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黒い炎  作者: 陸奥守
第八章 遠き旅路の果てに
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積み荷の中身

今日二話目です

~承前






「そろそろ良いか?」


 エディの声にウッディが頷いた。

 ウッディはコンテナの中から艦内LANへ侵入してハッキングを行ってた。

 まともに勉強なんかしたことの無いテッドには、まるで魔法に見えたのだ。


 ――この端末は艦内ネットワークに繋がってますね


 コンテナ内部のモニター用ジャックに直結したウッディはそう言ったのだ。

 ウッディの秘された才能が発揮され、コンテナの内部で全てが把握出来た。

 ナイルを出航して既に15時間が経過していた。


「現在座標はコロニー軌道から凡そ3億キロです。現在の座標速力9万キロ」


 フリーダムは現在、コロニー軌道からシリウスを通り過ぎた辺りにいた。

 シリウスαとβへの強力な引力によりグングンと加速している状態だ。


 ニューホライズンは既にシリウスを挟んだ反対側にある。

 光学観測などでは見えない状態にあって、孤独な旅を続けていた。


 絶対的な空間座標で計ったとき、現在の速力は秒速9万キロ。

 光速のおよそ三分の一まで加速していた。


「周辺は?」

「前方200万キロ付近にカプセル満載の空母群が居ます。すぐ近くには……」


 ウッディは首を捻って考え込んでいる。

 周辺情報のサーチには手間が掛かるらしいのだが……


「セキュリティ強いな。もう塞がれた」


 小さく舌打ちしながらウッディはそう吐き捨てた。

 艦内LANマスターはAIだが、危険判定された端末は切り捨てられるらしい。


「だけどまぁ、こっちから行けば……」


 一人ブツブツと続けながらハッキングしているウッディ。

 ややあってニヤリと笑って言った。


「AIだと対処完了するまで時間があるから楽だ」


 楽しそうに笑ったウッディはコンテナの左右を指さした。

 右手の方をカクカクと振りながら言った。


「こっち側にドーヴァーがいます。で、左手には…… レナウンですね」

「そうか。ご苦労」


 事前の打ち合わせにあったブリテンの高速巡洋艦レナウンが近くにいた。

 フリーダムのエスコートに選ばれたレナウンとドーヴァーの二隻。

 これらの船は超光速飛行を行える船の中でも指折りの快速船だった。


「しかし、なんでまたこんな快速船を揃えたんでしょうね?」


 ウッディは不思議そうに首を捻っている。

 超光速飛行可能船舶は地球でもそれほど数があるわけでは無い。

 物理法則の限界を飛び越えられる魔法のようなデバイスは、それなりに貴重だ。


「なんかあった場合、救援を求めるにしたって足の速い方が有利だからな」


 アレックスの説明にウッディは首を傾げたまま『そうですけど……』と言った。

 なんとなく納得しない姿にエディは笑いながら言った。


「何かしら工作するにしたって足が速い方が有利だ。速度は一番の武器なんだよ」


 おそらく人類開闢の頃から、それは変わらない一大原則だ。

 全ての戦いにおいて、僅かでも速い方が、僅かでも高い方が勝つ。


 速さと高さはそれ自体が武器。


 どんな策を弄しても、それだけは変わらない原則だ。

 そして、それを乗り越える為には、より一層な努力が必要だった。


「あ…… ナイルのエリア管制が安全航海を祈ると」


 報告のような独り言を呟いたウッディ。

 エディは確認する様に言った。


「シリウス管制エリアを離れたな」

「その様です」


 エディの手が振られアレックスはコンテナの解錠スイッチを遠隔操作した。

 本来では外側しか開けられないはずの扉が僅かに開いた。

 搭載位置を指定されたコンテナは、扉から一番近い所に艦内入り口があった。


「艦内警報装置に反応なし。コンテナデッキはセンサーが無いようです」


 ウッディの言葉にアレックスが笑い出した。

 その余りにも不用心な構造に呆れているのだ。


「まさか、これで乗り込まれるとは思っても見なかったんだろ」


 ジャンがボソリと言い、それにステンマルクが反応した。

 余りにも呆れたような口調で……だ。


「トロイの木馬って話を知らないらしいな」


 呆れて言葉も無いと言った風だが、それと同時に嘆いてもいる。

 シリウスに育った者ならば誰でも身に覚えがある事だ。


 『地球的だ』或いは『反シリウス的だ』


 そんな言葉で全否定される地球文化は余りにも多い。

 ただ、知識の断裂を招くその行為は、結果として愚民化の促進に繋がった。

 そして、危険予知という部分においては、明確なウィークポイントでもあった。


 なんだかんだ言った所で、やはり知識は身を助けるのだ。


「まぁいい。テッド。ヴァルター。外に出ろ。ウッディはここに残れ。ジャンはサポートだ。全員抜かるなよ」


 エディの指示でそろりとテッドがコンテナを出た。

