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黒い炎  作者: 陸奥守
第二章 後退の始まり
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最終防衛陣地

 ───サザンクロス中心より北東50キロ

     テソー川南岸 連邦軍抵抗拠点

     シリウス標準時間 5月10日 夕方





 はるばると地球からやって来てリョーガー大陸に展開していた連邦軍だが、その版図は大陸最大の都市であるサザンクロスを中心に縮小の一都を辿っていた。必死の抵抗を続けているものの、その勢力圏は遂に最後の戦略的障害であるテソー川まで縮小していたのだ。

 それほど大きな川では無いが、かといってシリウス軍のロボが一跨ぎに出来る様な小川でも無い。そんなテソー川に掛かる橋は最後の一本を除き、全てを連邦軍の工兵隊が落橋させていて、テソー川の川岸へとたどり着いたシリウス軍のロボットが最後の一本の橋に集中したところに対し、遠距離砲撃戦を挑むと言う破れかぶれの作戦をたてていた。

 まだまだサザンクロス市民の脱出が続いていて、その車列は途切れる事がなく、市街に残っているバスなどを総動員し、大車輪での市民移送が続いている。彼ら脱出市民はサザンクロスの南西側になるザリシャグラードへと疎開を推奨されていて、なかば着のみ着のままの悲壮な脱出劇となっていた。


 サザンクロス北東部。臨時前線本部の中ではロイエンタール伯を中心に戦術検討が続いていて、シリウス派遣軍に届いた地球からの指示を元に絶望的な気分を抱えつつも戦闘の継続を確認していた。


「諸君。我々は最低でもあと一週間、市民の為に抵抗せねばならない。この先、サザンクロス中心まで期待出来るような戦略的地形障害はない。つまり、我々はここを一日でも長く死守し、敵の侵攻を遅滞せしめねばらん。つまり、我々の脱出は不可能と言う事だ。どうだね。実にやりがいを感じるだろ?」


 何とも皮肉混じりの言葉で一方的に話を終わらせたロイエンタール伯は、すぐ傍らの席に座っていた戦務幕僚に話を振った。その戦務幕僚は襟に大佐を示す襟章を付けていて、いくつかの書類を捲りながら説明を始めた。


「作戦としてはシンプルだ。敵の例のロボは耐久性的に見れば正直恐ろしい。戦車の主砲である125ミリ砲をモノともしない化け物じみた装甲だ。だが、砲兵大隊諸君らの献身的な組織抵抗により203ミリ砲の砲撃では3500メートルの距離で破壊を確認している。つまり、敵側を一点に集め、距離1000メートルで大口径野砲による砲撃を加える。ピーピングトム(大気圏外戦略偵察)情報に寄れば、シリウス側にまともな装甲戦闘車輌は残されていない。つまり、例のロボさえなんとかしてしまえば、後は白兵戦だ。つまり、古式ゆかしい戦争で片が付くと言う事だ」


 説明を終えた戦務幕僚はいくつかの資料を出席していた士官へと配布した。その資料に目を通すエディ少佐を初めとする501中隊の士官達。書かれている内容は正直、希望的観測に過ぎるような代物だった。


「……なぁエディ」


 書類をサックリと読んだアレックスが渋い表情だった。


「そう言うな。現状ではコレが精一杯だろう」

「だが、脱出どころか、この橋一つ護るにしたって」

「シリウスが大人しく全滅してくれる事を期待しよう」

「俺たちも全滅しそうだけどな」


 そんなに都合良く事が運ぶかよ……

 そう毒づきたいほどに綺麗事と願望的展開で満たされた作戦計画だった。だが、これ以上戦力の無い中で、出来る事を一つ一つやっておくなら、もはやコレしか無かった。そう言わんばかりの計画だった。


「これからしばらくは楽しい事になるな」


 どこか皮肉じみた言葉をエディも吐きながら、じっと計画書を読んでいた。

 マイクやアレックスの渋い表情を承知の上で……



 同じ頃。

 サザンクロスの中心部へと向かう街道沿いで交通整理に当たりつつ、防衛陣地の構築を行っていたジョニーはいきなり黄色い声で名前を呼ばれ驚いていた。


「あんたこんなとこで何やってんのよ!」


 驚いて声の主を探したジョニーだが、その声の主は信号で止まったバスの中からだった。見上げるほどの高さにあるその窓から顔を出しているのは、赤い髪を三つ編みにして後ろで束ねた女性だった。


