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黒い炎  作者: 陸奥守
第六章 ブローバック計画
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再び遭遇

おかげさまで快復しました

~承前






 レーダーパネルに映る高機動型シェルは12機。

 テッドは腹をくくってエンジン推力を最大へと持っていった。

 スレ違いザマの一撃では、砲弾が蒸発してしまうのを経験済みだ。


「他の隊の支援は意味が無いだろう 我々だけでなんとかするぞ!」


 勇猛果敢な言葉を吐いてエディは加速を開始した。

 ウッディが予想したとおり、少数突破を旨とする勇敢な突撃戦闘だ。


「カプセルの収容先が無ければ良いってか?」

「コロニーに被害を出さなきゃ良いって割り切ってるな」


 マイクとアレックスはそんな分析をした。

 敵同士の契約とも言える条約にマナーは介在しない。

 書いてある事はしないし、()()()()()()()()()()()()()だ。


「空っぽの輸送船を重点的に護ろう」


 ウッディの深い読みはこんな時に役に立つ。

 それに感心しつつも、テッドは自分の仕事に精を出す事にした。


 可能性的にリディアが居る事が予想される。

 恐らくはドクターストップだのと言った人道的配慮など皆無だろう。


 ――デートしようぜ!


 まだ若い男の妙なテンションがテッドを逸らせる。

 ただ、そんなテンションがスッとひけてしまい、テッドは目を見開いた。

 あの高機動型シェルの速度が秒速60キロに達しているのだ。


 ――うそだろ?


 背中に強力なブースターを取り付けたビゲンは、遂に秒速50キロを越える速度を手に入れた筈だった。だが、あの高機動型シェルはそれを更に上回ってきた。


「機体に余裕があるってのは羨ましい物だな!」


 開発の現場を知っているオーリスはそんな事をぼやく。

 それに反応するのは、やはりそっちの業界に明るいステンマルクだ。


「能力向上の余地は必ず取っておかないとな」


 エンジンが放つ眩いほどの光は、熱核ジェットでは無く核ジェットその物だ。

 小規模な核爆発を連続制御して連鎖させ、その力を利用して飛んでいる。

 従来のシリウス兵器には無かった物だが……


「しかし、あの技術を何処で手に入れたんだろうな?」


 あのエンジンは連邦軍でも一部の艦艇にしか無い特殊なエンジンだった。

 大気圏外で使われるイオンエンジンよりも強力で瞬発力に優れる物だ。

 その開発には高い技術力を必要とし、なにより、トライアンドエラーを繰り返すだけの時間的投資が必要なはずだ。


「案外さぁ……」


 こういう時には若い存在の柔軟な発想が役に立つ。

 ウッディの思い描いたシリウスの入手方法は、ある意味で単純だ。


「あぁ。拿捕したり接収したりした船からのパクリかもな……」


 ディージョもそんな事を言った。

 ぱくった技術故にいきなりの大型エンジンは難しい。

 例しに小型のエンジンを作って様子を見よう。


 ただ、作っただけじゃもったいないから、見合うサイズの機体に積もう。

 そんな思考的フローで導き出された物こそが、あのシェルかも知れない。


 大型の機体で収容力的に余裕が有り、そもそもシェル的戦闘を考慮していない。

 格闘戦などの汎用機体では無く、高速で一撃離脱を旨とする用兵思想の兵器。

 そんな機体ならば実験エンジンを積むには最適だし……


「もしかしたら、あのシェルはあのエンジンを前提に……」


 テッドはそんな言葉を漏らした。

 以前積んでいた強力なイオンエンジンは、常識を越える機動性を手に入れた機体にパイロットを慣れさせる為の、謂わば準備段階だったのかも知れない。

 あの化け物のようなエンジンを積み、艦艇攻撃に役立つ荷電粒子砲を搭載し、遠距離から高速で飛来して一撃を加え、必要な戦果を得て帰投する。


「そう言えば、シリウスシェルが前に自力でコロニーまで来てたよな」


 速度が乗ってきてコロニーをグングン離れるステンマルクは、以前やって来たシリウスシェルを思い出していた。各部に強力なエンジンを積んだ機体で、コロニーまでの長距離侵攻を可能とする機体に仕上がっていた。


「あれってコレに向けた準備だったのかもな」


 ジャンもそれに思い至ったようだ。

 そしてそれは、必要な結果の為だけに脇目もふらず、ただただ愚直な努力をするシリウスの真骨頂かもしれない。もしパイロットが息絶えても、それは必要な犠牲だったと割り切れる社会システムの存在だ。


「さぁ、おしゃべりの時間は終わりだ」


 エディはギュッと手綱を締めた。

 無線の中がスッと静かになり、戦域情報図の上に輝く点だけが立体的な機動を描いていた。その点は大きく散開するように分散していき、コロニーを多い包むように広がっていった。


