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黒い炎  作者: 陸奥守
第八章 遠き旅路の果てに
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未知の機体との遭遇

~承前






『恐ろしい光景だ……』


 封鎖されている筈の無線内にエディの言葉が漏れた。


 ――いいのか?


 首を捻ったテッドは、まだ言葉を飲み込んだままだ。

 そして、同じように中隊全員が事の成り行きを黙ってみている。


 そんな中、バーニー少佐の声が響いた。

 僅かに動揺しているようだが、それでも威厳のある声だった。


『あれは…… 地球連邦軍の将校だな』


 爆散した船体から吐き出される遺体の中に、連邦軍将校のそれがあった。

 ボロボロになっているが、衣類には特徴が良く残っている。


 距離がありすぎて階級などは識別出来ないが、飾緒付きならば参謀級だ。

 少なくともそこらのぺーぺー士官と言う事は無く、上級佐官以上は間違い無い。


『遺体を収容しろ』


 バーニー少佐がそう指示を出し、エディとアレックスが遺体の収容を始めた。

 至近距離で見たそれは、白人系少将や黄色人系の中将などだ。


『……高級将校だな』


 バーニー少佐の声に警戒の色が混じった。

 予想以上の者が潜んでいたと言うことなのだろう。

 どこか嬉しそうに遺体を収容しているエディを他所に、無線のなかは静かだ。


 ――ん?


 テッド機のパネルにSOS信号受信の文字が浮かんだ。

 発信元座標を捜査すると、それは目の前にあるシーアンの前半分だった。


 ――中に生き残りが居るのか……

 ――生き残りを作ると面倒な事になるな……


 一瞬であれこれと思案したテッドだが、エディはまだ動かない。

 ここは一つ気を使っておくかと、種火だけ残っていたエンジンを叩き起こした。

 シリウス製のエンジンは、地球製のそれとは次元の違う反応の良さだ。


 ――このエンジン持って帰りてぇな……


 地球製のエンジンは出力こそシリウス製を上回るものの、反応が鈍いのだ。

 まるで跳ね上がるように推力を発揮するシリウス製は、機敏で瞬発力に富む。


 それは、どちらが優れていると言う話ではない。

 使い方として、テッドの性格や戦い方にマッチしているのだ。


 戦闘を左右するのは火力や防御力ではなく、瞬発力を含めた機動性。

 テッドは自分自身の戦闘経験から、そんな事を漠然とイメージしていた。


『収容を完了』


 出来る限り柔らかい声を意識してテッドはそう報告した。

 7体程の遺体だが、そのどれもが凍りついた状態だ。

 その遺体をバーニーへと引き渡したテッド。


 バーニー少佐の『ご苦労』と言う固い声が響く。


 ただ、テッドは――この後はどうするんだ?――と思案していた。

 このまま本当にシリウス軍にでも転籍するのだろうか?


 仮にもビギンズの帰還なのだ。決して酷い扱いには為らないだろう。

 だが、ヘカトンケイルとその一派はともかく、闘争委員会に与する側には……


 ――歓迎されねぇよな


 言うまでも無く、その実態は容易に想像が付く。

 それこそ、最初の半年位は蝶よ花よとチヤホヤされるだろう。


 だが、連邦軍内部ですら金食い虫と陰口を叩かれるサイボーグだ。

 シリウスだって早晩手に余すのは目に見えている。


 そして、辿る結末は一つ。


 クーデターの容疑があると言われるか、サボタージュを疑われる。

 戦闘を終えて帰って来る度に、意図的に手抜きしたと指摘される。

 そして、疲労や消耗を無視した出撃を強要され、減耗して行く。


 敵への寝返りを行なう者には信用など無い。

 寝返った先の敵ですらも信用などしないだろう。


 ――エディ……


 ここから先はどうするんだ?と、漠然とした不安をテッドは抱いていた。

 どれ程にハードでも非人道的でも、連邦軍に属していた方がまだ安心だ。

 嫌なイメージが頭の中をグルグルと駆け回り、不安に精神を蝕まれる。


 ただ、そんな葛藤も程なくして忘れ去る事態となった。

 どちらかと言えば現実逃避ではなく、現実に追い掛け回される事態だ。


 ――――ワルキューレ各機へ!

 ――――高速移動体が急速接近中!

 ――――警戒を厳にせよ!


 突然なタイミングで無線が大声をガナリ立てた。

 ニューホライズン周回軌道上を航行するウォースパイトのCICだ。


 高速移動体といえばミサイルか戦闘機か、さもなくばシェル。

 この条件でやってくる敵機の種類など察しが付く。


 問題は敵の正体だ。

 シリウス軍か、連邦軍か、国連軍か。

 それが問題だ。


 仮にシーアンのSOSを聞いての来訪ならば、国連派国家の可能性が高い。

 少なくとも連邦軍サイドが国連派のSOSを聞いて駆けつけるとは思えない。

 故にシリウス軍のふりをして力一杯叩くだけだ。


 しかし、この来訪がシリウス軍の場合は面倒になる。

 シリウス軍の内紛に一枚噛む事になるが、後に連邦軍だとばれた場合が面倒だ。


 ──どうすんだ?


