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黒い炎  作者: 陸奥守
第二章 後退の始まり
25/424

サザンクロス市街戦 前編

 ────サザンクロス中心部

     5月15日午前




「ジョニー! 勝手に死ぬなよ!」


 皆がゲラゲラと笑う中、ジョニーはヴァルターとコンビを組んで中心部の瓦礫に埋まった通りを走っていた。

 市街地中心部へと進出してきたシリウス側のロボに対し、連邦軍は対戦車ロケットを担いで肉弾戦を挑んでいた。野砲も戦車も無い中で闘うには、もはや人間が兵器に成るしかないからだ。

 瓦礫の中を走り回り、有利な場所に陣取ってロボを待ち構えるふたり。どれほど重装甲であろうと、可動部は弱いものだ。ついでに言えば、重装甲なだけに重量はかさむわけで、その力が掛かる場所なら強い打撃は歓迎しかねる。


 地響きを立てて進んできたロボの膝下辺り目掛け対戦車ロケットを撃ち込み、ひっくり返って動けなくなったロボのコックピット目掛けもう一発。そんな流れで既に五機ほど破壊していた501中隊は、サザンクロス防衛戦に於けるロボ破壊ダービーの先頭を走っていた。


「来たぜヴァルター!」

「よし! ぶちかまそうぜ!」

「ドゥバンの仇だ!」


 半分崩れたビルの奥。熱赤外線で見つからない場所に潜み、目の前まで来たら一気に肉薄して、そして力一杯ブッ叩くだけ。必要なのは度胸と根性。あとは運だ。


「それいけ!」

「くたばれ!」


 崩れたビルの中を走って行って、崩れた壁の窓から対戦車ロケットをぶっ放す。至近距離なだけに威力は申し分なく、歩いていたロボは膝関節部を破壊して前に倒れた。

 オートスタビライザーの働きなのか、ロボはすぐさま両手を使って起き上がろうと腕立て体勢になる。この時はロボも全く迎撃活動を行わないので素早くコックピット前に躍り出て、文字通りの至近距離から必殺の一撃をかます。構造的に一番装甲の薄い場所なのて、HEAT弾のメタルジェットがコックピットの中を完璧に焼き尽くし、ロボは動きを完全に止めるのだった。


「おっしゃ!」

「ずらかれ!」


 まだ動けるロボの燎機が周辺を猛烈に掃討射撃する中、素早く撤収し別のビルへと逃げ込んで地下道を走るジョニーとヴァルター。このコンビで破壊したロボは三機目だった。


「エディ。あの小僧ふたりに鉄十字賞を申請してやろう」


 双眼鏡を覗いていたアレックスも上機嫌だった。一番最初に見せた手本はアレックスとマイクのコンビだ。勇気を出して肉迫し、必殺の一撃をかまして素早く撤収する動き。小僧ふたりはその動きを完璧にマスターしていて、仲間の元に帰ってきてから対戦車ロケットの弾頭を付け替えて、再びロボ狩りに出発する。


「あんまり調子に乗ってると痛い目に遭いそうだが……」


 マイクもニヤニヤしながら眺めている。勿論エディもそうだ。ジョニーとヴァルターの二人で今日中に12機撃破の目標を立てていた。目標を達成したらエディからご褒美の約束だ。

 シリウス側のロボは稼働状態にある機材が残り15ないし18程度と予想されている。その中で12機が街へ侵入してきているのだから、コレを撃退するのが今日の目標だった。


 ――――もし12機全部撃破出来たら特別手当てを出すぞ?


 なかば冗談で言ったエディだったが、ジョニーとヴァルターは間違い無くそれをやり切りそうな気配だ。誘い出し攻撃。待ち伏せして攻撃。そして、次のネタはトラップだ。対戦車ロケットをビルの柱に縛っておいて、発射スイッチにロープを掛けておく。

 ロボが通過して足でも引っかければロケットが作動。至近距離で対戦車ロケットの往復ビンタを浴びる事になる。機体が機体なだけに脚部へと掛かるストレスは半端ではない。

 そもそもこの機体を設計した者は至近距離からの白兵戦を想定していなかったと見え、Sマインなど接近対処兵器の射出口すら装備されていなかった。つまり、懐へ飛び込んでしまうとロボはその総身がでか過ぎるだけに対処が全く出来ないのだった。


