死闘
――――2245年5月1日 1200
ルドウシティ郊外荒れ地
「こりゃすげぇな!」
驚きの声を漏らしたドッドは半ば呆れたように声を漏らした。次の戦闘ポイントに向け移動する装甲車は不整地を走っている関係で酷く揺れる。そんな装甲車の上に出たドッドへジョニーが声を掛けた。
「兵曹長殿! 命綱を!」
心配そうに見ているジョニーを気にすること無く、ドッドは揺れるターレの上に立った。万が一落ちれば命は無い。間違いなく装甲車に踏みつけられ即死だ。そんな状況だが、ドッドはどうしても車外に出る必要があった。
シリウス軍のカチューシャにやられた装甲車外部のダメージは想像以上で、装甲こそ割れたりしてはいないモノの、凹みや外装機器の損失損傷は酷い。そして、ドッドにしてみれば万の金を積んででも交換したい物が損傷を受けていた。照準手用の車外モニターカメラだ。
「お前こそ間違っても落ちるなよジョニー!」
余裕風を吹かせて笑っているドッドの視線の先。そう呼び掛けたジョニーもまた命綱をつけて部品の交換に勤しんでいる。マルコの運転を支援する各所のモニターカメラも酷い損傷だ。
戦闘中の視界の悪さはそれだけで死に直結する事がある。それ程分厚い訳ではないが、それでも丈夫な装甲に鎧われた戦闘車両は、安全安心と引き換えに視界を失っている。
それ故、車外各所に装備されたモニターカメラは、更なる安心を得るための大事なパーツだ。車内にはスペア部品が完備され、必要に応じて乗員が交換するようになっていた。
「けっこう揺れますね!」
ただそれは、本来走行中にやる事じゃない。不整地でもある丘の斜面を駆け上がりながら、左右に振られる車両の上でなど自殺行為のものだ。
だが、これから主力戦車と装甲戦闘車がガチンコの勝負をしようとするなら、絶対的に必要な作業だった。照準用レーザーセンサーなどと一緒に『無いと困る必須装備』なのだから、命綱をつけてでも交換する必要があったのだ。
「ジョニー! そっちはどうだ!」
自分の作業を終えたドッドがジョニーを確認する。揺れる車両の上で慣れない作業だ。万が一にも落ちて怪我でもすれば、色々面倒とも言える。
「モニターカメラとセンサーの交換は終わりました!」
ところが、肝心のジョニー自身、あまり問題にしていないし、怖がってもいない風だった。そもそもジョニーはカウボーイで、揺れる馬上を仕事場にしていたからか、揺れに対しての順応性は驚くほど高い。
ドッドは思わず笑みを浮かべる。命綱を余らせて作業するジョニーの無鉄砲さは、若さを感じさせてくれるものだ。涼しい顔で機器の交換を終えていたジョニーは自信あり気な顔でドッドにそう答えていた。
「後はなんた!」
「M2の交換です!」
俺のポジションです!と言いたげなジョニー。
だか、ドッドは意外なことを命じた。
「そいつはイイ! それより車内を片付けろ!」
「イエッサー!」
言われるがままに車内へと入ってみれば、不整地を高速て走行するからか、各所がえらく散らかっていた。軽い食事が出来るだけの設備を持つ兵員輸送車でもあるのだから、アチコチに様々な装備を持っていた。
「サクサクやるんだ。あと五分でシリウス軍機甲師団に殴り込みを掛ける」
戦況情報モニターを見ていたエディは厳しい表情だ。モニター上には数の上で互角になっている連邦軍の戦車配置が表示されていた。赤い点は戦闘可能。黄色は小中破で戦闘に難あり。黒い点は大破戦闘不能で紫は戦闘救援求む。
およそ200輌近かった連邦軍の戦車だか、現状では満足に戦闘出来るのが50輌足らずな状態だ。対するシリウス軍の戦車はまだ80輌以上が戦車可能で、その内20輌程度は予備戦力として温存されていたモノらしい。