「……あっ! 姉貴??? なんでこんな所に?」

「はぁ? 脱出しろって言われたから脱出中よ。それよりなにやってんのよ!」

「グレータウンで連邦軍に志願したんだよ。家を燃やされたんで」

「……え? ウチ? 燃えちゃったの?」

「あぁ。綺麗さっぱり燃えちまった」


 ジョニーの言葉を聞いて衝撃を受けたらしく言葉を飲み込んだのだが、ジョニーは構わず話を続けていた。


「だから、自警団に家を燃やされたんで、頭に来て連邦軍に志願した」

「リディアは?」

「連邦軍の施設で預かってもらってるはずだ。多分後方送致になるはずだから、ザリシャの街でリディアを見つけたら頼むよ!」


 バスの上と下で話をしている姉と弟。その会話を501中隊全員が聞いていたのだが、誰もその邪魔をしないで居るのがジョニーにはありがたかった。


「……気をつけなさいよ!」

「姉貴もな! これからどうすんだよ!」

「わからない とりあえずザリシャへ行くから、そしたら考える」

「わかった! ザリシャで会えると良いな」


 信号が青に変わりバスが走り始めた。それに手を振って見送ったジョニー。ややあって501中隊の面々が冷やかしに集まり始めた。


「おいおいジョニー!」

「シリウス美人って居るもんだな」

「しかも赤毛だぜ。もう、俺好みのドンぴしゃストライクだ」

「おぃジョニー! 姉貴紹介してくれよ」


 ゲラゲラと笑いつつバスを見送った面々は、ジョニーは浮かべていた寂しそうな顔を見た。たった一人に肉親と言うべき姉との僅かな再会は、ホームシックを発症するのに十分な威力だ。だが、それを誤魔化すなら話しをするしか無い。


「ジョニーの姉貴はなんて名前だ?」

「キャサリンです」

「そうか、キャシーか。良いね。響きが良い!」


 口さがない面々の軽口で少し心が軽くなったジョニー。混乱の続くサザンクロスでは沢山の出会いと別れが繰り返されていた。その中には、きっと今生最後の見送りが幾つもあったのだろう。だが、ジョニーは不思議と『また会える』という根拠の無い確信を持っていた。

 だが、不安や葛藤と言ったモノは突然やって来るのが常だ。そのまま夜まで作業をし続け、その後に野戦供食大隊による夕食を摂ったジョニーだが、市街地に残っていた公設のシャワーセンタ―で久しぶりに汗を流した後、人気の無くなった街角のカフェで空を見上げていた。


「どうしたジョニー」


 いきなり姿を現したエディに驚いて立ち上がったジョニーは、反射的に敬礼で出迎えた。その仕草を暖かな眼差しで見ていたエディは『良いから座れ』と手を振っていた。


「……昼間、サザンクロスに居た姉貴に会ったんです」

「そうか! 元気だったか?」

「ザリシャに脱出する所でした」

「無事に到着出来るといいな。まぁ、まだ心配ないだろうが」

「リディアの事を聞かれました」

「そう言えばまだ話をしてなかったな」


 エディは胸のポケットから手帳を取り出した。そこには事細かにビッシリとメモが書き込まれていて、備忘録として使っているエディの几帳面な性格を表していたのだった。


「彼女は今、ザリシャの補給敞で被服管理部門に在籍しているよ」

「被服管理?」

「そう。戦線から送られてきた戦闘服を修理したりクリーニングしたり。そう言う後方業務だな。危険が無いポジションで待遇も良い。心配要らない」

「……そうですか」


 どこかションボリとしているジョニー。

 エディはその内心をちゃんと見抜いている。


「会いたいか?」

「……えぇ」

「なら、先ず生き残る事だ。明日にはまた合戦だからな」

「あした?」


 ジョニーの素直な問いにエディは肩を竦め答えた。

 何とも困った様な笑みだが、どこか悲しみを湛えてもいる。


「あぁ。戦線偵察の報告ではチライ河に浮橋を架け、シリウス軍はロボットを運び込んでいるらしい。明日にはこっちの視界に入るだろう。今まででも十分酷い戦闘だったが、ここから先はもっと酷い事になるだろうからな」


