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黒い炎  作者: 陸奥守
第二章 後退の始まり
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サザンクロス陥落 前編

 ――――サザンクロス中心部

      6月5日 午前中





 第二庁舎前で守備戦闘を繰り広げてきた501中隊だが、気が付けば後から追加した9名の他にふたりの士官候補生を含む8名が戦死し、生き残っていたのは僅か11名になっていた。

 シリウスのロボ相手に肉弾戦を挑む以上、絶対に避けて通れない犠牲だった。だが、士官候補生がふたりとも死んでしまう事態には、流石のエディもいささか凹んでいた。


 5月の31日にやって来たシリウス軍の軍使を突っぱねたまでは良かったのだが、津波のようなレプリ兵士の来週とロボの連動攻撃で本庁舎は陥落。ガラスを多く使った華奢な造りだった為に、守備陣はあっという間の玉砕だったらしい。

 死体も発見されなかった守備隊隊長の大佐殿だが、ジョニーは結局最後まで名前を覚えられなかった。印象も薄かった。なんとなく影も薄かったので、『きっと死ぬな……』とは思っていたのだが。


 前日深夜にやって来たレプリの自爆兵攻撃で第二庁舎前のバリケード陣地を破壊され、501中隊はいよいよ第二庁舎そのものに陣取り始めた。本庁舎と違い鉄筋コンクリート作りの重厚な建物ゆえか、ロボの砲弾を受けるでもしない限り建物の躯体が破壊される事は無かった。

 ただ、立て篭もっている兵士の陣取る部屋へ砲弾や手榴弾が飛び込めば、他の部屋は平気でも、その部屋は確実に全滅する。文字通り『運任せ』の守備が続き、流石の501中隊も撤退するかどうかをエディが考え始めていた頃だった。


  ――エディ。そっちはどうだ?


 無線の中に流れるロイエンタール将軍の声。それを聞いているエディは苦笑いだった。サザンクロス市庁舎ではなくサザンクロス南部にあるニューアメリカ州庁舎に陣取っている連邦軍総本部は、もはや指呼の間だ。

 そして、もはやそこまでシリウス軍ロボによる砲撃圏内に収まっているにもかかわらず、連邦軍のトップはまだそこで頑張っていた。


「そうですね。歩兵戦力は1200倍。砲兵や装甲戦闘車両は比較不能ですな」


  ――そりゃ難儀をしておるようじゃな。何人残っとるかね


「戦闘可能は15名です。重傷者が居ましたが、さっき逝きました」


  ――勝手に持ち場を離れおってからに。監督不行き届きじゃぞ


「そうですねぇ。必死で引きとめたんですが、どうしてもヴァルハラへ行きたいというので、最後は自由にさせました」


  ――まぁ無理に引きとめても報われん。良い判断じゃ


「恐れ入ります」


  ――でのぉ…… エディ……


 ロイエンタール将軍の声が拙い空気になった。無線通信を聞いていた者たちに怪訝な色が混じる。だが、エディはいつもの調子で言葉を返していた。指揮官が取り乱してはならない。指揮官は慌ててはならない。指揮官は常に冷静で、そして常にユーモアを忘れてはならない。


「増援と補給の連絡以外は自分の耳が聞きたく無いと言っておりますが、どうしましょうか?」


  ――それは困ったのぉ 何とか宥めてくれ


「で、我々にどうしろと?」


  ――あと二日頑張ってくれ


「そうですか。では三日後には州庁舎のイギリス庭園を貸してください。前線本部に使いたいものですから」


  ――ホホホ、そうじゃな。好きに使ってよい。ただ、どうもそうじゃなくなりそうじゃぞ?