双方共に高出力磁気バリアを装備しているのだから荷電粒子砲で攻撃しても磁気の壁に阻まれ威力が多く減衰する。その為、ビーム砲モードではなく実体弾頭を撃ち出す戦車砲で殴り合っていて、その戦いは遠距離からレーザとビームで戦うような優雅なモノでは無く、至近距離から弾体加速装置に最大電圧を掛けた大出力での激しい撃ち合いと言う荒々しいモノだった。
「ここから一気に坂を下っていって、シリウス軍の横っ面をフルパワーでブッ叩く。正面は磁気バリアに護られているが、側面や後部は案外弱いもんだ」
ちょっと不安げなジョニーを安心させる為か、エディは大袈裟な位に笑っていた。
「そんな不安そうな顔をするな。勝つ気で行け。負けるかもなんて弱気じゃ死神になめられるぞ!」
ジョニーの肩をポンと叩いたエディはコマンダーシートに戻った。ジョニーも大慌てで車内を片付けナビゲーターシートに陣取った。ドッドは新しいモニターカメラの誤差調整を続けていて、これから始める命懸けの大勝負に備えている。そんな車内を一通り見てから、エディは無線のマイクをとって中隊全体へ声をかけた。
「全員その場で聞け。俺達はこれから無謀な勝負に挑む。ふつうに考えれば蛮勇だ。或いは、もっと単純に言えば無茶で無謀だ。だが、仲間が苦しい戦いをしている以上、知らん振りは出来ない。俺達は支援を失った仲間を助けるのが仕事だ。今回も同じ事だ。微妙に圧されている仲間を支援し、一緒に勝つ。我々501中隊の隊員1人1人がその真価を問われるんだ。抜かるなよ。絶対に」
エディの声に少しだけ安心を取り戻したジョニーは、戦闘中のポジションに迷っていた。お守りをするべき自動装填器に弾は無いし、遠慮無くガンガン撃てる機銃も無い。さてどうしたものかと思案したジョニーだが、エディはそんなジョニーの肩を叩いて静かに言った。
「ジョニーはそこに居てドッドの支援に付け。ドッドが照準を合わせている間、周囲の状況に目を配るんだ。そして、少しでも危ない敵を見つけたらドッドに教える係だ。俺は全体を見る。ジョニーは左右の戦車に目を配る。ドッドは正面の戦車を撃破する。そんな役割分担だ。いいな?」
明確な指示を受けジョニーは少し安心する。だが、まだ気を抜けない事も解っている。再び丘の上に出た装甲車は状況偵察を行っているドローンからの情報を受けつつ、突撃進路を確認していた。力尽くで殴り込むのだから事前情報が重要になってくる。
「エディ 準備良しだ」
「よし。行くぞ」
エディは再び無線のマイクを握った。
「全車突撃! 我に続け!」
一気に丘を降り始めた1号車。速度限界一杯まで加速し、激しく車体を揺らしながら斜面を駆け下りていく。同時にドッドは射撃スタビライザーを調整しつつ、手前に居るシリウス戦車の天井部分に向けて荷電粒子砲を撃ち始めた。
ギュンと激しい音を立てて最大出力射撃を行った砲。荷電粒子の塊はほぼ光速でシリウス軍戦車の砲塔上部へと突き刺さり、見事に貫通した。
「よっしゃぁ! ウッヒャッヒャッヒャ!!!」
成否判定をしていたロージーがイカレた声を上げた。一撃で砲塔部の弱点を突き破った荷電粒子の塊は、搭載していた砲のコントロールを奪ったらしい。装填していた砲弾は炸裂系弾頭だったのだろうか。被弾したシリウス戦車は数秒遅れて黒煙を上げ爆発した。
「よしよし、その調子だ。がんがん行け!」
エディの声が弾む。ドッドも次々と獲物を捜しては撃破していた。シリウス軍側に明らかな動揺がみえる。統制美を見せていた程の隊列が乱れ始めた。
「横っ腹に食いつくぞ!」