 僅かに首肯したジョニー。エディも同じように首肯で応えた。落ち込んでいたジョニーの肩をポンと叩きエディは静かに笑った。


「眠れる時にはしっかり眠るんだ。いつでも何処でもしっかり寝られないと兵士は務まらないからな」

「はい!」

「そしsて、何かひとつ、口ずさむ歌を持っていると良い」

「歌ですか?」

「そうだ」


 不思議な言葉を残しエディは何処かへと歩き始めた。その姿が暗闇に消えていくのを目で追ってたジョニー。エディの声は暗闇の中からジョニーへ届いた。


「長旅には大きな荷物を持っちゃいけない。必要なのは心を支えてくれる歌だ。もうすっかり遠くなってしまった遠い日に、私の父親はそう教えてくれた」


 心を支えてくれる歌とはなんだろう?とジョニーは必死で考えた。だが、その問いの答えは中々思い浮かばない。しかし、ふとジョニーはエディの真意に気が付いて、そして暗闇に向かって『イエッサー!』と応えた。心を支えてくれるモノがあれば、人は立ち向かえる。リディアと歌った夜を思い出しながら、ジョニーは野戦テントの中で眠りについた。幼い日、姉キャサリンとリディアが遊んでいるシーンを夢に見ながら。





 ――――テソー側南岸 連邦軍陣地

      シリウス標準時間 5月11日 早朝



 橋を挟んだ反対側へ例のシリウスロボが姿を現した。距離にして1200メートル程だ。川を挟んで両岸から遠慮無く打ち合える距離と言える。だが、今回は街中での戦闘だった。つまり、ある程度は遠慮しなければならない。そうしなければまだどこかに残っている市民に影響が出る危険性があった。

 だが、戦争はそれを待ってくれないし、壊れたなら直せば良い。そう考えるのが軍人というモノだ。シリウス軍側は遠慮無く連邦軍陣地へ向かって砲撃を開始しはじめた。シリウスロボの持つ砲を使い、連邦軍陣地へ向けて攻撃を開始したのだった。


「今日もおっぱじまるぞ!」


 どこか壊れたような声でドッドが叫ぶ。皆が一斉に陣地へ着いた時、周辺にシリウスロボの放った砲弾が着弾し始めた。土嚢と塹壕を組み合わせた陣地の中で初期砲撃が収まるのをじっと待つ連邦軍の兵士達。15分ほど続いたシリウス側の砲撃が終わる頃、今度は連邦側の野砲がビル越しの見越し射撃を開始した。

 山なりの曲線を描き垂直に降ってくる砲弾の雨あられは今までとは違い大口径の高威力弾だ。貫通力もさることながら、重量と慣性による運動エネルギーを持って面で破壊する攻撃。直撃を受けたシリウスのロボは爆発こそしないモノの、脚部などの可動部にダメージを受け行動不能の事態に陥っていた。


「へぇ…… なかなか良いじゃ無いか!」


 戦況観測をしていたエディは満足げに呟いた。見晴らしの良い雑居ビルの屋上に作られた砲撃観測所では、砲兵の観測班が砲撃の細かな指示を飛ばしていて、その脇で護衛に付いた501中隊の面々は、破片の直撃を受けないところで見物状態だった。


「大口径野砲の直撃を受ければ、あのロボもさすがにやばいか」

「股関節とか膝関節へのダメージが洒落にならないんだろうな」


 そんな言葉で眺めていたヴァルターとジョニー。その周囲では下士官連中が平気で居眠りをしていた。この音と振動の最中でも眠れるというのだから、戦地慣れというのも大したもんだとジョニーが呆れていた。

