表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い炎  作者: 陸奥守
第二章 後退の始まり
21/415

第2防衛線

 ――――リョーガー大陸 ニューアメリカ州 サザンクロス北東50キロ

      シリウス標準時間 5月8日 1100






「……事情は理解出来ますが、この件に関しましては残念ながら承伏しかねます少将閣下。我々は31軍団の特務中隊です。任務を遂行せねばなりません」

「それは重々承知しているよ少佐。だが、サザンクロス防衛にはな」


 緊迫した空気が流れる野戦指揮車の中。エディは連邦地上軍少将と対峙し、見えない角を突きつけ合って、ゴリゴリと押し合いを続けていた。

 サザンクロスまであと50キロの地点へと到達した501中隊はシリウス軍の進軍を遅滞させる防衛線のうち、第2防衛線を監督するクリハラ少将の指揮する遅防隊に捕まって麾下へと組み込まれようとしていた。


「頭数と戦闘車輌の多寡については考慮の要もありますが、そも、我々は三軍統合元帥(グランドマスター)からの直接命令で動く独立野戦集団です」

「勿論それも重々承知している。だが、現実にサザンクロスでは未だ25万の市民が脱出を続けている。我々はあと10日の猶予を稼ぎ出すよう統合軍令本部より通達を受けた。その為に必要な戦力ならば、現地補充の権限も与えられた。従って、まことに不本意ではあろうが、貴官麾下の将兵もこの任に当たってもらいたい」

「……拒否とあらば」

「あぁ。残念ながら少将手荒な措置を取らねばならん」


 その残念な事態というモノを想像すれば、エディにも至れる結末は容易に想像が付く。この時点での抗命は反逆罪を適応され、問答無用で銃殺刑に処される可能性があった。そして、マイクかアレックスかどちらかの大尉が少将権限で臨時指揮官として任官され、少将麾下の兵力となる。

 ただし、反逆罪と処断された隊の将兵は全員一階級降格か、さもなくば反乱予備軍として解体され、各隊へ補充兵として組み込まれてしまい、完全にすり潰される危険も帯びているのだ。つまり、エディが現実的に取り得る手は、事実上無いと言って良い。


「……少将閣下の麾下として戦闘する点については吝かではありません。ですが、いくつかお願いしたい件があります」

「可能な限り君の要望を実現しよう」


 目を閉じて言葉を整理したエディは、静かに切り出した。


「まず、我が隊にシリウス義勇軍の新兵が3名おります。身分上は致し方ないとしても、戦線においては連邦軍兵士と同じように扱っていただきたい」

「それについては問題ない」


 満足そうに頷くクリハラ少将とエディ。

 なんとなく無言の信頼を双方が得ている。


「第2に、ブーステッドの生き残りを預かっていますが、使い潰す事を前提とする無茶な使い方をしないでいただきたい。私個人の感情的な要望として、彼らは何としても地球へ連れ帰りたい」

「……承知した。各参謀へ通達を出しておく」


 部下を大切にする男だ。クリハラ少将はエディについてそんな印象を持った。そもそも使い潰しすり潰し消耗品前提で編成されたブーステッドの生き残り部隊だ。しかし、その隊に居る男達を地球へ連れ帰りたいと言っているエディ。その優しさや情の深さと言った部分でクリハラ少将は新鮮に驚いていた。


「最後ですが、もし戦線を放棄し脱出するとなった場合、我々も、我々以外も、同じく脱出命令を出してください。どこか特定の隊が時間稼ぎをするような事が無いようにお願いしたい」


 クリハラ少将はエディの最後のお願いに一番驚いた。死に溜まりを作って敵の足を止めるのは常套手段だ。だが、それをしないでくれと言う事はつまり、ここで負けるのは仕方が無いと言っているに等しい。無駄に死なないで次の機会を待つべきだと、そうエディは言っている。

 遅滞防衛活動を行う責任者としては、その遅滞行動が失敗したと言う事で責任を取らされる事になるのだが、例えそうだったとしてもサザンクロスまで戦力を持ち帰る事を提案したエディ。クリハラ少将はエディの目をジッと見て思案に暮れた。


