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黒い炎  作者: 陸奥守
第一章 シリウス義勇軍
16/424

突撃命令

 ――――2245年5月1日 1100

      ルドウシティ郊外荒れ地


 坂道を上がりきった装甲車は丘の上に陣取り、蝟集するシリウス軍機甲師団を見下ろしていた。くつわを並べ待機するのはシリウス軍の予備戦力。正面装備となる主力戦車などをニューホライズン全土からかき集めたのだろうけど、力勝負なら能力的に勝る地球連邦軍に部があると言って良い。故に、主力戦車で撃ち漏らした残敵を掃討するのが主任務となる予備戦力たち。

 様々な部隊マークや所属番号が書き込まれていて、その大半は砲塔を搭載する高機動戦車や対戦車ミサイルを装備した装甲車たちだった。正面切って戦車とやりあうには分が悪いから、機動力でカバーしつつチャンスの時に一撃入れる戦い方の集団だった。


 今、501中隊の装甲車は地球連邦軍の横槍部隊として、そのシリウス軍予備戦力に殴り込みを掛けようとしていた。501中隊が半ば強奪するように持って来たM312高機動装甲戦車と同じ型の8輪式装輪装甲車に105ミリ砲を搭載した地球連邦軍の汎用先頭車両が、200両近くも揃っていた。


「ジョニー、覚えておくと良い。戦力は集中的に運用し、一気に投入するから効果が出るんだ。チマチマと様子見で戦力を暫時投入していくのは愚の骨頂だ」


 砲塔部のてっぺんにあるコマンダーシートは、この装甲車で一番視界が良い。そこから上半身を乗り出したままのエディはニヤリと笑っている。そのすぐ下辺りにいるドッドは砲の自動装填機に砲弾の装填順序を打ち込んでいた。遠慮なく榴弾をぶっ放し、敵陣の内部に入ったらHEAT弾で敵の装甲を撃ちぬく算段だ。

 合計で68発持っている砲弾を打ち切ったら荷電粒子砲モードにして、とにかく敵を叩く作戦なのだが、その砲弾順序をアレコレ入れ替えながら、ドッドもまたニヤニヤと笑っていた。


「エディ!」

「なんだ?」


 車内で作戦状況を見ていたロージーがエディを呼んだ。何処か楽しげな言葉にジョニーは連邦軍が優勢である事を祈った。だが、ロージーの口を突いて出る言葉は、少々残念な物だった。


「やっぱ戦いは数だな。連邦軍は総体として順次後退している」

「そうか、損害状況はどうだ?」

連邦軍(こっち)は大破炎上戦闘不能が20パー。満足に戦闘できるのは50パー切った。シリウス(むこう)は大破炎上が40パー近くで戦闘可能車両は35パー程度だ」

「やっよ互角な数字と言うところか」

「そんな訳で」

「で?」

「突撃待機命令が出てるぜ」

「あぁ、俺のところにもそう表示が出た」


 腕を組んで丘から見下ろしているエディ。ジョニーはコマンダーシートの隣にあるナビゲーターシートから頭だけを出して外の様子を見ていた。周囲には同じ型の装甲車がびっしりと並び、壮観な光景を展開している。


「……すげぇ」

「だろ?」


 楽しそうに笑っているエディは周囲をぐるりと見回してから、ジョニーの頭をポンと叩いた。


「戦いは数だ。これは人類が始まってから普遍の定理だ。だけど、数に勝る質もある。性能差が圧倒的なら数に劣っても一方的に勝事だってあるのさ。それをこれから証明する」


 エディの目が前方を見据えた。その時、各車両のエンジンが一斉に唸りを上げ、戦闘モードに切り替わった事がわかった。ハイブリット駆動式の装甲車は各タイヤ部にある超伝導モーターによって鋭い出足を実現しているのだった。