「ヒャッヒャッヒャ!」

「おもしれぇ! おもしれぇぞ!」


 ちょこまかと走りながらロボを撃破して歩くふたりは6機目のロボに狙いを定めた。今までと違い全身を青く塗られたそのロボには、他には無いアンテナがいくつか付いていた。そして、腕に装備されている筈のライフル砲が無い代わりに、バルカン砲が2門装備されている。


「指揮官機かな?」

「その可能性が高いな。むしろあいつは後回しのほうが良いんじゃね?」

「……捕虜に出来ねぇかな?」

「はぁ?」


 いきなり捕虜という言葉を吐いたジョニー。ヴァルターは怪訝な顔でジョニーを見た。だが、そのジョニーは真顔だった。


「後ろから行ってよ、膝に一撃入れて後ろへひっくり返して、コックピットこじ開け引きずり出すんだよ」

「で、どうすんだよ」

「あのロボ、かっぱらおうぜ!」


 ジョニーの提案にヴァルターがニヤリと笑った。


「そいつは楽しそうだな!」

「だろ? んで、周りのロボをを全部ぶっ飛ばして全部かっぱらう」

「こっちもロボ部隊作れるな!」


 変な笑いをしながらビルの陰を走っていくジョニー。ヴァルターもその後ろを走っていって、指揮官機と思しき青い機体のバックへと出た。それほど大きくない通りを縦列で侵攻してくるロボ軍団は、左右のビルに挟まれて振り返るのもままならない。

 ビルの地下から地下鉄乗り場へと進んで行き、地上へ向け階段を駆け上がるジョニー。その目の前にロボの左足があった。地下道へ身を隠しておき最後尾の青いロボが通り過ぎたのを見計らってから階段をゆっくりと登りきる。

 後方確認のカメラが付いている筈だと思い壁際をゆっくり進むふたりは、持っていた対戦車ロケットの発火電源を入れた。


「いくぜ!」

「おう!」


 最後の10段程度を駆け上がろうとしたとき、ありえない方向からありえない音が聞こえた。スッと足を止め崩れたビルのガラスに映るロボを確認するふたり。最後尾だと思っていた青いロボの後ろに、もう一機のロボが姿を現した。思わず息を呑んで動きを止めやり過ごす事を選択したのだが、ロボに熱赤外線サーチが付いていれば体温でばれる事になる。

 祈るような気持ちでロボをやり過ごしたジョニーとヴァルターのふたりは、じっとロボを睨みつけ壁と一体化するように息を殺していた。もはや神に祈る状況だった。ロボの歩行に足元が揺れ、積み重なっていた瓦礫がカラカラと音を立てて崩れていく。


 ――――いけ! いけ! あっちいけ!


 そう願ったジョニー。ふと横を見たら、ヴァルターも青褪めていた。その僅かな動きが命取りになったのだろうか。目の前でロボの足が……止まった。


「降りろ!」


 どっちか叫んだのかは分からない。だが、ふたりは瓦礫を踏みつけ地下へと続く階段を飛び降りるように駆け下り走った。理屈ではなく本能的に通りを挟んだ反対の通路を駆け上がって行き、階段出口の半分崩れて出口を塞いでいる天井の隙間からロボを見た。

 地下鉄の入り口辺りへ何かのパイプを突っ込んだロボ。次の瞬間、地下鉄の入り口階段付近から猛烈な火炎が上がった。火炎放射器を使って地下鉄入り口を焼き払ったのだった。


[じょうだんじゃねーぜ!]


 声を殺したヴァルターが小声で話掛けた。狭いところを攻略する為に、シリウスは火炎放射器まで持ち出したのだった。通りを挟んだ反対側の出口にまで熱気がやって来て、ジョニーはヴァルターと一緒に瓦礫の隙間へと身体をねじ込んだ。

 ロボの持っていた強力な火炎放射器を5秒少々の間受けていた地下鉄入り口付近は、突然轟音を立てて崩れ落ちた。その様子を見て満足したように辺りを伺うロボの姿をジョニーは見た。


 瓦礫の隙間から見えるロボはこっちに気が付いていない!


