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黒い炎  作者: 陸奥守
第九章 それぞれの路
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ROAD-ONE:ソフィアの恋人02

~承前






 午後4時を回ったライジング基地。

 シェルを整備するハンガーは埃っぽい空気だ。


 ただ、スタッフの声は明るく、この戦役が一段落した事を実感させていた。

 誰だって命懸けのゲームなんかやりたくは無いし、死にたくは無い。

 そんな安心感が軽口をよび、笑い声が響いている。


 良い空気だ。誰もがそう思うそのハンガーに、その男は唐突に現れた。


「リディア少尉は居るかい?」


 余り剣呑ではない空気にヴェテラン整備兵は表情を変えた。

 また面倒を持ち込まれたんじゃないか?と露骨に嫌な顔をしながら。


「あなたは?」


 整備を行っていた若い整備兵が誰何する。

 そして、ネームシールにはクシャトリアの文字があった。階級章は中佐。


「チカリだ。チカリ・クシャトリア。リディア少尉に用があって来た」

「そうですか…… 少々お待ちを」


 若い整備兵はリディアのシェルへ向かって走って行った。

 ワルキューレは整備兵と一緒になって搭乗機をメンテナンスするのが伝統だ。


 そのハンガーでチカリに最初に気が付いたのはサミーだった。

 シェルの中で整備にあたっていたのだが、聞き覚えのある声に顔を出したのだ。


「久しぶりだね。サミール大尉」

「……ご無沙汰していますね」

「そう警戒しないでくれ。今はもうボーンの野郎の手駒じゃ無いんだ」


 チカリは苦笑いを浮かべて手を振った。

 ただ、その声はサミー機に近かったマリーとサンディをも気が付かせた。

 共に技術系出身と言う事で、シェル整備には熱を入れるのだが……


「どんなご用ですか?」


 リディアの一件を知っているだけに、二人は露骨に警戒している。

 次は自分では無いかと、潜在的に警戒していると言って良い。


「まぁ、仕方が無いよな…… それだけの事をしたんだ」


 苦笑するチカリだが、女たちは少々剣呑な雰囲気だ。

 そしてそれは、ある意味でソレは仕方が無い事でもある。


 呼び出され尋問を受けたリディアを、毎回毎真夜中に送り届けに来たチカリ。

 少々勘の悪い者でも、チカリが何者かは気が付くだろう。

 ましてや、リディアと同じボディソープの香りがする男だ。


 シリウス軍の高級官僚や高階級の者へ女を送り込む女衒紛いの存在。

 女なら生理的に嫌悪する存在と言って良い男だ。


「マリオン中尉。サンドラ中尉。これは私の本音だ。偽りない本音だ」


 一言だけ言葉を切ってから、チカリは胸を張った。

 真っ直ぐな眼差しになってから、その胸に手を当ててチカリは言った。


「指示された任務とは言え、申し訳無いことをした。今日はそのアフターケアだ」


 チカリは中佐であるにもかかわらず3人の女たちに頭を下げた。

 クシャトリアという高階級(ハイカースト)にあって紳士の礼を尽くした。


「それをすれば…… 会えるとお思いでも?」


 サンディの言葉には冷たい棘があった。

 今更なんだと、今にも飛び掛かりそうな程に。


「私も余り荒事にしたくない。政治将校の手を煩わせるのも好もしくないだろ?」


 相も変わらずシリウス人民軍の内部では、政治将校の威力が残っている。

 政治将校は階級に関係なく反抗的な者を逮捕し、立件できるのだ。

 そして、場合によってはその場で最終処分する権限を持っていた。

 命令違反や軍規違反に対して、かなり強い権限を持っているのだった。


「……それはまぁ、そうですが」


 バーニーと共にヴェテランになりつつあるサミーは小さく呟いた。

 いかなる軍とて上位下達を旨とするものだが、シリウス軍はそれがかなり強い。


 ただ、チカリが政治将校を持ち出した事で、これが公式な命令なんだとサミー達は気が付いた。

 軍の中で比較的人気があり、また、ヘカトンケイルの親衛隊でもあるワルキューレに対し、チカリは何か宜しくないアクションを起こそうとしている。それ故に殊更慎重になっているのだろう……と。