「いくぞ」

「はい!」


 エディはマルコに発車を命じた。丘を下って連邦軍の装甲車が一斉にシリウス軍へと襲い掛かった。側面へ奇襲を受けた形のシリウス軍は大混乱に陥った。一方的な勝利を目指していた連邦軍の攻撃は、とにかく一切容赦の無いものだった。


「ドッド! 逃がすなよ!」

「りょーかい!」


 ゾクゾクと猛烈な発砲炎を吹き出す主砲。その発砲炎が消える都度にどこかしらでシリウス軍の装甲車が燃えていた。最優先攻撃対象は砲塔を搭載した装甲車だ。そして、それを撃破するした後は対戦車ミサイル装備という事になるのだが。


「マルコ! お前の運転に命預けるぞ!」

「まーかせとけって! 地獄のそこまで突っ走ってやらぁ!」

「地獄ならお前が勝手にいけ。俺はゴメンだ」

「またまた~ 冷たいぜ大将!」


 アッハッハッハ!と豪快に笑いながらマルコはアクセルをべた踏みにしてシリウス軍の中を走り回る。大量に並んだ先頭車両の中を走りぬけ裏側へと突き抜けたマルコは、急旋回を決めて再びシリウス軍へと襲い掛かった。


「マルコ! 親玉を探せ!」

「あいよぉ!」


 ドッドの指示にマルコが答え、シリウス軍の中を縦横無尽に走り回る。同士討ちを警戒したシリウス側は発砲を控えているらしく、文字通りの七面鳥撃ち状態になっていた。


「ジョニー!」


 砲塔後部の装填ラック付近で自動装填機のお守りをしていたジョニーは、いきなりエディに声を掛けられた。


「なんでしょうか!」

「運のよさに自信はあるか?」

「まぁ、人並みくらいには」

「そうか、じゃぁそっちから上がれ」


 ナビゲーターシートから身を乗り出したジョニーは恐ろしい光景に言葉を飲み込んだ。次々に燃えているシリウス軍の装甲車と、その周囲で身体が燃えているシリウス軍の兵士たち。そして、その中を我が物顔に走り回る連邦軍の装甲車だ。


「そっちもM2を使って歩兵を片付けろ。特に燃えてる兵士は優先的に楽にしてやれ。全身火傷で死ぬのは相当辛い。それと、燃えた装甲車から飛び出てくる歩兵もな」

「イエッサー!」


 元気良く返答したジョニーはM2のグリップを握り猛然と射撃を開始した。最大射程1500メートルに達する重機関砲の銃弾がシリウス軍兵士を挽肉へと変えていく。次々と攻撃を続けるジョニーも何処か感覚が麻痺し始めた。


「ジョニー! 9時方向!」

「イエッサー!」


 回転するターレとは別にM2のガンマウントはハッチの周囲を旋回できる。炎上する装甲車から飛び出てくる兵士を次々と打ち続けるジョニーは、15名ほど挽肉に変えた後で『アッ!』と短く声を上げた。


「どうした?」

「……女でした」


 射撃を止めて呆然とするジョニー。そんなジョニーの足をドッドが蹴った。


「シリウス軍には良くあるんだ! ボケッとすんな! こっちが撃たれるぞ!」」


 ドッドの怒声に殴られハッと我に帰ったジョニーは、再び遠慮なく射撃を開始した。だが、どこかビクビクとした姿にエディが怪訝な顔をする。


「ジョニー」

「はい!」

「それじゃ……


 エディが何かを言おうとしたその時、ジョニーは背中に強い衝撃を感じた。まるで大きなボールでもぶつかったかのような強い衝撃だ。背中と言わず後頭部と言わず激しい痛みを感じ、その圧力で前へかがんでヘルメットをM2のグリップ部へと強打した。ヘルメットが無ければ即死も有り得たんじゃないかと言う勢いだった。