「……これ! ヤベェだろ!」


 最初に気が付いたのはディージョだった。

 それが何を意味するのか、テッドも直後に理解した。


 展開するシリウスシェルのなかに、3機だけ真っ直ぐ突っ込んでくる機体が存在していて、それぞれのシェルを線で繋ぐと、複雑な形状をした正四面体の集合体が浮かび上がった。


「ワープ兵器だ!」


 誰がか叫んだ。

 全く同時に501中隊のシェルが全て、包囲を脱出する方向で舵を切った。

 正四面体の中に居れば間違い無くワープ兵器が来ると全員が思った。

 何度もやり合っているからこそ分かる、シリウスの手順だ。


「一辺が20キロはあるぞ、これ!」


 どんな時にもデータを解析するのを忘れないアレックス。

 その声を聞きながら、テッドは流石だと唸った。

 ただ、同時にマイクの声も響き、コレもコレで流石だと言わざるを得なかった。


「とにかく脱出だ!」


 最短距離でその四面体範囲から逃げ切ったテッド。

 思わずブースターに火を付けそうになって、ギリギリで堪えた。

 これは最後の切り札なのだから、勝負の時まで取っておくのが吉だ。


「やべっす!」


 ロニーが叫んだ。

 ここしばらくは少し大人になったらしく静かだったのだが、中身は変わっていなかった。ただ、そんな事などどうでも良いと言わざるを得ない事象が発生した。


「核兵器だ!」


 ワープ転送されてきた炸裂弾頭は核兵器だった。

 まだ空っぽな輸送船の辺りにもそれは転送されてきて、一撃で輸送船を木っ端微塵にしてしまっていた。

 幾つも作られた四面体のなかで次々と核爆発が発生し、三次元的な絨毯爆撃がコロニー周辺に展開する艦艇を嘗め尽くし、破壊尽くしていった。


「……なんて奴らだ!」


 多少はカプセルを積み込んである輸送船までも破壊したシェルは、直接的な戦闘を行わずにコロニー軌道を通り抜け、速度を維持したまま逃げ切る方向で直進していった。もはやアレに追いつくには、外宇宙向け艦艇の超光速飛行しか無い。


「艦艇にも一撃離脱攻撃って効くんだな」


 感心したように呟いたウッディは、己の読みの甘さを知った。

 こっちの予測を軽く踏み越えてくる凶手を、シリウスは平気で行ってきた。


 ただ……


「反転してねぇか?」


 広域戦闘情報に浮かび上がったシリウスシェルの動きは、全員に戦慄を呼び起こさせる物だ。

 遠く400キロ近くの彼方まで飛び去ったシリウスシェルは、半径数百キロ単位の大きな旋回を決めてターンオーバーし、再び突入軌道を取り始めた。


 ――マジかよ……


 ゾッとするような寒気を感じ、テッドはモニターに釘付けになった。

 その速度は全く衰えてなく、一気に突入を図るコースでやって来た。


「迎撃砲撃くるぞ!」


 おそらくはエディの声だ。

 誰の声だか、何がなんだか、その全てが混乱の最中で各艦艇が砲撃を始めた。

 ウッディの発案で待ち構えていたのは501中隊だけではなかったのだ。


 各艦艇の火器管制担当は、実体弾頭ではなく荷電粒子砲を使い始めた。

 艦船搭載砲の威力なら、あのシェルを撃破出来る筈だ。


「あれなら追いつけるな……」


 強力なビーム兵器を発砲後にかわすなど、ドラマか漫画の中の出来事だ。

 ほぼ光速でやってくる荷電粒子の塊をかわす事など不可能なことだ。


 ただ、どれ程正確に狙っても敵は数十キロ数百キロの彼方にいる。ミクロン単位で砲身の制御を行ったとて、船体自体の振動などにより中々当るモノではない。

 数十隻の艦艇による連動収束射撃(レイドモードファイヤ)が開始され、その光束は一筋の帯状になり一点を狙っていた。ど真ん中目掛けて突入してくるシェル目掛けてだ。


「頼むぜ!」


 ヴァルターの声が震えた。

 どんな手段を使っても、シェルで迎撃する事は不可能だと結論付けていた。


 全員が固唾を呑んで見守る中、荷電粒子の強力な矢じりは、幾多の帯となって襲い掛かっていく。その光束の中に飛び込んでしまったシリウスシェルは、とんでもない大爆発を起こした。文字通りに木っ端微塵となるほどに炸裂したのだ。