 完全防弾ヘルメットを被っているので視野が狭い。

 それはまるで二輪向けの競技用ヘルメットだった。


 正面のおよそ90度しか視野が無いのだ。

 その分だけ首を盛んに振らねばならないのだが……


「ヴァルター。背中を預けるぜ」

「オーケー。任せろ」


 二人併せて180度の視野を広げ、それを近接通信でフォローしあう。

 シミュレーター上での訓練で見つけた便利な使い方だが、こんな時にも有効だ。


「どうだ?」


 エディの声にテッドが応えた。


「動体反応なし。生物反応なし。赤外センサーなし」

「全バンドで通信なし」


 ヴァルターは無線側をモニターしていた。

 コンテナから出た所で状況を見れば、手に取るように解る事だった。


「ウッディ。艦内はどうだ?」

「えっと…… それがですね」


 ウッディは艦内の広域通信を全員に近接通信で送った。

 かなり早口でまくし立てる無いようだが、それは手に取るように解った。


「予定より若干早いな」


 エディの表情が僅かに曇る。

 艦内通信は僚艦ドーヴァーの異常を告げていた。


 ――――ドーヴァー! ドーヴァー! 応答せよ!

 ――――ドーヴァー! 応答せよ!


 やや間が開き、ノイズまみれの声が届いた。


 ――こちらドーヴァー!

 ――メインリアクターはスクラムした

 ――メインエンジンは出力45%ダウン

 ――デブリクリーナーは機能を停止中

 ――やむを得ず速度を落とす

 ――構わず先に飛んでくれ!


 宇宙の虚空を飛ぶ宇宙船は、国際協定により僚艦を見捨てることが出来ない。

 最初から単独行で飛ぶのであればともかく……だ。


 複数の船で船団を組む場合は、文字通りの一蓮托生となる。

 大昔も大昔。まだ潮と風に任せ帆を張って船が走った時代の名残でもあった。


 ――――こちらフリーダム

 ――――僚艦を見捨てることは出来ない

 ――――これより減速する

 ――――艦を捨てる作業に移ることを勧める


 メインリアクターが機能不全ならば船はもはや死んだも同然だ。

 シリウスと地球の間の航路は協定により進路が定められている。

 それは、先行するコロニー船へ衝突しない為の配慮だった。


 だが、そんな航路にも弱点がある。

 双方向で進んだ場合、船同士が衝突しかねないのだ。


 故に、国際協定ではこう定められた。

 地球とシリウスを結ぶ線の左側を、銀河系中心を頭上として進路とせよ。

 つまり、地球を目指す船は銀河系の中心を頭上に置き、線の左側を通るのだ。


 厳密に定められた船の航路だが、その進路上に廃船を置くことは出来ない。

 その関係で、ダメになった船は航路の外へ廃棄することが義務付けられている。

 操艦不能になった場合は僚船がその義務を代行するのだ。


 ――こちらドーヴァー

 ――勧告を受諾する

 ――廃船に掛かるのでしばし待たれたい

 ――協力に感謝する


「なんか大騒ぎっぽいっすね」


 ロニーは何とも抜けた調子で言った。

 だが、問題はそこでは無い。


 ロニーはシレッとコンテナから抜け出ていた。

 そして、平然とヘルメットを取り、辺りを眺めていた。


「おぃ! ロニー!」

「平気っすよ! 全然余裕ッス!」


 唖然としているテッドを余所に、ロニーは辺りのコンテナを検めた。

 その全てが中国へと向かう国際コンテナだった。


「これ、開けて良いッスよね?」


 何の警戒も無くロニーはコンテナを開けた。

 その中に入っていたのは……


「なんすかこれ?」


 首を傾げて不思議がるロニー。その中身は大量のカプセルだった。

 電源を必要とする棺桶のようなカプセル。そこには赤い薔薇のマークがあった。


 遠慮無くコンテナに入り中身を見たロニー。

 カプセルの中はすべて目覚める前の眠っているレプリカントだった。


「これ、なんすか?」


 そのレプリカントは全て黄色人種仕様になっていた。

 黒々とした豊かな髪と薄い目蓋の特徴的な人種だ。


「これ、全部チャイニーズ(中国人)じゃないか?」


 何かに気が付いたらしいオーリスが言った。

 ロニーの後でコンテナに入ったオーリスは確信したのだ。


「これ、全部中国人ですよ」

「何故そうだと解る?」

「ほら、ここに名前が書いてある」


 オーリスが指さした先には、XINだのHONGだのと名前が書かれていた。

 それは全て中国系人種の名字だった。


「これさぁ、違法レプリって事は無いよな?」


 不安を掻き消すようにディージョは言った。

 ただ、疑惑が確信に変わる者をオーリスは見つけた。

 それは、シリウス系エンジニアのサインだった。


「有効稼働保証期日…… 2257年12月…… か」


 それはつまり、これに脳移植をして生きていられる限界期日だった。

 多少の誤差を織り込んで半年程度の余裕を見るのは基本中の基本だ。

 このレプリは脳移植を受け、約7年の稼働日数を持っているのだった。

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