 黙って指示を待つしかないテッドだが、不安は募るばかりだ。

 祈るような気持ちで待つテッドのレーダーパネルに輝点が現れた。

 IFFの表示はレッドでもブルーでもない、アンノウンな白い点だ。


「……………………」


 押し黙って様子を伺う最中、コックピットに耳障りな被弾警報が鳴り響いた。

 レーダーパネルには高速移動体を示す明かりが目障りなほどに点滅している。

 それがミサイルだと気付いたときには、無意識に回避コースに入っていた。


「各機! 各個撃破に移れ! 勝手に死ぬな」


 ──遠慮なく言ってくれるぜ……


 思わず苦笑いを浮かべるも、モーターカノンの電源を入れ直しキックオフする。

 発火電源は問題がなく、パネルにはターゲットインジケーターが浮かんだ。


 ──やりにくいな……


 あくまでも生身向けと言う代物ゆえに面倒が多い。

 普段なら視界の中に全てが浮かぶものだ。


 ただ、考えてみればリディア達はこれで普段からこれで互角にやりあっている。

 つまり、使い方と要領と。そして、気合いと根性だ。


 ――上等だぜ!


 着弾警報のアラームが鳴り響くなか、テッドは意識を集中させた。

 液晶パネル越しの敵機は距離感を掴みにくい。


 だが、エディは遠慮なく突っ込んでいく。

 その姿に感嘆しつつも、テッドはエディの僚機ポジションについた。

 別段狙いがあるわけでは無く、ただ単純に一番手近だっただけだ。


 レーダーパネルに表示されるミサイルは、凡そ70発。

 迎撃する側の能力を超えた飽和攻撃なのだろうが、率直に言えば手ぬるい。

 テッド達501中隊の面々にしてみれば、小雨がぱらつくようなモノだ。


 ――舐めやがって!


 ふとそんな感情がわき起こったテッド。

 次の瞬間にはモーターカノンを使って一撃必中の迎撃態勢になってた。

 漆黒の宇宙に次々と火球が生まれ、その火球を突破してドラケンが前進する。


 レーダー上には発射源となる敵艦が映っていない。

 つまり、ステルスモードでどこかに隠れていると言う事だ。


 ――どこにいやがる……


 シリウス側のレーダーは解像度がいまいちだ。

 遠距離索敵の能力にイライラとしたテッドは、テッドコックピットを見回した。

 その目が左手側の内壁を捉えたとき、レーダーレンジのダイヤルを見つけた。


 ――これじゃね?


 カチカチとクリック音が響き、レーダーパネルの尺度が変わる。

 普段なら思考制御だが、シリウスのドラケンは全て手動操作だ。

 面倒だなと内心でこぼすが、コレばかりはどうしようもない。


 ――これだな……


 少々離れた場所に母艦と思しき船が映っている。

 エコーからすれば割と大きな船で、少なくとも民間船とは考えにくい。


 ――探るか……


 機を捻って突進体勢になったテッドは、エンジンを吹かして接近を試みた。

 ふと気がつけば、後方に続くシェルが何機かいる。

 後方確認のパネルを見れば、ざっと3機ほどだ。


『カウボーイ! 突出するな!』


 バーニー少佐の声が響き、テッドは思わず笑っていた。

 名前を呼べない故に、それっぽいコールサインを少佐が叫んだ。

 その絶妙なネーミングセンスは、テッドをニヤリと笑わせるのに十分だ。


 ──ん?


 ひとしきり笑ったテッドだが、その目はレーダーパネルに釘付けだ。

 小さなエコーが山ほど現れていて、それは見事な展開を見せ始めた。

 エコーのサイズからいって、間違いなくシェルだと思われる。


 ──連邦軍以外にもシェルを持ってるのか?


 ゾクリとした寒気をテッドは覚えた。

 ただ、国連派国家の首魁として君臨する国家が、話に聞く通りのものならば。

 他国がどうなろうと自国の利益を最大限に優先する国家ならば。


 ──シェル位はコピーしちまうよなぁ


 細かな部分の詰くらいは自力で出来る筈だ。

 大まかな構造さえ解ればそれで良い。


 ――どうする?


 指示を受けるべく大きく旋回しバーニー少佐機へと接近したテッド。

 501中隊の基本フォーメーションを取って指示を待ち構える事にした。

 言葉にならないイライラと焦燥感にテッドは焼かれていた。


 ――何してんだよ……

 ――戦っちまったほうが早いのに……


 イライラとしつつも落ち着き払った様子でバーニーを伺うテッド。

 バーニー少佐はシリウス軍内部での手続きを行なっていた。


『各機フォーメーション展開! 我らが大地の空を蹂躙する侵入者に鉄槌を!』


 なんとも儀式掛かった言い回しに、テッドは小さくプッと吹き出した。

 ただ、攻撃命令が出た以上は遠慮する事が無い。


 機体をロールさせつつ、大きなRを描いて蛇行動を行なったテッド。

 その間に仲間の機体が横に付き、大きな網状の編隊を作った。

 シリウス側のシェルが良くやる手だが、それを真似た包囲殲滅戦闘だ。


 ふと見た仲間のシェルが手を前に振った。

 機体ナンバーが最若番に近いのだから、マイクかアレックスだ。

 その手が指し示すのは、『掛かれ』のサインと見て間違いない。


 テッドは一気に戦闘速度へと加速し、パネルに表示される敵機を探した。

 遠くにシルエットが見え始め、スーパーインポーズで拡大表示されている。


 ――ん?


 思わずテッドは唸っていた。

 そこに表示されているのは見たことの無い形のシェルだ。


 ――なんだアレ


 それは、ドラケンやビゲンとは違う恐ろしく細身なメインフレームの機体だ。

 だが、そのシェルの機体には連邦軍所属機を示すマークが付いている。


 ――とりあえず探るしか無いな


 シリウスでも地球でも見たことの無い形態にあれこれ考えたテッド。

 ただ、未知の敵に対し接近戦を挑むほど、無謀では無かった。

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