「あまり敵をこさえるのも得策では無いと思われますが?」


 マリーは冷たい声で反撃に転じた。

 少なくともワルキューレは人気があるし人望もある。

 それを知っているからこそ、マリーは逆に圧力を掛けた。

 少なくとも、チカリは政治将校ではないのだから。


「痛い所を突いてくるね」

「すいませんね」

「でもまぁ、それはまさしくその通りだよ。君らは我が軍のヒーローだ」


 外連味無くストレートに賞賛の言葉を述べたチカリ。

 その本音がどこにあるのかは、皆もかなり警戒していた。


「で、実はその件で自分も困ってるんだ。だから、下手な芝居を打たずに直接ここへとやって来たって訳だ」


 チカリは苦笑いを浮かべて腕を組み、仕切り直しを狙った。

 精神を見つめる医療のプロは、相手の心を動かす術にも長けていた。


「……と、いいますと?」

「参謀本部から通達が来た。キチンと後の面倒を見ろとね」

「後の面倒とは?」


 サミーは冷たい声で言った。

 お前の欲望など御見通しだと言わんばかりに。


 だが、そんなサミーたちの思惑を軽く飛び越える事態は静かに進行していた。


「参謀本部からの通達でね。ソフィアに…… じゃないね。リディア少尉に対しストレステストを行なえと命令が来た。機密保持違反の確認をせよとね。さすがにこれを無視するのはまずかろうと思うが、君らはどう思う?」


 ストレステスト。それは読んで字の通りの行為だ。

 その精神に圧力を掛けて行なう尋問の事だ。


 ただ、拒否できない圧力を受け、リディアは再び毒牙に掛かるかも知れない。

 或いは、再びソフィアが優勢になり、リディアが影を潜めるかも知れない。

 誰一人としてそれを望まないが、それでも参謀本部の命令は絶対だ。


 チカリはそれをやる為に送り込まれた。前回の、リディアがおかしくなったテストを実施した張本人がここへやって来たのだ。つまり、参謀本部はリディアが再びおかしくなる事を望んでいる可能性が高い。