 そう確信したジョニーは対戦車ロケットを持って、いきなり通りの真ん中へと走り出ていった。そして、ロボのすぐ真下付近から股関節部分を狙って至近距離からぶっ放した。

 股関節部分をカバーしていたスカート状装甲の内側あたり。複雑な形状をした力を直接受ける部分へと着弾したロケット弾は一撃で股関節構造を破壊したらしい。そのまま前へと倒れ、起き上がる行動を取らなかった。


「え?」


 驚くジョニー。ヴァルターも目を見開いた。文字通りの亀の子になったロボは両手をバタバタさせるだけで、起き上がる動きを一切しなかった。


「おぃ! これって!」

「あっちで試そう!」


 再び階段を駆け下り、めちゃくちゃ高温になっているエリアを駆け抜けて地下街へと出たふたりは、息を切らしながら走っていってロボの隊列のど真ん中に当たるエリアへとやって来た。

 静かに階段を駆け上がって行ったら、後方を振り返っているロボの足元だった。これ幸いとヴァルターがいきなり走り出し、別のロボの射界に入っているのを承知で対戦車ロケットを構えぶっ放す。

 やはり股関節に直撃を受けたロボは姿勢を崩し、後方へとひっくり返った。ヴァルターを狙っていた別のロボにもたれかかるようにしてだ。


「あそこが弱点だ!」


 姿勢を崩したロボに圧しかかられ、蹈鞴を踏んで動きを止めたロボが見えたジョニーは、雑居ビルの階段を駆け上がっていってロボのコックピットが見える位置で対戦車ロケットを構えた。

 コックピット位置が丸見えだと構え手持ちの弾頭2発を次々にお見舞いしたジョニー。ロボ2機のコックピットから火炎が勢いよく吹き出たので、素早く階段を駆け下りていった。そのすぐ後ろを周辺のロボが凄い勢いでバルカン掃射し始め、猛烈な破片が飛び散る中をジョニーは必死で逃げる。

 ただ、階段を駆け下り切って外へ出ようとした時、ふとそこに落ちていた陰の形から砲で狙われている時が付いた。そして、手近にあった金属のドアを蹴り開け、その中に飛び込んでドアを閉め、部屋の奥深くへと逃げた。

 次の瞬間、ドアの向こうに猛烈な爆風が吹き荒れ、階段出口を砲で吹き飛ばされたのだと悟った。だが、ジョニーの始末に夢中になっていたロボたちは全く背後に油断をしていたらしい。


「よっしゃ! チャンス到来!」

「やっちまえ!」


 ドッド以下501中隊の下士官たちも対戦車ロケットを抱えロボの背後へと肉薄し、偶然発見された弱点へ強烈な一撃を加える事に成功した。次々と戦闘不能に陥るシリウスのロボ軍団は、混乱に陥っているが、例の青い機体だけは順調に後退しているのがジョニーにも見えた。


「おぃヴァルター!」

「わかってんよ!」

「やっちまおうぜ!」


 すでに予備の弾頭が一発ずつしかない中、ふたりは使い捨てな発射筒へ弾頭をセットし、再び瓦礫の中を走り出した。次々と擱座していくロボのコックピットを501中隊の面々が打ち抜いてパイロットを焼き払っている。

 残り15機程度だった筈のロボだが、気がつけばサザンクロス街中の通りで13機が煙をあげ戦闘不能に陥っている。そして、指揮官機と思しき青い機体のロボはまだ動ける最後の1機を盾にするように逃走を始めた。走って逃げるには足場が悪いようで、それほど速度は出ていない。


「逃がすかよ!」


 そう叫んだヴァルターはジョニーと一緒に通りを走っていた。装甲戦闘車両などは何も残っていないので人間が頑張るしかない。風を切って走っていくのだが、一歩一歩の歩幅はロボのほうが圧倒的に広いのだ。


「チキショウ!」


 ジョニーもそんな事を叫びながら懸命に走っていく。だが、人間がどれ程努力したとしても、機械力には敵わない。

 肩で息をしながら立ち止まったジョニーとヴァルターは距離があるものの破れかぶれに対戦車ロケットを構えた。弾着距離が500メートルを軽く越えている。命中させられるかどうかも怪しい距離だ。

 だが……


「弾を残すより使い切って死にてぇよな」

「だな」


 ヴァルターとジョニーは構う事無く引き金を引いた。軽い衝撃を残してロケット弾はサザンクロスの街中を通り過ぎていった。大きな弧を描くように空中を通り過ぎたロケット弾は、緩い角度で青いロボの左の膝裏辺りへと命中した。