ドッドの叫びが車内にこだまし、エディは戦域情報モニターに映るシリウス軍の座標をドッドのモニターに転送していた。
「エディ! 左手に──
何事かを叫び掛けたジョニー。だが、それが言霊となって皆に伝わる前に、装甲車全体へ激しい衝撃が走り、ジョニーは左頭部を装甲車の内壁へと打ち付けられた。視界の中に星が飛び、吐き気を催す程の頭痛が沸き起こった。おそらくヘルメットが無ければ即死かそれに近い状態だったと思われるた。
頭を振り意識をハッキリさせたジョニーは、ターレ内部に表示される車外モニターカメラの左半分が全て消えているのに気が付いた。ドッドは照準手席から投げ出され、ターレの床で動かなくなっており、エディもまたコマンダーシート部分で頭部を強かに打ったらしく額に手を当てて目を閉じていた。
運転席側を見ればインパネにある車体情報表示が真っ赤に染まり、その明かりにマルコの顔が浮かび上がっている。あちこちのスイッチやレバーやダイヤルを操作しつつも、マルコは明らかに狼狽していた。
「エディ! 左面第2第3輪損傷! 駆動モーター沈黙! サスペンションとスタビラも機能停止! 速力22パーセント低下! 第2輪ステア機能損失。旋回は可能だが機動力は大幅に失った! ぶっちゃけ戦闘不能に近い!」
いつも陽気で朗らかなマルコだが、報告を上げるその声には悲壮感があった。ようやく意識がシャッキリとしてきたエディは車内を眺める。酷い衝撃を受けた車内はおもちゃ箱をひっくり返した子供部屋状態で、足の踏み場も無かった。
「少佐殿! 左手にシリウス戦車がいて発砲炎が見えました。多分──
エディの状態を確かめたジョニーが報告を上げ始めたその時だった。再び激しい振動が装甲車を揺さぶり、今度は身体ごと装甲車の壁に叩きつけられたジョニー。
身体と言わず頭と言わず全身から激しい痛みを感じ、骨の2~3本も折れてるんじゃなかろうかと言う寒気が全身を駆け抜けた。そして、瞬間的に状況を悟ったジョニーはエディを無意識に探していた。
まるで父親に助けを求める子供の様にすがる様な目で車内を見渡した時、エディはドッドの代わりに照準手席へと座っていて、ターレを廻し手動照準で砲撃を開始したのだった。
「マルコ! とにかくスラロームだ! 次は直撃を貰うな!」
状況把握に疎いジョニーでも事態の理解は出来た。間違いなくシリウス戦車からの直撃を貰ったのだ。それもかなり良い角度でだ。車内に弾芯が飛び込んでこなかったのは単純に距離の問題だろうと思った。一瞬だけ見たシリウス戦車までの距離が4500メートルと表示されていたのだから、その距離で食らったので装甲が耐え切れたのだった。
「発砲する!」
スタビライザーが切れている以上、左旋回中に砲撃は出来ない。主砲の反動で装甲車が横転する危険があるのだ。マルコは瞬間的にハンドルを中央へ戻し、緩やかに右旋回へと移った。そのタイミングを見計らったようにして、エディは発射ペダルを力いっぱい踏みつけた。
主砲部分から射撃音が響き、荷電粒子の塊が打ち出される。しかし、その荷電粒子は敵戦車の前辺りで磁気の壁に弾かれてしまう。質量を持った砲弾と違い、荷電粒子の塊は磁力線の影響を強く受ける。明後日の方向へと弾かれてしまい、エディは小さく舌打ちをした。
「5011号車! そっちを援護する! 真っ直ぐ走ってくれ!」
突然戦域無線が唸りを上げた。やや離れた位置にいた別の隊の装甲車がターレをまわして狙っているのが見え、マルコは再びハンドルを切って戦車の砲身をひきつける方向へと走る。
「こちら5011号車! よろしく頼む!」
「まかせとけ!」