「やり方が汚いと…… 中佐は思いませんか?」


 サミーは遠慮無くそんな言葉を吐いた。

 シェルを整備するハンガーの床に唾を吐きだして、不快感を織り交ぜた。

 その躊躇も容赦も無い振る舞いに、チカリはこの場での危険性を読み取った。


 ワルキューレはヘカトンケイルの直属親衛隊だ。

 場合によっては直接粛正という可能性も無い訳では無い。

 政治将校とどちらが強いかの境目は曖昧で微妙だ。


「……汚いかどうかは私が判断する事じゃ無いが――」


 パッと掌を返し、チカリは切り返しに掛かった。

 押し込まれすぎるのは得策では無いからだ。


「――個人的にも彼女に会いたいんだ」


 チカリは全く臆すること無くそう言いきった。

 お前がそれを言うか?と嫌な顔をされるのも折り込み済みと言わんばかりに。


 そんな態度にさすがのサミーもそろそろ堪忍袋の緒が限界だ。

 早く帰れと言わんばかりの態度になっているサミーは、足下の砂利を蹴った。


「あなたは私から見れば上官に当たる人物だ。それ故、こんな事を言いたくは無いが、ひとりの女として今後の為に聞いておきたいことがある」


 サミーは上目遣いでチカリを見た。

 その上目遣いは男に阿る女のソレでは無い。

 敵を見据え打ち据える、強烈な闘争心の籠もった眼差しだ。


「アンタは――」


 口調が変わった……

 そこに居た誰もがそう思った。


 だが、サミーは遠慮無く言葉を続けた。そして、チカリも黙ってそれを聞いた。

 なぜなら、その言葉を発しているサミーの右手は、腰に添えられていたからだ。

 サミーの腰にはシリウス軍が標準採用している拳銃があった。


 返答次第ではここで今殺す。その後の事は知らないし、どうでも良い。

 サミーは態度でそう示していた。そして、実際に銃のグリップを握っていた。


「――恋い焦がれる一人の女の思いを踏みにじり、口にするのも憚られる様な酷い方法で自分に都合の良い様に中身を作り替え、それだけで無く自分が尻尾を振るバカ男に差し出して尚、その女の事が気になると恥も外聞もなくここへ来てるようだが、自分が悪い事をしたという自覚はあるのか?」


 敵を打ち据える眼差しは誰だって恐ろしいものだ。

 ましてや今ここでは、全てが敵という状況になってしまっている。

 上官だとか、或いは階級的な上下というものを踏み越えている。


 全てが口を揃え『事故』と言い切ることだって出来るだろう。


 チカリの顔色が変わった。

 マリーはサンディと顔を見合わせ、『やる?』とアイコンタクトした。

 そこには打算的な思惑など無く、単純に復讐というスタンスだけがあった。


 大事な仲間を連れて行かれ、その場で正体が抜けてしまうほどの扱いを受けた。

 人間的に壊れていく課程をすべて見せられた彼女達の怒りは強く激しい。


 マリーもサンディも静かに銃を抜いた。

 それだけで無く、その場にいた整備兵達が自分の道具を持って集まり始めた。

 ひと一人解体するくらいは、訳無いと言わんばかりの陣容だった。


「……恨まれてるね」


 チカリもさすがにまずいと焦り始めたらしい。

 出直すにも出口は遠く、状況的には最悪だ。


「むしろ、恨まれてないとでも思っていたのか?」


 サミーの言葉がきつくなった。

 それと同時、拳銃のセーフティーがカチリと音を立てて外れた。


「……信じて貰えるかどうか微妙だが、私だって罪の意識はある。それ故に、アフターケアをキチンと行えと言う指示がヘカトンケイルから出たのだと思う。我が軍の中でしこりを残していれば、大事な時にしくじりかねないからね。貴重なパイロットを大切に――


 チカリの言葉が終わる前、その場に乾いた銃声が響いた。

 それと同時、チカリの足下に小さな土煙が上がった。

 無表情になったサミーは腕を伸ばし、銃弾を放っていた。


「なぜ他人事ひとごとなんだ? あんたは当事者だろ?」


 サミーの言葉には明確な殺意が混じった。

 混じりっ気無しの殺意を向けられ、チカリの表情がグッと厳しくなった。


「他人事もなにも――」


 チカリもまた怒りを含んだ眼差しでサミーを見た。

 全く負けてない姿だとマリーは思った。


「――あの時点でスラッシュボーンに口答えできるのか? ボーン親子の絶大な権限に立ち向かえとでも言うのか? 寝言ならベッドの上で言ってくれ。私にだって護るべき存在が居るんだ」


 迷う事無くそう言いきったチカリは、腕を組み怪訝な表情でサミーを見た。

 撃つなら撃てと言わんばかりだが、言っていることには一定の説得力が有る。


「ボーン親子が最低の性癖持ちなのは、あいつらに関わった人間なら誰だって知ってた。そんな環境において、君らから見れば仲間だが、私から見れば次の被験者の一人に過ぎないただの兵士のために、自分と自分の家族を危険に晒せと、君はそういうのかね?」