「いてぇ……」


 振り返ったジョニーが見たモノは、対戦車ロケットランチャーを構えたシリウス軍の女性兵士だった。射抜くような敵意しかない眼差しでこっちを見ているその女性は、ランチャーを回転させて次の砲弾を用意していた。


「迷うな! 躊躇うな! 考えるな!」


 エディの叫び声で意識が覚醒したジョニーはM2をぐるりと回転させて女性兵士へ銃身を向けた。双方の表情が引きつる中、ジョニーは僅かに早く引き金を引く。音速を軽く超える銃弾が銃身を飛び出し、空中を流れていくのがジョニーにも見えた。極限の集中力が見せる、一時的な時間圧縮を体感した。

 だが、それから僅かに遅れて女性兵士の構えていたランチャーが火を噴いた。攻撃されたと思ったジョニーはグッと奥歯をかんだ。だが、その打ち出されたロケット弾が突然大爆発し、爆風で女性兵士が吹っ飛んだ。発車された直後のロケット弾にM2の銃弾が当たったのだろうかとジョニーは考えた。

 ロケット弾の爆発圧をまともに受けた助成兵士の身体がザクロの様に裂け、その内部から真っ白い液体が大量に吐き出された。それでも死にきっていない女性兵士は恨みがましい目でジョニーを見ていた。


「レプリカントだ! 迷うな!」


 再びジョニーは怒鳴りつけられた。エディの声には不自然な緊張があった。迷う事無くガンガンと銃弾を打ち込み、女性型のレプリカントは動かなくなっていた。


「ボヤボヤするなジョニー! 敵は目の前だ! 死にたいのか!」


 何時にも増して厳しい言葉のエディが怒鳴り続ける。そんな中、ジョニーは無我夢中で打ち続けている。シリウス軍の予備戦力だった装甲車隊はそのほとんどが炎上していて、そんな中を連邦軍の戦闘車両が走り回り生き残りを探していた。


「マルコ! 油断するなよ!」

「へい親分!」

「まだイベントがありそ――


 何かを言い掛けたエディの言葉を遮るように、すぐ近くを走っていた連邦軍の装甲車が突然大爆発した。破片が大量に飛び散って、ジョニーやエディの頭上に降り注いだ。


「ウソだろ! 勘弁しろ!」


 照準手のドッドが叫んだ。

 辺りを確かめたジョニーはまだ理由が解らないでいた。


「マルコ! 引き潮だ! 上手く交わして丘の陰沿いに脱出しろ!」


 エディはすでに気が付いている。ジョニーはその事実に驚く。

 だが、すぐ隣にいた車両が再び大爆発し、間違いなく攻撃を受けている事だけはわかった。その攻撃拠点が全く想像できないのだ。


「どこから撃たれているんですか!」


 ナビゲーターシートで叫んだジョニーは攻撃目標を探した。

 だが、その問いに答えたエディの言葉は『絶望』しか感じられなかった。


「4000メートル向こうからシリウス軍の戦車が撃って来ている。シリウス軍の機甲師団は戦力を二つに分けて、こっちを生かして帰さない腹だ」

「じゃぁ、連邦の戦車は全滅ですか?」

「いや、こっちの戦車はむしろ優勢だ。だから、シリウス側の指揮官は総体としてこっちの戦力を削る事を選択したのさ。戦術的には負け戦だから戦略的勝利を目指したって事だ」

「それってつまりなんですか?」

「生き残ったら教えてやる。まずは敵をとにかく撃破しろ!」

「……いっ イエッサー!」


 メクラ撃ちになりつつあるジョニーはシリウス歩兵をとにかく打ち続けた。撃って撃って撃ちまくっている最中、至近距離からなら装甲車の外壁を打ち抜ける事をジョニーは発見した。

 兵員輸送車などではなく装甲車なのだからそれなりに装甲があるはずだ。だが、その外壁ですら簡単に打ち抜いていると言う事は、装甲が小銃相手程度しか役に立ってないのだと気が付く。そして、シリウス軍戦車の主砲から逃れる為に走っていた装甲車は完全に丘の陰に入った。