 基本、HEAT弾というモノは弾着距離に左右されない威力を持つ。激突した瞬間にメタルジェットを吹き出したその弾頭は、ロボの左ひざを完全に破壊した。


「おっしゃ!」

「やったぜ! ざまぁ!」


 姿勢制御を失い前へと倒れたロボ。あれではコックピットのハッチが開きそうに無い。自動小銃を抱えロボへと接近していくヴァルターはジョニーを呼び寄せ指をさした。


「あのパイロット。何処から脱出すると思う?」

「……あそっか、出口がねぇ」

「そうだぜ。つまり」

「あのままいきゃ蒸し焼きだ」


 ヴァルターはライフルを構え慎重に接近していく。やや遅れてジョニーが続いた。ロボの内部からガキンバキンと賑やかな音が漏れている。間違い無く脱出路を作っているのだとヴァルターは思った。

 だが、警戒を崩す事無く接近していくと、やがて腰の辺りにある整備ハッチと思しきフェンスを突き破り、繋ぎを着た男が姿を表した。戦車兵の様にヘッドギアを付けた対衝撃防御を持つその衣装に、ジョニーは内部の厳しい環境を悟った。そして、シリウス側もいっぱいいっぱいの所で戦っているのだと理解する。


「死にたくなけりゃ手を挙げろ」


 銃を構えたヴァルターは迷うことなくそう言った。精一杯の渋い声音だったのだろうが、僅かに震えるその声にジョニーはヴァルターの緊張を見た。


「やれやれ。連邦軍はこんな子供まで兵士にしてるのか」


 ロボの上から降りてきたシリウスのパイロットは四十を越えた男にも見える姿だった。ヴァルターの構える銃を気にすることなく腰のポーチを開けると、小さな水筒を出して美味そうに水を飲んでいた。


「小僧。歳は幾つだ?」


 水筒の水をもう一度飲み、そしてヴァルターをジッと見ているそのパイロットは、老練な兵士な兵士の様にゆったりと動いていた。


「だから手を挙げろって言ってんだろオッサン」

「最近の小僧は礼儀を知らんな。実に嘆かわしい」

「グズグズ抜かしてんと撃つぜ?」

「撃つ気があるなら早く撃て。その方がお互い手間がない」


 鷹揚と構えたその男は飲み尽くしたらしい水筒を捨てると、ヴァルターに向かって『さあ撃て』とでも言うように両手を広げた。

 その一切悪びれず堂々とした姿にヴァルターは気圧され言葉を失った。だが、その全ては油断を誘う演技であったと悟るまで、それほどの時間を要さなかった。

 そのパイロットの男は予備動作無しにいきなり拳銃を抜いてヴァルターの胸を撃った。打撃を受けて後方にひっくり返ったヴァルターは、ニューホライズンに降り注ぐシリウスの青い光を見た。 


「小僧。死ぬ前に良いことを一つ教えてやろう。いいか? 死体は反撃してこない。死体は安全なんだ。だから、次にこんな時を経験したら、その時は迷わす撃つと良い。まぁ、来世だろうがな」


 拳銃をホルスターに収めたパイロットの男はゆっくりとヴァルターに近づいた。反撃してこないか慎重に見極めながら。だが、結果としてその慎重さがパイロットの男の命運を決めた。


「そうだな、迷わず撃つべきだった」


 ヴァルターとは違う声に驚いて顔を上げた男が見たモノは、ライフルを構え狙いを定めたジョニーだった。瓦礫の後ろに隠れ様子を伺っていたジョニーの存在に気が付かなかったのが敗因だ。