「……例のロボット兵器についての所見を聞こう」

「我々は二度、あの兵器とやりあいましたが、無敵でも不死身でも無く、ある意味で簡単に撃破出来る機体だと言う結論を得ました。ただし手順が必要です」

「手順?」

「はい。正面装甲は至近距離からの戦車砲をはじき返す程の頑丈さです。そして、荷電粒子砲では磁場のバリアに阻まれます。ですが、背面はかなり脆いです。少々距離が離れていても貫通させる事が出来ます」

「ほぉ」

「ですから、必要なのは機動力。あとは連携戦闘です」


 腕組みをしたクリハラ少将はしばらく黙考した後、車輌の外で待っていた砲兵将校を呼んだ。そして、対ロボット戦闘における重要な注意点を並べ、勝つのでは無く手痛い負けにならない手立てを考え始めた。


「全員でサザンクロスへ脱出しよう。我々は死ぬ為にここに居るのでは無いのだからな。堪えて忍んで明日を待つ事も重要だ」


 そんな言葉で打ち合わせが終了となり、エディは501中隊へと戻った。

 この戦闘は酷い事になる。エディだけで無く将校はみな同じ予感を持っていたのだが、実際の戦闘は想像を遙かに超える酷い事になってしまうのだった。






 ――――4時間後




 実に90機ものロボットを投入してきたシリウス軍は、連邦軍を一気にすり潰す作戦に出たようだ。防衛線で待機する連邦軍の各陣営が固唾を飲み待ち構える中、約20キロほど彼方の地でドーリ―から降り立ったロボットは、横一列に並び突撃のタイミングを待っていた。


「改めて見るとスゲ―迫力だな」

「今までは逆の立場だったってこったろ」

「シリウスのレプリも恐怖を感じるのかね?」

「どうだろうな。レプリに知り合いはいねーからな」


 501中隊の無線内に面々の気安い雑談が流れている。気負っては居ないのだろうけど、緊張していないわけでは無い。緩いがそれでも厳しい空気を感じ取ったジョニーは、両手をグッと握りしめてモニターを睨み付けた。手の中に嫌な汗をかいていた。

 砲弾ラックに並ぶのは、補給を受けたばかりの数少ないHEAT弾だ。コレを撃ち出していた戦車の数が減り、おこぼれが回ってきたようなものだ。荷電粒子砲で勝負するには背後を取らねばならない。だが、正面からやり合うなら実体弾頭が必要だ。例え貫通出来なくても、打撃力が加われば中のパイロットは多少怯む事もある。

 ギリギリの所で命のやりとりをする以上、最後は気合いと根性と運でしか無い。だから、自分に有利になるカードは一枚でも多い方が良い。そもそも、使っている機材で最初から負けているんだから、あとは使い方で活路を見いだすしか無いのだった。


「しかし、装輪戦車でロボットとやり合う事に成るとはなぁ」


 無線の中に愚痴をこぼしたマイク。その言葉に皆が大笑いした。

 勿論、ジョニーも遠慮無く笑っていた。


「おいおいマイク。なんてザマだ。士官失格だぞ」

「それは言ってくれるなエディ」

「機甲師団の間じゃ昔から言うだろ?」

「なんて?」

「優れた戦車兵は優れた戦車に勝るってな」


 気休めにもならない根性論をエディが言い、中隊無線に失笑が溢れた。根性論が幅を効かせるようになった時は、もはや絶望状態の時だ。理屈では無く精神力で勝とうと言ってる時点で、もはや負けと言って良い。


「実際に我々は敵を撃破しています。向こうだって無敵というわけじゃ無い」


 いつも寡黙なリーナー少尉の言葉が無線の中に流れジョニーは驚く。驚くほど無口で感情が見えない人物だけど、ごく僅かなタイミングで口を開く時は、大概核心を突いた的確な事を言うケースが多い。

 つまり、リーナー少尉は沈思黙考の人なのだとジョニーは思う。そして、ちょっと特殊な人で特別な人だ。ここ数日見ていて気が付いたのだが、エディは中隊長付上級曹長であるドッドと一緒にリーナー少尉を連れている事が多い。


 ――――エディは少尉を育てようとしている


 そんな印象を持っていたジョニーだが、それを証明するようにエディは無線に言葉を流すのだった。


「リーナーの言うとおりだ。あっちだって怖いさ。現実に俺たちは10機以上のアレを撃破してる。今回も同じさ。上手く立ち回って一機でも多く喰ってやろう。あれだけの重装甲なんだ、重工業がまだまだ貧弱なシリウスにしてみれば、作るだけでも一苦労って事だ。兵站に負担を掛けて疲弊させるのは戦争の常套手段だしな」