 ここなら戦車の主砲で打たれる心配は無い。そうジョニーが安堵した瞬間、車内に空襲警戒アラームが鳴り響く。


「マルコ!」

「へい! わかってやすって!」


 エディの怒声にヘラヘラと返答したマルコは、再びハンドルを切って大きくUターンをキメ、再び丘の陰から飛び出した。大きく迂回してシリウス軍装甲車郡の中へと飛び込んでいく501中隊。そこへ甲高い音を立てて何かが降ってきた。


「シリウスのクソども自棄おこしやがった!」


 マルコが半狂乱で叫んだ。それと同時にエディは無我夢中でM2をぶっ放していたジョニーの頭を叩いた。驚いて振り返ったジョニーは、恐ろしい形相で自分を睨みつけるエディを見て小便を漏らしそうになる。今までこんな恐ろしい表情のエディを見た事が無かっただけに、その衝撃は凄まじかった。


「ジョニー! 今すぐ引っ込め!」

「イエッサー!」


 返答と同時に車内へと入ったジョニー。エディもコマンダーシートを下げてハッチを閉め内側からロックを掛けた。その直後、頭上に激しい騒音と振動が降り注ぎ、ドッドの見ていた360度モニターが次々と表示を消してしまった。


「クソッ! シリウスの野郎どもめ!」


 車内の明かりがフッと消え、同時に非常照明の赤い光が車内に灯った。


「各部チェック! 急げ!」


 エディの金切り声に全員が作業を手分けしてチェックを始める。

 何が起きたのか理解できないジョニーだが、少なくとも直撃弾かそれに近いダメージを受けたと言うのはすぐにわかった。


「運転系統、操縦系統、パワーパック等異常なし。走行に支障なし。パンクなし」


 運転系統を受け持つマルコはそう叫びながらも、前方監視モニターが使えないのでキューポラから外の様子を見て走り続けた。戦闘中に停車するのは一番の悪手なのだから、とにかく止まらない事が大事なのだった。


「通信系等にとりあえず支障なし。衛星回線正常、戦術支援モニター、作戦進行状況モニター問題なし。近隣車両間戦域無線正常。前線本部回線問題なし」


 通信状況を管理していたロージーもオーケーを出した。戦闘継続に支障はないという言葉だ。


「自動照準機沈黙。手動照準モードは機能しています。360度モニターのうち、後方以外は消灯。車外のカメラをやられたんだと思うんだが、確認できない。スモークグレネードやSマイン発射機は問題なし。車外のM2機銃は遠隔操作に反応がないので損傷したと思われる。まぁ、何とかなるな」


 戦闘オペレーターのドッドはやや困った声だった。だが、戦闘継続が可能であるなら戦闘を中断する必要は無い。そんな気迫に満ちた姿のドッドをジョニーは斜め後方から見ていた。そして自分の番がきた事をしる。


「自動装填機の作動モードは全部使えますが、相変わらず揚弾装置に誤差がありますからお守りが必要です。弾薬庫の自動開閉器は問題なく作動中。全部ちゃんと動きます」


 ジョニーの言葉に少しだけ頷いたエディは渋い声音で言う。


「501中隊の全車は無事か?」


 最初に返答が帰ってきたのは4号車だった。


「4号車戦闘可能」

「3号車も戦闘可能だ。ガンガンいけるぜ」

「2号車。装填手のクイックが昏倒して軽症。戦闘継続は可能です」


 中隊は問題ない。そう判断したエディは前線本部に問題無しを報告する。その脇でジョニーはすがる様にロージーを見ていた。


「……ヘッキーのオルガンさ」

「オルガン?」

「カチューシャだよ。多連装ロケット砲だ。誘導なしのロケット花火をまとめてぶっ放す奴だ。なんせ『大体この辺り』くらいしか照準をつけらんねーしろもんだから、まとめてぶっ放すしかねぇ。一発辺りの威力は低いが、まとめて降ってくりゃ話は変わってくるし、装甲の弱い車両は簡単に吹っ飛ばせるってモンよ」