 だが、眠れる時に眠っておくと言う基本的な部分を疎かにすると跡でガクッと足腰に来る。まだ若い二人は実感していないが、やがてそれを実感するだろうとドッドは眺めながら思っていた。


「残機28で擱座戦闘不能が18機か。ジリジリと数を削ってきた成果が出始めているな。良い事だ」


 双眼鏡を覗き込んでいたアレックスはメモを取りながら呟く。その隣ではマイクが腕を組み、厳しい表情で眺めていた。表情は冴えなかった。


「あのロボを失ったシリウス軍はどうやって戦うつもりだ?」


 不意に口を開いたドッドは厳しい表情で砲撃中の砲兵を見ていた。残り僅かだった野砲を全て集め集中運用している砲兵大隊は懸命な砲撃を続けている。ただ、擱座し行動不能になったロボが増えるにつれ、まだ動けるロボへの命中弾が少なくなっていくのは避けられない運命だ。

 そもそも、見越し射撃では命中精度に運というパラメーターが加わってしまう関係で、命中率を上げるには点ではなく面を狙い、集中砲火で一気に片付けねばならないのだ。それゆえ、各砲兵陣地は密接に連携を取りながら一斉砲撃を繰り返す事になる。

 だが、その砲煙が上がれば自陣の座標を敵に教える事になる。機動力の無い砲兵は反撃を受ければひとたまりも無い……


「あー……」


 連邦軍の砲兵陣地から真っ黒な煙が上がった。シリウス側のロボによる見越し射撃が命中したのだろう。あの煙は間違いなく弾薬に誘爆したものだと皆が思った。反撃を恐れず義務を果たした砲兵の冥福を皆が祈った。


「最初の無茶苦茶な機甲師団突撃でこっちの戦力を少しでも削っておき、動けない車輌を作って修理陣地を作る。そうすればこっちを釘付けに出来る。そこにロボを投入し、今度はむこう(シリウス)に有利な形でこっちを削る。連邦側はサザンクロスに順次後退すると踏んで、ゆっくりとロボを前進させ、生き残った装甲戦闘車両を削っていく。これが向こうのシナリオだろう」


 胸の前で十字を切って冥福を祈ったエディは、冷静にシリウス側の戦略を分析していた。レプリカントの兵士なら人的犠牲は無視出来ると言っても過言ではない。そしてそれを冷徹にやってのけたシリウス軍側の指導部と士官たち。その中で良心の呵責に耐え切れなかったものは、最初の戦闘で自決したのだろう。

 みなの耳目が集まる中、エディは続きを分析していた。


「サザンクロスの手前までに連邦側の装甲戦闘車両と野砲を全部潰しておきたい。それがシリウスの本音だろうな。サザンクロスの街を出来れば無傷で手に入れたいだろうし、あわよくば破壊するにしたって、被害は最小限に抑えたいだろう。そうなった場合、大規模破壊を行ってしまう機械力を削っておくのがセオリーだ。そして、サザンクロスの市街戦ではレプリカントの兵士を大量投入し、指揮官だけが人間という状況を作って、こっちを数で圧倒する作戦なんだろうな。手堅すぎて面白みの無いプランだが、手堅くガッチリ行くにはこれが一番良い」


 ここでもレプリカントは使い捨てにされるのかと皆が衝撃を受ける中、エディは殊更に呆れた顔でシリウス軍側を眺めていた。砲兵による集中砲火を浴びながら攻撃を続けるロボからは、恐怖も躊躇いも一切感じられないでいた。


 ――――死ぬのが怖くないんだ


 そう気が付いてゾッと寒気を感じた面々は、今になってとんでもない連中と戦争をしているのだと気が付く。次々と降り注ぐ砲弾の最中、シリウスのロボで稼動状態にあるものは残り15機程度になっていた。砲弾を受けつつダメージ的に問題ない機体は相変わらず左腕に装備された砲を撃っているのだが、しばらくしてシリウス側は一方的に発砲をやめ、擱座したロボを回収して後退を始めた。連邦軍側による反攻で、はじめてロボを撃退した瞬間だった。


