刻無
私はこれから話そうと思う。
あそこで起こった不思議な出来事を……
もう辺りは暗くなって月が出ていた。今夜は新月…。
「今,何時だろう。」
私の名前は柏木 刻無 15歳 中学三年生である。
本来なら受験生である私は家で勉強をしているはずである。
しかし私がいるのは町はずれの森,しかも手ぶらだ。
何故こんなことになっているのか,と言うと…
私には小学校2年生になる弟がいる。名前は直人。
母がパートで夕方まで働いているため直人は学校で遊んでいる。
私の中学校と直人の小学校が隣のため,私が直人を迎えに行って一緒に帰る。
これが私の日課。お陰で私は多少の遊ぶ時間もない。
受験生にだって少しくらい遊ぶ時間が欲しい。しかしこんなことを母に言おうものなら
「あなたはお姉ちゃんなんだから。」
といったお叱りを受ける始末。
こんなことが積み重なっていき,今日,ついに母と喧嘩をし家を飛び出したのだ。
「はぁ~。お金とか持っとけば良かったな~。お腹は減ってないけど。」
9月の始めとはいえ,さすがによるは冷える!
更に,勢いで森に入ってしまったため月の明かり以外に光が全くなく気味が悪い。
よく考えてみると小学校3・4年生の頃に遊びに来て以来である。
「失敗したな―帰り道分かんないや。雨とか降ったらどうしよう。
あ―もう!この森に来るんじゃなかった!!……でもここならしばらくお母さんに会わなくてすむか。」
私はその場に座り込んだ。
この先のことを考えてもまとまらないし気が遠くなりそうだ。
「誰かいないの――!」
誰もいるはず無いのにこんなことを叫んでしまった。誰もいるはず無いのに…。
くすくす…… くすくす……
森の奥から子供らしき笑い声が聞こえてきた。
最初は空耳かと思ったけど違った。
まるで…まるでこっちへおいでと言わんばかりに声は遠ざかっていく。
思わず私は声を追って走り出していた。
しばらく走ると横穴のような岩があった。笑い声はその中から聞こえてくる。
中は真っ暗。かなり不気味だ。
しかし,声が気になったので思い切って入ってみた。
中は湿っていて滑りやすくなっていた。サンダルじゃなくて良かった。でも‥‥
一瞬人影が見えたものだから走ろうとして踏み込んだもんだから滑って頭をぶつけて気を失ってしまった。
どの位気を失っていたのか分からないけど,気が付くと私は出口に近いところで倒れていた。
どうやら滑ってここまで来てしまったらしい。
穴から出ると直ぐ横に灯籠が立ててあった。
「あれ?こんなのあったっけ?」
よく考えてみると,今自分が出て来た横穴も記憶にない。
とりあえず灯籠に立ててあったたいまつを一本お借りして周りを見てみたが,
声も聞こえなくなったし,なんだか気味が悪いので戻ろうと思ったら‥‥
来た道が無くなっていた。
「うそ‥‥どうして‥‥。」
何度も見回してきてみたけどやっぱりさっきまでここにあったはずの穴が無くなっていた。
もしかしたら間違えたのかも,そう自分に言い聞かせてもう一度たいまつを持って辺りを探してみた。
なんだか探せば探すほど帰れなくなるような気がしてきた。その時…
上からガサッっという音と共に槍を持った人が飛び降りてきた。
「うわぁ!びっくりした。あの―すいません、森の外に出るにはどうしたらいいんですか?」
その人は下を向いたまま何も喋らずにいる。聞こえてないのかな?なんだか変な人‥‥。
「あの―!私道に迷っちゃって帰りたいんですけど――」
そう言った次の瞬間,その人物は顔を上げた。顔には不気味な仮面を付けていた。
その顔には驚いたが私に向かって持っていた槍を振り下ろしてきたのにはもっと驚いた。
殺される‥‥そう思い夢中になって走った。仮面の主は追いかけてくる。
恐くて後ろは見られない。ただ後ろから足音だけが聞こえてくる。
走り続けて行くと目の前に村の門のような物が見えてきた。
助かった!あの村で助けを求めよう!そう思ったが,何故こんな所に村が……
もともと運動はあまり得意ではない私が考え事をしながらしっかり走れるはずがなかった,
当然のように私は転んだ。
「いたたたた」
立ち上がって逃げなければ。しかし体は恐怖のあまり言うことを聞かない。仮面の主はどんどん近づいてくる
