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黒い炎  作者: 陸奥守
第八章 遠き旅路の果てに
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制圧行動

~承前





「さて、一方的に殺されるレプリの仇討ちと行こうか」


 そんなエディの呟きは、全員のやる気スイッチを入れたようだ。

 レプリカントは本来は消耗品でしかないが、エディは仇討ちと表現した。

 ぞろぞろとコンテナから出てきた面々の表情は硬く鋭い。


 アレコレと思う所もあるテッドだが、今は黙っておいた。

 かつて、父親が経営していた農場には10体ほどのレプリが働いていたのだ。


 ――よく働く男達だった……


 朝から晩まで、言葉に出来ぬ激務をこなし、黙々と食べ、そして眠る。

 その生き方に感化されたのか、幼いジョニーはレプリのような生き方に憧れた。

 父と同じく、寡黙で笑みを絶やさず、文句を言う前にただただ働く男達。


 ――たしかに…… 仇だな……


 各所を探した結果、中国が非公式にシリウスへ出した要望書を見つけたのだ。

 それは、人種的な特徴に始まり、身長や体重、利き手や個人の身体的特徴だ。


 ――これ、明らかに脳移植用だぜ


 ステンマルクはそう確信していた。

 今では地球上での生産が禁じられたレプリカント。

 だが、中国はシリウスから輸入していたのだ。


 シリウスへ向かう船は、大量の武器と弾薬を詰んでいた。

 そして、その折り返しは中国が求めるレプリカントの身体だった。


「しかし、なんでまたこんな事するんすかね?」


 ロニーの率直な疑問対し、オーリスが言った。

 それは地球暮らしをしたことがある者なら誰でも知ってることだった。


「あの汚染物質の掃き溜めみたいな国土じゃ、普通の生身の身体で生きていけるほど甘くねぇってこった。金や権力やコネがある奴は、こうやって新しい身体を買うんだろさ。そして、脳移植して生き延びて、より私腹を肥やすってな」