 唖然と話を聞いているジョニー。

 ロージーはニヤニヤと笑いながら話を続けていた。


「俺たちを逃がさねぇように戦車でバリバリ撃っておいて、そのまま今度はシリウスの装甲車がガッツリ固まってる所目掛けてロケット砲を打ち込んだ。つまり、奴らは仕切り直しをするって腹だ。連邦側は地球から運び込むかサザンクロスで組み立てるしかねぇけど、シリウス側はニューホライズン全土で生産できるし運んで来れば良いだけの話ってこった」


 何処か呆然として話を聞いているジョニーはアウアウと顎を振るわせた。

 目は宙を泳ぎ、あまりの衝撃に言葉を失っていたのだが。


「……つまり、シリウス軍にとって兵士は消耗品って事ですか?」

「そうだ。その通りだ。大半がレプリカントだろうけど、その中にはまぎれもなくちゃんとした人間だっているはずだ。でも、大半がレプリカントだろうな。そんで、シリウス軍の本部にとっちゃ、兵器と同じくレプリも消耗品ってこった」

「消耗品?」

「生き残ったレプリを再編して別の部隊へ送り込んだとき、本部が自分たちごと殺そうとしたってレプリが言いふらすと面倒だろ?」


 ロージーの目には怒りがあった。レプリに対するあまりに非人道的な扱いを怒っているのだとジョニーは気づく。そして……


「じゃぁ連邦軍は……」

「レプリの開放を目指している。まぁ、開放と言うより新規製作の禁止ってこったけどな。そもそもシリウスにおけるレプリカントってのは最初から消耗品だったんだよ。だけどな、余りにもそれじゃ可哀想だ、非人道的だって騒いだ奴がいてな」

「それはなんですか?」

「ヘカトンケイル自身さ」

「……うそだろ」


 両手を握り締めて怒りに震えるジョニー。だが、そんなジョニーへエディが言葉を掛けた。


「怒るのは結構だが任務を果たせ。まずはここを脱出する」

「イエッサー」


 エディの指示でマルコは再び丘の側を目指した。斜面を上がり始めると同時にドッドは砲塔を後部へと廻し、送り狼になりそうなシリウス側の戦闘車両を攻撃し始める。そんなタイミングで再びカチューシャが降り注いだ。連邦側の戦闘車両が殆どいなくなったシリウス側陣地に次々とロケット砲弾が降り注ぐ。


「おいおい! シリウス側の無線が酷い事になってるぜ!」


 ロージーは何が面白いのか、ケタケタと笑い出した。


「なんて言ってるのさ!」


 手動照準で射撃を続けるドッドは、遠距離砲撃ながら次々とシリウスの車両を撃破している。弾着距離3000メートルに達するはずだが、正確無比な砲撃でシリウスの装甲車は殆どがスクラップになっていた。

 そして、不幸にも生き残ったレプリカントたちが車外へ出た所へロケット砲弾が降り注ぎ、次々とレプリのバラ焼き状態になっていた。


「要するに、予備戦力側のレプリ指揮官がカチューシャ指揮官捕まえて激昂してる状況だ。照準を外すから座標を言えって喚いてるが、相対座標にするからそっちの座標を言えって怒鳴りあってる。ほっときゃ同士討ちだな」


 ゲラゲラと笑い出した1号車のクルーたち。エディは戦況モニターを見ながら何かを調整し、そしてマルコを呼んだ。


「マルコ! レプリカントたちの恨みを晴らしてやろう」

「へい!」


 装甲車は急ハンドルを切って丘を斜めに横切った。そして、主砲射程にカチューシャの発射点を捉える。ドッドは主砲の砲弾を変更し、榴弾を選択して自動装填させた。その動きを見ながら、ジョニーは自動装填機に問題がない事を確かめる。