「よっしゃぁ!」


 501中隊の面々も歓声を上げたのだが、エディを中心とする士官たちは渋い表情だ。ヴァルターと肩を抱き合って喜んでいたジョニーは、そんなエディの表情に気が付いた。ジッとその立ち姿を見ていたジョニーの眼差しにエディが気が付く。


「やっちまったな」

「なんでですか?」

「撃ち漏らした。生き残りと市街戦をやるハメになる」


 頭をボリボリと掻きながら愚痴をこぼしたエディ。そんな姿を初めて見たジョニーは急に不安に駆られた。あのロボと市街戦を行うと言い切ったジョニーだ。直接やり合っているだけに、あの頑丈さや撃たれ強さは悪夢以外の何者でもないと知っている。


「至近距離で対戦車ロケットですか?」

「あぁ、そうだ。そして、それで破壊しきれない場合は反撃を受ける」


 この時点でエディの言葉の意味を理解したジョニー。厳しい表情を浮かべるいちばんの理由は、こっちにも犠牲者が出ると言うことだと思っていた。だが、ジョニーはまだ白兵戦の本当の恐ろしさを知らなかった。そして、レプリカントの兵士の恐ろしさも想像でしかなかった。


「レプリカントの兵士って手強いんですか?」

「そうだな。少々撃たれても死に切らない事が多い」

「死に切らない?」

「そうだ。体内臓器に損傷を受けてもすぐには死なないんだ」


 唖然としたジョニー。すぐ隣に居たヴァルターも顔色を変えた。


「リンパ節と同じで血管に逆支弁が付いているから、一気に失血死する事もあまり無い。しかも、そもそもあいつ等は痛みに対して鈍感だ。手足を失った程度ではビクともしない丈夫さだ。殺しきったと思ってもまだ息が合って、その脇を通り過ぎた時に手榴弾で自決したりする。だから確実に頭を吹っ飛ばすしかない」


 身振り手振りを交えて説明を続けるエディ。ヴァルターの左手がジョニーの肩を掴んだ。そんな二人を下士官たちが眺めている。皆、一様に嫌な顔をしながらだ。


「過去やりあった経験から行くと、腰から下を失っている死体だと思ったレプリに撃ち返された事があるし、顔を半分失っている爆死体が改めて自爆したケースもある。もう死ぬと思ったレプリが地雷の上で死に、後から行った者がその死体をどけた瞬間に地雷が爆発するブーブートラップとなっているケースもあった」


 エディだけでなくアレックスが説明に加わった。経験を伝えていくのは生き残った者の義務でもあり、また、年長者の義務でもある。様々な戦場で生き残ってきたヴェテランの存在が中隊を救うなどと言う事は、実際には珍しい事ではないのだ。


「要するにな――


 話をまとめに掛かったエディの言葉だが、それを遮るように話を継いだマイクはニヤリと笑って新入り二人をジッと睨み付けた。ジョニーやヴァルターはいつも思うのだが、こんな時のマイクは本当に恐ろしい人物だ。


「こっから先で必要なのは注意深さだ。僅かな矛盾を見落とさないとか、地面に落ちる影に注意するとか。あと、もう一つ大事なのは、仲間が何気なく発した言葉をちゃんと聞いて起きたほうが良い。実はそこにとんでもないヒントがあったりするもんだ。莫迦は勝手に死ぬ。悧巧な奴は生き残る。ふてぶてしくしぶとい奴は必ず生き残る。俺の経験じゃ……」


 マイクの目がチラリとエディを見た。

 何かのアイコンタクトのようで、実はそうでもないようで。

 つかみ所の無い意思表示だったのだが、エディは何かを悟っていた。


「エディがボソッと言った言葉でピンチがチャンスに変わる事が多い。だから、死にたくなければエディの言葉に注意を払え。後は段々と勘が見に付くだろう。最後は場数だからな」


 士官たちの説明を聞いていたのだが、ジョニーもヴァルターもまだいまいちピンと来てないようだった。そして、この新兵二人はこれからシリウス軍の本当の怖さを味わう事になる。直接砲火を交えやりあう事になる不死身の軍団の本当の恐ろしさ。それを言葉で説明することなど、土台不可能なんだと気が付くのだった。

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