 共産主義国家は、全ての人民が平等であるとされる。

 だが、その実は資本主義陣営など比較にもならない階級社会だ。

 恵まれた特権階級の為に市民階級と言う名の奴隷が存在するのだ。


 資本主義社会どうしではなく、社会主義体制同士でも地域格差は必ず生まれる。

 そんな格差に対する抵抗力を維持する為に、奴隷労働が必ずセットで使われた。

 生産性や競争力の為に人民は使い潰され、すり減らされる運命だ。


 コミュニズムというシステムは、所詮まやかしに過ぎない。

 人民の敵や犯罪者という名前で誤魔化しているだけだった。


「結局、特権階級の甘い汁の為に、市民は使い潰されんのさ。それが共産主義だ」


 ステンマルクはそう吐き捨てた。

 最大の共産主義国家と対峙してきた弱小国家の出身者だ。

 それは、もう嫌と言うほど知っているし、教えられてきた。


 かつてチャーチルが言ったとおり、資本主義における幸運の分配は不平等だ。

 だが、社会主義や共産主義の社会は、不幸と苦痛を平等に分配するのだ。

 分配する支配側を除いた市民に対してのみの平等なのだが……


「無駄話をしているヒマは無いぞ。15分で制圧しろ」


 エディは一気に発破を掛けて全員を動かした。

 アレックスには艦尾側を。マイクには艦首側を指さした。

 全員が一斉に動き始め、エディはその背中を見送った。


「リーナー。手伝ってくれ」

「願っても無い事です」


 忠実な僕のようにリーナーは答え、たった二人で艦橋へと向かって行った。

 12名で制圧するには少々巨大だが、逆に言えばあり得ないと思っている。


「船内じゃ12.7ミリは大きすぎるな」

「全くッス」


 マイクと共に艦首へと向かったテッドとロニー。

 ふたりは9ミリパラのサブマシンガンを構えていた。

 巨大な12.7ミリ弾では隔壁を貫通してしまうのだ。


「これ位でちょうど良いってな」


 艦内はドーヴァーと同じく、何とも緩い雰囲気らしい。

 乗組員室で寛ぐ面々は、カードゲームなどで盛り上がっている位だ。


『情け無用だ』


 近接無線でそう言ったマイクは、兵員室の扉を蹴り破って突入した。

 そして、サイレンサー付きの銃を使い、一瞬にして全員をヘッドショットした。


 ――やれ


 手本を示したマイクは、全員に同じ戦闘を指示した。

 テッドは一瞬だけ腰が引けるも、考えても仕方が無い事なので実行した。

 手の中に嫌な感触が伝わる度、シリウス側の船乗りが頭から血を流して死んだ。


 だがそれは、考えても仕方が無い事だ。

 艦の制圧は任務であり、そしてその先の目標に繋がっている。

 連邦軍の中に居るテッドだが、夢見る未来はシリウス市民と同じな筈だ。


 ――夢は絶対に見失うな

 ――それに近づいたとき、目標になっているからな


 かつてテッドの父親は、夢をそう表現したことがある。

 遠い昔の偉大なスポーツ選手が言った言葉だそうだ。

 テッドはそのスポーツを知らないが、言いたい事はよく解る。


 赤字でも売れなくても、父は農場を管理し続けた。

 準備を万全に行っている者のところにのみ、成功は訪れるのだ。

 それが父の口癖だった。


 ――悪いが死んでくれ


 テッドだって解っている。

 このフリーダムに乗れる船乗りは、おそらくコネの塊だ。

 様々な賄賂やコネや人脈を駆使して、乗船機会を得たはずだ。


 理想的社会を目指したはずのシリウスだって、現実はそんなもんだ。

 ヘカトンケイルが目指した理想的かつ清浄の社会は、全て否定されていた。

 勝ち組になり損ねた連中が行った、時代錯誤の階級闘争によって。


『テッド!』

『オーケー! クリア!』


 マイクの声にテッドが応える。

 ドアを蹴り破って飛び込んだ部屋は、ある意味男のパラダイスだった。

 壁一面にストリップスターのポスターが貼られていた。


 そして、ビデオゲーム機とスナック菓子があふれていた。

 醜く肥え太った男達が居並ぶその部屋は、妙な臭いが充満していた。


 ――豚め……


 迷う事無く全てをヘッドショットし、サービスで心臓にも一発入れたテッド。

 脂肪の塊のようなデブは、寝転がって起き上がることも出来ずに死んだ。

 まるで豚のような悲鳴を上げて。


『ロニー!』

『オッケーッス!』

『オーリス!』

『クリア!』


 僅か4人で効率よく兵員室を掃討し、兵員デッキの制圧は完了した。

 次はひとつ上のデッキである士官室と娯楽室だ。


『行け!』


 狭い艦内階段を駆け上がり、テッドは最初に上のデッキへと上がった。

 兵員デッキとは違い、士官デッキは各部の仕上げが上等だ。


 ――へぇ……


 テッドはその違いに猛烈な不快感を覚えた。

 自分自身が士官待遇と言う事で、それについての疑念は持っていない。


 だが、全ての人民が平等という大義名分は何処へ行ったのだ?と。

 そして、独立闘争委員会の面々が繰り返し言っていた言葉を思い出した。


 ――――すべての特権階級を許すな!

 ――――すべての既得権益に鉄槌を!


 その理念はシリウス中に吹き荒れ、数々の暴力的な惨事を生み出した。

 だが、このザマは一体どういうことだ?と。言動不一致も甚だしいのだ。


『どうだ?』

『人の気配が無いです』


 テッドは足音を殺し通路を歩いた。

 廊下の左右に並ぶ個室は、士官向け設備だった。


 ふと、その扉の向こうで何かの気配を感じたテッド。

 一瞬だけ逡巡したのだが、遠慮無くドアを蹴り破った。


『あ……』


 その室内では、シリウス軍の士官が全裸で頑張っていた。

 恐らくはレプリだと思われる、裸の女を相手に……


 ――第2当直だものな……


 半ば自動的に身体が動いた。

 至近距離で9ミリを撃ち込めば、頭蓋はパッと弾けて無くなった。

 真っ赤な鮮血を被った女がポカンとした顔でテッドを見た。


 ――あれ?


 感情が麻痺した女はあえぎ越えひとつあげていない状態だった。

 それこそ、薬で正体が抜けてしまったような状態だ。


 ――まさか……な


 テッドはその女の頭も撃った。

 その直後、女の頭も弾けて飛んだ。

 真っ赤な鮮血を撒き散らして、弾け飛んだ。


『……艦内にレプリじゃ無い女を連れ込んでる』


 テッドは自分が見ていた視界を全員に転送した。

 言葉で説明するよりこの方が早いのだ。


『船に残すのも哀れだ。楽にしてやれ』


 マイクは冷徹な声でそう言った。

 最終的に船を乗っ取り、全て殺すのが目的だ。

 薬を使って人間の中身を壊された存在とは言え、回収する術は無い……


『本当にヒデェ連中ッス!』

『人間的な欲望について、恥ずかしいって発想がねぇんだろうな』


 怒りを孕んだロニーの声が響き、オーリスもそう応えた。

 シリウス軍の士官には立派な人間がいるのも事実だ。


 ただ、少なくともこの独立闘争委員会に近い連中はクズだ。

 揃いも揃ってクズ揃いだ。テッドはそう結論を得た。


 ――皆殺しだ……


 グッと奥歯を噛み、テッドは怒りを孕んだ目で死体を見た。

 ここに、姿の違うリディアやキャサリンが居た。


『テッド! ボケッとするな! 次だ!』

『イエッサー!』


 部屋を飛び出し、廊下左右の部屋を片っ端から蹴り破って侵入した。

 半分ほどは空室だが、残り半分は実入りで、しかもお楽しみ中だった。


 ――くたばれ!


 怒りも憎しみもマシマシ状態になったテッドに迷いは無い。

 部屋をいくつか潰してまわり、階段部分へと戻る。


『よし、艦中央へ行くぞ。ブリッジ(艦橋)へ突入だ!』


 全部で4層でしか無い小型艦だ。

 最下部デッキは運行機材と倉庫。その上はコンテナデッキ。

 兵員室と士官デッキの2つが重なれば、それで船の上下は一杯だ。


『後方はどうっすかね?』


 相変わらず緩いロニーだが、全身に返り血を浴びた姿だ。

 迷わずに実行したらしいその姿に、テッドは成長を感じた。

 そして、自分自身を省みる。


 ――俺も……


 確実な前進が必要だ。それは解っている。

 必要な目標を感じ取り、テッドはそれを意識し始めていた。

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