遠くに見えたオリーブドラブ色の装甲車から発砲炎が上がった。実体弾頭を撃ち出した砲の火炎が伸びて行き、501中隊の1号車を狙った戦車の砲塔側面を捕らえた。
「よし! って…… あれ?」
素っ頓狂な声を出したのはマルコだった。側面ばっちりでご馳走さんってな状態だった筈なのだが、シリウス軍の重戦車は距離700メートルの位置から打ち出されたHEAT弾を完全に弾き返していた。
「なんだよそれ! キタネーだろ!」
予想外の強靭さに声を荒げたマルコだが、シリウス戦車の砲塔は直撃弾を放った装甲車のほうを狙っていた。旋回した砲塔の側面には見事な被弾痕が残っているのだが、車内へ打ち込むほどの侵徹力を発揮しなかったらしい。
恐ろしい長さの砲身が獲物を探して微調整を繰り返しているなか、連邦軍の装甲車は必死になって照準を外そうと、ランダムなスラロームを描きながら接近していくのが見える。併走する車両が次々と砲撃を加える中、シリウスの戦車はその全てを装甲の勲章に変えていた。あっという間に夥しい被弾痕となっているのだが、まだ戦車としての機能を失っていなかった。
「マルコ! あの化け物へ突っ込め!」
「よしきた!」
エディの怒声が響き、マルコは返事をすると同時にハンドルを切って総力加速を行った。モーターが二つほど機能を失っている関係で、マルコやエディが期待したほど速度が乗っていない。だが、左右を見れば連邦軍の装甲車たちはシリウスのモンスターへ向けて突撃を敢行した。
左側の視界を失っているターレだが、右側には501中隊の3輌が併走し、その向こうには別の中隊の同型装甲車が見えた。エディは砲のセッティングを変更し、とにかく貫通させるべく侵徹力を最優先にした。
「最大電圧でぶっ放す! 一瞬電圧効果するだろうが気にするな!」
エディの目に狂気が混じる。ジョニーは眦を決してシリウス戦車を見据えた。彼我相対距離1000を切った所で再びエディは発砲した。耳に響く音を立てて主砲が火を噴く。ジョニーは祈るような気持ちでシリウス戦車を見てた。
「アッ!」
荷電粒子の塊はシリウス戦車の車体部分を真正面から完全に撃ち抜いた。車体が前のめりになるほどの急ブレーキで停車したのだが、その瞬間にシリウス戦車が発砲。急ブレーキの分だけ照準のズレた砲撃は連邦軍装甲車随分手前を掘り返し、そして地中で爆発した。
「チャンスだ!」
無意識にエディが叫び、マルコが雄叫びをあげつつ突っ込んでいく。ターレを3時方向へ向けたままのシリウス戦車は沈黙していた。大胆に迫りつつ、マルコがややハンドルを右へ切りターレ裏側を目指す。
「エディ!」
「構うな! 行け!」
「裏を取るぜ!」
戦車に取って一番の弱点と言うべき砲弾ラックをねらう作戦だ。マルコの操縦は早くて丁寧だ。だが、装甲車自体に速度がなく、右手側から二号車以下がオーバーラップしていく。
「他の戦車に注意しろ!」
「りょーかい!」
エディは主砲の照準ハンドルを手動で回しながら、シリウス戦車のターレ後方を狙った。砲弾ラックの中に残弾が一発でもあれば炸薬に引火するはず。そんな読みで照準を付けたエディは、我慢しきれずニヤリと笑った。
「よし! これで終わりだ!」
発射ペダルを踏みつけたエディ。主砲は再び荷電粒子の塊を吐き出し、シリウス戦車のターレ後方を打ち抜く。大爆発を待ち構えたジョニーだが、シリウス戦車は爆発どころか煙一つ吐いていない。
「あっちも看板かよ!」
マルコが悪態をつく中、エディはもう一度同じ場所を狙った。完全な撃ち尽くしたとは考え難い。発射ペダルを踏みつけ様子を窺うエディ。同じ場所を打ち抜くも、やはり爆発はしない。
「おいおい! どういう事だ!」
狼狽するエディの声。ジョニーは猛烈に嫌な予感が湧き上がった。