 セーフティーを外しトリガーに指を掛け、恐ろしいまでの表情で睨み付けるジョニー。その姿にパイロットの男は表情をひきつらせた。


「……もう一人居たとはな」

「ヴァルターから離れろ」

「誰だ?」

「良いから下がれ」

「誰だか教えてくれても良いだ──


 その場を切り抜けようとしている。そう思ったジョニーは、パイロットの男の足元に鉛弾をバラまいた。幾つも小さな土煙が上がり、男は驚いて両脚をバタバタとさせていた。


「下がれ」


 ジョニーの目に浮かぶ純粋な殺意。パイロットの男は自分の死期を悟った。


「小僧。俺はシリウスの男だ。出来れば戦って死にたい。男なら解るだろ?」

「あぁよくわかるさ。だが、今は関係無い。素直に捕虜になるか死ぬかだ」

「なら話しは早い。さぁ殺せ」

「はぁ?」

「どうせ俺は死ぬのさ。進行性シリウス病だ。このまま全身が石になっていく。定常的に圧迫を受ける場所から細胞が石になっていくのさ」


 ニヤリと笑ったパイロットの男は右手のグローブを取った。その右手はまるで石灰化したかのように白くなっていて、既に小指が失われていた。


「俺は来年にはもう歩く事も出来なくなるはずだ。だから尚更戦って死にたい。良いだろ?小僧。死に行くオッサンの戯れ言につき合えよ」


 ジョニーの向ける銃口を気に止める事無く、パイロットの男は着ていた耐衝撃性ベストを脱ぎ、頭に被っていた衝撃防御のヘッドギアをはずし、いつの間にかTシャツ一枚になった。

 そして、腰に下げていたホルスターから拳銃を抜くとジョニーの見ている前でマガジンを抜き取り、離れた場所へ投げ捨てた。これで拳銃の中には銃弾が一発だけと言う事になる。


「小僧。その腰に下げた拳銃は飾りか?」


 パイロットの男はジョニーの腰を指差した。そこには父の形見なコルトシングルアクションアーミーが有った。ジョニーが新兵訓練中にエディの手によって補修を受けたコルトは、まるで新品のようなコンディションになっていた。


「親父の形見だ。おまえ達が勝手に地球と戦争始めなけりゃ親父は死ななかった」

「小僧。おまえはシリウス人か?」

「そうだ。親父は街のシェリフだった。お前ら見たいのが勝手に戦争を始めたら街中が酷い事になって、オヤジはそんな破落戸(ごろつき)を排除するのが仕事だった」


 ジョニーは片手で銃を構えたまま拳銃のホルスターに付いていたロックを外し

た。これでいつでも銃を抜ける。だが、ライフルを置こうとした時に撃たれるのは歓迎しかねる。どうしたモンかと思った時、いきなりヴァルターが身体を起こして立ち上がった。


「イテテ」

「生きてたのか!」

「あぁ、至近距離だったからすげーいてぇ」

「アーマーベストに助けられたな」

「あぁ」


 ヴァルターが手にしていたライフルを構えた。

 2対1になったパイロットの男は、より一層の笑みを浮かべた。


「そうか、これが俺の死か。悪くない」


 ニヤリと笑ったその男を見たジョニーは、不意にライフルを地面に降ろした。そして数歩下がって両手を肩より上に上げ、腰を丸見えにさせた。


「オヤジがこれをよくやっていた」


 身体を若干斜に構え、そしてジッと男を睨んだジョニー。

 抜き撃ち勝負の体制になり、身体をやや前傾姿勢にしている。


「そうか。良いな。こういうのも」


 パイロットの男もニヤリと笑って両手を挙げた。ジョニーと対峙し抜き撃ち勝負の体制になって、そして、静かに息を吐いた。緊迫の空気が流れ、ヴァルターは瞬きすら忘れた。だが、そこに現実を忘れていない男がやって来た。


「ジョニー! お遊びは後にしろ! 先に仕事だ!」


 いきなり響いたエディの声。ジョニーは一瞬我を忘れてエディの方を見てしまった。その油断をパイロットの男が見逃すはずは無かった。しかし、銃を抜きに行くその一瞬の間に、その男の頭がザクロのようにはじけ飛んだのだった。


「遊びの時は何をしても良いが、仕事の時は仕事に集中しろ。いいな? 二度は言わないぞ」

「……はい」


 少しだけ落ち込んだジョニー。

 パイロットの死を確かめたエディは集まってきた501中隊の面々にパイロットの埋葬を命じた。そしてヴァルターの傷を確かめ、問題ない事を確認してから二人の頭をひっぱたいた。


「戦争中なんだ。調子に乗らずしっかりやれ。次は死ぬかも知れないぞ」


 キツイ調子で叱っているエディだが顔は笑っている。

 二人の若者の無鉄砲な若武者ぶりに目を細めるエディ。

 サザンクロスの壮絶な市街戦は、まだ始まったばかりだった。

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