もうだめだ,そう思ったその時…
「うりゃ!」
と吼えながら茂みから人が飛び出してきて仮面の主に蹴りを一発。
私は唖然。よく見ると飛び出してきたのは7・8歳位の少年だった。
「こっちだよ!」
仮面の主が怯んだスキに少年は私の手を引いて村の方へと走った。
村には行って振り返ると仮面の主は消えていた。
「姉ちゃん大丈夫?」
少年は心配そうに私を見つめた。
「大丈夫だよ。ありがとう,助けてくれて。」
こう言ったら少年は嬉しそうに笑った。なんだか直人みたいだ。
「兄ちゃ―ん!大丈夫だった―!?」
村の奥のはうから小さな男の子が走って来た。この子の弟なのかな?
「おう大丈夫だ。またあの仮面野郎でやがったから追っ払ってやった。」
「さっすが兄ちゃん!」
小さい男の子は私をじぃ―っと見て,にかっと笑い
「よろしく!新入りの姉ちゃん!」
と言った。『新入り』という言葉に疑問を感じたがとりあえず
「よろしくね。」
と言って笑って見せた。
しばらくして家の中から,わらわらと子供たちが出て来た。
私と同い年くらいの子・幼稚園くらいの子・小学生くらいの子とたくさんの子供がいた。あれ……。
「ねぇ,大人はいないの?」
そう言うとみんなこわばった顔になった。
「ここには大人なんていないよ。大人は九日に一度,それも月の出た日にしか来ないんだ。
だからここは子供だけの村…。」
私と年の近そうな子がそう言った。なんだか悲しそうな顔だ。
「ねぇねぇ,お姉ちゃん。遊ぼうよ。」
別の小さい女の子が服をひっぱりながら話しかけてきた。
考えてみれば今まで勉強に手伝いにと,遊んだ記憶がない。たまには生き抜きも必要だよね!
「いいわよ。でももう暗いから明日からね。」
「うん!」
私は女の子がたくさんいる家で眠った。
こうして私はしばらくこの村にいることにしたんだけど,この村は不思議なことばかり!
(と言うかこの辺に村があるってだけで不思議なんだけどね。)
次の日,この村にいる子供の人数とみんなの名前をを聞いたら,人数は17人(これは別に不思議じゃないんだけど)
名前はみんな口をそろえて
「忘れちゃった」
っていうの!そんなおかしなことがあるのだろうか?しかしみんなふざけている様子はない。
だから呼び方も“チビ”とか“メガネの兄ちゃん”とか“おさげの姉ちゃん”とか特徴で呼び合っていた。
更に2・3日すると‥‥子供たちは成長したり退化したりしていったのだ。
昨日まで幼稚園くらいだった子が小学3年生くらいになっていたり,中学生くらいだった子が小学2年生位になったりと。
私には何の変化もないのに…あの時私を助けてくれた少年は成長し中学生くらいになっていた。
性格もまるで道化師のようになっていてどこから持ってきたのかピエロみたいなお面を付け外しして子供たちを笑わせていた。
それを見ているとなんだか悲しくなってきた,取り残されているみたいだ…。
その後も子供たちは成長・退化を繰り返していった。
もちろん私には何の変化もない。
そして私がこの村に来て九日後の月の出た夜,馬の走るような音が聞こえたと思ったら4台の馬車がやってきた。
馬車から降りてきたのは黒いシルクハットに黒い紳士服を着たひげを生やした小太りな背の低い男だった。
男は馬車に子供たちを乗せた。子供たちはどんどん馬車に乗り込んでいく。
私はどうしたらよいのか分からず,その場に立ちつくしていた。不意に男と目があった。
すると男はニャッと笑って手招きをした。不思議と逆らう気にもならず私も馬車に乗り込んだ。
馬車は静かに走り出した。内心『今どき馬車!?』と思ったけど今までのことを考えるとたいして不思議じゃなかった
不思議と言えば,この間から何かが引っかかっているような気が‥‥
ヒヒ―――ン
馬の鳴き声と共に馬車が止まった。考え事をしていたからどれだけ走ったのか分からなかった。
馬車から降りてみてみると,森から出ていて大きな建物がそびえ立っていた。
「何…これ…?」
「僕らの遊び場!」
そう言うと私の側にいた小さな少年は私の手を引いて中に入った。
そう言えばさっきの大人たちはどこに行ったんだろう?