「……と、いいますと?」


 ニヤッと笑って隣のアレックスを見たエディ。アレックスは僅かに首をかしげていた。無線の向こうであの老将軍が何を言うのか、皆が固唾を呑んで聞き耳を立てていた。


  ――宇宙軍からの通達でな、明日からニューホライズンの地上各地へ無差別艦砲射撃を行う事になったそうじゃよ。6月1日からキーリウスの重化学工業地帯へ砲撃を開始し、工業地帯の全てを焼き払ったそうじゃ。シリウス側の兵器生産は大きく被害を受けているらしいが、これに続き、レプリカントの育成工場も今日明日の二日間で徹底的に破壊すると言って来た。これが終わったらサザンクロス周辺に展開するシリウス軍へ総力砲撃を行うそうだ



 話を聞いていたアレックスとマイクは顔を見合わせた。宇宙軍が使っている戦列艦といえば、地球から持ってきた大型の戦闘艦艇だ。高速連絡船ならば100日でシリウスへ到着できるのだが、戦列艦ともなるとそれなりに日数が掛かる筈。

 昔の様に10年20年という単位は無いにしたって、1年や2年は時間を掛けている筈だと思うのだが……


「その砲撃を先にこっちへやってもらう事は不可能でしょうか?」


  ――実はワシもそう依頼したんじゃが、周回軌道の関係で難しいそうじゃ


「残念ですなぁ」


  ――いずれにせよ、あと二日じゃ。どんな手段を使っても良い。あと二日持ちこたえてくれ。なんとかそっちを支援できるよう最大限手を尽くす


「よろしくお願いしますよ伯父上殿。自分は伯父上の葬式を出す役目が残ってますからな」


  ――ホッホッホ! そうじゃったのぉ! 頼むぞい


 ブチッと音を立てて切れた無線。通信レシーバーを下ろしたエディはマイクとアレックスを含め全員に言った。


「明日までは何とか頑張るぞ。明日の午後から撤退戦に入る。建物の爆破準備とクレイモアの設置にかかれ。力で押し返すのは不可能だ。引き込んで磨り潰す。もうそれしかない」


 エディを筆頭にマイクとアレックス、そしてリーナー少尉の僅か4人となった士官は、生き残っていた者たちを指揮しつつ最終戦闘の準備を始めた。中隊長付き上等兵曹長ドッドはクイックとタックを引きつれ、着々と建物の爆破準備をしている。中へ入ってきて建物を接収したシリウス軍をまとめて磨り潰す腹だ。

 ウェイドとロージーはマイクと一緒になってレプリ兵の通りそうなところへクレイモアを仕掛けている。無線発破で一気に数を減らせるこの武器は、シリウス側も嫌がるはずだ。

 ロブとグーフィーはブローと一緒になって、第二庁舎周辺に地雷の設置を開始した。安価ながら地味に威力のある地雷ならば、足を止めるには最適だ。マルコとクイックのふたりはアレックスと共に第二庁舎の屋上階へ重機関銃陣地を設置する作業を開始する。

 残されたはジョニーとヴァルターのふたりはリーナーと一緒になって、建物内部の瓦礫を片付け始めた。乱戦になった時、建物内部の瓦礫に足を取られて転ぶと一大事だ。そしてもっと言えば、屋上から瓦礫を投げて下にいるレプリを殺す事も出来るはず。大きな一枚板に瓦礫を載せ、屋上までそれを運ぶ作業に勤しむふたり。リーナー少尉は一緒になってその瓦礫を担ぎ、屋上まで運んでいた。


「少尉殿。もうすぐ昼ですね」

「どんな状況でも腹が減るのは若い証拠だ」


 ニヤリと笑ったリーナー少尉がふたりを見ている。この人は口数こそ少ないが、何かを言う時はいつも本音で話をする人だ。ジョニーもヴァルターもそんな事を思っている。ロシア系なのに余り酒を飲まず、大騒ぎもせず、寡黙で紳士な人だ。


「ん?」


 そんなリーナー少尉が何かに気が付いた。屋上から見下ろしている第二庁舎前の駐車場は広大な敷地面積を誇っていて、その中には数々の爆発痕と燃え残った自家用車の残骸が並んでいる。その中を軍使を示す緑の旗を持った男を先頭に30人近いシリウス軍の男たちが歩いてくるのだった。


「地球連邦軍の守備兵よ! 自分はシリウス人民軍のワイルダー大佐である! 軍使としてここへやって来た! 指揮官と直接交渉したいのだが!」


 リーナー少尉は一瞬首をかしげたのだが、そこへすかさず出ていったのはエディだった。最初は銃を持っていたエディは、すぐ後ろにいたドッドへライフルと拳銃を預け、文字通り丸腰で軍使の元へと歩いていった。