 余り気負っていないエディの言葉が流れ、少しだけ肩が軽くなった錯覚を持つジョニー。だが、その直後に連邦軍の野砲が火を吹き始めた。まだまだ距離が有るのだが、野砲の射程では届くのだろう。ただ、野砲には自走能力が無い。つまり、足を止めて撃ち続けるしか無い。逃げる事が出来ないのだ。機動能力のある敵を相手に撃つなら、砲弾の雨を降らせ徹底破壊するしか無い。

 全力投射によって敵の戦力を削るのが砲兵のドクトリンなのだから、有効だになるかならないかはともかく、砲弾密度を上げて撃ち続けるしか無かった。


「……あれ、効くのかよ」


 吐き捨てるように言うドッド。ジョニーはエディの後ろ辺りから、こっそり戦況モニターを見ていた。不意にシリウス側に表示されていた赤い点が一つ消えた。どうやら砲兵が一機破壊したらしい。


「へぇ、やるじゃねぇか!」


 急に上機嫌になったドッド。エディもニヤリと笑っている。まだまだ遠慮無く撃っている砲兵達の必死の頑張りが続き、着々と戦力を削りつつあった。


「あのまま終わってくれないかなぁ」

「お星様にお祈りしようか」


 グーフィーの軽口にロージーが相槌をうつ。

 モニターの中には続々と爆発炎上シーンが続いていて、砲弾の雨あられがそれなりに効いている事を示していた。だが……


「奴さん動き出したぜ」


 無線の中にあまり聞いた覚えの無い声が流れた。一瞬誰だか理解できなかったジョニーだが、他の車両の誰かだろうと割り切った。その直後、シリウス側に砲火が見えて、戦域情報モニターに敵側発砲の警告が出た。


「さて、今日も楽しい地獄めぐりの始まりだ」


 あまり笑えないエディの軽口が流れ、その直後に装甲車の周辺へ続々と着弾が続いた。ごく稀に上空で爆発が発生し、あまりの砲弾密度に空中で砲弾同士が衝突しているのだった。


「アッハッハ! 愉快愉快! こんな事ってあるんだな!」


 バカ声を上げてマイクが笑う。だが、モニターに移るマイクの表情は全く笑っていない。「無理しやがって」と静かに呟いたエディの声をジョニーは聞いた。中隊の緊張や恐怖を紛らわす為に、マイクが身体を張っていたのだった。


「おいマイク! あんまり笑ってると口の中に砲弾が飛び込む――


 エディが何かを言い掛けた時、3号車の上面に砲弾が直撃した。激しい爆発が車体を揺らし、中隊無線に耳障りな電子音が連続して鳴り響いた。


「マイクッ! 3号車! 誰でも良いから応答しろ!」


 エディの金切り声が無線に流れ、一瞬の沈黙を挟んで電子警報音が帰ってきた。そして、それに続き一斉に声が流れ始める。


「イノー 無事です!」

「クリス 問題なし」

「ハンス 問題なし」

「サム 歯が欠けましたが問題なし」

「ロブです 前歯折りました 戦傷申告願います あ、まだ生きてます」

「カッパーゾ 寝てましたが起きました 問題なし」

「ヤング 問題ねっす!」

「ヴァルター まだ生きてます 問題ないです」

「そんな訳で俺の車も悪運が強いようだ」


 最後にマイクが笑って報告を〆た。着弾シーンをリプレイしているロージーがヒューと口笛を吹いた。ほぼ垂直に堕ちてきた砲弾は砲塔前面の最も装甲の厚い場所へ当たり、中空となった装甲の内部へメタルジェットを噴き出して果てたようだ。


「確かに悪運が強いな。HEAT弾だから良いようなもののAPFS弾だったら即死だった。このツキは大事にしろよ」


 エディの言葉で中隊が大爆笑している。だが、戦況はその間にも着々と悪化していて、猛烈な砲撃を加えていた砲兵は半分程度に減っていた。シリウス側はロボットが散開し、被害を分散させつつ接近し続けている。