「少佐殿! 囮では!」
ジョニーの叫びにエディは首を振った。
「いや……」
接近し続けていた一号車だが、距離200を切った辺りで沈黙していたシリウス戦車のターレがいきなり旋回を始めた。まるで亡霊のようにゆっくりと回転するターレ。周辺にいる装甲車が集中砲火を浴びせる中、シリウス戦車の砲は一号車を捉えた。
ロングバレルのライフル砲を真正面から見たジョニー。その身体にはボツボツと鳥肌が沸き上がった。砲身の中に見えるライフリングの渦巻きに魅入られ、目線を外す事ができない。
「情け無用だぜエディ!」
マルコが叫び、同時にエディは発射ペダルを蹴りつけた。何事もなかったように荷電粒子の塊が撃ち出され、狙ったようにシリウス戦車の砲身へ吸い込まれていった。そして
「おっしゃあ!」
マルコのいかれた声が響く。シリウス戦車のターレがいきなり大爆発し、車体部分から浮き上がってひっくり返った。最後の一発を装填してあったのだろうとジョニーは思った。きっと、最初の直撃弾で下半身を失ったレプリカントが弾薬ラックを打ち抜かれた衝撃で僅かに目を覚まし、残された力を振り絞って最後の一発を撃とうとしたのだろうと、そんな事を思った。
「マルコ! 次だ!」
浮かれることなく次の獲物を探すエディ。車体損傷を考えれば離脱するのが常道だろう。だが、エディは戦闘の継続を宣言したに等しい。手動でターレを回し手近なシリウス戦車に次々と砲撃を加えている。
「ジョニー! ドッドとロージーを介抱しろ!」
エディは8発目の砲撃を行いながらジョニーに指示をとばした。やはりまだまだ指示が無いとジョニーは動けない。それも当たり前の話で、事実上の処女戦と言うような状況なのだ。偶然の野戦や偶発遭遇の戦闘など状況を飲み込む前に終わってしまった。
「ここからが忙しいぞ」
頭から血を流して失神していたロージーを床に寝かし、続いてドッドを床に下ろしたジョニー。緊急メディカルキットで救命処置をしたものの、これ以上の事は衛生兵であるウェイドでなければ出来ない。
だが、ブートキャンプで習ったとおりモルヒネを投与しつつ、傷口に止血帯を貼り付け応急手当を施すジョニー。そのすぐ上ではエディが次々と砲撃を続けていた。まだ戦うのか?と怖くなり始めたのだが、この場から逃げ出すことなど出来ない。
「ジョニー! そっちが終わったらこっちだ!」
エディはジョニーを呼びつけ、コマンダーシートに座らせるとモニターを指さした。
「左から戦況、作戦進行、友軍戦力、敵戦力、自車状況の順にモニターが並んでいる。わかるな?」
「はい!」
「友軍戦力を読め」
「可動戦車44! 可動装甲車82! 野砲38! パワードスーツ66!」
「あっちは!」
「可動戦車28! 可動装甲車55! 野砲ゼロ! 装甲パワーローダー8!」
一瞬エディが沈黙した。不安になったジョニーが顔を向けると、ジョニーは照準スコープを覗き込み、距離350でシリウスの可動戦車側面を捉えていた。発射ペダルを踏みつけ砲撃を行うと、シリウス戦車の砲塔がぶっ飛んで大爆発した。
「ガーダーの作戦指示は?」
「各戦闘車輌はシリウス戦車を根こそぎ破壊しろとの事です。パワードスーツと野砲陣地へはシリウス装甲車をどうにかしろと」
その間にもシリウス戦車の数がどんどんと減っていく。あっという間に28輌から12輌程度まで数の減ったシリウス側だが、まだまだ意気軒昂に戦闘を継続している車輌が多く、連邦側の戦車もジリジリと数を減らしていた。
「シリウス側戦車16輌減りました」
「そういう時は減耗と言うんだ」
「イエッサー! シリウス側16輌減耗! こっちは戦車7輌減耗!」