「地球連邦軍サザンクロス守備隊前線指揮官のマーキュリー少佐です。いかなご用件ですかな? ワイルダー大佐殿」


 軍の慣例に従い敬礼を送ったエディ。その礼に敬礼を返したワイルダー大佐は緑の旗を置き、背負っていた大量の食料と飲料水を地面へと置いた。


「これはシリウス人民からの差し入れである。騎士の名誉に掛けて爆発物や毒入りではない事を約束する。懸命な戦闘を果たす勇気ある兵士たちに対し、シリウス人民は惜しみない賞賛と敬意をおくる」

「全ての守備兵を代表して申し上げる。心から感謝する。ちょうど全員喉が渇いていた頃だ。これからもう一働きせねばならないもので腹も減った頃だった。差し入れ誠にかたじけない。守備兵とその帰りを待つ両親に成り代わり、シリウス人民にお礼申し上げる」

「ご丁寧に痛みいる。さて、守備隊の諸兄らが決死の覚悟で守るこの施設だが、諸兄らにとってどれ程意味のあるものか、お聞かせ願いたい」

「……真意を測りかねますな。大佐殿」

「諸兄らは地球にいる支配階層から捨石にされているという実感を持ってないか?特権を持つ者たちの権利の為に、諸兄らは磨り潰されようとしていないか?」

「……降伏勧告ならば歓迎しかねますぞ?」

「そうではない。我々はここまで生き残った優秀な兵士である諸兄らを同志(タヴァーリッシ)として迎え入れたいのだ」


 その言葉を聞いたエディは振り返ってドッドを呼び、何事かを告げた。ドッドはそれを聞いたあと第二庁舎へと戻っていき、ややあって今度はガラス製のグラスを二つもってエディの元へと戻ってきた。


「ワイルダー大佐。お申し出は誠にありがたい。だが、我々に降伏という選択肢はありえません。最後の一兵まで地球派シリウス人のために戦えと命じられていますのでね」


 ワイルダー大佐の置いた荷物の中にあったミネラルウォーターをグラスへと注ぎ、それに手をかざしたエディは小声で何事かを呟いた。皆が見ている前で、エディはちょっとしたマジックを披露したのだった。


「良かったらいかがですかな?」


 ワイルダー大佐にそのグラスを渡したエディ。グラスの中には透明な水が入っていた筈なのに、いまは琥珀色をした馥郁たる香りを漂わせるモノがはいっていた。その香りを確かめたワイルダー大佐の表情に驚愕の色が浮かぶ。


「シリウスの同胞よ。すでに賽は投げられたのだ。どの目を出すかは神が決める。私はその目に乗るしか出来ない。どうかこの一杯のウィスキーを持って、別れの挨拶としていただきたい」


 グラスに半分ほどだったウィスキーへ残っていたミネラルウォーターを注ぎ、ちょっと濃い目の水割りにしたエディは、それを一気に飲み干した。


「我々に降伏などありえない。どうかお帰り願いたい。交渉は以上です」


 そのグラスを地面へと落としグラスを割ったエディ。交渉は決裂であるという意思表示だった。そして、静かに敬礼お送り、そのまま背を向けて歩き始めた。ドッドも慌てて敬礼を送ってからエディの後ろを続いた。

 その背に『そんなばかな……』と呟いた軍使は、気を取り直して大声で叫んだ。


「我々は24時間後に総攻撃を行う」

「ご丁寧に痛み入りますな」

「どうか考え直してもらえないだろうか? 御子よ」

「はて?」


 立ち止まって振り返ったエディは、静かに笑って首をかしげた。

 その仕草にワイルダー大佐はエディの正体を見抜いたのだった。


「……遺書を書くなり酒を飲むなり、好きにしていれば良い。だが、どうかシリウス人民の元に帰って来ていただきたい」


 夕方フォームで敬礼を送ったワイルダー大佐。

 そのまま歩き去るエディを見送り、驚愕の表情を浮かべたままシリウス軍側へと帰っていった。その様子を見ていたジョニーは確信した。エディは最初のシリウス人。ビギンズだと。