中には古い物がたくさんガラスケ―スの中で飾られていた。
小さい頃お母さんに連れて行ってもらった古代博物館のようだ。
エジプトのような物・古代中国のような物など色々な物の博物館のようになっていた。
子供たちは中にはいるとわあっと散らばりおのおの好きなように中をまわりはじめた。
私には不思議でしょうがない。いったいここは何なの?
「お姉ちゃんどうしたの?」
「一緒に見ようよぅ」
両側に小学一年生くらいの女の子が二人,心配そうに私の顔を見上げていた。
「うん。ごめんね。」
そうよね。悩んだってしょうがない!今を楽しもう!そう思っていたけど……
なんともう3日もこの博物館のような所にいるのだ。
でも子供たちは飽きもせず,ごく普通に過ごしている。
明らかに変だ!外は晴れている。普通あのくらいの年の子供だったら外で遊びたがるはずなのに。
この建物から森が見えた。こうして見ると森は入ってすぐの所でさえ真っ暗だ。
不意に口にした。
「今何時だろ?」
何時‥‥‥
この瞬間やっと今まで感じていた違和感の正体に気づいた。
遊びに夢中になっていた私は今まで一日一日は日の上がり下がりで感覚をつけいたが,
あの村に来てから一度も時計を見ていなかったのだ。
でもいったい何故……?
「お姉ちゃん。どうしたの?」
「お姉ちゃん。大丈夫?」
「ねぇ,あなた達は気づいているの?…ここに時計がないことに?」
「知ってるよ。ここには時計がないだけじゃない!時間がないの。
だから私達はここを『時無』って呼ぶわ。」
中学生くらいの子がそう答えた。さも当然のように。
「おかしいと思わないの?あなた達だって大きくなったり小さくなったりしているんだよ!」
子供たちは下を向いて黙り込んでしまった。私はついに開けてはいけない扉を開けてしまったのだ。
しばらくしてひとりの子が話し始めた。
「分かってるよ。だって私達もう何十回,何百回とこの生活を続けているんだもん。」
「あき…ないの?」
「もうなれたよ。逆にこの生活リズム崩す方がおかしいかも。」
みんな苦笑を浮かべている。いつのまにかほとんどの子供が集まってきていた。
その子は続けた。
「半年位前だったかな?高校生位のお兄ちゃんが来たの。
その時は三日位して三日前みたいに馬車が来て一緒に乗り込んでここに来て。
お姉ちゃんみたいに三日位して『おかしい。』って言って出て行っちゃったの。
でも次の日この博物館のはく製になってた。
ここでは規則を破っちゃいけないの。毎日同じように過ごす。まぁこれさえ守ればいいんだけどね。
私が見たのその人だけだけどきっと他の子はもっと多く見てるよ。」
すると村に来て初日に『遊ぼう』と言った女の子が私の前に立った。
「この中で一番長くいる子供はおそらく私だよ。私はもう何度もはく製を見てきたよ。
それを見るたびにここから出ようなんて思えない。
と言うよりも,本当に変えたいと思わなきゃダメなんだよ。そうして初めて帰る勇気が生まれる。
そっからは運だよ。
ず―っと前にたった一人だけ。帰るって言ってはく製にならずにここから出ていった人がいたんだ。
その人は兄弟と喧嘩してここに来たらしいんだけど『妹がきっと僕の帰りを待ってるから』って言って帰って行ったよ。
それ以外の人はほとんどやってられっかっていうかんじでかえろうとしたの。」
私はもう何も言えなくなっていた。絶望の淵に立たされたような気がしてその場に座り込んでいた。
「あともう少し…,この博物館には五日いる。あと二日たって村に帰ればお姉ちゃんも私達と同じになれるよ。
そうすればきっともう苦しくない!」
そう言ってまたみんなちりぢりになってまわりはじめた。
私は後悔の気持ちでいっぱいだった。どうしてこんなことになってしまったのだろう?