 着々と終わりにむけて進んでいる遅滞戦闘は、やはり一方的負けな状況にあった。砲兵は最後の一門まで砲撃を続けていたが、有効打になって破壊したロボットは僅かな数でしかなく、ロボットは被害を省みず戦線を包囲するように和を描きつつあった。


「全車後退しろ! 包囲されたら脱出どころじゃなくなるぞ!」


 戦域無線で呼び掛けたエディ。遅滞戦闘の防衛線を形作っていた僅かな数の戦闘車輌が逃げ出し始めるのだが、その先手を取るようにロボットは脱出経路を塞ぎつつあった。まるで連邦軍側の意図を見透かすように動くシリウス軍は、ほぼ包囲を完了していて、左腕に装備している砲で獲物を探し出している状態だった。


「マジかよ!」


 マルコの声が震えていた。どこを向いてもロボットが待ちかまえていた。必死で逃げる各車だが、ジョニーはまばゆく光る死神の鎌を見た。至近距離からライフル砲で狙われる恐怖は計り知れない物がある。次々と爆発炎上する連邦軍車輌の中を501中隊は走っていた。


「少佐殿!」


 走行中のバックハッチを開けたアンディー中尉は、肘までしかない左腕でヘルメットを抱えたまま、その縁に立って敬礼した。


「待て! アンディー! 行くんじゃない!」

「論議をしている暇は有りません! 俺たちが血路を切り開きます!」

「ここでは無駄死にだ! 死に場所は選べといってるんだ!」

「一輌でも多く脱出出来るなら本望です! 仲間の為に最期の義務を尽くす事こそ軍人の本懐です」


 目の前でヘルメットを被ったアンディーが気密を取ってから背中にあるイオンスラスターを発火させた。独特の匂いが車内へ流れ込み、ジョニーやロージーが咽ているのだが。


「車外へ出たら包囲の輪の一番弱いところを探します。そこを突いてください。今までお世話になりました。自分の如き存在に目を掛けてくださって、言葉に出来ないくらい感謝しています」


 無線の中に流れるアンディー中尉の言葉にジョニーは思わず涙を浮かべた。死を覚悟して事に挑むその姿は、悲壮感に酔った兵士が見せるそれとは全く違うモノだった。


「アンディー 一つだけ約束しろ」

「はい 何でありますか?」

「自爆するな。可能な限り帰還せよ」

「それは……『中尉! 命令を復唱しろ!』


 一瞬の間。エディの口から出た厳しい言葉。だが、その内容は『情』だった。


「復唱いたします! 可能な限り帰還いたします!」

「よろしい! 行け!」


 アンディー中尉はもう一度敬礼してからハッチを飛び出していった。背中のスラスタージェットに点火して上空を目指し、右腕のパイルバンカーを展開する。


「南西側の包囲網が一番薄いです。そこを突きます、突破してください!」


 アンディー中尉に続きレジー少尉やブルー上級特務曹長が次々とロボットの背後に取り付いた。そして、コックピット目掛けパイルバンカーでHEAT弾を叩き込んでいる。一瞬にして蒸し焼きになり原形を留めないまで焼き払われるパイロット。動きを止め崩れるロボットから離れたブルーサンダーズが次の獲物を探していく。


「全車! ブルーサンダーズの血路を目指せ!」


 エディの指令が戦域無線に響き、ロボットに狙われタコ踊りしていた戦闘車両たちが一斉に動き出した。そんな中、ブルーサンダーズがロボットを次々と血祭りにあげ始め、あっという間に10機を撃破した。だが……


「シルバー!」


 無線の中にアンディーの声が響く。3機目を喰ったシルバー特務曹長がロボットの装備しているバルカン砲を喰らって空中でバランスを崩し、上空15メートル程度から地面に叩きつけられ、そのまま踏み潰された。

 無線の中に『あばよ……』と言葉が漏れたのが最期だった。その直後、シルバーを見ていたボリス曹長が空中でロボットの持つウォーハンマーに叩き落され、硬い地面に激突し爆散した。文字通りの即死だった。

 それでもブルーサンダーズは勇猛果敢に襲い掛かっている。まるで恐怖や苦痛など知らないと言わんばかりだ。至近距離でロボットに挑むその姿に、今まで劣勢だった戦車隊が奮起し、パワードスーツの動きに意識をとられているロボットの背後を取って攻撃を開始している。一時的に形勢が逆転し、10分少々で30機近くのロボットが破壊されている。