 少なくとも、リディアが攫われた時点で独立闘争委員会の首魁に楯突くのは愚かな行為その物であり、悔しい限りだが全く持って正論な言葉だ。

 絶大な権力を持つ存在から命令を受け、その上で行った行為について後から責任を問うのはフェアじゃ無い。

 それがどれ程人倫に悖る行為であっても、ただの後出しじゃんけんでしかない。


 ただ、どれ程それを理解してても、やはり感情としては割り切れない。

 許せないと思う部分はあるし、むしろ許したくは無いのだ。


「だから割り切れ……と?」

「割り切れないのは重々承知だ。ただ、私は受けた任務を遂行したに過ぎない。それがおかしいというなら、少なくとも参謀本部に噛み付いてくれ。私に突っかかってくるのは筋違いでお門違いだ。相手を選んで突っかかって欲しいものだね」


 チカリはグッと胸を張った。言っていることには間違いがない。

 相手を煽る様なその言葉にサミーはカッと沸騰するが、大人の分別と言う面倒な存在が顔を出す。怒りに任せて拳を振り上げて良いのは15歳までだ。


「ボーン親子の一件ではリディア少尉に多大な迷惑を掛けた。これについては率直に申し訳無いと思うし、命令とは言え人倫に悖る行為も承知していた事だ。これは言い逃れも言い訳もしない。ただ、今回は――」


 チカリの眼差しは真剣その物だった。


「――参謀本部から指令を受け、リディア少尉のアフターケアを行えと言われてここへ来たんだ。彼女の名誉とメンツを護る為に」


 アフターケアと言う言葉にサミーの表情が曇った。

 ただ、チカリはその先をも恐れることなく話し続けた。


「少なくとも、シリウス軍上層部は地球連邦軍の行った治療行為について信用している。実際確認もしている。彼らは最初、リディア少尉の中身がそっくり入れ替えられて、スパイとして送り込まれたことを疑っていたんだ」


 その言葉にサンディは眩暈を覚えた。

 これだけ馬車馬の様に働いているのに、ワルキューレですら疑われているのだ。

 力で押さえつけ従わせるやり方は、常に反発と反乱を警戒せねばならない。


 その実力と人気があるワルキューレを上層部は恐れているのだった。


「これはリディア少尉の名誉を護る為に言う言葉だが、少なくとも現状で見る限り、ボーンに呼び出された時と全く変わっていないと私は断言できる。それ以前を私は知っているからね」


 チカリは広げていた両手を降ろした。

 もはや撃つ気配がないと判断したのだろうが、それ以上にサミーを含めたワルキューレ全員が真剣に話しを聞いている状況だと判断した様だ。


「では、中佐が保証すれば良いのではないですか?」


 サンディは冷たい口調でそう言いきった。

 少なくとも、面倒のケツをこっちへ持ってくるなと、そう言うスタンスだ。


「それが許される組織と許されない組織がある。それは君も同意できるのでは?」


 チカリの言葉にサンディが表情を曇らせた。

 軍隊と言う組織においては、目に見える客観的な事実が必要と言う事だ。

 そしてこの場合は、何らかの科学的なデータを用意せねばならない。


 それが何を指すのかは判断が分かれる所だが……


「地球製の身体に入ったリディア少尉の扱いは、地球でもシリウスでも良く知られている。ボーン親子が行った行為についても、何者かがあの施設を襲ったことで明るみに出た。もはやあの親子を支持する層など居ない。」


 そうだろ?と、そう言わんばかりのチカリは話を振った。

 少なくともこの件に付いては全員が同意せざるを得ない。


 皆が僅かに首肯したのを見て、チカリは話を続けた。

 慎重に慎重に、同じテンションを維持して、場の空気を壊さないように。


「ただね、リディア少尉に疑いの目を向けている者は確実に居るんだ。修復の課程や身体を調整する最中に、シリウス軍の内部情報や機密情報を引き渡したのでは無いかとね。つまり、それらの情報と引き替えに行ったのでは無いか?と言う事だ」


 チカリは一気にそう言い切った。

 後はもうどうなっても良いと、そう割り切るしかなかった。


 大容量の量子コンピューターが登場してからと言うもの、磁気共鳴などで脳をスキャンし、そのデータから記憶を再合成してファイルする事も出来るようになっているのだ。

 新しい身体へ脳を移植する途中に、その記憶を全て抜き取っている可能性があるのだから、物事に慎重な人間ならば…… 言い換えれば、全てにネガティブな思考をする人間ならば、それを危惧するのだろう。