どうして私はあの日家を飛び出してしまったのだろう?
………そういえば私がお母さんと喧嘩してた時直人泣いてた……直人は悪くないのに……………
「よぅ!新入り!何してんだぁ?」
あの道化師のようになってしまった少年がやってきて面白可笑しく(と言っても私はちっとも楽しくない)笑いながら私の周りで踊り始めた。
この人も最初は直人みたいだったのに‥‥みたい?
そういえば直人位の男の子いない。始めのうちは結構いたのに。
……………そっか……………
私は少年の手をつかんだ。
「何?どしたの。一緒に遊ぶ?」
「ううん。ありがとう。あなたは私のために姿を変えてくれたんでしょう。
私を帰らせないようにするために。家族を忘れさせるために。
でも,でもね,代わりはいらないの。直人の,家族の代わりなんて私はいらないの!私がいないとあの家大変なの。
お母さん忙しいから私が家事やんなきゃいけないし。
それにきっと直人が待ってる。だから帰らなくちゃ。」
私が言い終わると少年は突然退化し初めて会った時のサイズになって泣き出した。
それを見ていたらしく,子供たちが集まってきた。
「本当に帰るつもり!?」
「死んじゃうかもしれないんだよ!」
「うん,わかってる。でもやっぱり私帰りたい!直人に謝らなきゃ。それじゃあ,仲良くしてくれてありがとう。
久しぶりにいっぱい遊べてすごく楽しかった。」
私は博物館を出た。思ったよりも簡単に出られて拍子抜けだった。
日はもう沈み欠けていた。余計に森が不気味に見える。日を見ていたら突然誰かに後ろから手をつかまれた。
驚いて振り返るとあの元道化師(?)少年だった。
「びっくりした―!もう脅かさないでよ。‥‥どしたの?」
無言で私の手を引いて歩き出した。どうやら一緒に来てくれるようだ。
「ありがとう。そういえば,私まだ名前言ってなかったね。私は刻無。刻むに無いって書いて刻無だよ。」
少年は一瞬ピクッとなったけど一言
「なるほど,いい名前だね。」
と言っただけだった。なんか寂しい。
日が沈み,風が冷たくなり始めた時!少年は突然走り始めた。
「な,なに!?どうしたの!?」
「すぐに分かるよ。」
本当にすぐに分かった少年が走り出してまもなく何らかの気配を感じて振り返ってみるとあの仮面の主が追いかけてきていた。
「あいついったい何なの?絶対普通じゃないって!」
「あれは俺ら子供の番人!この世界の規則を破ろうとする者を壊すんだ。帰ろうとした子供はみんなあいつに殺されたって訳だ。」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「俺も昔,帰ろうとしたんだ!それも前代未聞にこの村にいる時,一番長くいるあの姉さんも驚いてたけど。
その時俺はここに一緒に来た友達がいたんだ。
帰ろうとした時,そいつは殺された。なぜだか俺は助かったけど。」
「だから私を助けてくれるの?じゃあ一緒に帰ろうよ。」
私がそう言うと少年は笑った。と言うかさっきまで気がつかなかったけど,
いつの間にか少年は私と同い年位の青年になっていた。
走り続けてようやく村にたどり着いた。前は消えた仮面の主は今度は門の前で立っている。どうやら中には入って来られないようだ
「刻人」
「へ?」
「俺の名前,刻むに人って書いて刻人だ。」
「刻つながりだね。」