「やっと一機!」


 突入してきた12機の内、ど真ん中を飛んでいた一機が失われた。

 これで正四面体は作れないと思いきや、その点を失った直後に編隊が組み替えられて、その穴が一瞬のうちに埋まってしまった。


「見事な連携だな」


 感心するように呟いたエディ。

 敵機は消耗するのを前提に突入してきていた。


 ――なんて奴らだ


 言葉を失って成り行きを眺めていたテッド。

 シリウスのシェルは荷電粒子砲を乱射しながら突っ込んできた。501中隊のシェルに構う事無く、ワープ兵器で打ち漏らした大型輸送船などの輸送手段を確実に狙っていた。


「チキショウ!」


 マイクの怒声が漏れた。

 夥しい量のコンテナを運んでいたランチが直撃を受け爆散した。睡眠カプセルを搭載していたコンテナがばら撒かれ、そこに荷電粒子砲が降り注いだ。光の帯が通り過ぎたそこには、コンテナの姿が無かった。


 ――追いつくか?


 テッドは一気に返信してエンジンを全開にし、後方から浅い角度で軌道を交差させる進路を取った。シリウスシェルのほうが速いのだから、その通過直後辺りを交差する機動の筈だ。

 速度計の針が踊り狂い、速度は40キロに手が届き始めた。ただ、シリウスシェルの速度は、この50%増しと言う冗談のような数字だ。それでもテッドには勝算があった。生理現象として、超高速状態の時にある人間の目は正面以外の解像力が殆ど無くなってしまう筈だと思ったのだ。


 ――これはサイボーグのほうが有利だぜ……


 もはや理屈や理論の介在する余地はない。

 単純に気合いと根性と、そして度胸だ。


 グングンと迫っていってシリウスシェルと軌道を交差させ、テッドはレールガンを放った。初速として秒速22キロなのだから、秒速40キロで放てば敵機には秒速2キロ程度で当たる筈だ。


「どうだ!」


 テッドの放った砲弾はシリウスシェルのエンジンを叩いた。

 装甲の弱いところならば一撃の威力だ。


 だが、何事もなかったかのようにシリウスシェルは飛び去った。

 些事に構わずと言わんばかりの姿だ。


「本格的に化け物だせ!」


 悔しさに歯軋りするテッドはシェルのインパネを叩いた。

 まさかエンジンマウント周りまで重装甲だとは思わなかった。

 とにかく機体のすべてに隙の無い構造で仕上げられている。


 その姿は『無敵』という言葉を思い起こさせた。


「隙の無い機体だな」


 感心するように言うエディは、呆れたような口調でもある。

 だが、感心してばかりも居られないのも事実だ。

 荷電粒子砲の一撃をうけた輸送船などの船舶は、次々と機能を失っている。


「後ろから撃たれてアレかよ……」

「つくづく化け物だ」


 ディージョもウッディも呆れたように言葉を漏らす。

 とにかく頑丈なその構造は、まるで空翔ぶ金庫だ。

 だが……


「おい! あれ!」


 飛び去ったシリウスシェルは進路を変える事なく、まっすぐに進んでいた。

 テッドの一撃は撃破こそしなかったものの、ジンバル機構を壊したらしい。

 旋回出来ねばどれ程高速でも意味がないのだ。


「やったなテッド!」


 祝福するように叫んだヴァルターの声は明るい。

 撃破出来ないまでもダメージを与えられたのは大きいのだ。


「倒せないなら追っ払えだな!」


 明るい声で笑うアレックスは、散開していた進路を大きく変針しさせた。

 突っ込んできたシリウスシェルが再び多く旋回しているのだ。


 皆がテッドと同じようなコースを取ろうと仕掛けている最中、遠くへ飛び去っていったシリウスシェルは、遠く離れた辺りで仲間のシェルと衝突した。


「おいおい……」

「なんだよあれ」


 オーリスやウッディが声を上げて笑うなか、空中接触した2機のシェルは巨大な曲線を描き旋回し始めた。接触で破壊されるのかと思いきや、浅い角度で当たったらしい。構造体は禄に傷ついてなく、再び突入進路を取った2機のシェルは、距離を取って突っ込んできた。


「おいおい!」

「あくまで戦闘あるのみかよ!」


 テッドとヴァルターが叫んだ直後、再びシリウスシェルは荷電粒子砲を放ちながら突っ込んできた。ただ、変針不能な以上は完全な一本道での突入だ。


「カモ撃ちとは言うが……」

「ありゃカモなんかじゃねぇ!」


 エディの言葉にマイクが返す。

 ただ、中隊全員がテッドの同じ事を狙い始めた。

 倒せないなら追っ払うしか無い。


「一気に追い払おう」


 エディも進路を決めて加速を開始したその刹那、コロニー周辺艦艇からの猛烈な砲撃が再開された。全て焼き払ってやると言わんばかりの猛烈な攻撃だった。

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