 だが、その翌日昼過ぎ。再び軍使がやってきた。

 今度は50名以上の大集団だった。


「救いの御子よ」


 開口第一声がそれだった。サザンクロス市庁舎を包囲していたシリウス軍は持てる拡声器や放送機器の全てを使ってエディに投降を呼びかけた。大音量でガンガンと呼びかけ続けるシリウス軍の兵士たち。

 だが、とうの本人であるエディは一笑に付しただけだった。


「奴らもしつこいな」

「エディが昨日、あんな物を見せるからだ」

「ちょっとした手品なのになぁ」


 マイクの冷たい言葉にヘラヘラと砕けた笑みを返したエディ。

 第二庁舎の前へ一列に並び、軍使は両の手をシリウスへとかざしてエディを待った。ニューホライズンを照らす母なる光。青き太陽シリウスを讃えるその姿は、シリウス人にとって特別な意味を持っていた。


「我らの頂点に立つシリウス(太陽)の王よ! どうか我らの前に!」


 第二庁舎の中で腕を組みそのシーンを眺めていた。


「おいおい、どうするんだエディ?」


 呆れた声でアレックスが言う。深い溜息を吐き出したエディは独りで銃を持って第二庁舎の前に出て行った。その後方で全員が銃を構えた。万が一にもエディが撃たれた場合、総力射撃を加えてエディを回収しなければならない。

 だが、そのエディは歩きながらライフルのボルトを引いて初弾をチャンバーへと叩き込んだ。


「御子!」「御子よ!」「ビギンズ!」


 シリウスの兵士が口々にそう呼ぶ中、エディはやや離れた位置に立っていた。


「救いの御子よ! どうか我らシリウス人のところへお戻りください」


 真剣な表情でそう叫ぶシリウス軍の士官たち。そんな彼らを見ていたエディは僅かに微笑んだ後、突然銃を構えて乱射し始めたのだった。至近距離とは言いがたいが、それでも威力のあるライフルなら簡単に即死する距離だ。

 マガジンを一本撃ちつくし、そのまま次のマガジンへと素早く換装して更に射撃したエディ。第二庁舎の前へとやってきていたシリウス軍の士官達50人全てを射殺したエディは、悠然と第二庁舎へ戻り始めた。


「おぉそうだ。大事な事を言い忘れた。私は御子でもなんでもない。そう伝えろ」


 士官の列の後ろに居たレプリカントに向かってそう微笑み掛けたエディ。レプリカントの兵士は無表情に頷いて、そしてシリウス軍陣地へと走っていく。その後姿を見送ってから、再び歩き始めたエディ。その背中目掛けシリウス軍側から散発的な射撃が始まった。


「エディ! 走れ!」

「死んじまう!」

「急げって! エディ!」


 皆が焦りの声を漏らす中、エディはやはり悠然と歩いていた。なんとも面倒だと言いそうな表情でだ。僅か数秒の出来事だったが、たったの一発たりとも直撃を受ける事無くエディは第二庁舎へと納まった。

 皆がふたたびバリケードを積み上げる中、エディは皆を見回してから楽しそうな表情になって言った。


「連中の横っ面をおもっきり引っ叩いて来たぞ。これで後戻りは出来ない」


 ニヤリと笑ったエディだが、マイクは真っ白な顔のまま言う。


「幾らエディでもあの距離で撃たれたらヤバイだろ! なに考えてんだ!」

「おいおいマイク!」


 肩をポンと叩いたエディは落ち着けといわんばかりだが、マイクは納まらない。


「これが私の使命だよ」


 そんな事を言ったエディ。その言葉が終わるか否かのタイミングでヒュルヒュルと甲高い音を響かせ何かが降り始めた。その音に聞き覚えのあったジョニーは思わず柱の陰に身を隠す。生き残っていた皆が何かの陰に逃げ込んだ時、第二庁舎の敷地へシリウスロボの砲撃が到達し始めた。


「おいおい、今回は榴弾だぜ!」

「殺す気でかかってやがるな」

「結構結構! 楽に殺してくれよ!」


 マイクやドッドが言いたい事を言う中、音速で飛び交う破片の中をエディは平然と立っていた。


 ――――エディ……


 驚きの眼差しで見ていたジョニー。次々と炸裂する砲弾の破片は全くエディへと当たらない。そのまま約15分ほどの砲撃を受け続けたのだが、結局エディは最後まで無傷だった。