「あぁ,そうだな。」
二人で笑った。ここに来て初めて心の底から笑えたような気がした。
「さてと…刻無。覚悟はいいか?」
「うん!」
「俺があいつに一発喰らわす。そのスキに刻無は村を出てまっすぐの位置にある縄の巻いてある一番高い木へいくんだ。」
「そこに何があるの?」
「何かがある!いくぞ,せ―の!」
刻人が仮面の主を蹴り飛ばし奴がよろけた。前より体が大きくなっている分ダメ―ジが大きいらしく前よりも吹っ飛んだ。私達は走った主はまた追いかけてくる。
走ってやっと大きな木にこれた。
「ねぇ,どうするの?わぁ!」
刻人は突然木の反対側に私を引っ張り込んだ。
「刻無みたいな子がここ刻無にいてはいけないんだ。」
刻人は私を木の大きな穴に突き飛ばした。
気が付くと私は森の中にいた。
「あれ?ここ どこ?」
ガサガサガサ
何か向こうから来る!また仮面の主!?
「あっ!お―い!いたぞ――!」
「へ?」
「柏木 刻無さんだよね?よかった。無事だったみたいだね。」
なんと私が会ったのは捜索隊の人たち。
「あれは夢だったのかな?」
私はまだ意識が困惑していて何がなんだかよく分からなくなっていた。しいて分かることと言えば私は捜索願を出されていたらしいということだけ。
「お姉ちゃ~ん!」
私は直人の声でやっと我に返った。直人は泣きながら走ってきた。お母さんも一緒だ。
「直人…。」
私は最初お母さんの顔が見れなかった。10日間位家に帰って来なかったのだからきっとものすごく起こっているに違いない。
案の定,顔を上げたらバシッと顔を叩かれた。そして,
「ばか娘!どれだけ心配したか‥‥。」
お母さんは私を抱きしめながら泣いた。頬は痛かったがそれよりも直人とお母さんに会えたことが嬉しくて胸が一杯になった。
「お母さんごめんなさい。」
捜索隊の人たちに囲まれながら,私達三人は大泣きした。
「もうお母さんこの3日間心配で眠れなかったのよ!」
「みっ3日!?うっそぉ!」
「嘘ついてどうすんのよ?」
だってあの時は村に9日間位いて,博物館に3日いたから,確実に12日は過ぎてるハズなんだけど,3日。
やっぱり夢だったのかな?でも夢にしては何かリアルだったような…?
「お母さん。ちょっと忙しすぎて何でも刻無に任せすぎてたね。これからは少しずつ負担が減るようにするね。
だからもう家を出て行ったりしないでね。」
「僕も一人で帰れるようにする。」
「よしじゃあ帰ろっか?捜索隊の皆さん本当にありがとうございました。」
と言いながらも私達三人は捜索隊の皆様に深々と頭を下げ,捜索隊の人たちを見送った。
捜索隊の人たちが帰っていくのを見送りながら,私はあの『刻無』でのことを思い返していた。あの最後に私を助けてくれた,刻人の顔が忘れられなかった。
「あそこはいったい何だったのだろう?」
私はボソッとつぶやいた。
くすくす………
一瞬笑い声が聞こえた気がして振り返ったが誰もいなかった。
「刻無~!帰るわよ~!」
「うん!」
森を出る際,一瞬誰かに名前を呼ばれた気がして振り返った。そして気が付いた。
いつからだろうか,私が最後に来た時か,
もしくはそれよりも更に前か,
この森の入り口にある門の上の時計は,
もう時を刻むのをやめていた。
くすくすくす‥‥‥
くすくすくす‥‥‥
くすくすくす‥‥‥
+Fin+