 だが、その逆転激も一時的なものでしかなかった。15分を過ぎた頃、ブルーサンダーズで生き残っているのは、アンディー中尉とブルー上級曹長だけになっていた。レジー少尉はアンディー中尉の目の前でライフル砲により攻撃を受け、胸部に直撃弾を喰らって木っ端微塵に消え去った。狙って撃ったのではなく偶然の激突だった。


「こちら第21戦車隊。我々が殿になる。全車脱出してくれ!」


 無線の中に響いた若い声。皆が一斉に状況を確認したら、包囲の輪の一番奥に取り残されていた戦車隊が居た。ロボットの背後を取った車輌が多く、猛然と砲撃を繰り返していた。


「こちら501中隊! 支援するから貴隊も脱出せよ!」

「支援不要! 残存車輌5輌につき最期の義務を尽くす! 一兵でも多く! 一輌でも多く! サザンクロスへたどり着いてくれ! 貴官らの勇戦に感謝する!」


 若い声をついで無線に流れたのは、老練な男の重く太い声だった。エディはその声がクリハラ少将であると見抜いていた。敗軍の将が責任を取ろうとしている。責任もってサザンクロスへ兵を送り届けようとしている。


「エディ少佐 健闘と武運長久を祈る! 以上、交信終了!」


 祈るように空を見上げたエディ。そこには21戦車隊のほうへ飛び去るアンディーとブルーが映っていた。


「どいつもこいつも死にたがりやがって!」


 珍しくエディが荒々しい言葉を吐いた。

 モニターの中には脱出支援を行う第21戦車隊と、それを支援するブルーサンダーズ最後の二人が映っていた。ロボットを左右から挟んで、どちらかが必ず背後を取るように動き、ロボットを確実に破壊している。

 戦車に狙いを定めたロボットへはアンディーやブルーが行ってパイロットを狙い撃ちにしていた。時には上手く立ち回ってロボット同士を相打ちにさせ、着々と戦力を削り落としていく。

 だが、絶対的な戦力差というモノは、時に圧倒的な無常観を感じさせてしまうのだった。


「中尉! 生き残ってください! 俺たちが生きた証を!」


 ブルーは残り一発となったHEAT弾を打ち込んだ後、両腕にライフル砲を装備した重武装型に取り付いた。首の付け根辺りにあるハッチをこじ開け、その中に飛び込んで自爆スイッチを入れた。


「ブルー!」

「お先に失礼!」


 ロボットの首がもげる程の大爆発を起こし爆散したブルー。重武装型のロボットは機能を停止し、その場に膝を突いて前へと倒れた。その一部始終を見届け最後の一人となったアンディーはただ一人上空を舞っていた。


「さて、どうしたもんかな」


 無線の中に流れたアンディー中尉の独り言をジョニーは聞いた。そして。


「お! いたいた! 絶対居ると思ったんだ!」


 アンディーの見ている視界は戦域戦闘支援モニターへ転送されている。

 上空50メートルを舞うアンディーが見つけたモノは、ロボットの輸送をまかなうドーリーと燃料補給用のローリーだった。


「ガスタービンエンジンで発電する以上、燃料はバカ食いするしな!」


 そこへと突入していったアンディーは燃料ローリーを次々と破壊している。次々と爆炎が上がり、黒い煙が立ち昇った。途端にロボットは踵を返して味方の防衛に移動し始める。その背中目掛け、僅か数輌の戦車も砲撃を続けていた。


「アッハッハッハ! 燃えろ燃えろ!」


 20輌近くやってきていた大型ローリー車の全てを破壊したアンディー。だがそこにロボットからの砲撃が降り注ぐ。破れかぶれになってまだ燃えていないローリーの中を走り回ったアンディーだが、終わりの時は唐突に訪れた。


「あっ!」


 その短い言葉がアンディー中尉最期の言葉だった。

 戦闘支援モニターに映っていたアンディーの視界には、至近距離でライフル砲を向けているロボットの姿があった。そして、その直後に情報送信が途絶。戦闘支援モニターから味方の所在を占めす赤い点が消えた……


「アンディー!」


 最後に叫んだエディ。

 貴重な犠牲を払って脱出した戦闘車両は、残り僅かだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