「さて、にわか雨も終わったようだ。出かけるぞ!」


 エディの声が楽しそうだ。皆がそんな事を思ったとき、遠くからシリウスロボの歩行音が響いてきた。


「アレックス! クレイモアは自動発火にしておけ! マイク! 地雷は磁気作動モードだ! 建物は15分後に自動爆破モードにしておけ! 全員弾薬は持てるだけ持つんだ! 走るぞ!」


 なんとも楽しそうな顔で走り始めたエディ。その後ろをジョニーが続いた。この人が見せる奇跡をもっと見たい。もっともっと見たい。この人は間違いなく救いの御子だとジョニーは確信していた。


「エディ! ロボまで700メートル!」

「振り返るなマイク! 走れ!」


 全員が建物の裏へと出て、とにかくひたすら走り続けた。細い通りを抜け橋を渡り、サザンクロス南部へと飛び出ていく。それでもなお走って走って走り続けて、そのうち走るのが楽しくなり始めたジョニー。

 そんな時、ふと見たエディは汗一つ浮かべる事無く、平然としながら辺りを確かめ、そして指揮し続けていた。


「次を曲がるぞ!」

「イエッサー!」


 精一杯の大声で応えながら走り続けるメンバーだが、流石に息が切れ始めた。そのまま走り続け7キロほど走ったところでエディも足を止めて歩き出した。振り返ったときにはロボの姿が4機しか見えず、追っ手を巻いたのか?と思ったジョニーだったが、どうやら事態は悪いほうへと転がっているようだった。


「おいおい! エディ! 包囲されかけてるぜ!」

「アハハ! 楽しくなってきたな!」


 汗だくになって肩で息をしているジョニーとヴァルターのふたり。その肩をポンと叩いたエディは、やはり汗一つ流していなかった。


「さて、ここからが鬼ごっこの始まりだ」


 ニンマリと笑ったエディが走り出そうとしたとき、遠くから大音響を響かせて何かが爆発した音が聞こえた。その直後、濛々と煙が上がり、第二庁舎が爆破解体されたのだと気が付いたジョニー。


「そら! ボケッとしている暇はないぞ!」


 再び走り出した501中隊の面々。だが、一歩遅くロボット軍団による包囲の輪が閉じてしまったらしい。走っていく前方にロボのシルエットが見えたジョニー。中隊の面々もあちこちで『チクショウ!』と悔しがっていた。


 ────さすがにあれはヤバいな


 ふと、ジョニーは死を覚悟した。間違い無くアレはやばい。そう確信するものだった。完全に包囲し、そしてすり潰されるように殺されるだろう。少なくとも楽な死は望めそうに無い。


「おいエディ! どうすんだよ!」


 さすがのマイク大尉も少しだけ焦っている。アレックス大尉もちょっとだけ引きつった様な顔をしている。だが、当のエディ少佐だけは未だにニコニコと笑っているのだった。


「ますますご機嫌じゃないか! 楽しくなりそうだ!」


 楽しそうに辺りを見回して、そして腕を組んで状況を眺めている。

 まるで完全に恐怖という感情が欠如しているレプリカントのように……


 ────ダメだ。完全にイカレてる!


 ジョニーの眼差しに絶望が浮き上がった。諦めたらそこでお仕舞いと言うが、この状況で諦めないのは馬鹿か狂信者かのどちらかだけだ。だがエディだけは薄笑いを浮かべ、州庁舎の方向をジッと眺めている。

 その間も州庁舎方向からはロボの断続的な射撃音が響いていて、風に乗り何かが爆発する音が轟いているのだった。皆はその音に間違い無く『シリウス側はやる気』だと理解した。少なくとも、一人たりとも生かして帰す気は無い。生存者無しの状況にし、人民を捨てて逃げたとでも発表するのだろうとジョニーは思った。


 様々な思惑が交差する中、シリウス軍による包囲の輪が着々と閉じつつある。そんな中でもエディだけは余裕風を吹かせ、この絶体絶命な状況を楽しんでいるのだった。

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