 そしてもちろん、チカリにしてみればそれは誠心誠意の言葉だ。

 事実の全てを詳らかにし、彼女の、リディアの名誉の為にやって来たのだと。


「ですから、どうやってそれを証明したら良いのですか? 中佐殿の言葉全てを鵜呑みにして信用しろと? それでリディにストレスチェックを受けさせろと? 人をバカにするのも大概にしろ!」


 サミーは殊更に冷たい口調で叫んだ。

 その言葉を吐くと同時、サミーは銃を構えていた。


「難しいのは十分承知している。それ故に判断するのは君らだ」

「……そう言う命令だから仲間を売れと? 実に紳士的なやり方ですね。中佐殿」

「あぁ、私だってそう思う。逆の立場なら私だって今頃は射殺しているよ」


 チカリは迷う素振りなくそう言いきった。

 そこには妙な男らしさが滲んでいた。


「……撃って良いのか?」

「余り撃たないで欲しいものだが、撃つなら仕方が無い。それだけの事を――」


 チカリは胸を張ってそう言った。もはや仕方が無い事だと、割り切った風だ。

 だが、そんな男らしさも時には徒になる。マリーやサンディも銃を構えた。


「なら遠慮する事は無いね」「そうだね」


 苦笑いを浮かべたチカリは、せめてもの……と言わんばかりに姿勢を整えた。

 胸を張って殺されるしかないのだと割り切ったようだ。


「……参ったな」


 もはや蜂の巣は避けられそうにない……

 人の心はそう単純なものじゃない。


 命令違反の咎を受けたとて、絶対に受け容れられない時はあるのだ。

 チカリは己の悪手を気が付いたのだが、すでにもう手遅れだった。

 そして、この命令自体がヘカトンケイルによる自分への粛正の可能性を思った。


 だが……


「……そうかい。解った。なら、リディアにそれを受けさせようじゃないか」


 最後に出てきたのはバーニーだった。

 話を聞いていたようだが、最後まで姿を現さないで居たらしい。


「バーニー少佐。協力に感謝する」

「ただし、私も立ち会おう」

「貴官の立ち会いは不要な『私はヘカトンケイル代理だ。誰の指示も受けない』


 厳しい表情を浮かべているバーニーは、腕を組んでチカリを睨み付けた。

 バーニー少佐の胸にあるマークは、ヘカトンケイル代理を示すもの。

 如何なる憲兵や政治将校よりも強い権限を持つ、シリウス軍のジョーカーだ。


 バーニーの指示をひっくり返すには、ヘカトンケイルの決済が必要となる。

 これに違反した場合は、少なくともシリウス軍の中での居場所がなくなるのだ。


「立ち会いの人選はこちらに一任してもらう。何人連れて行くかは当日指示する。テストの内容は、その実施前に全て書面で提出してもらおう。書面の内容と僅かでも違えた場合は、私がこの手で、その場でお前を粛正する。お前が連れてきたスタッフ全てもだ。そしてその後、お前の家族一族の全て。親も子も飼っているペットに至るまで、一切の矛盾なく粛正する。覚悟しておけ」


 バーニーの言った言葉にチカリの顔色がガラリと変わった。

 この女はそれを可能にするだけの権限を持っていると知っているのだから。


「了解した。では、今夜これから行う。リディア少尉にこの書面を渡してくれ」


 チカリもまた勝負に出た。

 自らの潔白を証明すると言う意味ではない。


 難しい指示を受け、命令を受領し、今度はその実行で思い悩む事になる。

 手をしくじれば自分が粛清され、上が望む結果でない時にも粛清される。

 それが自分自身へ課せられた禊なのだと、チカリは気がつい付いていた。

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