「向こうの装甲車はどうなってる」
「残55が21まで減耗しています。ただ、こっちのパワードスーツも残り50を切りました」
「正念場だな」
マルコは乱戦の中をスラロームで走り回って、エディと共に必殺の一撃離脱を繰り返していた。酷い乱戦になって居て、もはやIFF無くして敵味方を瞬時に識別する事など出来なくなっていた。
「少佐殿! 4時方向!」
コマンダーシートから身を振り返らせ叫んだジョニー。
右手後方よりシリウスの戦車が照準用レーザーを照射し始めていて、エディは慌ててターレを旋回させ対抗射撃を狙った。間に合いそうに無いタイミングだったのだが、最後まで諦めない姿勢を見せるエディ。そんな時、照準用レーザーを放っていたシリウス軍戦車が突然大爆発した。1号車のモニターが沈黙している左手側から連邦の戦車が支援砲撃したらしく、シリウスの戦車が続々と進路を変え始めた。
「あいつらも無茶しやがる!」
照準手用では無くコマンダーシート用の車外モニターカメラ映像を表示させたエディ。1号車の左手には連邦軍戦車が5輌程度映っていて、シリウス戦車に向けて突進していた。それに対抗するシリウス戦車も連邦戦車に向かって前進している。
結果、左側面を連邦軍の装甲車に晒す形のシリウス軍。そんな映像を見ながらエディは不機嫌そうに呟いた。
「随分舐めてくれるな」
照準用フレームからシリウス戦車がはみ出すほどに接近し主砲を発射。ほぼ同じタイミングでシリウス戦車が吹っ飛ぶ。エディは遠慮無く砲撃を続け、あっという間に5輌を喰っていた。
残されたシリウス戦車は推定で4輌。エディは目を皿にようにして残りを探していた。だが、戦域表示にも戦術情報にも所在地が表示されていない。戦場を走り回って最後の4輌を探していた時、1号車の前方に輪帯が外れて行動不能に陥っているシリウス戦車が映っていた。
「あれじゃ無いでしょうか!」
「中身が生きていれば戦闘は可能だな」
「念の為破壊してお――
ジョニーの言葉が終わる前に戦車の上面へ何かが降り立った。照準用カメラでは無いので解像力の悪い画像でしか無いが、写っている物がなんであるかはわかる。友軍のパワードスーツだ。左の肩部分を蒼く染め黄色の派手な稲妻模様が入っている。
「アンディー!」
エディが叫ぶ。機体をボロボロにしたアンディー中尉は左手を肘から失いながらも戦い続けていた。右手には長さ1メートル少々のリニア加速器が装備されていて、敵戦車の上面装甲部に先端を密着させると蒼白い雷光を放ちながら何かを打ち出した。
「あれがブルーサンダースの名前の由来だ」
「あれは?」
エディは右手をターレの外壁に付いて説明する。
「この距離でリニア駆動のパイルバンカーを作動させ、HEAT弾を撃ち込む奴らだ。戦車抜きで戦車駆逐戦闘を行うゼロ距離射撃戦闘専門の狂気集団さ」
「え? ゼロ距離射撃って……」
「そう。本来は違う意味だが、この場合は対物距離が文字通りゼロって事だ」
アンディー中尉が撃ち込んだHEAT弾によりシリウス戦車が大爆発した。その爆風を受けながら再び空へと舞い上がったアンディー中尉は、イオノクラフト効果を利用した空中散歩を決め、次の獲物を探していた。
「相変わらず無茶するな。貴重なブーステッドの生き残りなのに」
「ブーステッドってなんですか?」
「ちょっと前まで盛んに行われていた技術だ。遺伝子レベルで人間を改造し、過酷なトレーニングと薬物投与でレプリカント並みの強靭な肉体を持つ兵士だ」
エディの説明に言葉を失ったジョニー。
その間にもアンディー中尉は次々とシリウス軍戦闘車両を破壊し続けていた。




