まだ生きてるのかな」


 ウッディがボソリと零す。それは、出港段階で聞いた極限状況を思えばこそだ。

 リアクター容量の限界一杯まで冬眠カプセルを積んだコロニー船ばかり。

 些細なトラブルで即全滅となりうるのだ。


「まずは全て収容する事から始めよう」


 エディは静かな口調でそう言った。

 ただ、その言葉は要するに『お喋りが多い』と言外の警告だった。


 ――だよな……


 自分達が本来知るはずの無い情報だ。それを遠慮無く漏らすわけにはいかない。

 今くらいまでなら教育の一環で覚えたと言い逃れも出来るだろうが……


「あっ!」


 誰かが驚きの声を漏らした。眩い光が虚空を横切り流れた。

 大型戦列艦同士の砲撃戦が始まったようだ。

 そしてそれは、砲撃進路上にコロニー船を背負った地球側の砲撃だった。


 ――遠慮無く撃って良いぞ?ってな……


 卑怯とか卑劣とかそんな言葉が何の意味もない綺麗事なのは良く知っている。

 しかし、それを差し引いてもこれはアンフェアだとテッドは思った。


 シリウス側はコロニー船を無傷で回収したい筈だ。

 もちろん地球側だってその通りで、全て収容したいのは言うまでも無い。


 コロニー船はまだベルトの向こう側で、相当な距離が有る。

 どんなに大出力砲でもコロニー船に届く前に荷電粒子の塊は宇宙に霧散する。

 だが、大型戦列艦同士の撃ち合いは、基本的には有質量弾だ。


 荷電粒子砲で打ち合う事を前提に装甲を徹底強化した船なのだ。

 最後は物理力で殴り合う形に回帰してしまっている。

 そしてその有質量弾は、真っ直ぐに飛んでいってコロニー船に当たる……


 ――おまけにシリウス艦艇の背後は……


 テッドはもう一つ気が付いた。地球側艦艇の方が高度が高いのだ。

 と言う事は、万が一外した場合、その有質量弾は地球に落ちる。

 そしてその砲弾の行き着く先はユーラシア大陸のアジア圏だ。


 ――やる事が徹底してエグい……


 それを卑怯と呼んではいけない。

 これは命のやり取りであると同時にメンツを賭けた戦いだ。

 何でもやるし、勝たなければ意味のない戦いだった。


 ――あ、そっか。そう言う事か……


 ここまで思考を積み重ね、テッドはやっと気が付いた。

 地球側の参謀陣が積み重ねた重層的な罠についてだ。


 まず、ここでシリウス側が反撃すれば、コロニー船に被害が出る。

 すべてシリウス側に収容されても、コロニー船に乗船した者達に喧伝できる。

 シリウス軍は君たちを切り捨てようとしたぞ?と。


 次に、ユーラシア大陸バックでの砲撃では、国連派国家にも恫喝できる。

 コッチに打つなと言われた場合、お宅の国を護っていたんですね?と。

 そして、お前らもシリウス国家として認定するから全面地上戦だと。


 当然、国連派国家は不幸な流れ弾だったと言わざるを得ない。

 いくら地球側が劣勢でも、地上戦力の大半は連邦軍なのだから。


 何より、撃沈されたシリウス艦艇は中国に落下するだろう。

 この場合、中国政府は公式ルートで『喧嘩は余所でやれ』を言う事になる。

 シリウス連邦側にしてみれば、地球側友好国だと思っていた国に言われるのだ。


 ――ひでぇ……


 けど、仕方が無い。

 これが戦争だ。これが政治というものだ。

 これに腹を立てているうちは、まだ子供なのだ。


「さて……諸君、そろそろ出番だ。我々の仕事をしようか……」


 エディが軽い調子できりだした。ただ、その中身は言うまでも無い。

 とんでも無い重武装でやって来た自分達が行うのはひとつしかない。


「我々が帰還した事を知らない者も沢山居る。派手にやるぞ!」


 マイクが楽しそうな口調でそう言う。

 それに続きアレックスも言った。


「狙うは大型艦のみだ。雑魚に構わなくていい。そっちは生身の仕事だ」


 アレックスが言う通り、シリウス側の数に頼んだシェル攻勢は続いている。

 それらを4つの戦闘団がよくいなし、反撃に転じつつある。

 シリウス側シェルは400~500機近いが、戦闘団だって300に迫る数だ。


 地力の違いで徐々に押し返し始めているのは、見ていて充分に解る。

 こうなれば、自分達がシェル戦闘のジョーカーなんだとテッドは理解した。


「さて、無駄話をして居る時間はない。言うまでも無いが、落とす先をよく考えて攻撃しろ。効率よくやるんだぞ。良いな」


 エディの声が浮いているとテッドは思った。

 そして、ここからが第3クォーターなんだと知った。


「掛かれ!」


 エディの声と同時にテッドは戦闘増速した。

 一気に速度に乗せシリウス艦艇に斬り込んでいく。

 やってやる!と、迷いの無いロケットロードその物だった。

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