「エディ! やって良いか?」

「あぁ。ジャンジャンやれ」


 ドッドはイッヒッヒと気色悪い笑い声で照準を取ったあと、大きな声で叫びつつ発射ペダルを踏みつけた。


「ハバナイスデー!」


 1号車に続き、2号車3号車4号車も一斉に砲撃を開始した。それだけでなく、501中隊の動きを読んで意図を理解した他の隊に所属する車両も砲撃を開始している。

 凄まじい勢いで打ち込まれる榴弾によりカチューシャの発射陣地がえらい事になり始めたのだが、ドッドは一切手を休めていない。


「残り12発だが全部行くぜ?」

「あぁ。在庫一層セールだ。榴弾がなくなったら信号弾でも何でも全部打ち込め」

「りょーかい!」


 平均して1分間に12~14発を射撃可能な主砲であるからして、おそらく1分か2分ほどで射撃は停止するであろうと思われていた。だが、ドッドはその射撃間隔をわざと広めに取り、各車の着弾状況を見極めながら効果の薄いところを狙って撃ち続けている。それでもおよそ10分ほどで在庫終了となってしまい、装甲車も随分と軽くなったような気配だった。


「エディ! 看板だ! どうする?」


 ドッドの声にエディは一瞬思案した。戦闘支援モニターには501中隊各車の砲弾在庫状況が示されている。ジョニーがお守りをしていた1号車は砲弾庫の中まで空っぽで、それは他の車両も同じだった。


ガーダー(前線本部)! ガーダー! こちら5011! 砲弾が看板だ! 荷電粒子砲としてはおそらく20~30発程度が射撃可能と思われるが、どうする?」


 本部に状況を問い合わせたエディ。戦線指揮官から見たら、まだ必要な場所があるかもしれない。戦闘できるなら戦線に留まる。それこそがもっとも必要な事でもあるのだ。

 何処かで孤立している友軍があれば、それを救助に行くのも必要だろうし、リスクを犯しても救援に向かっておけば、自分たちの窮地に助けに来てくれるかもしれない。お互い様の精神こそが前線を支える根幹でもあり、また、兵士たちの信頼の根幹でもある。


「501中隊! 状況を掌握した。ビームカノンモードで主力戦車隊の支援に当たってもらいたい。シリウス軍戦車と死闘中だが、五分五分の状況だ。側面から突入し、シリウス側を混乱させろ」


 前線本部の非情な通達にドッドやマルコは引きつっていた。

 だが、エディだけはニコニコと笑いながらジョニーの背を叩いた。


「良かったなジョニー! お前にも勲章が出るぞ!」

「勲章ですか?」

「そうだ。今回はすでに20輌以上撃破している。敢闘勲章をシリウス義勇軍兵士が貰うのは稀だからな」


 作戦進行状況モニターへ何事かを書き込んだエディは車内で明後日の方向を指差した。


「マルコ! 戦闘座標表示に従って走れ! 味方の戦車を支援する!」

「……マジか?」

「当たり前だ!」


 ニヤリと笑ったエディはマイクを取って中隊無線の中へ叫んだ。


「俺だ! 全車に通達! もう一働きするぞ!」

「こちら2号車。地獄の底まで付いていきます」

「3号車了解!」

「こちら4号車、ドゥバンが腹減ったって文句言ってるが了解した!」


 ハッハッハと一笑いしたエディが再び叫ぶ。


「この戦闘が終わったら野戦炊飯中隊のレストランに行って俺が全員にたらふく奢ってやる。それまで頑張れ! 勝手に死ぬんじゃないぞ!」


 再びエンジンが唸りを上げ装甲車が加速した。

 この戦闘で二回目のザワザワとする悪寒を感じながら、ジョニーはモニターを見つめていた。

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